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記憶と捜査  作者: 輝久実


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二人の共鳴

湊が倒れてから数日後。結城の元に、上層部から一通の「特命」が下ります。


それは、記憶喪失の重要参考人・湊を、警察庁の特殊施設へ移送せよというものでした。表向きは保護。しかし、その実態は「口封じ」であることを、結城は直感します。


「……結城さん、顔色が悪いよ。またゼリーばっかり食べてるの?」


能天気な湊の声。しかし、結城は黙って湊を車に乗せ、予定された移送ルートを外れました。


「行き先が違うみたいだけど……?」


「黙っていろ。……お前は、自分が何者か知りたがっていたな」


結城が向かったのは、かつて湊が発見された、あの廃ビルの地下でした。


暗闇の中、結城は一冊の古びたファイルを取り出します。


結城が隠し持っていたファイル。それは「結城の父親を死に追いやった未解決事件」の全貌でした。


結城がエリート街道を突き進み、黒い手段に手を染めていたのは、組織のトップに君臨する男に復讐するため。そして、その男が現在進めている「裏金洗浄」の唯一の生き証人が、記憶を失った湊だったのです。


警察内部の汚職グループに包囲された廃ビル。


「そこまでだ、結城管理官」


背後から複数の足音と、銃の撃鉄を起こす音が響きました。


現れたのは、結城が信頼していたはずの直属の上司。彼こそが、組織を裏で操る黒幕でした。


結城の「復讐」と、湊の「命」。天秤にかけるにはあまりに重い二つの選択肢を前に、結城は冷徹な仮面をかなぐり捨てました。


「思い出されては困るのだよ。湊君には。結城、君も有能だったが……情に流されたのが運の尽きだ。二人まとめて、ここで死んでもらう」


「湊、お前は……私の復讐のための『道具』だったはずだ」


銃口を向ける敵を前に、結城は湊の前に立ちはだかりました。


「なのに、どうしてお前は、そんな風に笑うんだ。……私の計画を、全部台無しにしやがって」


湊は、恐怖に震えながらも、結城の背中にそっと手を添えました。


「結城さんが、道具にならなくていいように。……僕は、君の『正義』になりたかったんだと思う」


結城は自嘲気味に笑い、湊の手を握りました。


「……効率も、論理も、もう知らん。湊、お前のその『無駄な直感』に賭けるぞ」


二人は、事前の打ち合わせもなしに同時に動き出しました。


結城が敵の注意を惹きつけ、その隙に湊が信じられないほどの身軽さで現場を駆け、敵の視界を奪う。二人の魂は今、この瞬間に強烈に共鳴していました。


すべてが終わった後。汚職は暴かれ、結城は復職停止の処分を受けましたが、その瞳からは長年の「黒い呪い」が消えていました。


「湊。お前の身元が判明したぞ。……ただの、通りすがりの大学生だ。事件に巻き込まれて、不運にも記憶を失っただけの」


「えっ、僕、ただの大学生だったの? 名探偵じゃなくて?」


呆れる結城。湊は、自分の名前が戻ってきたことよりも、隣にいる結城が「ただの人間」に戻ったことの方が嬉しいようでした。


「記憶、戻りそうか?」


「うーん、まだ。でも、結城さんのマンションで作ったオムライスの味は、一生忘れないと思うよ」


「……あんな失敗作をか」


「不器用な味がして、好きだったんだ」


結城はため息をつき、湊の頭を少し乱暴に、けれど愛おしそうに撫でました。


「記憶が戻るまで、面倒を見てやる。……その後も、お前がいたいなら、好きにしろ」


「それって、告白?」


「黙れ。監視だと言っただろう」


反発し合いながらも、二人の歩幅はいつの間にか完璧に揃っていました。


結城玲一と、ただの「湊」。


二人の新しい物語が、ここから静かに動き始めました。

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