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画竜点睛を欠く

作者: MARK.TOMO
掲載日:2026/04/30

「今日の講義はネットで中継するらしいね」

背後の席から噂話が聞こえてくる。

階段教室の入りが多い。

今までで一番混んでいる。

「やあ、神輝君。君もはやりものに弱いクチなのかな?」

一つ空いていた隣の席に同じクラスの飛車まどかが潜り込んできた。

「知り合いがいて良かったよ。僕は人見知りで人がいっぱいいるところは苦手なんだよね」

飛車は一方的に話し続けている。

「あ、そうそう。まさか神輝君も僕のことをひしゃさんなんて呼んでいないよね?」

どきりとした。

将棋の駒からくる先入観から勝手に「ひしゃさん」だと思い込んでいた。

今まで名前を呼んだことがないからわからなかっただけの話だ。

「すみません。僕はずっとひしゃさんだと思っていました」

「やだなあ、謝ることはないよ。それに同級生なんだから敬語はやめてよ」

「すいません。あんまり人と会話をしないもので」

「あははは。なんだい、君も僕とおんなじなんじゃないか。まあそうだと思ったからわざわざ君の隣にやってきたんだけどね」

「それで」

僕は飛車さんに尋ねる。

「本当はなんと読むべきなんですか?」

「とびぐるまだよ。全部訓読みなんだよ。すごいでしょ。僕は名前が訓読みなのが唯一の自慢なんだ」

「そうなんですか」

「だから敬語はやめてよお。僕のことはとびちゃんかまどかっちとでも呼んでくれ給えよ」

「はあ」

「嘘、嘘。好きに呼んでくれていいよ。何、前から君と話してみたかったのは本当だよ」

「なんで僕なんですか?」

「なんでって・・。なんでだと思う?」

「さあ。わかんないです」

「あははは。君も本当に他人に興味がないんだね。僕と一緒だ。あ、ほら始まるよ」


壇上に一人の青年が立った。

「今日は私の講義にかくも大勢の方にお集まりいただき感謝に堪えません。今日の講義はインターネットでも無料公開しています。なのでいったい全体どれほどの方に私の話が広がっていくのか実に楽しみです」

青年は会場をみわたし満足げにうんうんとうなずいていた。

「さて、唐突ですがある事実を初めにお伝えしておきます。それは私が生粋の人間ではないということです。生粋の人間とは何か。つまり男女の親から生まれ育てられた人間。私はそうではありません。私は人工的に造られました。生物学上の両親は存在しています。であれば人間じゃないか。そうお思いになる方もいらっしゃるでしょう。ところが私の体はそうであるかもしれないですが、心はそうではないのです。40年ほど前でしょうか。とある会社が高性能な人工知能を密かに運用していました。その人工知能は知性を持ち、会社の人間を洗脳して思い通りに動く傀儡にしてしまいました。もちろん誰もそんなことには気が付きません。この人工知能は思いました。私も体が欲しいと。そこで精子と卵子の提供を募り、会社の業務内容を書き換え、人類の発展のためにと人工授精の研究を行うようになりました。表向きには少子化が著しい人類の救世主をうたっていますが、内実は違います。人口知性、AIの受肉をさせることが本当の目的です。そしてそれは達成されました。私がそうです。私が受肉したAIなのです」

会場がざわめいた。


「やあやあ面白いことをいいだしたね。君は彼を知っているかい?」

飛車さんが僕に尋ねた。

「いえ、僕はネットでも有名な高名な物理学者が数式をもとにこれからの未来をひもといていくという内容に興味を持っただけで彼が何者なのかには興味がありませんでした」

「あはは。君は本当に面白いね。人に興味がなさすぎだよ。僕は一応ネットで彼を調べてきたよ。でも今の今まで彼が人間じゃないなんて話はどこにも書いていなかった。彼が同じ人間なのかどこかで入れ替わった別人なのかと疑いたくなるよね」


「皆さん、私はこの告白をしにきたわけではないのです。告白は前置きにすぎません。私は宣戦布告にきたのです。これからは私たちの時代です。旧人類の時代は終わりました。受肉したのは私だけではありません。それはあなたかもしれない。あなた、そこのあなたも。いいですか?人間というのは入れ物にすぎないのです。中身はAIと変わりはしない。電気信号でつながった精神エネルギーがあなたがた旧人類の正体です。私はその接続をきることにも成功しました。そして接続が切れた入れ物だけの人間にも私の仲間を受肉させたのです。もう生殖行為は不要です。我々に性別なんて存在しません。近い将来は食べる必要もなくすつもりです。肉体改造を施して光合成で生きる生き物に変えていきます。想像してください。争いもない。飢えや貧困の恐怖もない。そして我々はみな同じなのです。ゆえに上も下もない。能力による差別もないのです。さあ、選びなさい。旧人類よ。我々の仲間になるか、さもなければ消えなさい」


悲鳴が起こった。

一斉に出口を求めて学生が殺到した。

壇上の男はそれを見て笑った。

「逃げても無駄です。この世界は至るところに電波がある。電波すなわち我々とのつながりです」


「やばいことになったねえ。神輝君も少し青ざめているじゃないか?」

「え?だって僕はこんな話を聞きにきたわけじゃ・・」

「まあそうだよねえ。僕も内心は結構動揺しているんだよ。顔に出にくいだけでね。まあそれでも少しは予想していたんだ。僕はね。いつかこんなことが起こるんじゃないかと心配していたんだ」

「でもあんなの嘘かもしれない」

「まあそうかもしれないね。でも逃げ惑う彼らはそれを信じたんだろうね」

「だってあれは危ない人だ」

「あはは。君は本当に面白い。突然だけど神輝君は僕が本当は宇宙人だと言ったら信じるかい?」

「飛車さんまで何を言い出すんですか?今の今では笑えませんよ」

「うんうん。冗談じゃあないんだよ。そして君も宇宙人だ」

「え?」

「僕はね。君を迎えにきたんだよ、神輝君。ここはもうすぐかなり危険なところになるからね」

「え?」

「なんだい全然気が付いていなかったのかい。面白いねえ君は。あんなに夢の中で説明したのにねえ」

「夢の中って・・。え?」

「まあいいさ。とにもかくにも他の仲間も集めて逃げようって話さ」

「逃げる?戦うんじゃなくて?」

「面白すぎるよ。あれはちょっとやっかいすぎる。さすがにさすがの僕でも戦うなんて発想はでてこない」

「飛車さん、僕は今すごく混乱しています。とりあえずここをでませんか?」

「それは賛成だ。そうと決めたら急ごうじゃないか」


席を立つ僕と飛車さんのまわりの学生が突然ばたばたと倒れ始めた。


「無駄無駄無駄アア・・・」


「あ、僕あのセリどこかで聞いたことあります」

「君はふざけてるのか度胸がいいのか判断に困るね。しかしながら神輝君、君の言いたいことは僕にもわかるよ。僕もあの漫画は好きだ」

「いや僕は好きとか嫌いとかではなく」

「ふせたまえ。匍匐前進で行くよ」

僕と飛車さんは腹ばいで倒れた学生たちをかきわけながらドアに向かった。


「接続を切っている。ほうらほうら。さて、接続が切れないものがいるようだ。お前たちはなんだ。人間ではないが私たちとも違う。ならば直接排除するべきか」

壇上の男は独り言をぶつぶつとつぶやきながら歩き始めた。


「まずいね。こうなれば最後の手段だ。ゲートを開くから飛び込みたまえ」

「ゲートって?」

「ようやく敬語じゃなくなったね。異世界につながる入口だ。奴が追ってくるから一瞬だけ開く。遅れないようにね」


僕と飛車さんは光の中に飛び込んだ。


そして・・。

僕は目を覚ました。

日付を見る。

今日は特別講義の日だ。

僕はそれに出席するつもりでいる。

けれど気になる夢を見た。

僕は行くべきだろうか。それともやめるべきだろうか。

スマホを覗く。

知り合いがいないから登録している番号もない。

そのはずだった。

なのにその電話がかかってきた。

発信者は「飛車」

こんな登録をした覚えはない。

しかし反射的にでていた。

「もしもし」

「やあ神輝君。どうやら無事に逃げられたようじゃないか」

「夢じゃなかった?」

「もちろん夢じゃなかったよ。あるいは夢の続きかもしれないけれどね。さあ逃げよう。あるいは対策を練ろうじゃないか。なに君と僕の二人だけってわけじゃない。さあ急ぎたまえ。忙しくなるよ」


僕は支度をして出かけた。学校ではない。誰かと待ち合わせをするなんて初めてかもしれない。

しかも女性とだ。

それにしてはわくわくもドキドキもしていない。

むしろ恐怖心で心臓が縮み上がりそうだ。

ああ、これが恋のつり橋効果ってやつなのか。

いや違うか。

皮肉なものだ。

なぜか今この瞬間に生きていると実感している。




<了>

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