プロローグ
目の前が真っ暗になる……という経験はあるようでそうないと思う。
産婦人科の診察室で診察台に寝かされたあたしはエコーを見ながら祈る気持ちで先生の言葉を聞いていた。だけど……無情にも先生の言葉はあたしの願うものではなかった。
『稽留流産』……つまりお腹の中で赤ちゃんが生きていない状態であるという診断だった。
この場合、数日後には自然に流れて出てくるのを待つらしい。
診察室を出て、何が何だか分からないまま自宅に帰り、こたつにうずくまっていると……お腹が痛くなってきて……。
そう。
あたしは流産した。
子供がほしくてほしくて……。
結婚して5年目に、ようやく授かった子供だったが、妊娠4か月で流産してしまった。
新婚の4年前には母を亡くし、後を追うように父も1年前に逝ってしまった。
あたしも……夫である吉希も……この日は落ち込んでしまい言葉もでなかった。
その日、あたしは目の前が真っ暗になるということはこういうことを言うのだと思い知らされた。
『なんであたしにばかりこんなことが起きるのか……』という何とも言えない気持ちと泣き出したくなるような悲しい気持ちとが入り混じって何が何だかわからない……それが目の前が真っ暗になるということなんだ、ということをあたしは絶望と共に感じていた……。