第24話・魔女の話3
「戦略ぅ〜、戦術ぅ〜、戦型ぃ〜、戦法ぉ〜……」(ガクリ)
「オリンポスが……完全に燃え尽きてるな。何かあったのか?」
「ああ、ナルメシアの“特訓”がキツかったみたいで……」
「それは災難だったな」
「うーん……やっぱり駄目だ。相手の出方がわからないと、何も浮かばないよ……」(むくり)
「おっ、生き返った!」
「やるじゃん、以外とタフだな」 と、エイジがオリンポスの回復力に驚く。
「いろいろ考えたんだけどさ、たぶん魔王軍は、僕たちの知らない“何か”を軸に動いてる。だから、こっちが盤面をいくら見ても意味がないんだよ。相手の“勝利条件”自体、僕たちには見えてない。でもナルメシアはそれじゃ満足しなくてさ」
「つまり、俺たちがその“条件”を突き止めない限り、相手の戦略も見えてこないってことか」
「最後のは完全に愚痴だけどな」
「……まぁ、ここまで考えても出てこないってことは、それだけ情報が隠されてるってことだよ。たぶん“魔王の復活”絡みだとは思うんだけど……」
「ま、分からないって分かっただけでも一歩前進ってヤツじゃねぇか?」
「うぅ……それにしても、あのシゴキの時間を思い出すと、報われた気がしないんだよ……はぁ……」
……
「むー、やっぱりお尻が痛いよー。トラックとかガッシャーンで来ちゃ駄目だったの?」 ラトが拗ねたように呟いた。彼女は子供用のピンクのパーティドレスに身を包み、普段より少しオシャレに見える。
「奪われたら厄介だからな。割といい馬車ではあるけど……トラック慣れしてると、これじゃ物足りねぇな」 エイジもため息まじりに同意する。
「ドレスって可愛いよね〜」 メイランは鮮やかな赤のドレスをひらひらさせながらご満悦。ちょっと浮いてるのは、馬車の揺れが苦手な証拠だ。
「私も来ちゃって良かったのかしら?」 クルックさんは控えめに呟くが、黄色いドレスがよく似合っていて、つい見とれてしまう。
「うち、男所帯だからね。華やかさを足そうって話になって、戦える女の子たちに声をかけたんだ」 とオリンポスが説明を添える。
「ドレスアップ〜!って感じかな!」 元気いっぱいに叫ぶのはナルメシアの弟子・ヒナタ。今日は珍しく黒っぽいドレスで、ちょっと大人っぽい。
「お師匠様から、皆さんをお守りするよう言われています」 落ち着いた声でそう告げるのはヒカケさん。白と赤を基調にした和装ドレスは、まるで巫女のようで神秘的だ。
「あはは、賑やかになったな」 つい、そんな言葉が口から漏れた。
「……ちょっと緊張してる?」 横にいたオリンポスが、俺の顔を覗き込みながらニヤリとする。
「まあね……でも、ココに会ったら何を話せばいいのか……手紙のこととか、かな」
俺がそう呟くと、隣のオリンポスが小さく笑った。
「あー、あの矢文作戦のやつか。結局、何を書いたんだっけ?」
「ナルメシアに頼んでココを人間にできるかって話とか、あの後どんなことがあったのか……あと、俺の気持ち。全部言葉にしてみた」
「なるほど。うん、動揺してるココさんの顔が想像できるよ」
そのとき、突然後ろからヒナタの声が飛んできた。
「えー!? それって恋バナじゃない? 教えて教えて!」
「おぉ〜!詳しく聞かせてくださいっ!」 妙にテンション高いヒカケ。普段はもうちょっと静かな子だった気がするが……?
「ちょ、ヒナタさん、ヒカケさん、近いって!」 ぐいぐい詰め寄られて、さすがに対応しきれない。
「ロイド、ハーレム……?」 メイランが真顔で聞いてきて、返答に困る。ボケか本気か判断がつかない。
「ないない。そういうのじゃないから! 俺はココ一筋だっての!」
そう叫ぶと、どこかからクスクスと笑い声が聞こえた。クルックさんだった。
「ふふっ、いいじゃない。そのまっすぐなとこ、素敵よ」
「よかったね、ロイド。緊張、ちょっとはほぐれたみたい」 ラトが微笑んで、そう言った。
気づけば、ずいぶんと肩の力が抜けていた。
……
「盲点だった……まさか“魔王”が感情を糧にする存在だったとはな」
幹部らしき男が静かに呟いた。
「はい。より良い成長を促すには、強い感情を持つ“贄”が不可欠――なかなかに厄介な育成方法です」
白衣の研究者が資料を見ながら応じる。
「……で、ココの状態はどうだ? 彼女には、より強い“供物”を生み出してもらわなければならん」
「現在は安定しています。ですが……今回のパーティを前に、期待と不安が入り混じった、揺れる感情が見られます」
研究者は淡々と告げた。
「ふふ……実に結構。彼女の“揺れ”こそ、魔王再臨の灯火だ。ロイドという勇者の動向も含め、逃さず観測し続けろ」
……
「きゃー、素敵な場所じゃない」
クルックさんが黄色い声をあげた。
「ふむ……屋敷をまるごとダンスホールに改装してある。逃走経路も考えておかないと。」
オリンポスは冷静に周囲を見渡し、戦場になった際の備えを確認している。
「皆さま、お待ちしておりました。どうぞ中へ」
出迎えたのは――まさかのキャプテン・C・クロウだった。
「おいおい、なんで執事役がクロウなんだよ」
と、エイジが思わず突っ込む。
「はは、魔王軍も人手不足でして。貴族対応の礼儀を心得ているのは、我ら偵察部隊しかおりませんでしたので」
とクロウは軽く笑って返す。
「納得できるけど、なんか裏がありそうで信用できねぇ……」
エイジは警戒を緩めない。
「こちらが何か動けば、即座に奇襲部隊で対処って算段だろうね」
オリンポスが鋭く読み取る。
「めんどくさーい」
とメイランが気怠げに呟く。
「できれば、あまり波風は立ててほしくありませんが……」
クロウが涼しい顔で笑ったそのとき――
「姫様、予定より少しお早いようですが。」
「……ココ!」
「ロイドさん……」
青いドレスをまとい、そこに立っていたのは、俺が何度も夢に見た彼女――ココだった。
……
「おお、感情数値が急激に上昇……臨界値を超えました!」
「すぐに魔王本陣へ連絡を。ついに――魔王の再臨だ」
……
「お元気そうですね……」
「うん、君こそ、体調は平気?」
「……少し、良くなりました。ロイドさんに、会えたから……」
……
「あー、見てらんねぇっての!」
エイジが大げさに頭を抱える。
「ロイド君、もっと攻めていきなさいよ~! キスよキス! 今しかないでしょ!」
クルックさんがワイン片手にテンションMAX。
「彼氏かぁ……うちのお父さん、許してくれるかなー」
メイランは未来の恋愛に思いを馳せている。
「出歯亀な空気、好きだねみんな」
と、オリンポスは呆れ半分、苦笑いしながら腕を組む。
「青春ってやつだねぇ。いやぁ、いい眺めだ」
ソレナリフは肘をつきながら他人事のように楽しんでいた。
……
「……ダンスの曲が流れてる。ココ、1曲、踊ってくれないかな?」
俺が手を差し出すと、ココは目を伏せて小さく答えた。
「……私、田舎者ですから……こういうの慣れてなくて」
「大丈夫、僕がエスコートするよ。任せて」 こういう時こそ、少しでも格好つけたい。貴族の勉強は苦手だったけど、ダンスはそれなりに練習したからな。
「……はい」
控えめな返事とともに、彼女の手が俺の掌に重なった。
……




