Flight:1威張る人ほど他人に頼るよね
第1話の改稿です
2102年
7月6日
PM02:30
学内・実習ブロック
第1主格格納庫
青く、光り輝く空。
白く靡く、白線のような雲。
幾重にも重なり、連なり、飛び交う鈍色の機体。
耳が痺れるような独特の通過音は、ドップラー効果で高く低くと変化する。
手を伸ばせば届きそうな、それほどまでに近い。
萌葱色から深緑に生え代わる芝生を、磯の香漂う熱い南風が撫でる。
白い太陽光に目を細めながら、体全体で感じる夏に飲み込まれていく。
「あ……またここにいたのか」
…気配に気付かない程、自分の世界にトリップしていたようだった
「んあ……?…なんだ、コウか」
「“なんだ”ってなんだよ、失礼な奴め」
「うっせ」
目線を声に向けて、また空に戻した。
声の主は右嶋 昂希。
「何時からここに?」
「3限目からずっと」
「ソウマも飽きないね~……」
呆れたような、感心するような、曖昧な呟きをこぼして、コウが俺の隣に座る。
「…少なくともコウよりかは、な」
「どういう意味だコラ」
こめかみを容赦なくぐりぐりと、って……
「アガガガガガッ!!」
まぁ、滅茶糞痛いわな。
てな訳で、ギブアップの意味を込めてコウの右腕を2タップ。
「ふぅ……無駄に疲れた」
「スンマセン」
「……反省してないでしょキミ…」
「まぁ、いいじゃねぇの」
「お前が言うか!お前が!」
無駄に疲れるだろうツッコミなんてして、案外余裕そうで。
上体を起こして水平面に見る景色は、日の光が反射する水面と、平行に並ぶ10本のレール。
あ、また一機飛んでった。
「俺は先行くから。ソウマもそろそろ戻れ。緋賀ちゃんが噴火寸前で、みんなアタフタしてんだから」
「おう」
ゆっくりと立ち上がる時、緩やかな追い風を感じた。
「今から戻る」
……日本の風は…いいもんだ。
誰にも聞こえない声で呟いてみた。
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「何か申し開きはあるかい?橋雁空磨クン」
俺のクラスの目の前に、厳つい顔した学年主任が仁王立ちで立っていた。
なんか……暑苦しい。
「空の様子と風の機嫌と、あと上級生の機体捌きを調べていましたが何か」
「よぅし……空磨はどうしても楽しいお話を聞きたいようだな」
「いえ、足りてますんでいいです。どうぞ気になさらず」
「いいからこっちへ来い!今日という今日こそ、みっちりしごいてやる」
制服の襟首掴んで引き摺られる。
なにすんだ年齢=童〇独身の婚期逃した糞野郎。あんたこの国の“教育観念”と言うものが分かってんのかオラ。
そんなんだからいっつも狙ってる女性に逃げられんだよ。
……口には出さないよ、勿論。
そんな訳で、今現在学年主任の緋賀 浩輔(年齢:38 性別:男 独身童〇=年齢)に絶賛拉致られ中。
……なにが好きでこんな目に…
とまぁ、一応原因は俺にある訳で。
拉致られた場所はさっき寝っ転がってた第1主格格納庫だった。
「……ここで何を「これ着て来い」うぉっ、とと……フライトウェア?」
投げ渡されたのは自分が持ってるフライトウェアとブーツ、フルフェイスのメット。正式名称は飛行用特殊強化パッケージ。
「……これで何を…?」
「外で空の様子と風の機嫌と上級生の機体捌きを見ていたんだろ?だったら、それで少しは何か分かったんじゃないのか?」
……このクソ野郎め、教官VS生徒でタイマン張れってか…!?
………。
―――――上等!!
「…分かりました。形式は?」
「そうだな……ライナーシューティングといこうか」
「機体は?」
「教官が訓練機、お前は専用機」
まがりなりにも教官と生徒だかんな。それくらいのハンデは欲しい。
………ん?
「15分後には第3カタパルトにセッティング、30秒のカウントからのスタートだ。ルートはステイヤー。意見は?」
「えっと……緋賀先生じゃないの?」
「よし、それじゃあ15分後に」
「ちょっ、スルーしないでよ!!」
「チッ、つまらん奴め…」
「今あんた舌打ちしたよな!?教師なんだよなあんた!?」
「うっせーなぁ…ったく、あぁ俺じゃないともさ」
「開き直ってんじゃねぇ!!」
もう何なのこのクソ野郎!?公務員免許剥奪されてしまえ!!
「お前の相手は戦技教官じゃなきゃ務まらんからかな。特別に元国際A級傭兵の教官が相手をしてくれるそうだ。喜べ」
「喜べるかぁぁぁぁ!!!!!」
その言葉を皮切りに、ダッシュで格納庫脇の更衣室に入ってYシャツ、ズボンを脱いでアンダーウェアだけになる。アンダーウェアはFIA公式規定の物でセパレートタイプ。動きやすく、また通気性がいいから、普段から着ている。
所々に金具が付いたウェアを足から履いていき、首元にあるスイッチを押すと体のラインに密着し、最適化される。
次にブーツを履いて、コレもさっき同様に、足首にあるスイッチで足の形に細かく調整される。
メットは被らずに脇に抱え、その先にある部屋に入る。
「何がうれしくてこんな目に……」
ボヤいて入ったその部屋には、人1人が入れるくらいの箱とその他何やらがぎっしりと。
その箱にある台にメットをセットし、中に入る。
すると、すぐに3Dスキャナーが体全身の凹凸を読み込み、ウェアの上から特殊な形状の装甲(外側から、チタン合金・カーボンウェハ・断熱材・強化プラスチック)が金具によって止められていく。
装甲には間接部に小型モーターが入っており、パワードスーツの役割も果たしている。但しモーターの出力が若干小さい為、大してパワーは無い。“あるに越したことはない”程度である。
ものの数分もすれば全ての装甲が装着され、箱から解放される。
メットを抱えて次の扉を開けると、そこには大量の変わった形の金属板が防衝ガラス越しに収められている。
そしてメットに内臓された【HSIC(High Spec IC)】に記録されている情報を部屋にある端末が受信し、ガラスに隔たれた空間から一枚が通路の真上を横切る。
尖った滑らかで攻撃的なフォルムを持つ少し厚みのある青と白のボードに、エアインテークとカナード、前進翼、水平尾翼、双尾翼がくっ付いたモノ。見た目はロシアの1世代前の戦闘機【Su-47】に似ていることから【S-47 SB-PRO】と命名されたらしい。
その他の機体は殆どが後退翼やデルタ翼などで、あの中に入れられた俺の機体は常に異彩を放っている。
縦幅約4m、横幅2.5m弱、高さ50cm、素材は今装着してる装甲と殆ど同じであるため、総重量は約160kgに抑えられている。
エアインテークはボード本体の左右、双尾翼はエアインテークの真上。中央は前後2箇所にスポットのような丸い窪み。間隔は肩幅ほどで、どちらも前後は15cm、左右に5cmほどスライドし、窪みは360°に回る。
ソイツ見届けた後に最後のドアが開くと、そこには10本のレールと10台のリニアカタパルトが並んでいた。
〈時間通りだな〉
緋賀ちゃんの声がスピーカーから聞こえる。
第8カタパルトには既に例の元Aランカー戦技教官がセットしていた。
装甲の凹凸から女性だろうか。
〈武装はガンとレーザーソード、サイドワインダーのみ。レーザーソードは模擬刀。ガンは赤外線感知で、弾数は200+1。サイドワインダーは2つで仮想判定。位置・軌道はMHDに表示されるからな〉
教官から一式を渡された。
サイドワインダーの場所に電波送信機を引っ掛け、ガンモジュールの中身は2102年現在の自衛隊の主力SMG、【イングラムM-19 Rapid Fire】。9×19mmパラベラム弾200連ボックスマガジンも一緒に教官から渡された。
そして模擬刀のレーザーソードは柄が1mで幅、長さは自由に変えられる。
ソードと言うより長刀。
今は1mの柄のみ。それを右エアインテークの付け根にあるケースに収納する。
〈準備はいいか?〉
「……何時でも」
しかし…教官しゃべんねぇな……なんで?
……ま、いっか。
メットを被り、機体をカタパルトにセットしてからサークルスポットに足を置く。
メットのパイザー付け根をタッチしてスイッチを入れる。装備されている高感度レーダーからの自機の基礎・装備情報がHMDに映される。
―――
HSMHC(High Spec Micro Hadron Collider:超小型高性能ハドロン加速器)
:Start
Main Computer
:Green
ACMI (Air Combat Maneuver Instrument:空戦機動計測装置)
:Green.
ACR (Ammunition Consumption Rate:弾薬使用統制)
:Green.
EnergyControl
:Green.
EPPS
:Green.
Motor Control
:Green.
Motor Power
:Full Throttle.
CIWS (Close-In Weapon System:近接防御火器システム):
Green.
FCS (Fire Control System:火器管制システム)
:Green.
HMS (Helmet Mounted Sight:ヘルメット装着標準装置)
:Setting...Standby.
IFF (Identification Friend or Foe:敵味方識別装置):
Green.
JHMCS (Joint Helmet Mounted Cueing System:ジョイント・ヘルメット・マウンテッド・キューイング・システム)
:Green.
IRST (Infra-Red Search and Track:赤外線捜索追尾装置)
:Green.
AAR (Air to Air Rader:空対空レーダー):
Green.
System:All Green.
----All Safety:Release.
……HSMHC,Full Drive.
Linear Catapult:Standby.
全ての準備が出来たところでディスプレイにカウンターが表示される。
Count:30 Second.
20
急激な加速Gに耐えるため、低重心・前傾姿勢のクラウチングに似た体勢になる。
10
09
08
07
06
05
04
03
02
01
Catapult Shoot.
突発的に光は流れ、眩い空に吸い込まれるように、俺と教官は深い蒼へ飛び込んだ。
To be continue…
随分と半端な場所で切ってしまいすいません。
次話はバトルパート8割になると思います