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第20話・竜騎士の話4


「ちょっと間が空いちゃったけど、これでドラゴンも揃ったし、いよいよ“竜騎士”が作れそうだね」

オリンポスが目を輝かせながらそう言った。


しかし、その熱に水を差すように、メイランがズバリと切り込んでくる。


「ところでさー、なんで人を乗せるの?」


「えっ……いや、それは……ほら、人が乗ってた方が便利でしょ? 細かい道具とか持てるし……」

オリンポスが戸惑いながら答える。


「魔法でなんとかなるよー」

あっさり返された。


「えっと……じゃあ、意思疎通? 人間部隊との連携しやすいとか……」


「ドラゴン、普通に喋るけど?」


「……うーん、じゃあ、単純に戦力倍増的な? 二人分の火力に――」


「人乗せたら重くなって遅くなるし、普通に単体の方が強いよー」


「えーっと……エイジ、なんかフォローしてくれない?」


エイジは腕を組みながら、ひと言。


「あー……ロマン、だな」


「……なるほど。ロマンか」

ようやく納得したように、オリンポスが小さく頷いた。


「てっきり、何か実用的な理由が必要だと思ってたけど……人が乗らなくてもいいんだ……」 論戦に敗れたオリンポスが、肩をすくめて小さく笑った。


「じゃあ、ドラゴン部隊の運用はメイランに任せるか。俺たちじゃ戦い方までわからないし」


「うん。いずれマニュアルを作って全体に共有したいけど……今は経験者に頼るのが一番だね」


「えー? いつもは“せんりゃくー”って言ってるのに、今回はないのー?」

メイランが口を尖らせて不満を漏らす。


「空での戦いには、僕たちも慣れてないからね。だけど空軍戦力さえ整えば、敵も補給線への攻撃を諦めるはず。あ……これがエイジの言ってた“制空権”ってやつか」

オリンポスが納得したように頷いた。


「よくわかんないやー。それって、分かってないと駄目なやつ?」

メイランが首をかしげる。


「ううん、そんなに難しく考えなくていいよ。基本は“相手を追っ払う”。それができれば、空の戦いでは十分なんだ」


「ふむふむ、とりあえず追っ払うだけなら……できそう!」


「最初から難しく考えても仕方ない。慣れない戦いこそ、シンプルな方がいいんだ」


「でも、ほんとにそれでいいのー?」

初めて部隊を任される不安が、メイランの声に滲んでいた。


「初めてだからこそ、まずは安全第一。現場の判断は、メイランに任せる。僕らはそれを支えるよ」


「うん、分かったー!」


ドラゴンと共に空を飛ぶ戦いが、いま始まろうとしていた――。


……


「よーし、今回の敵についておさらいしようか」

とソレナリフが口を開く。魔王軍に詳しい彼が、今回のブリーフィング担当だ。


「今回、補給線を脅かしてるのは――鳥人系魔族の“フクロウ”で間違いないと思うよぉ」


「理由は?」

オリンポスがすかさず問いかける。証拠が曖昧では、戦略全体が崩れかねない。


「ふふ、いい質問だね。まず、襲撃の“数”と“頻度”だ。キャプテン・C・クロウの部隊なら、精鋭16人しかいないから、ここまで広範囲に継続的な攻撃はできないんだよ」


「それに、補給部隊って言っても一応武装はしてるでしょ?無傷で回収が基本のクロウ部隊が、そんなリスクある任務を請けるとは考えにくいしね」


ソレナリフの冷静な分析に、オリンポスも納得するように頷いた。


「OK、じゃあ“対フクロウ”に的を絞って作戦を練っていこう」


切り替えの早さが、オリンポスの強みだ。


「さて、フクロウの特徴だけど――」

ソレナリフが続ける。


「まず、対補給線攻撃に長けてる。羽音がしないからステルス性が高く、接近戦でも強い。そして……夜間戦闘も得意だね」


「うーん、夜戦か……竜も人間も暗闇は苦手だからなあ」

オリンポスが腕を組んで考え込む。


「でも、その点はそこまで気にしなくても良いかも」

と、ソレナリフが意外なことを言った。


「どういう意味?」


「単純だよ。僕たちが補給部隊を動かすのって、基本“昼間”でしょ?だからフクロウたちも昼に動かざるをえないわけ。夜は補給基地に見張りもいるし、実際に被害は出てない」


「なるほど。つまり彼らは“強行突破”よりも、確実性を重視する慎重派ってことか」

オリンポスの目が鋭くなる。


「そう。移動中の方が隙が多いしね。狙いやすいって判断してるんだろうねぇ」


敵の性格までも読み解いた上で、次なる作戦の輪郭が見え始めていた――。



「ただねぇ、たぶん相手に“コウモリ系”の鳥人が混ざってるんじゃないかって思ってるんだよ」

ソレナリフが腕を組みながら推察する。


「それがどう影響するんだ?」


「コウモリの耳は異常にいいんだ。音や振動に敏感だから、伏兵とか、隠れて待ち伏せる戦法が通じにくいんだよねぇ」


「なるほど。確証はないけど、可能性は高いってわけだね」

オリンポスが頷く。


「だったら、伏せて待つよりも、高速で仕掛ける“突撃型の奇襲”の方が効果的かもしれない」

そしてメイランに視線を向ける。


「メイランちゃん、聞いてた? そういう戦い方、できそう?」


「んー……話がむずかしーい」

と、メイランはぽやんとした顔で首をかしげる。やっぱりな。


「じゃあ、こう考えてみて。ごはん食べ終わって油断してる獲物を、一気に捕まえるイメージ。狩りと一緒だよ」


「わかったー。それなら得意だよー。狩りはドラゴン村の得意分野だからねっ」


「つまり、補給部隊を襲った直後――逃げに入った瞬間を狙うってことだな」


「うん、動き出した瞬間が一番隙あるもんねー。多分いけるよー」


「……空軍としてはイレギュラーだけど、戦術としては理にかなってるかもな」

オリンポスがまとめるように言った。


「それとね、補給部隊自体にも対空砲を積んでおくのはどうかな。逃げる敵を撃ち落とせるかもしれないよぉ」

ソレナリフが新たな提案を口にした。


「それ、味方に当たると痛いやつだから、いらなーい」

と、メイランが即座に却下。


「うん……それは確かに、ドラゴン部隊ごと撃ち抜く可能性あるね」

オリンポスも苦笑しながら頷く。


「まぁ、多少ドラゴン部隊頼みになってるけど、味方を誤射するよりはマシか」

現場の判断を優先する形になった。


「やっぱり、こういうのは実戦経験者の意見が大事だねぇ」

ソレナリフは頷きながら、懐から小さなケーキを取り出す。


「はい、メイランちゃん、ごほうびケーキをどうぞ」


「わーい!ありがとー」

メイランは素直に喜び、ケーキを頬張った。


「今回の戦略、やっぱりメイランたちドラゴン部隊が鍵を握ることになりそうだね。ただ、もうひと工夫くらい加えたい。何か案あるかな?」

と、オリンポスが全体を見ながら追加策を求める。


「うーん……待機場所が欲しい!」

とメイランが手を挙げて訴えた。


「なるほど。つまり“空港”だな」

エイジがさらっと異世界用語を放り込む。


「また出た、異世界用語……まあ、なんとなく意味はわかるけど」

オリンポスは苦笑しながらも納得した様子。


「くうこう? 何それー?」


「飛んでる乗り物が離着陸するための広い場所だ。要するに、ドラゴン達が安全に飛び立てる広場だな」

エイジがメイランに分かりやすく説明する。


「なるほどなるほど。じゃあ、とりあえず広い場所が必要ってことね!」


「うん、戦略としてもその“空港”は要だ。拠点の確保、急がないと」

ソレナリフがすぐに実務面を考え始めた。


「最低限、どのくらいの広さが必要か一度試してみた方がいいかも。条件が分かれば、候補地も広がるしね」

と、オリンポスは実験によるデータ収集を提案する。


俺たちは今、空を制するために、地上からその準備を着実に進めている――。






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