表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

第1話 始まりは君と

恋って言うのがこの世にはあるらしい。15年間恋愛経験皆無の私にはわからない。

だから・・・いや、そうでなくてもこの状況は意味わかんない。

私が告白、しかもこの人にされるなんて。

「藤原っ!!返事っ、きっ聞かせてくれないか。」

この高校一の不良、同じ一年の江崎准エザキジュン君は恐いくらい真っ赤になって私に言った。

「へ、返事?」

っていうか恐い。

私が聞き返すと江崎君は何度も頷いた。

・・・断ったらどうなるんだろ。

簀巻きにして海へドボン?いや、それ以前にこれはなにかのゲームで、ただからかわれてるだけなんじゃあ・・・むしろそうであってほしい。

私はそんな期待を込めてもう一度江崎君を見た。

綺麗な金髪、それに似合う鋭いけど端正な顔立ち。その顔が夕日よりも赤く染まって・・・あぁダメだ。絶対ゲームとかじゃない。こんなに演技力あったら不良じゃなくて俳優になってるよ。あぁでもどうしよう。付き合うのは絶対無理だけど、断るのも・・・

「あの、江崎君。」

私が小さな声で呼ぶと、江崎君は真っ赤な顔で私をじっと見つめた。

あっ、江崎君ちょと涙目になってる。

私も違う意味で涙目になってそうだけど。

「時間をくれないかな?かっ、考えたいの。」

私が慌てて弁解すると、江崎君は困ったような、安心したような複雑な顔で頷いた。

「わかった。待ってる。」

それだけ言うと、江崎君は走っていってしまった。

場所は放課後の体育館裏。初めはいたガラの悪そうな恐い先輩も、江崎君が追い払ってしまってもういない。

私はその場にしゃがみ込んだ。体が熱くて、心臓がうるさい。手を見ると、少し震えていた。

早く帰ろう。

学校にはこんなに重要なこと相談できる友達がいない。家に帰って、お母さんに相談しよう。

私は荷物を取りに教室へ向かった。


「あっ」

「あっ!」

教室に戻ると、江崎君がいた。携帯で誰かと話してる。

私は入り口近くの机から、自分の荷物を取ると駆け出した。

逃げる必要なんてないのに、気付いたら走っていた。

どうしてまだ帰ってないのよ〜!!

「藤原!ちょっと待って!!」

しかも追いかけてきた。

私は体育の授業なんかより必死で走ったけど、日常的にケンカしてる(たぶん)江崎君に勝てるはずもなかった。

「痛っ!!」

腕を掴まれた私は思わず声を上げる。

「わ、悪い。」

江崎君は慌てて腕を放すと謝った。

さっきは時間をくれるって言ったのに、どうして追いかけてきたんだろう。

やっぱり不良だから?

もう返事を聞かせろって言うの?

・・・恐い・・・

こんなの断ったら、絶対殺される。

眼から涙が溢れてきた。

「藤原!?わ、悪い。そんな痛かったか?」

助けて、お母さん。

私はもう逃げ出す気力もなくて、その場で泣いた。


泣き止んでみるとすごく恥ずかしかった。

周りには部活中の先生や生徒がいっぱいいて、私達を見ていた。でも誰も慰めてはくれない。

中には知ってる顔もあったけど、みんな江崎君が恐いのか近寄ってもこない。まるで動物園の動物にでもなったみたい。

江崎君を見ると、江崎君は私の隣に座って黙って私を見ていた。

ひどい。

一応は申し訳なさそうな顔をしてるけど、絶対心配なんてしてない。してたら慰めてくれるはずだもん。江崎君は人に見られるの慣れてるかもしれないけど(不良だから)、私は違うのに。

私はまた泣きそうになったけど、どうにか我慢して駆け出した。

もう誰にも見られたくない。

「うわ、またやってるよあの子。」

藤原舞フジワラマイだっけ?あんた友達なんでしょ?」

「えっ!違いますよ。あの子は・・・」

後ろから囁き声と江崎君の怒鳴り声が聞こえてくる。

ひどい。どうして私ばっかりこんな目に遭うの?

私は何も悪いことしてない。

私は悪くないのに。

だって江崎君が追いかけてくるから。

私は被害者なの!

私は何も・・・

「藤原っ!!」

江崎君の叫び声に驚いて私は立ち止まる。

「藤原、ごめん。こんな時で悪いけど、これ・・・」

差し出されたのは脅迫めいた要求じゃなくて、携帯電話。

私のじゃない。そう思いながらも、通話中になってる携帯を耳に当てる。

「もしもし・・・」

よくわからないまま、お決まりの文句を口にすると聞きなれた声が返ってきた。

「舞〜?」

このお気楽そうな声は・・・

「お母さん!?」

思わず叫んでしっまた。

「そうよ〜お母さんよ〜?元気〜?」

意味わかんない。

「げ、んきだけど。なに?」

私の声が思わずひきつる。

「本当に元気〜?なんだか声、掠れてるわよ?」

確かに私は元気なんかじゃない。さっきの今だし。でもそれ以上に心配なのは、お母さんがよりにもよって江崎君の携帯に電話してきたことだ。

どういう知り合いなの?

2人に共通点を見出せない私がそう聞く前に、お母さんが再び話し始めた。

「実はね、突然なんだけど舞ちゃんに言わなきゃいけないことがあるの。」

お母さんの明るい声に、私も深く考えずに続きを待った。

「お母さん出張することになっちゃたの。アメリカへ。」

は・・・?どこへ?

「それで〜舞ちゃんには半年程度、江崎さん家で暮らしてもらわなきゃならないの。」

アメリカのどこ?

「うふふ。江崎さん家って男5人家族らしいわ。やったね舞、逆ハーレム!それじゃあ舞、後は准君によろしく。」

「ちょっ、ちょっと待って!なんて?今なんて言ったの?誰さん家?」

お母さんが電話を切ってしまう前に、私は慌てて聞き返した。

「江崎さんよ。ほら覚えてる?舞が5歳の時。おじ様って呼んでね〜って、変な人が家に遊びに来たでしょ?あの江崎さんよ。」

覚えてないって言いたいところだけど、覚えてる。

あんなインパクトる人、忘れられる訳がない。

せめて一人暮らしとか。私が提案する前に「じゃ、が〜んばって〜」とあっさりお母さんは電話を切ってしまった。

軽い、軽すぎる!!

1人娘を放ってさっさとアメリカ(だからアメリカのどこ?)に行ってしまうのもそうだけど、男5人の中にいきなり放り込むことを伝えるのに電話1本。しかも人の携帯で1分弱。


こうして私の革命は始まった。

「藤原、とりあえずよろしく、な。」

夕日を背にして、優しく笑う江崎君と共に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ