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一話 開巻劈頭《かいかんへきとう》

綺麗に澄み切った水色の空。ふわふわと浮かぶ真っ白な雲は太陽の光に照らされて、きらきらと光っている。とても、美しくて素晴らしくて。眼を奪われる。眼を開いたとき、そんな光景が俺の目の前にはあった。


 しかし、思った。


 こんな所で、しかも野外で寝た記憶なんかない。つまり、俺がここいることはおかしい訳で、しかも見知らぬ場所と来たものだ。


 ……見知らぬ場所?


「どこだ!? ここ!?」


 上半身を起こすと、そこは草むら。どうやら草原で寝ていたらしい。


 これは、夢? そんな考えが頭をよぎるが、ほのかに鼻腔に入る、草の香りは本物だというほか無い程にリアルだ。


 ほっぺを抓ってみる。


「……痛い」


 古風なやり方だが、痛いということは夢ではないだろう。


 ってことは、やはりここは現実。だとしたら、一体どこなのだろう。そして、何故こんなところに居るのだろう。他にだれもいないのだろうか。それだったら、とても俺は困る。

 

 まぁ、考えていても分からないだろう。辺りを調べたりしてみないと。


 

 俺は立ち上がる。すると、不意に目の前が眩んだ。


 立ちくらみだ。低血圧、貧血な俺はよく立ちくらみをおこす。まぁ、半分しょうがないところもあるのだが。


 やっと、視界が戻ってきたところに、ズボンのポケットから何かが落ちるのが見えた。


「なんだこれ」


 長方形のカードのようだ。


 メタリックなカラーで、太陽光を反射している。


 手を伸ばして拾ってみる。


 ふむふむ。材質はプラスチック製だろう。大きさは名刺程度。片面にはアルファベットの大文字で、ジーエスシーエスピーイーエヌオー、そして数字の二が書いてある。全く意味が分からない。なんだろう。

 カードを裏返してみる。そこには――


「なんだよ……これ」


 そこには、ID2031100 PLAYER NAME たちばな 海音かのん AGE 16と、ゴシック体で表記されており、その下には謎の緑色の液晶パネル。右隣には写真。少し赤みがかった髪が一部分だけアンテナのように立っていて、真顔をしている――俺。格好良い、とは言えないが、平凡ではあると自負している。


 それにしても、なんなのだろう。まるで、生徒手帳に張っているような写真だ。何故、こんなものが……。


 それに、この液晶パネル。まるでゲームなどのHPゲージ《・・・・・》のような……!?


「ゲーム!?」 


 そうだ、この風景といい、このカードといい、まるでゲームの異世界みたいな場所や物だ。


 もしかしたら、ここはゲームの世界かも……。




「って、んな訳ねーよな」


 自分の浅い考えに、ふぅ、とため息が漏れてしまう。ついでに謎のカードをポケットにしまう。


「ゲームの中に入るなんて、マンガじゃあるまいし」


「いやいや、意外とあると思うよ」


「それは無いって、どんだけ発達した技術なんだよ」


「でも、僕もお兄さんもここにいる。それで、証明できるよね?」


「あのねぇ、だからここはゲームじゃ……」


 ……え。お兄さん?


「…………え?」


「やっほー」


 振り向くと、ニコッと爽やかに笑い、手を振っている少年。身長は低く、あどけなさが残る少年。歳は中学二年生だろうか。


「って、えええええええ!? 人間イターーーーーー!!」


「……う、うるさいな。他のプレイヤーがくるでしょ……」


「え、いや、よかったー。誰もいないかと思っていたら、ちゃんと居るんだ、人」


「……お兄さん、なに言ってるの? 人がいない? それだったらゲームにならないじゃん。ってかお兄さんも機械にはいるたくさんの人をみたんじゃないの?」


「へ? ゲーム? 機械? たくさんの人?」


 何のことだか、よく分からない。少年は驚愕の表情を浮かべた。


「ま、まさか機械の副作用で、一時的な記憶障害とか……かな」


「な!? 記憶障害……?」


 なんだよそれ。俺は実験でもされていたのだろうか。 


 混乱する俺を見て、目の前の少年はにやりと笑った。


「そ、それならチャンスだよね。ルールも知らないなら……ね」 


「は? ルール?」


 ちょっと待て、さっきから訳の分からない単語が彼の口から飛び出すぞ。


 少し、考える。すると、ぴきーん、とひらめきが頭に浮かぶ。


 ……ははーん。さてはアレだな。アレ。中学二年生、もとい思春期特有の自分をアニメかなんかのキャラだと思い込む、アレ。


「……お兄さんの心、読まなくても考えていること、大体分かるよ……」


「なにっ!? なら、言ってみろ」


「どうせ、僕のことを中二病とかおもってるんでしょ」


「なにっ!! 何故分かった!?」


「ま、記憶ないなら当然かも。僕もきっとそう思っただろうしね」


「……まだ続けるのか?」


「当然! てかお兄さんが中二病だとか、設定だとか、勘違いしてるうちにやってしまわないとね」


 いい加減、ついていけない。


「……おい、さっきから何を」


「いっくよー」


 瞬間、風が吹いた。


 元気な掛け声と共に、少年が消えた《・・・》。


 ずっと、少年を眼で捉えていたはずだ。しかし、いなくなった。見えなくなった。


 少年がいた場所だけ、草が揺れていた。



 不意に、後ろに人の気配。直後、後頭部に鈍い痛みが走る。


「ーーってぇ!!」


 後ろから与えられた衝撃に、バランスを崩す。そして、足はもつれ、目の前の草むらに間抜けに倒れこんでしまう。


「い、一体何が……」


「これで、信じてくれた?」


 後方で少年の声。俺は立ち上がりつつ、後ろを向く。

 

 ……いつの間に、後ろへ? ってか何故、俺を殴ったのだ?


「な、何を……」


「ま、悲しいけど、これサバイバルなのよね」


 どこかで聞いたことのある台詞を口にしながら、少年はこっちに歩いてきている。拳をぽきぽきと鳴らしながら。口端をあげながら。その行動と表情から読み取れる、簡単な解答。


 ……また、攻撃されるのか?


 ……それは、嫌だなあ。


 少年は、恐らく俺のすぐ傍にいる。反撃するなら、チャンスだ。いくら、年下とはいえ、殴られて黙っているほどお人よしでもない。


「んじゃ、さっさと頂こうか――」


 俺は、少年がなにか言い終わる前に、足に力を入れ、勢いよく駆け出す。


 眩む。急に動いたためか、世界がぼやける。が、少年の影をロック。そして、両腕を伸ばし、そのまま少年をホールドする――はずだった。伸ばした俺の両腕は虚空をきり、またバランスを崩しかけた。が、何とか正常を保つ。


「そ、そんな。完璧に捕らえたと思ったのに……」


「あっはははは。僕の能力だよ」


「のう……りょく?」


 声は、後ろから聞こえた。


「うん。近距離瞬間移動《ショートディスタンスモーメントムーブメント》。ま、長いからショートテレポって言ってるけどね。僕の視界に入る場所なら一瞬で移動することが出来るのだ。物理的法則を無視して」


 饒舌な少年の話には不可解な点が多すぎる。


「……瞬間移動だと?」


「ま、そんな能力にも弱点があって、十秒間のディレイがあるみたいだしね。しかも乱用するとお腹まで減ってしまうのだ!」


 訳が分からない。訳がわからない。わけがわからない。ワケガワカラナイ。


 少年は一体、なんの話をしているのだ。なんだよ、瞬間移動って!


「だから、ここはゲームの中なんだって」


 いつのまにか、俺の腕は、少年によって掴まれていた。


「――っつ、このっ!!」


 体をひねり、顔面狙いの肘を繰り出すが、少年はふっと消える。


 また、後ろから声。俺は振り返る。そこには手を頭の後ろに組んでいる少年。


「お兄さん、おとなしく”タグ”を渡してくれたら痛いことしないからさ」


「……は? タグ?」


「これだよ、これ」


 そう言って、少年はポケットから白いカードのようなものを取り出した。


「そ、それは……」


 ポケットを一瞥。やはり、俺が持っている、銀色のカードと大きさは同じ。色やカードに書かれている内容は違えど、明らかに俺のソレと一緒だった。



「これがタグ。お兄さんも持ってるでしょ?」


「……どうしてこれが欲しいんだ?」


 一歩、少年が近づく。


「きまってるじゃん」


 更に一歩。


「僕の……夢のためだよ!!」


 少年は大きく踏み出し、俺のポケットに真っ直ぐ飛び込んでくる。



「うわっ!」


 すんでのところでそれをかわす。近距離で少年はこちらに振り向く。


「……お前、交渉中だったんじゃないのかよ」


「あのねぇ、さすがに僕もお兄さんに渡せって言って渡してくれるとは思ってないよっ!」


 正論だった。


「ま、貰うより奪うのほうがゲームらしいし、ね」


 また、消えた。見えなくなった。追いきれない。


 しかし、先程、あいつは何と言った? 名前も知らない少年は、自分の目的をばらした。


 ――タグ。そう、右ポケットに入っているカード。狙いはこれ。つまりやつの出現場所は、そこ。

ならば、やるべきことは一つ。簡単な解。



 あとは、構えるだけ。少年が来るべき場所に。


 

 集中。全神経を集中させる。時間がゆっくり流れている。勝負は一瞬。


 黒い影がフッ、と視界を横切った。





「な……」


 俺に両腕を掴まれ、驚愕の表情で口をパクパクさせる少年。そんな彼に顔を近づけ、言う。


「狙ってくる場所さえ分かればどうとでもなるんだよ」


「……そんな、人間の反射速度じゃ」


「あんまり年上、なめるなよ?」


「……」


 沈黙、少年は黙り込んでしまった。


 あれ? もしかして、ちょっとやっちゃったかんじ?




「なぁ、おい……」


「……放せ」


「はぁ?」


「いいから放せよ!!」


「あのな、人にお願いする時はもっと、こうお願いするような気持ちをこめて――」


「いいから」


 威圧感。ぞくり、と背筋が凍った。


「放せ!!」


 少年の腕からはとてつもない力が発せられていて、俺なんかが振りほどかれるのはたやすくて。


 気づけば、俺は草の上に仰向けに倒れていて。


「なにが年上をなめるなだ。馬鹿にすんな!! そっちこそ、年下だからってなめんなよ!?」


 少年の顔は今までの飄々《ひょうひょう》とした態度ではなく、殺意を持って、怒りを憎しみを俺に向けていた。


 ……これは、あれだな。”スイッチ”に触れてしまったみたいな。蜂の巣をつついてしまったような。食事中の熊に手をだしてしまったような。


 地面に倒れている俺を、少年は見下ろす。


「ま、悪いけど。コレも僕を馬鹿にした罰だ。タグはもらって、その後にお前を――」


 


「そこまでよ!」


 伸ばされた少年の手が引っ込んだ。それはきっと、突如として現れた第三者の声が原因だと思う。


 その声は冷たさをはらんでいて、若い女性の声だった。


「その子から離れなさい、子屋敷こやしき君」


「み、みおネェ……」


 子屋敷君と呼ばれた少年は、急に焦燥な様子を見せた。

 

 今のうちに。俺は立ち上がり、距離を取る。

ただ、子屋敷君の目線は俺の後ろ。


「手を引きなさい、子屋敷君」



「な、なんでみおネェが……」


「たまたまよ」


「こ、このお兄さんは、みおネェの……なに?」


「彼氏よ」


「「はぁ!?」」


 ちょっと待て!! どういうことだ!? 誰かと付き合った覚えは無いぞ!


 俺は、文句の一つでも垂れようと後ろを振り返り――思考をとめた。


 長い黒髪が、流れるように揺れた。とても、綺麗で。少し冷たく感じる表情は、静かな笑みを浮かべていて。俺は――見惚れてしまった。


「冗談よ、冗談。……だからそんなに睨まないでくれるかしら?」


 おっと、凝視しすぎて睨んでいたのかな。と、子屋敷が文句ありげな顔で、少女に物申す。


「みおネェ、大体このお兄さんは僕のえも――」


 少女は手で子屋敷の言葉を制す。


 ん? ってかこいつ、獲物って言おうとしてなかった?


「一、数える間に消えなさい」


「えっ!? それは流石に」

「それじゃあ、数えるわ。いー」


「あ、待って待って! 今から言いたいことを、全力で話すから。あ、お兄さん、けっこー楽しかったよ。僕は子屋敷こやしき じゅん。また会ったらアソボーね」


 と、全部で三秒もかからずマシンガンのように言葉を並び立てる。そして次の瞬間ひゅっ、と音がして、子屋敷は消えていた。


 ……俺は遊ばれていたのか。


 今の言い方だと、絶対そうだ。


 中学生に遊ばれる俺って……。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、「大丈夫?」と声が聞こえてきた。


「あ、あぁ。ありがと」


 心配の声をかけてくれたことと、助けてくれたことに、二重の感謝を。


「タグは無事かしら?」


「うん、ほらここに」


 僕はポケットから無造作にタグを取り出して見せた。


「……そう、良かった」


「それで……君は――?」


 一瞬、何かが目の前をよぎって、タグが消えた《・・・》。


「……は?」


 目の前にいた少女はいつの間にか走り出していて、すでに少し離れた場所まで走っている。


「ふふーん、詰めが甘いわよ初心者ニュービー君!」


 走りながら、大きく叫ぶ少女。どんどんと遠ざかっていく姿を眺めていた。それと同時に、今しがた聞いた子屋敷の言葉を思い出した。


 ――悲しいけど、これサバイバルなのよね。


 そう。どこかで聞いたことのある台詞を喋りながら、言った話した口にした。サバイバル、と。それはこの世界が弱肉強食であることを示し、無法地帯だということを示す。やられたらやり返す。そんな言葉を頭の中に浮かび上がらせる場でに、多くの時間を必要としなかった。


 逃げられたから、追いかける。奪われたから、奪い返す。そう、これは当たり前。俺は当たり前のことを当たり前のように、地面を蹴り、大地を駆け走り出す。もう、点ほどしか見えない彼女を。


「このやろっ!」


 追いかける。追いかける。追いかける。ふくろはぎ辺りまで伸びた草をかきわけ。大地を蹴り、少しずつ、少しずつ彼女に追いついていく。


 大分、距離は縮まった。しかし、まだ追いつくことは出来ない。はっきり言ってきつい。息も切れ切れに気力だけで走っている現状だ。


 体力には自信があったはずだ。でも、少女はまだまだ平然とスピードを落とすことなく走っている。


「あと、……少し。あと少しで、追いつ、けそうなのに」


 森。目の前には俺の二十倍はあろう木々。少女は巨大な森林に入ろうとしている。


 まずい。森に入られると、見失う可能性が高くなる。


 もう、ボロボロであるはずの体に鞭を入れ、ラストスパートをかける。



 ――ただ、すでに少女は森の中へと進入していたわけなのだが。



始めまして。


ぼそぼそと、やって生きたいです。

よろしくお願いします。

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