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最終話『光なき者へ ― そして影は、裁きを終える』



> ──正義は、闇の中で灯り続ける。




 


灰色の空だった。

爆心地に近い中央区から吹き上がる熱風が、あたりをゆるやかに撫でていた。

高層ビル群のあいだを光の粒が流れ、崩壊した都市に、再起動の兆しが見えはじめている。


その瓦礫の上に、ひとつの影が佇んでいた。


黒いコートを纏い、左肩に深い損傷を抱えた男。

名を──KURO。


 


彼は言葉もなく、静かに都市を見下ろしていた。

この街が、自分の怒りの出発点であり、終点でもあったことに気づきながら。


バイザー越しに見える空は、いつになく澄んでいた。


> KUROユイ……




彼は思い出す。

少女の声、温もり、そして失われた日々。


戦いの終わりに残ったのは、勝利ではなかった。

ただ、“終わった”という現実だけがあった。


 



足元の破片を踏みながら、KUROはゆっくりと歩き出す。

自律機能は限界に近い。

左脚のアクチュエーターは潰れ、感覚ユニットも一部死んでいた。


> リリィの声:「KURO、あなたのエネルギーは残り0.4%。

通常であれば、稼働限界時間は──およそ8分です」




「……そうか。じゃあ、その時間だけ“生きる”か」


微笑みとも、諦めともつかぬ表情で彼はつぶやいた。

歩く。

たった一歩、されど重い一歩。


 


その先に、小さな公園があった。

誰もいない。

だが、懐かしい匂いがあった。


ブランコが風で揺れる。

ベンチには、かつてユイと座った彫刻痕が残っていた。


KUROは腰を下ろす。


「リリィ、記録開始……」


> リリィ:「はい。音声・映像・神経信号、全て同期しました」




「……KURO、シャドーポリス。コードNo.041。

 最終任務完了報告をここに残す」


言葉が、やや詰まる。

けれど彼は、語り続ける。


「俺はもう、ただの機械じゃねぇ。

 怒りや哀しみに突き動かされたまま、進んできた。

 だが今は、分かる」


「人間であることに、理由なんざいらねぇ。

 “そう在りたい”と思う心、それだけが、俺を支えてた」


風が頬を撫でた。


冷却液がにじむ。

だが、それはまるで涙のようで──


> リリィ:「KURO……ログ、正常に保存されました」




「最後に、伝えてくれ。

 ……俺が、誰かの“光”であろうとしたことを」


目を閉じた。

音が遠のく。


機能停止のアラートが、静かにカウントをはじめた。


 



──しかし、その時。


風に混じって、どこかで声がした。


 


> ユイ「……KURO。ありがとう。あなたは、“正義”だった」




 


そして。


一筋の光が、彼の頭上に差し込んだ。


黒い影をなぞるように、やさしく。


KUROの身体は、次第に光の粒となって消えていく。


だれに看取られるでもなく。

だれに賞賛されるでもなく。


それでも──世界は、彼の選んだ“正義”を記憶する。


 



---


エピローグ:『影、灯る場所に』


──数年後。再建された都市。


ある通りの壁に、こう刻まれていた。


> 「法なき街に、ひとりの影がいた。

その影は、痛みと怒りを背負いながらも、

最後まで、人を守ろうとした」




> “シャドーポリス KURO”




子どもたちは、その壁画を見上げながら言う。


「これ、本当にいたの?」


「うん。でももうどこにもいないんだって。

 でもね、おばあちゃんが言ってた。

 “夜道に迷ったら、影が守ってくれる”って」


遠く、誰にも見えない路地の奥。

誰かの正義を背負った影が、そっと笑った気がした。


──完






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