第32話・魔王の話2
兵士たちは街を囲む用に進軍する。古来より伝わる包囲の形だ。
こうなってしまえば、援軍無しには通常再起不能。戦術的な勝利形態の1つと言えよう。
「水路の制御も取ったね。無論川を今からせき止めたりとかは無理だけど。あとは普通なら時間により補給が切れて勝てる」
オリンポスが普通の戦術だねと、言いながら笑うが、その目は笑っていなかった。
エイジもその事に気がついた用で。
「んで、普通じゃない事って何だよ?」
「んー、1つはボリビルの事かな、あいつが何をしでかすのかわかんない。後、魔王の力これも具体的な話はわかんない」
「未確定な事が2つもあると。今の有利がどうなってもおかしくないな」
俺は、オリンポスの言葉に感心する。
「で、もう1つ。僕たちが読める起死回生の手段がある。それが……」
たくさんの鳥が一斉に羽音を立てた。
「元フクロウ傘下の航空部隊の生き残りたち。つまり空戦戦力による打開ってわけ」
オリンポスの言葉に、メイランは驚きの声を上げる。
「あいつら数は多いからー、ドラゴンは絶対負けないけど、少し取り逃がしちゃうー」
「こうなると相手の食料が尽きるのを待つ戦略は、ちょっとリスクがあるんだよね」
オリンポスは少し考えながら相手の動きを予測しようとしているようだ。
「航空戦力によってこちらの補給線を脅かされたり、相手が空から補給を行う可能性もあるし……」
「なんか策はねぇのか?」
オリンポスに対する期待の現れだったが、俺は、その言葉に反応する。
「聖剣の新しいカスタム機能を使おうと思う。赤の聖剣、その特性は殲滅。広範囲に広がる赤い光は1発の威力こそ低いけど、数多の敵を焼き尽くす」
「おお、かっけー範囲攻撃か!」
エイジは自分の事のように俺の新しい力を喜んだ。
ただ、この能力は……
1撃で多くの命を奪うこととなる。
「……それを軸に作戦を立ててみようか」
オリンポスは目を閉じて、少しだけ悩んだ。俺の心情も策に入れて考えてるんだろう。
「味方を巻き込むから、敵軍だけに畳み掛けたい」
魔王軍は完全な悪ではない。
相手の兵士とはいえ、これは成功すれば一方的な殺戮になる。それは俺が受け持つべきエゴだ。
「つまり追い込み漁かー」
メイランはドラゴンを使って、鳥人達を集める手順をオリンポスと確認し始める。
そういえば、最初タカレ山脈でココが見せた雪なだれ、あの時のココの表情を思い出す。
あの時は何も思っていなかった強い力への責任。俺もその重圧に凹むかもしれない。でも、あの時のココの様に立ち上がって前を向く、そう考えると気分が楽になった気がした。
「覚悟、決めた様だな」
俺の肩を叩くエイジ。
「覚悟、とは違うかな。あの時のココに負けてられないって思っただけだよ」
そんな事を話していると、メイランと作戦会議をしていたオリンポスが声を上げる。
「大筋は決まった。アゾアラスに作戦の認可取って来るよ」
さあ、戦略開始だ。
◆◆◆
なぜだ、なぜこうなった。いや敗因はわかっている。ボリビルだ。
ヤツのめちゃくちゃな能力に振り回された結果、我々は……
「そう、ですか?」
っち、結局この魔王も、何もしなかった。比較するでもないが、結局こいつもボリビルと同類。
「人外と言う意味なら、その通りでしょうか。クロウはどう思います?」
スッと現れる諜報部隊の長、キャプテン・C・クロウ
「私に聞かれても困りますなぁ。結局魔王軍は魔王の力に期待し過ぎていた。そして、魔王のカウンターである勇者についてあまりにも調査不足だった」
クロウは饒舌に我が軍の失敗を分析している。いつの間にか私でなく魔王に忠誠を誓っているようだった。
「ボリビルは勇者の覚醒によって目覚め、魔王組織を弱体化させる一種のカウンターなのでしょう」
つまり、魔王のカウンターとして勇者が存在し、そのギミックの1つとして、ボリビルが存在する……
「敷いて言えば、なぜ敗北者として運命づけられている魔王軍などと名乗ったのでしょうか」
魔王は疑問を挺した。
魔王とは魔族の伝承にある人間に対抗する魔の王。魔族をまとめ上げる為の旗印としてちょうど良かった。
そして、魔王の再臨により衰退していっている世界を救う。そして、その統治者として君臨すること、それが目的……
「魔族の王ですか。それは認識が違います。かつて魔王亡き後、人間達は自身に不都合な種族を差別し始めました」
魔王の言葉には、当時の事を苦々しく思うような語り口だった。
「それこそが魔族と呼ばれる、人と共存できない種族達です。魔王と関連付ける事で敵としてラベリングされただけ」
我らは、踊らされていた、だけ、なのか……
「鳥人は魔族ではありません。人間と鳥人は棲み分けが可能ですから、エルフやドワーフ、獣人などの種族は人間と共存ができた」
魔王の言葉は我らの深層に突き刺さる。
「逆に雪女や、ラミアなど人に極端に頼る種族、オーガ等人肉を食らう種族、ゴブリンなどの知性が低く共存不可能な種族、そういった者たちはまとめて魔族と呼ばれるに過ぎないのです」
そして、我が種族も人間を支配したいと言う欲求を抑えられない魔族の性を持つ。
「なら、魔王とは、何なのだ?」
我は魔王に問いかける。
歴史の裏側の覗き見をするような行為だが、この際そんな事はどうでも良い。
「……世界の死。その具現化ですね。世界が完全に発展出来なくなった時、その幕を下ろす役割を持つ物」
「はっ!」
魔王は饒舌に、恋い焦がれる少女のように語りだす。
「魔族も、人間も正の力を帯びます。しかし魔王は負の力を帯びる。人によって打開できぬ化け物です」
「故に、世界を発展に魔王を活用させるには、魔王の復活だけでは足りないのですよ」
「勇者の完成度次第ではこの世界は大きなダメージを負うでしょう。故にロイドとの相対を私は望みます。私達が世界を滅ぼすか世界を救うかはその相対による」
つまり、我らがした事が世界を救うのか、それとも滅ぼすのか、それは我々ではなく勇者にかかっていると……
確かに、勇者についての調査が足りなかったと言われても仕方ない。
「我が先に、勇者と相対する。魔王軍の幹部としての矜持を賭けて」
覚悟は決まった。負け戦としても最後まで将の責任は取るつもりだ。
◆◆◆
「じゃあ、策を発表するよ。鳥人を街の上空に集めて、赤の聖剣でまとめて撃ち落とす。同時に、チョレスの砲撃で崩れた城壁から勇者パーティを侵入させ、魔王の所まで突入って流れだ」
オリンポスは号令をかけた。これは……結構な急戦だな。
「範囲攻撃があるってわかったら確実にロイドが狙われる。そうなるとロイドが進軍するのが難しくなるからね、なら市街戦の乱戦に持ち込んだ方が勝率は高いんだよ」
「確かに、ロイドでなければ魔王を倒すことは叶いません。これは戦闘力と言うより、世の理によるものです」
オリンポスの言葉にサナエルが肯定を示した。
俺は号令を出す。あの雪山の時と同じように。
「作戦名:火竜の陣作戦、発令だ」




