運命の相手とは来世で結ばれたい
『生まれ変わったら…結婚したい』そんなふうに思えた、初めての夏ーー。
あの夏は特別だった。やっと出逢えた運命の人と
最初で最後のデートをした日。それは忘れもしない、満天の星空だった。運命の相手だと互いに知りながらも、二人は別れを選んだ。数十年の時を超えて、二人の愛する気持ちが起こした奇跡のラブストーリー。
『生まれ変わったら…結婚したいな』
『そうだね』
あの夏は特別だった。やっと出逢えた運命の人と
初めて手を繋いだのは夏祭り。その日は、最初で最後のデートだと感じさせないような満天の星空だった。
ひろきとの出会いは、調理の専門学校。たった1年間でも学生気分を楽しもうと入学を決めた。1学年3クラスの100人程度の入学生の中で、一匹狼のような存在だった彼と同じクラスになった。
それが、ひろきだった。
一目惚れとはまた違う気持ちで、初めて会った気がしなかった。どうしても彼が気になって、先に言葉をかけたのはわたし。ドキドキしながら話しかけた。
「…お、おはよ!」
「おはよう、ゆまさんだっけ?」
と、笑顔で答えてくれた。安心したわたしは、何かあるとすぐに彼と話をしていた。誕生日、住んでるところ、連絡先も聞けた。どちらからともなく、気がつけばお互いがお互いを気にしていた。
「どこに住んでるの?」
わたしが訪ねると、
「おれ?けっこう遠いよ、○○市。車で40分かな」
「○○市って…。遠いねー」
「ゆまは?」
「わたしは…☆☆市。独り暮らしだよん」
「まじかぁ、いいなぁ。おれも実家出たいよ」
10代学生で一人暮らしは、なかなかハードルが高いものだったけど…家庭環境が複雑だったわたしは、親にわがままを言ってでも実家を出たかったのだ。
そんなわたしを高校から支えてくれた友達の一人があみだ。高校のときはわたしがあみの自宅へよく遊びに行っていた。一人暮らしになってからは、あみがわたしのうちに遊びに来るようになった。
そして入学して間もない4月下旬、ひろきの誕生日が来月だと聞いてわたしはワクワクしていた。
(誕生日かぁ、絶対なにかあげたーい)
そう思ったわたしは、時間が無い中でリサーチを始めた。授業中や、休み時間、午後の調理実習のときの時間、暇さえあれば彼のことを考えるようになっていった。
(ひろきは…チョコが好きって言ってた)
さっそくわたしは、あえてコンビニでチョコを買ってその日を待った。さりげなさを装ったのだ。
誕生日当日、彼よりも早く学校に行って昇降口で待っていた。
(早く来ないかなぁー。ドキドキだ…)
彼の姿が見えた。
「ひろき、おはよ!」
「おはよ!早いじゃん」
「でしょ!ふふふ。お誕生日おめでと♪」
そして、用意していたチョコを差し出した。
「覚えててくれたんだ!マジ嬉しい、ありがと」
「えへ。忘れるわけないじゃん」
「授業終わったら一緒に食べよ」
「うん!」
ますますひろきを好きになっていくわたしがいた。楽しい学校生活が続いて、毎日があっという間にすぎていく。そして、季節は夏ー。
いつの間にか…二人の気持ちはひとつになっていた。
「オレと付き合ってください!」
突然のひろきからの告白だった。
「うん!」
わたしは、なんとなく予感をしていたのかもしれない。告白される、と…心は準備していたのだ。
毎日学校で会うのが、唯一の二人の時間だった。それでも十分楽しかった。夏休みになってからは互いのバイトが忙しくなかなか会う時間が無かった。バイトが終わってから、ちょっとだけ電話で話す毎日が続いた。
「今日はバイトどうだった?」
わたしが聞いた。
「ちょっと忙しかったかなぁ」
「そろそろ会いたいなぁ…」
夏休みになってから10日が過ぎようとしていた。
「そうだなぁ、おれも会いたいけど…ごめんなぁ」
「へーき、へーき。バイト頑張ってね」
クラスの仲間からの誘いがあったことを伝えても…
「その日は、バイト休めないな。ごめんな」
と、なかなか会うことはできなかった。
「ゆまだけでも行っておいで」
「ひろきも一緒じゃなきゃ、やだよー」
「そか。本当にごめん。次はなんとかするから」
「わかった。楽しみにしてるね」
来月には、☆☆市で毎年恒例の夏祭りが開催される。
(ひろきと行けたらいいな…)
(あみも、彼氏と行くって言ってたし)
そんな思いで今日も電話をしてみた。
「来月の夏祭りなんだけど…一緒に行かない?」
「わかった。なんとかする。一緒に行こう!」
「やった!嬉しい。楽しみにしてるね」
そして…やっと会えた、たった一度の夏祭り。初めてのデート。わたしの自宅に車を停めて、徒歩で会場付近まで向かった。緊張して何を話したのかも覚えてない。だんだんと行き交う人々が増えている。
「いっぱい人がいるね。混んでるー」
そう言ったとき、ひろきと離れてしまいそうになった。すかさず、ひろきがわたしの手を握って引き寄せた。
若すぎた二人は、手を繋ぐのが精一杯だった。人混みの中、無言でわたしの手を引いてくれた大きな手。このまま時間が止まればいいとさえ思っていた。
どれくらい歩いただろう、いろんな屋台が並んでいた。
「何か食べる?」
ひろきに聞かれた。目の前には、ちょうどチョコバナナの屋台がある。
「一緒にチョコバナナたべよ!」
「わかった。おれが買ってくるよ」
そう言って買って来てくれたチョコバナナ。満天の星空に浮かぶ花火を見ながら二人はゆっくり食べた。
そんな二人に近付いていく、友達のあみがいた。
「あれー!ゆまだ。今日来てたんだね」
「あ、あみー!会えると思わなかったー」
わたしは、ひろきにあみを紹介した。そして、そのまま4人でわたしの自宅まで歩いて帰った。
楽しい時間はすぐに過ぎていき…
「また会いに来るよ」
と、ひろきは帰って行った。
「帰ってほしくない」
とは言えなかった。
あみとあみの彼氏と3人になったとき、あみの彼氏が呟いた。
「おれだったら…もっと一緒にいたいって帰らないけどなぁ。ゆまさん、一人暮らしだし。ぐふふ…」
「なに考えてんのよ!」
あみがすばやく突っ込みを入れた。
「わたしだってー。もっと一緒にいたかったよ…なんかせつないなぁ」
「ゆま、他にいい人探しちゃえば?」
「俺が紹介しよっかー?」
「ははは…。とりあえず大丈夫かなー」
と、言ってはみたものの…本音は寂しいと思う自分に気がついていた。
(他にいい人…かぁ…)
あれから会えそうなときもあったが…なかなか予定を会わせられないひろきに、少し苛立ちを感じたわたしは…その思いをつい彼にぶつけてしまった。
「今日会えないの?いつなら会える?」
「おれも会いたいけど…バイト休めなくてごめん」
「今日会いたいな」
「今日は…夕方からバイトだから。今から行っても、すぐに帰らなきゃならない」
「……じゃ、もういい!」
「ごめん。怒らないで」
「怒ってないもん。でも、会いたいけどもういいや…」
「そんなこと言わないで。わかった、今から少しだけでも会いに行くから…」
「悪いから来ないでいい」
と、わたしは怒って電話を切ってしまった…。
(やっちゃった…ごめん、ひろき…)
ケンカなんてするつもり無かったのに。ただただ会いたかっただけだった。わたしは、携帯を握りしめたまま座り込んだ。
どれくらい時間がたったのだろう、電話がなった。ひろきからだった。
「もしもし…ゆま?さっきはごめん」
「ひろきは悪くないよ。わたしこそ、ごめんね」
「おれもゆまに会いたかったよ。でも、会いに行ってもすぐに帰ったら余計に寂しくなりそうでイヤだった」
「わたしのわがままだったの。また今度会おうね」
そして、夏休みが終わり、また学校が始まった。あの夏祭りから一度も会える日は無かった。教室には先にひろきが来ていた。会いたかった気持ちを押さえ話かける。
「久しぶり! 元気だった?」
「おぅ!ゆまも元気そうでよかった」
当たり障りの無い会話だった。授業が始まり、あっという間に1日が終わる。それでも、学校で会えることが楽しみになっていった。それだけで幸せだった、それだけで良かったのに。
突然の別れは何の前触れもなくやってきた。ひろきからの着信に不安がよぎる。
「ごめん。やっぱりおれたち別れよう…」
「…」
驚いて言葉にならなかった。
「…なんで?」
「他に好きなやつできた」
「………そっか。じゃあ…しょうがない…か」
無理してちょっと笑って答えてみたが、心の中では泣いていた。
(本当はヤダ別れたくない、やだよ…大好きだよ)
やっと声にだした言葉…
「今まで…本当に楽しかった、ありがとう…」
つらく悲しい嘘だった。涙もでない。
「なんかごめんな。いっぱい寂しい思いさせちゃって。おれもゆまといて楽しかった。いろいろありがとな」
わたしは…本当に大好きだった。愛していたかと問われたら、このときのわたしにはまだわからない。でも、別れたくないって言えていたら、未来を変えられたのかな。
もしも運命の相手だとわかっていたらー。
そして…夏が終わるのと同時に、わたしの恋も終わった。
学校へ行く勇気は無かった。幸せそうな彼の姿を見るのは辛かった。きっと、心のどこかで彼からの連絡を待っていたのかもしれない。でも、そんな日はこなかった。
どれくらい日にちがたったのかな。落ち込んでいるわたしを、気分転換で友達のあみがカラオケに誘ってくれた。歌いながら涙が止まらなかった。でも、やっと本気で泣けた。泣いてるわたしを見たあみが言った。
「忘れなくてもいいんじゃない?」
(そっか。忘れなくてもいいのかな…)
「明日は学校に行ってみようかな」
そう思えるようになった。
「あみ…今日は、ありがとね。ちょっと元気でたよ。明日からまた学校頑張らなきゃ!」
片思いの、友達。そう自分にいい気かせて彼のいる教室に一歩、また一歩と進む。教室を見渡すことはできない。そんな勇気は無い。そんな毎日がしばらく続いた。
同じ空間にいるのに、すごく遠くに感じる。たまに他の誰かと会話をしている彼の声が聞こえる。元気そうで良かった。どんな気持ちでいるのだろうか。わたしから話しかけていいのかな。話したい、でも目の前に行ったら泣いてしまうかもしれない。
(大好き…だいすき…だいすきだよ)
って言っちゃったらどうしよう。ちゃんと友達に戻らなきゃ。
大好きな…ともだち。
あれから何日かすぎて、年に一度の学校祭が始まった。飲食店やお土産コーナーが人気らしいが、わたしの気持ちはそれどころじゃなかった。
今日は、彼と会話をしようと心に決めていた。うまく話せるか自信は無かったが、ひろきのことを探しているわたしがいた。
学校内は盛り上がり、行き交う学生でにぎわっている。
(いた! ひろきを見つけた)
心臓の音がまわりに聞こえるくらいにドキドキしていた。わたしに気がついたひろきが近付いてくる。動けなかった。目も合わせられない。
「売店の在庫少ないからよろしく!」
ひろきから声をかけてきた。
「うん! わかった」
それだけしか言葉にできなかったが、笑顔で接することができた。
大好きな友達になってからの初めての会話だった。涙が溺れるくらい嬉しかった。やっぱりひろきが好き、そう実感できた。それからは少しずつ話せるようになった。毎日の学校が楽しい。学校ではわたしが一番近くにいよう、そう決めた。
季節は冬になっていた。もうすぐクリスマス。今年も一人ぼっち。ひろきのことを考えるとつらい。
(今頃は、新しい彼女と一緒にいるのかな…)
なんて考えてしまう。
そして、あっというまに新しい年を迎え…学生気分も残り3ヶ月になった。そんなとき、新しい出会いを求めてあみが合コンに誘ってくれた。全く乗り気では無かったが、断るのも申し訳ないから頭数合わせで参加した。
4対4で、年齢層も幅広い。適当に会話を合わせ、その場をしのいだ。
このときのわたしには、まさかこの中に未来の旦那様がいるとは思いもしなかった。二次会のカラオケに行き、さすがにもう帰ろうとしたわたしに声をかけてきたのは同い年のまなと。
「ね、番号教えて!」
(どうしよう)
迷ったわたしは、ひろきを忘れるためにと番号を交換した。それからは毎日電話した。気がつけば朝になっていたこともある。少しずつ好きになっていった。まなとから告白されるのも時間の問題だった。
(ひろきを忘れられるかもしれない)
付き合うことにした。その日は、わたしの19歳の誕生日の2日後。まなとは、
「2日すぎちゃったけど、誕生日おめでとう」
と、指輪をプレゼントしてくれた。嬉しかったのと、ひろきに気がついて欲しくて学校にも付けて行った。本当は…
(ちょっとだけでいいからヤキモチを焼いて欲しい)
そんな思いからだった。
学校生活も残り1ヶ月になった。ひろきとの楽しかった毎日も終わる。
(この教室ともあと少しだな…)
みんながいなくなった教室で帰り支度をしていると、突然名前を呼ばれた。
「ゆま!」
ひろきだった。
「ひろき…どうしたの?」
「こうやって二人で話すの、久々だな」
「そだね」
「彼氏できたんだ?」
「うん。いるよ」
「ひろきも、彼女とうまくいってる?」
「なんとか、な」
笑ってひろきは言った。
(わたしはまだひろきが好き…)
そう言えていれば、未来も変わったのかな。今ならまだ間に合うかもしれない。
「ひろき、やり直したい…」
と、言える勇気はわたしには無かった。
まなととの毎日は、ひろきを忘れさせてくれるくらい充実していた。気がつけば一人暮らしのわたしの家で同棲生活が始まっていた。そして、卒業式の朝を迎えた。
わたしの学校生活も終わりを迎える。ひろきへの気持ちも卒業しよう、そんな思いで家を出た。
(1年間は、あっというまだったな…)
卒業式も無事に終わり、わたしはひろきを探した。ひろきへの想いを断ち切るために、自分の言葉でサヨナラを言わなければならない。
(ひろき…どこ?まだ帰らないで)
駐車場で見つけたひろきを呼び止めた。うまく言葉にならないかもしれない。
(でも言わなきゃ)
「ひろき!待ってー」
「ゆま。どした?今日で終わりだな」
わたしは気持ちを吹っ切るためにひろきに言った。
「もう二度とひろきには会わないからね!」
少し笑顔で言えた。
「そんなのわかんねぇじゃん!」
ひろきも笑顔で答えた。
「でも…出会えて嬉しかったよ」
その言葉と同時に、わたしはひろきを力強く抱きしめていた。もう絶対に離したく無かった。付き合っていた頃の二人が走馬灯のように頭をよぎる。この手を離したらもう終わり。
(だいすき…)
声に出そうだったそのとき、ひろきがわたしから身体を離して言った。
「ごめん、もう帰るね」
「わかった…またね」
(またね、なんて無いのにね)
ひろきとはもう二度と会うことは無いと、このときは思っていた。
卒業してからも、まなととの同棲は順調だった。わたしはアルバイト、まなとはごくごく普通の会社員。仕事が終わるとアルバイト先まで迎えに来てくれる、やさしいまなとのことが好きだった。
こんな普通の生活がいつまでも続けばいい、そんなふうに思っていた。だが、二人はその数ヶ月後に人生が変わる出来事が起こる。
卒業してから間もなく、わたしの身体に異変がおきた。何かがおかしい。先月か、その前からか生理がこない。だるいし、気持ちが悪い。すぐまなとに相談した。
心当たりのある二人は妊娠検査薬を購入し、すぐに試した。結果は陽性。頭は真っ白になった。ただただ立ちすくむわたしにまなとは言った。
「ゆま、産んでくれ。一緒に育てよう」
「い、いいの?わたし…どうしていいのか…」
「結婚して、一緒に頑張ろうよ」
と、そっと抱き寄せてくれた。わたしは、何も考えることができなかった。でも、堕胎するという選択肢は無かった。全然実感は無いが、わたしの中に小さな命がいることは事実なのだ。
まだお互いの両親に会ったことの無い二人は、このことをきっかけに会いに行った。反対こそされなかったが、突然すぎて状況が飲み込めない様子だった。
もちろん、あみにも伝えた。驚いてはいたが、祝福してくれた。
そして…二人は19歳の夏、夫婦になった。
簡単ではあったが、真っ白なウェディングドレスを着て永遠の愛を誓った。この幸せは永遠に続くと思っていた。
それからあっという間に時は過ぎ、予定日の3月を迎えた。ひろきのことなど、思い出す余裕もない。そして、3月半ば女の子を出産した。わたしとまなとは20歳になっていた。
そのころ、まなとは仕事も忙しい時期を迎えていた。残業や職場の人達と付き合いで、帰宅が遅くなるのが日常茶飯事になっていた。わたしは育児に追われる日々をすごし、すれ違いの生活だった。
わたしは…少し寂しさを感じていた。
「まなと、今日は早く帰って来られる?」
「なるべく早く帰るよ」
「わかった、待ってるね」
育児で余裕の無い気持ちを抑えるのに精一杯だった。でも、夜の10時をすぎてもまなとは帰宅しない。
(もう無理だよ。早く帰ってきて)
まなとに電話をかけた。
「何時頃帰ってくるの? 何してるの?」
わたしが問いかける。
「ごめん。仕事の付き合いで飲み屋に来てる。まだまだ帰れそうにないから先に寝てて」
「早く帰ってきて!」
「まだ無理だよ」
まなとが先に電話を切った。
(毎日毎日一人で家事と育児でもう無理だよ…)
(寂しいよ…)
(会いたいよ…ひろき…)
(え? ひろき…?)
そのとき心にいたのは、ひろきだった。
わたしに迷いは無かった。少しドキドキしながら、ひろきの番号を押した。呼び出し音が鳴る。
(電話に出てくれるかな?)
心臓が飛び出そうなくらいドキドキしていた。
(あぁ…もう無理だ)
すぐに電話を切った。電話をかけてしまったことを後悔した。今さらわたしが電話をしても迷惑だろう。
どれくらい時間がたったのか…もう寝ようと思ったとき、電話がなった。
ひろきからだった。
「もしもし…」
おそるおそる電話にでた。
「ゆまか? 久しぶりだな! 元気か!?」
1年ぶりに聞く、懐かしい声だった。
「ごめん。夜遅くに電話しちゃって…」
「全然大丈夫だよ! そういえば噂で聞いた。結婚したんだって。おめでとう」
「うん! ありがとう」
そして、何かを察したかのようにひろきが言った。
「でも、どうした? こんな時間に…?」
「なんかね、声が聞きたくなっちゃった」
「そか。おれも電話したかったけど…結婚したって聞いたから、しないほうがいいと思ってた」
「…」
言葉にならなかった。少し間をおいてから、ひろきが呟いた。
「ゆま…今は幸せか…?」
「幸せなら電話しないでしょ!」
はにかみながら答えた。
「こんな時間に既婚者が元彼に電話するんだから、わかるでしょう」
「ははは。そか。でも、おれもゆまの声が聞きたかったから嬉しいよ」
そして、ひろきは続ける。
「でも、19歳で結婚て。ずいぶん早いよなー」
「まぁね」
そう答えたときだった。
隣の部屋から娘の泣き声がした。
(オギャー、オギャー…)
「赤ちゃん? あ…そうゆうことか」
ひろきが納得したかのように言った。
わたしはあやしながら答えた。
「うん…。ひろきにはバレたく無かった」
「別にいいじゃん。赤ちゃん、かわいいんだろうな」
「うん…すごくかわいいよ」
言いながらつい泣いてしまった。
「なんで泣いてるの?」
ひろきが聞いた。
「やっぱりひろきには、言いたく無かった…」
わたしは、赤ちゃんを産んだことでひろきに女として見られなくなるのが怖かった。
「泣くなよ!もうゆまは、お母さんだろ。子どもがいてもいなくてもおれはゆまが好きだよ」
「…ありがとう、嬉しい」
心のモヤモヤが晴れた気がした。
また電話をすることを約束し、その日は電話を切った。忘れられない夜になった。まなとには悪いけど…やっぱりまだひろきのことが好きなんだと、実感できた。
この日、まなとが家族を優先させていたらこんなことにはなっていなかったのだろう。
次の日、またまなとは早い時間には帰って来なかった。こんな毎日がしばらく続いた。仕事が忙しいのもわからなくは無いが、もう少し一緒にいたかった。一緒にいたいだけなのに、それはわたしのわがままなのかな。
だから、まなとが早く帰宅した日には、気持ちとは裏腹に口喧嘩をすることも増えていった。そんな日々を繰り返し、気がつけば娘は2歳になっていた。
そしてわたしはますますひろきが忘れられなくなっていた。
(会いたいな、ひろき…)
心の中はひろきでいっぱいだった。
卒業してから3年が経つ。会ってはいけない相手だとわかっている。会ってしまったら、どうなるかわからない。それでも1度でいい。会いたい。
そんなとき、週末まなとが出張に行くと言いだした。こんなに都合のいいときはない。わたしは、ひろきにメールをしていた。
「週末、会えないかな?」
返事はOKだった。
初めて会ったこの学校で、二人は再会した。まるで、遠距離恋愛をしていた恋人同士のように…。
「会いたかった…」
「おれも…」
またこうして会うことができるなんて…。二人は迷わず抱き合った。そして、あの別れた日を後悔するようにキスをした。長く静かなキスだった。そしてまた強く、もう離さないと言わんばかりに強く抱き合った。
そんな二人を見守るように満月が二人を照らす。それは愛し合う二人の再会を祝福するようなやさしい満月の光だった。
わたしは恋愛映画のヒロインになったような気持ちだった。
『スポットライトを浴びて、やっと会えた運命の相手との再会…そしてハッピーエンド』
そんな物語だったらどんなにいいか…ずっとこのままでいたい。そんなことを考えてたとき、わたしは卒業式のときを思い出した。
「卒業式のとき、ここでひろきにはもう会わないって言っちゃったのに、また会えた。嬉しい」
「だからおれは…そんなのわかんねぇって言ったんだ」
笑いながらひろきが言った。
「だっておれは…なんとなくまた会えると思ってたし」
「ねぇ。これからもまた会える?」
わたしは思いきって聞いた。
「もちろん」
思わずひろきを力いっぱい抱きしめてしまった。
(やっぱりひろきが好き…)
このままずっと一緒にいたい…そう思ったとき、ひろきもゆまを抱きしめた。
「おれは…やっぱりゆまが好きだ」
二人の心がまた一つになった瞬間だった。
「わたしも…ひろきのことが好き。何度も忘れようって思ったんだよ。でも、無理だった」
「おれも、忘れられなかった」
わたしが独り言のように呟いた。
「付き合ってた頃が懐かしいなぁ。ここで出会って、まさかあの時はこんなに好きになるなんて思わなかった」
「だよなー。付き合ってた頃は、なかなか学校以外で会わなかったしな」
「そうだよね。わたし、一人暮らしだったのに…あの夏祭りのときだって、すぐ帰っちゃったもんね」
わたしは、少し笑って言った。
「あはは。確かに…。でも、おれだって本当はあの時ずっと一緒にいたかったよ」
ひろきが話続ける。
「だけど…」
「だけど?」
わたしは、興味津々だった。
「だけど…あのまま一緒にいたら、おれは自分を抑えられる自信が無かった。まだあの時のおれは子どもだったんだ」
「そんなふうに思ってくれてたんだ…嬉しい。でもね、わたしはどうなってもよかったよ」
「あの時はまだ、ゆまを傷つけてしまいそうで。おれは何もできなかった」
「そか…今の言葉もっと早く聞きたかったなぁ」
そして、ひろきはまだ話を続けた。
「あの頃は、やっぱりまだ若かったから…バイトして買いたい物もあったし、地元の友達とも遊びたかったし。そんな中で、ゆまとのこともあって…優先すべきことがわからなくなってたんだ。その結果、ゆまに悲しい思いをさせてしまった」
「おれは…バカだったなぁ」
「そんなことないよ。そりゃあ、寂しく無かったって言ったら嘘だけど…おバカなひろきが好きだよ!」
「あはは、そっか」
そう言って、ひろきは空を見上げた。わたしは、そんなひろきの横顔を眺めていた。付き合っていた頃は、こんなにゆっくり二人で過ごした時間は無かった。
満月の光が届かないところにある二人の手は…気がつくとずっと繋がれたまま…。
そして、満月が少し雲に隠れてきたころ…二人は別々の場所へ帰った。
またいつも通りの生活が始まる。まなとの仕事も、少し落ち着いてきた様子だった。ひろきとのことは、本当に申し訳なく思っているが…わたしなりに割りきって過ごすことにしていた。
(きっかけを作ったのは…まなとだし)
そう思うようにした。でも、やっぱりひろきのことが気になって仕方ない。まなとはまなとで、最近は良いパパになってきている。そんな毎日が続いた。
2回目の再会は、それから半年後だった。前に、ひろきから同棲している彼女がいると聞いた。わたしも子持ちの既婚者。なかなか思うように会えない。それでも心は繋がっている、そう思った。
二人が会うのはいつも学校の駐車場。ここで会うのはお気に入りだった。ここにいるときだけは、あの頃のまま。なにげない話で時間が過ぎていく。一緒にいる時間が楽しくて、このまま時が止まればいいとさえ思う。
「なんか楽しい…」
わたしの心の声がもれてしまったようだ。
「おれも」
すかさずひろきが言った。
「嬉しい」
そう答えたとき、ひろきの手がわたしの手に触れた。そして、そのまま目を閉じた…。このまま離れたくないと言わんばかりの激しいキスだった。
(このままどうにでもなれ…)
わたしの気持ちは決まっていた、が…その先に進むことは無かった。
「また会おうね」
と約束し、二人はまた別々に帰宅した。
その日の夜空には…二人を見守るようなやさしい満月の光が輝いていた。
それからはなかなかひろきに会う機会も無く、1年に1~2回会う程度で満足していた。会えないときは、メールで連絡を取っていた。ちゃんと繋がっている…それはそれで嬉しかった。
まなととの結婚生活もそれなりにうまくいっていた、が…おそらくこのころから冷めてきていたのだろうか。
まなとから転職の話があった。家族のために、もう少しお給料の多い仕事をしたいとのことだった。それなら、とわたしは応援した。
娘も大きくなり、一般的な幸せな家庭には見えていただろう。友達のあみも、あの時の彼氏と結婚したようだ。
(みんないつまでも同じじゃないんだな…)
と、しみじみ思った。わたしも、できることなら…幸せな家庭を壊さないよう過ごしていきたかった。 だが、ちょっとしたことでまなとと口喧嘩になり…お互いが冷静になれるまでと、しばらく別居をすることにした。わたしは、娘を連れて実家に戻った。
そんなわたしをまた元気付けてくれたのは、あみだった。実家だし、子どもを気にせず独身のつもりで遊びに行こうと誘ってくれたのだ。二人でおしゃれして遊びに行くのは久しぶりだった。とても既婚者に見えない二人は、行く先々で声をかけられた。
「なんか学生時代を思い出すね」
あみが言った。
「そだねー、あの頃も良くナンパされたよね」
「うんうん!悪い気は、しない。あはは」
「今日は、わたしたち独身ね!」
そんな会話をしながら、わたしはひろきにもメールしていた。
《今日は、あみと二人で独身気分でデート中だよ!》
すると、すぐに返信がきた。
《いいなぁ。おれもまざりたい!》
わたしは、冗談だと思い…
《全然OKだよー》
と、返した。返ってきたメールには…
《わかった!今から学校で会おう》
わたしは状況が掴めなかった。それを、あみに伝えると…わたしの気持ちを知っているあみは
「よかったじゃん。会いたかったんでしょ?私は大丈夫だから、会ってきなよ!」
と、背中を押してくれた。
「ありがとう、あみ。ごめんね」
「いいって、いいって。行ってらっしゃーい」
わたしは、夜の学校へ向かった。今日の夜空には満天の星空が広がっていた。
『生まれ変わったら…また出会いたい』
そんなふうに思える相手と出会えた奇跡。
そしてまた、わたしとひろきは学校で会っていた。ひろきと別れてから7年たった頃だった。
「久しぶりだね!まさか今日会えるなんて思ってなかったよ。 嬉しいけどね」
わたしから声をかけた。
「おれも。まさか、本当に会えるなんて。そういえばあみちゃんと一緒だったんじゃ?」
「ずっと一緒に遊んでたんだけど…ひろきとの話したら、気を使ってくれて…」
「そっか、なんかごめんねー」
「ううん、へーき。あみはわたしのことわかってくれてるし、いつでも会えるしね!」
「それならいいんだけど…」
そう言うと、二人は空を見上げた。そして…わたしはずっと後悔していたことを口にした。
「こんなふうに今でも大好きで会っているなら、あのとき…別れたくないって、言えばよかったな」
少し間をおいてひろきが話だした。
「おれが…全部悪かったんだ」
続けてひろきが言う。
「あんな嘘言わなければよかった」
「え! 嘘?」
「うん。嘘ついた。あのときのおれじゃ、ゆまといてもつらい思いさせると思って、好きな人できたって嘘ついて別れた。別れなきゃいけないって思ったんだ」
「なんで? そんな…」
涙が溢れてきた…そして言った。
「大好きだったけど、好きな人いるなら諦めなきゃって思ったのに…」
「おれも本当にゆまのことが大切で大好きだった。だから幸せになってほしかった」
「わたしがどんな気持ちで今まで…。今だってこんなに大好きなのに…」
「おれも。あれからずっとゆまのことが忘れられなかった。当時は彼女も作らないでいようと思ってたのに、友達に紹介されてそのまま流れで付き合うことになっただけ。すぐに別れようって思ってたんだ」
「…本当にごめん。おれがバカだった」
溢れでる涙をおさえ、わたしが言った。
「あの時…別れてなかったらどうなっていたかな」
「結婚…してたかもな」
ひろきが言った。
「結婚か…ひろきとの結婚なんて、考えたことなかったなぁ」
そして、わたしは思い付いたように言った。
「じゃあさ、生まれ変わったらでいい…。生まれ変われたらひろきと結婚したいな」
わたしは本気で言った。
「そうだな。生まれ変わったら必ずゆまを探す」
「わたしも」
二人はそっと誓いのキスをした。満月の光に照らされながら、来世での出会いを誓うキスだった。
今のこの世界では…二人は結ばれることはないとわかっていた。今二人が一緒になるには、失うものが多すぎたのだ。
別居して数週間が経過した頃、まなとがわたしと娘を迎えに来てくれた。お互い冷静に話をし、まなとの誠意をわたしは受け止めた。わたし自身、心の片隅にいるひろきを忘れることはできないが、二人の約束を糧にまた一からまなととの結婚生活を楽しもうと決めた。
まなとの新しい仕事も順調にすすみ、とりあえず今は仕事が終わるとすぐに帰宅するようになってきた。20代半ばの遊び盛りだと理解し、ある程度の付き合いも許せるようになった。
娘もだんだん大きくなり、かわいい女子になっていく。なんとなくパパに似てきたような気がした。わたし自身、このまま3人の生活でもいいと…このときは思っていた。
あとは流れにまかせようと、思っていた矢先に…二人目を妊娠したのだ。今までのまなとを考えると、二人目を生むのは少し抵抗がある。でも、今のまなとを信じたいわたしは…この小さな命を大切にしたかった。
今度は家族4人、幸せになろうと心に決めた。そして同時に、ひろきへの思いも心の…さらに片隅によせた。
仕事から帰宅したまなとに伝えると、喜んで祝福してくれた。
「もっともっと仕事頑張らなきゃな!」
「そうだね、頑張ってパパ!」
そして、娘にもお腹に赤ちゃんがいることを伝えた。自分は、お姉ちゃんになると理解ができたようだ。
あみにも伝えると…
「これでよかったんじゃない?おめでとう」
と、喜んでくれていた。すでにあみにも女の子が一人生まれていた。時代は巡って…みんないいお母さんになっている。
最近、少しまなとの帰宅が遅いこともあったが、なんとか家族3人楽しい生活を送っていた。そろそろ予定日の6月が近付いてきた。毎日がそわそわしていた。もちろん、ひろきを思い出す余裕は無かった。
そして…6月半ば。無事に男の子を出産した。あわただしい家族4人の生活が始まった。あっという間に毎日が過ぎていき、翌年娘も小学生なっていた。
息子も1歳を過ぎた頃、まなとがケガをして入院したのだ。足の複雑骨折で手術をし、その後は自宅で療養することになった。
夫婦関係はうまくいっているかのようだったが、この頃から小さなケンカが増えていった。そして、その年の始め…つまらない言い合いから、まなとが家を出て行ったー。
まなととの生活が10年を迎えようとしていたときだった。何度か話し合いも試みたが、わたしたちの気持ちは固まっていたのだ。そして、二人の結婚生活に終止符を打った。長いようで短い10年だった。
こんな日が来るとは思っていなかったわたしは、子どもたちに申し訳ない、そんな気持ちでいっぱいだった。
いつまでも落ち込んでいられない、そう思って子どもたちのために頑張っていこうと誓った。
しばらくは…夜空を見上げる余裕は無かった。
その数ヵ月後、独身になって初めてひろきに会うことになった。いつもの学校の駐車場、先にひろきが来ていた。わたしが別れたことは、すでにメールで伝えてあった。
お互いに独身で、ふとあの頃を思い出した。
「ふふふ」
若い二人を思い出し、微笑んだわたし。
「どうした?」
ひろきが顔を覗きこむ。
「なんだか懐かしいなって思った」
「そうだな」
そう言って、ひろきは無言になった。そしてこう続けた。
「ゆま…おれと結婚するか?」
それは、大好きな元彼からのプロポーズ。ひろきと別れてから10年後のことだった。
「え?」
わたしは、すぐに理解ができずにいた。
「だーかーら、おれと結婚すっか?」
ひろきが照れ臭そうに言う。
嬉しかった。夢じゃないかな。大好きな人からのプロポーズ。涙が出るほど嬉しい言葉。わたしは、この言葉だけでもう十分だった。
(結婚したい!)
心の中では決まっていた。でも、わたしは冷静に答えた…
「ありがとう。すごく嬉しい…でも」
「でも?」
ひろきが繰り返す。
「わたしはバツ1で子持ち。ひろきは初婚で、彼女もいるでしょう。わたしと結婚したら、ひろきのご両親や彼女が悲しむよ…だから、無理だよ。ごめん」
「そんなこと関係無い! おれの人生だし」
ひろきの気持ちは痛い程わかる。
「関係無くないよ。わたしは、今の言葉だけでもう満足だよ。本当に嬉しかった」
(わたしも結婚したいって、言いたい…)
でも、大好きな人が悩む姿を見たくは無かった。今のわたしと一緒にいても、ひろきは幸せになれない。10年前のひろきの気持ちがわかったような気がした。
しばらく無言が続いた…が、ひろきも納得したように二人は無言で抱きしめあった。そのときのひろきは、きっと泣いていたのだろう、少し震えているのが感じた。
その日…初めて二人は愛を確かめあった。わたしはずっとこうしたかった。ひろきも…長い間ずっと我慢してきたに違いない。二人の心も身体も一つになれた夜。
「ゆま…愛してるよ」
ひろきが耳元で囁く…
「やっと…やっとゆまと一つになれた。長かった…」
「わたしも…愛してる。ずっとこうしたかった」
わたしの目からきれいな一粒の涙がこぼれる…
何度も何度も互いに名前を呼び愛し合った。これで最後になるのかと思うくらい愛し合った。
その日は、10年前の夏祭りと同じ満天の星空だった。
別れ際、わたしは言った。
「もう一度だけ…もう一度だけ…言わせて」
「ひろき…愛してる」
「おれも、愛してる」
そしてまた、お互い離れたくないと言わんばかりに抱きしめたあった。
しばらくして、彼が結婚したと噂で聞いた。わたしはあの日のことをそっと心の奥にしまい、どうか幸せになってほしい…心からそう思った。ひろきのことはまた心の片隅にそっと閉まった。それからまた月日が流れた。
どれくらい年月がたったのか、忘れたことのない大好きな友達のことが頭をよぎる。突然のメールは迷惑かな、仕事頑張ってるかな、幸せかなと思ってしまう。
考えれば考えるほど、気になってしまう。思いきってメールしてみよう。
『おげんきしてますか?』
ドキドキしながらメールを送信した。気がつけば彼と出会ってから、すでに20年以上たっていた。それでも忘れたことは一度も無い。
するとひろきからすぐに返信がきた。
『げんきに頑張ってるよ! ゆまは、仕事頑張ってるかな?』
ひろきらしい返信だった。
『頑張ってるよ。久々だね』
こんなやり取りが何年も続いていた。バレンタイン、誕生日、なんでもない日。なんとなくメールをしていた。それだけでも、繋がっていることが嬉しい。
『片思いでいいから、好きでいさせて』
なんて、そんなメールもしていた。
『片思いじゃないよ』
『え? どうゆう意味?』
『そのままの意味だよ』
と、照れたようにひろきから返信がくる。
『今、電話できる?』
と、同時にひろきからの着信。
懐かしいひろきの声。
「久しぶり!」
「本当に久々だね。10年ぶりくらい?」
「そうだな。なんかドキドキするな」
と、笑ってひろきが言った。わたしも少し緊張していた。
ひろきも父親になっていたことや、仕事で生死をさまよったこと、お互いに会えなかったときの話をした。
最後にわたしが聞いた。
「今…幸せ?」
少し間があったようにも思ったが…
「う~ん。幸せ…なのかなぁ」
ひろきは曖昧に答えた。
「幸せなら、それでいいかな。よかった」
あの時の選択が間違っていなかったと思いたかった。
近いうちに会おうか、と話もでたが…それが叶う日は訪れることは無かった。
(ひろきが幸せならそれでいいかな)
(わたしはわたしの今を楽しもう)
お互いに好きな気持ちを心の奥に閉まっていた。そして、また別々な人生を歩み始めた。すでに、出会ってから30年が経とうとしていた。
時々、ひろきの夢を見ることがある。わたしはそれで満足をしていた。いつか迎えに来てくれるだろう、そんな思いを抱きながら目を閉じる。
それからまたさらに月日は流れた。突然、ひろきがわたしを呼ぶ声がする。
「ゆま!」
「ゆま、迎えに来たよ」
ひろきが目の前にいる。
「ひろき? どうして?」
わたしが答えた。
よく見ると、出会ったときのひろきが目の前にいる。
わたしも、あのときのわたしのままだ。ひろきがわたしを抱き寄せて言った。
「やっとゆまと会えた。さぁ、一緒に行こう」
「行こうって…どこに?」
「おれたちが結ばれてもいい世界に」
そして、ひろきが続けて言った。
「おれの命は残りわずかなんだ。最後くらいゆまと一緒に天国へ行きたかった。そして共に生まれ変わろう」
わたしはそこで気がついた。
わたしたちは、お互いを待ち続けてる間、すでに歳を重ねていた。
「いつの間にか、おばあちゃんとおじいちゃんになっていたんだね」
わたしも、自分の寿命が残りわずかだとこのとき感じていた。
「ひろきと一緒に行きたい」
「ゆま、大好きだよ。これからはずっと一緒だ」
「嬉しい」
寝ていたわたしの目から一粒の涙が溢れた。それは長年生きたわたしの最後の嬉し涙だった。ずっとひろきを待っていたわたしは、迷うことなく二人で天国へ旅立った。
この日の夜空もあのときと同じ、満天の星空だった。
そして…20XX年春。
桜がきれいに舞っている今日、とある専門学校で入学式が行われていた。駐車場に車を止めて歩きだす、どこか懐かしさを感じなから会場に入って行く一人の生徒。そして、受付を済ませ振り返ると、そこには初めて会う気がしない誰かと目があった。
きっとその日の夜空は…
満天の星空だったに違いない。
そんな不思議な運命を受け継いでまた新しい出会いが始まろうとしていた。
満天の星空の日に生まれたわたしは、そら。美しい空と書いて「美空」だ。
わたしのおばあちゃんのおばあちゃんは、お料理が得意の保育士だったとママが言っていた。そして叶わぬ恋をしていたとか…。
(その叶わぬ恋がどんな恋だったかはわからない。でも、わたしはそんな恋なんていや)
わたし「そら」は、18歳の高校生。まあまあ楽しい学校生活を送っている。近所のカフェでバイトを始めて3ヶ月目、10歳年上の店長に告られなんとなくお付き合いを始めた。
(店長のたすくと付き合ってはみたけど…ちょっと違うんだよなぁ…)
夏休みになった。バイトも遊びも充実させたいと思いながら、友達のりほとカラオケに来ていた。
「最近彼とはどうなの?」
りほからお決まりの質問をされる。
「まあ…なんとか」
「なにそれ?うまくいってないの?」
「そーゆーわけじゃないけど…ときめきが無いというか…ドキドキが無いというか」
「なるほどねー」
そしてりほが続ける。
「じゃさ、思いきって夏の思い出を作りに行こう。ひと夏の恋ってやつ!」
「ひと夏の恋かぁ…なんかいいね!行く行く」
「だったらまずは夏祭り!」
来週、地元でも有名な夏祭りが開催される。二人は夏祭りに向けて準備をすることにした。
(まずは…浴衣。そうそうバイトも休み取らなきゃ)
(たすくにバレないようにしないとな。ふふふ)
自宅に戻ったそらは、
「ママぁー!浴衣出しといて」
「あら、おかえりなさい。浴衣って…もしかして来週の夏祭りに行くの?」
「そうそう。りほと行く。だから浴衣着たーい」
「わかった。素敵な浴衣があるから用意しとく」
そう言ってママは浴衣を探しに行った。
そして、夏祭り当日。
「そら。浴衣の用意ができたよ」
と言って、ママは赤紫にひまわり柄の浴衣を見せてくれた。
「うわ、かわいい!」
「この浴衣はね、ママのおばあちゃんが作った大切な浴衣なのよ。そらに似合うと思って…」
「早く着たい着たい!」
そう言うと、さっそく着付けをしてもらった。ひいおばあちゃんが18歳のときに縫った浴衣は、そらにぴったりだった。
「すごく似合うよ!そら、かわいい」
「ほんとだ。かわいい」
「きっと、おばあちゃんも喜んでるね」
「そうだね。じゃ、そろそろ行くね」
「気をつけて行ってらっしゃい」
そらは、りほとの待ち合わせ場所に向かった。
まだ明るい昼間だというのに、町は行き交う人々で賑わっていた。待ち合わせ場所についたが、まだりほの姿は見えない。
(ちょっと時間早かったかなぁ…)
少し不安になりながら、りほが来る方向に歩き出した。すると、中央の広場でイベントが開催されていた。遠くから見ていると、係の人がこっちを見てる。
(なんだろう?)
(なんかこっち見ながら男の人が近付いてくる…)
係の男の人から声をかけられた。
「おねーさん、かわいいね!今、そこで出会い系のイベントやってるんだけど、出てくれないかな?」
どうやら頭数が足りないらしい。でも、りほと待ち合わせをしていたわたしは、断った。
「すみません、友達と約束があるんでごめんなさい!」
「じゃさ、友達も呼びなよ!さ、こっち来て」
無理やり腕を捕まれてしまった。
「えっと…あの…ほんとに無理です…」
それでも強引に会場のほうへ連れていかれてしまった。泣きそうになっていると、誰かの大きな手が無言でわたしの手を引いてその場から一緒に逃げ去ってくれたのだ。
(えっ!えっ…どうしよう)
イベント会場から離れたところまでいくと、わたしとその知らない誰かは立ち止まった。
とっさにお礼を言った。
「さっきは…ありがとうございました。怖くて動けなくなっちゃって…」
顔を見上げると、その知らない誰かはちょっと背が高くて、茶髪の、笑うとかわいらしい男の子だった。
「俺は全然大丈夫だよ!なんか、嫌そうに見えたからあの場から連れ出したかっただけ」
そう言って、まだ繋いだままの二人の手を目の前に出した。繋いだままのことを忘れていたそらは、きゅうに恥ずかしくなり手を離そうとした。
すると、彼は…
「ね、もう少しこのままでいい?」
そらは、軽くうなずいて言った。
「あの…。友達と待ち合わせしてるんです」
「じゃさ、待ち合わせ場所まで少し歩こう」
「はぃ」
そして、二人の会話は続いた。
「きみの名前聞いてもいい?俺の名前は、あおま」
「わたしは、そらです」
「そらちゃんかぁ、かわいい名前だね。そして、浴衣似合うよねー。まじかわいいよ」
「ありがとうございます!嬉しいです」
「ねね、敬語やめようよー。俺のこともあおまって、呼んで」
「えー…恥ずかしいなぁ。会ったばかりで呼び捨てなんてできないよー」
「いいっていいって。ねっ、そーら!」
「あは。恥ずかしいー」
そんな会話をしているうちに、待ち合わせ場所の近くまで来ていた。りほが待っているのが見えた。
「あ、友達来てるからこれでサヨナラです。今日はありがとうございました」
「そら。また会えるかな?連絡先交換したいな」
「うん」
二人は連絡先を登録してその日は別れた。
そして、りほと合流した。辺りはもう夕方になっていた。
「りほ、遅くなってごめーん」
「遅いから心配したよー。ん?なんかニヤニヤして、なんかあった?」
「ちょっと、ね! さ、お祭りお祭り!」
二人の夏休みは、まだ始まったばかり。
今日の夜空には、満天の星空が広がっていた。
次の日、目を覚ますと…あおまからメールが届いていた。
『昨日は楽しかったね。今日は何してるの?』
(あおまからだ。ちょっと嬉しいな)
わたしは午後からバイトだ。
(とりあえず返信、返信と…)
『おはよ。こちらこそ昨日はありがとう。今日はこれからバイトだよー。エトワールってカフェでバイトしてるよ』
と、返信した。
(さ、急いで準備して行かなきゃ…)
さっそくたすくに昨日の夏祭りのことを聞かれたが…あおまのことだけはなんとなく隠してしまった。
(あおまとは、ただの友達だし…)
わたしは、そう思うようにした。でも、やっぱり気になってしまう。たすくに悪いと思いながらも、あおまのことをずっと考えていた。
そんなそらを見て、たすくが言った。
「そら…なんかあった?いつものそらじゃない」
「べ、別になんにもないよー」
「もしかして、お祭りに俺が一緒に行けなかったことを怒ってる?」
「そんなことないよー。たすくがお店休めないの知ってるし」
「そうか。なら、いいんだけど…なにかあったらちゃんと言ってよ!」
「わかった。なんかごめんねー」
(たすく、まじでごめん)
(たすくに悪いし、あおまのことは忘れようかなぁ)
しばらくバイトが続いていた。たすくとは毎日会ってはいたが、特に何もない日々が過ぎて行った。
「ねね。夏休みだし、どっか遊び行きたーい」
「どこ行きたいの?行きたいとこある?」
「う~ん。水族館とか…遊園地とか」
「おっけ。どっちがいいの?」
「じゃあ…水族館!」
「決まり!今度の休みに行くか!」
「やったぁ」
(たすくとのデート、何着て行こうかなぁ…)
(水族館かぁ、楽しみだな…ルンルン)
そんなことを考えながらバイトをしていると、お店のドアが開きお客さんが入ってきた。
「いらっしゃいま…」
(え?)
そこにいたのは、あおまだった。
「待ち合わせなんですけど…」
と、店内を見回した。
「まだ来てないみたいなんで、待たせてもらっていいですか?」
「あ…、はぃ大丈夫です。こちらどうぞ」
そらは奥の座席に案内をした。
「こちらメニューになりますね」
と、メニューを手渡すとすかさずあおまの手がわたしの手に触れた。
(こいつぅ~わざとかな…)
少し動揺しながらも、お水を持って行くと…
「コーヒーお願いします」
「ありがとうございます。少しお待ち下さいね」
わたしの心は動揺していた。
(誰を待っているのかなぁ…彼女かなぁ)
結局、ドタキャンされたと言いあおまは帰って行った。本当に待ち合わせだったのか…。それからは気になって仕事どころではなくなってしまった。バイトが終わると、さっそくメールをした。
『今日はお店に来てくれてありがとう。よくわかったね!びっくりしちゃった』
すぐに返信が来た。
『ね、今から会えないかな?』
(え!?どうしよう。でも…会いたいかも…)
『わかった。じゃ、こないだ最後に別れた場所に今から行くね』
『やった!待ってるよ』
心臓の音が周りに聞こえるくらいドキドキしていた。
(なんだか嬉しい。わたしもまた会いたかった)
待ち合わせ場所に行くと、あおまが来ていた。わたしに気がついて手を降っている。
「本当に来てくれるとは思わなかった。ありがとう」
「わたしも…ちょっとだけまた会いたいって思ってた」
「ちょっとだけ?」
あおまが笑って言った。
「あはは。うん、ちょっとだけ」
「そっか、残念だなぁ」
「だって、彼女いないの?待ち合わせの相手は彼女だったんじゃない?」
「彼女?いないよ。いたらここにはこないし」
「え?じゃあ…待ち合わせは、お友達かな?」
「待ち合わせなんて嘘だよ。きみに会いに行った」
(え?え?)
言葉にならなかった。
「ど、どうして…?」
「どうしてって、会いたかったからに決まってる」
「ご、ごめん。動揺した」
「俺さ、こないだからずっとそらのこと気になってた」
「嬉しい…でも…」
「ごめん。迷惑だよね。友達でいいからさ」
「迷惑なんて思ってない。わたしもちょっと気になってたんだ。でも…」
「でも?」
「実は…彼氏がいる」
「そっかー。やっぱり彼氏いるのか…」
「うん。ごめんね」
「でもさ、友達としてなら、いいよね?」
「友達なら…いっか」
「やった!じゃあ、友達記念の…あ・く・しゅ」
と言って、あおまが手を出した。すかさず、わたしも手を出した。その瞬間手を引っ張られ…
二人は初めてのキスをしたー。
「ちゅっ!」
「…もぅ!友達って、言ったのにぃ…」
「ははは。そらは油断しすぎだよ」
(びっくりした、でも…いやじゃなかった)
それからいろんな話をした。実は同じ年だったとか、この場所が二人の自宅の真ん中あたりだとか…まだ進路も決めていないこと、こないだの夏祭りに彼女に振られてたことも話してくれた。
(だから夏祭りに一人でいたんだ…)
話していると時間はあっという間だった。夜空には満天の星空が広がっていた。
夏休みも半分くらいすぎた頃、たすくとの水族館デートに行くことになった。いつもお店で会っていたが、外で会うのは久々だった。あおまとは、あれからメールや電話で話すことは会ったが、会うことはなかった。
(今日はたすくと1日楽しもう!)
楽しい時間は短く、水族館デートは何事もなく終わってしまった。
「じゃ、またお店でね」
と、たすくは帰って行った。
(デートなのに、手も握らないのか…)
なんとなくあおまと比べてしまう。
夏休みも終わりに近付いて、卒業後の進路も考える日々が増えていった。あおまは、どうするんだろう?
会ったときに聞いてみようかな。
いつもの場所で二人は、会っていた。卒業後の話を聞いてみた。
「俺は…こう見えて料理が好きなんだよね。だから、資格を取るために進学するつもりだよ」
「そーなんだ。料理かぁ…」
「そらは?進路どーするの?」
「まだ全然考えてなーい」
「今の彼氏と結婚しちゃったりしてー」
「ないないない!」
「なんで?うまくいってないの?」
「そーゆーわけじゃないんだけどねー」
その場はうまくごまかした。
夏休みも終わり、卒業にむけての学校生活が始まった。周りの友達も、どんどん進路が決まっていった。
りほはとりあえず、フリーターらしい。やりたいことが決まらないと言っていた。
(わたしは…どうしよう)
高校生の間だけと約束したバイトも、辞める日が近付いてきた。あおまとの連絡も取るのをやめていた。ゆっくり一人で考えたかった。そして、わたしが出した答えは、バイトを辞めるのと同時にたすくと別れた。
そして、卒業式を迎えた。進学をすると決め、高校生活に別れを告げた。
4月。桜が舞う学校の駐車場に、そらは立っていた。また新しい学校生活が始まる。
(桜がきれいだな。気のせいかなぁ、なんか前にもこんな風景を見たことあるような…)
校舎に入り、入学式が行われるホールに向かった。そして、受付を済ませ振り返ると…
そこにいたのはあおまだった。
「え!あおま…同じ学校だったんだ」
「そら、なんでここに?」
ゆっくり話す時間も無く、無事に入学式を終えた二人は、桜の舞う木の下にいた。
「ずっと連絡くれないから、心配してたんだぞ」
あおまは淋しそうに言った。
「ごめん。一人でいろいろ考えてたんだ」
「嫌われたかと思った」
「そんなことない。この学校に行けば、あおまともっと一緒にいられると思った」
「嬉しいよ。俺もすごくそらに会いたかった」
「わたしね、あのときの彼氏とも別れた」
「そか」
「…うん」
二人は、そのまま桜の花が舞う音だけを聞いていた。静かでやさしいその音をどれくらい聞いていただろうか。すると…あおまが呟いた。
「俺ね、初めてこの学校に来てから、ここが懐かしいような感じがする。なんか変だよね」
「え、わたしも…なんとなくだけどそんな気がしてた」
「ま、いっか。明日から一緒に頑張ろうな!」
「うんうん。なんだか楽しみだな」
(まさか本当に一緒の学校だったなんて)
(ワクワクしちゃって、なんだか眠れないなー)
(あれ。これってもしかして、好きなのかな?)
そして、わたしは夢を見ていた。やさしく見守るような満月の光が照らす先に…若い男の人と女の人が見つめ合っていた。それはまるで、今日のあおまとそらのようだった。
ピピッ、ピピッ、ピピッ…時計がなった。急いで止めると起き上がった。
(不思議な夢だったなぁ)
そらは、準備をして学校に向かった。教室に入ると、あおまが来ていた。
「おはよ。早いね」
「そらに会いたくて急いで来たんだぞ」
笑ってあおまが言った。教室を見渡すと、他にも生徒が来ていた。
「やっぱり女子が多いんだね。あおま、一匹狼だね」
「まじかー。俺はそんなキャラじゃないけどなぁ」
「いいじゃん、いいじゃん。かわいい子いるかもよ」
「俺は、そらがいればそれでいいよ」
「あは。恥ずかしいなぁ、もぅ」
あおまとは少し席が離れているが、右斜め後ろを見るとあおまが見える位置だった。そして、新しく女の子の友達もできた。少し控えめなりおと元気いっぱいのるいだ。これから楽しい学校生活が始まろうとしていた。
学校の授業が終わり、帰る準備をしているとあおまが話しかけてきた。
「お疲れー。時間あるならたまには外で話しよ!」
「おっけ。じゃあ、また桜の木の下で待ってて」
「わかった。先に行ってるよ」
と言ってあおまは教室から出て行った。
(二人でゆっくり話すのは久々だなぁ)
(あれ。なんか前にもこんなことあった…?)
桜の木の下に行くと、あおまが空を見上げていた。
「俺さ、こうやって空を見上げると不思議な気持ちになるんだよな」
「わたしも…わたしの場合、空っていうか月とか星とかが気になっちゃう。そうそう、今朝の夢がなんだか不思議な夢で。満月の下に男の人と女の人がいた」
「え!俺も見た。俺の夢は満月の下で二人が抱き合ってた」
「うそー!同じような夢!?」
「しかも場所は、この辺りだったと思う」
「なんだろうね。幸せな恋人同士の夢ならいっか」
「ねぇ、そら?」
「なぁに?」
「俺も、そんなふうに幸せな恋人同士になりたい」
「え?」
「オレと付き合ってください!」
「うん!」
あおまはそらをやさしく抱き寄せた。そして、そっとキスをした。辺りはすっかり暗くなっていた。
見上げると、満月の光が二人を照らしていた。それは愛する二人を祝福するような満月の光だった。
《…やっと出逢えたね…また出逢えたんだね》
《…よかったね…よかったね…長かったね》
満月の光は、きっとそう囁いていただろう。
『生まれ変わったら…結婚したいな』
『そうだね』
ゆまとひろきの気持ちが、数十年の時を超えて叶えられたのかもしれない。そして、その答えは…ずっと輝き続ける満月だけが知っているーー。