痛いの痛いの飛んでいけ
前回のあらすじ
自身のドラゴンを壊され、リチュを許さないと憤るクイーン。魔法を使うことのできない彼女は、科学の力でリチュを倒そうとするが、リチュに投げられてしまい、壺の下敷きとなったのだった。
※最初はジョーカー視点です
「笑ってんじゃねぇよ。俺は諦めねぇ。お前の思い通りになると思うなよ!!」
彼は剣を私に向けた。血まみれになって、こちらを睨む少年。私は彼を見て笑っているらしい。まるで悪魔のようじゃないか。
「(は!? 私は道化師。ピエロだぞ?笑わないでどうする。)」
自身のなかで、私自身が、私に語りかけてくる。
「(緊張していても、失敗しても、例えば少女を殺したとしても、笑っていなきゃあいけない。笑顔を届けるはずの道化師が、笑顔じゃないなんてありえない!!)」
しかし、笑顔というものはこんなにも口角が下がり、目尻が濡れるものだったろうか。
まぁ、いい。彼には笑って見えているのだから。
彼は、雄叫びを上げながら、こちらに向かって走ってくる。
ああ。このまま、待っていれば、彼は私を裁いてくれるだろうか。彼は、この無限に続く地獄から、解放させてくれるだろうか。
「ああ。早く君を殺さなくちゃ。」
そんな言葉が、私の口からこぼれる。私の声で、私の意図してないはずの言葉を、語る。
最早、私の本心は何なんだろうか。ああ。また、頭の中で声がする。
「(彼を殺せ!それこそ、悪魔の生きる意味だ!)」
「(そんなことより、笑っていろ。それこそ道化師の仕事だろう。)」
「(このまま、裁きを受け入れろ。それこそ罪人の義務であろう。)」
どれに従えばいい。何が正解だ?
彼を殺す?そんなことは間違っている。
ただ笑っていろ?他にすることがあるだろう。
裁きを受け入れろ?元より、死ぬことは、罰になるのか?この生き地獄こそが、私の罰ではないのか?
しかし、それでは、また多くの子供が、私の手で殺される。
分からない。何も分からない。何一つ分からないからこそ!
私は空中へと飛ぶ。
私の主人格がそうしたのではない。悪魔の人格が勝手に動いた。
私の主人格はもう、何も決定できない。何かをすることに臆病になりすぎている。
あの日。荷物の置き場所を決めたのは私だ。別の場所にしていれば、リチュは潰されそうにならなかったのではないだろうか?
あの時。他のお客さんの相手をしていて、目を放していたのも私だ。あの時、彼女を見ていれば起きなかった事ではないだろうか。
悪魔の契約を持ち掛けられたあの時、悪魔になる決断をしたのも私だ。助けようと勢いよく、彼女に近付いたのも、私だ。そのせいで彼女は死んだんだ。
村の人達も、仲間達も、私に責任がないと言った。
『あれは、事故だったんだ』と、『予測が付くものじゃなかった』と。
何を言っている。私の責任だ。私のせいだ。
私が選ぶ道は間違っている。誤っている。だから、私は道を選ばない。選べない。
「がぁ!!」
少年の叫び声に、私の意識は、目の前の光景に移る。
少年は、私の『私は道を間違えた』によって、体がボロボロになっていた。
ああ。つらい。この体を止めたい。しかし、それは正しい道なのだろうか?今まで、止めれずして、彼の為だけに止めたら、私が裁きを受け入れたら、それは、今まで犠牲になった者に対する侮辱なのではないか?
今まで、犠牲になった子達は、私を恨んでいるはず、憎んでいるはずだ。それを、私の身勝手で裁きを受け入れるなど、彼らの恨みをどぶに捨てているようなものではないのか?
このまま、悪魔にすべての選択を任せ、苦しみながら、生きたいと願いながら、死ぬことこそ、彼らへの贖罪になるのではないか?
「(ああ。そうだ!そうだとも!だから、私の邪魔をするな!もうすぐ。もうすぐ奴は死ぬのだから!!)」
声がする。悪魔の声が。
ああ。私はまた道を誤ったのか?やはり止めるべきだったのだろうか。
目の前で、今にも死にそうになっている少年を見ながら、私は何兆回になるかも分からない後悔をする。
「(だから、言っただろう?何もかも忘れて、ただ笑っていればいい。)」
「(さっさと裁きを受け入れないから。罪が増えるのだ。)」
数多の私が、身勝手な事を言いまくる。自由で、自分勝手な事を。
なら、私も、自分勝手でいいのではないか?
「終わりにしましょう!君達の人生のフィナーレだ!『絶命的少女救出劇』!!」
私の体が燃え盛る。熱い。苦しい。
奴が。悪魔が、私達の人格を奪うために生み出した炎。そんな炎に身を包まれ、私の体は、少年へと向かう。
少年の顔が恐怖に歪む。その瞬間。
させるもんか!
私は身勝手にも、私の体を止めた。
きっと、この選択は間違っている。私は再び道を誤っている。
だから、なんだ!知ったことか!もう疲れた。どれを選んでも間違いだらけ。ならいっそ、私がしたいことをする!
「(ふざけるな!お前が言っていたんだろう!こんな事、贖罪にもなんにもなんねぇぞ!)」
悪魔が、私を怒鳴りつける。知ることかよ。
私は、悪魔に向かって笑った。久しぶりに、心の底から。
比喩などでは無く、本当に心で笑った。
贖罪はできない。けれど、犠牲者をこれ以上増やさないことは出来るだろう?
そして、私は少年に意識を戻す。少年は驚きながらも、私を殺そうと、剣を構える。
「ふざけるな!もう少しで、あの子供を殺せたのに!私はまだ、血が、肉が、絶望が必要だと言うのに!」
悪魔の叫びなど、私の口から発せられることもなく、彼に届くことは無い。
そしてついに、私の首は、刎ねられた。
──────────
ジョーカーさんの首が飛ぶ。宙を舞い、地面に落ちる。
そして、残された体も、地面に落ちて行った。
私は、今にも倒れそうな、ガキンさんに向かって走り出した。
そして、私が、彼の元にたどり着くと、彼は安心したかのように、倒れしまう。
私は、彼が地面に倒れないように、体で支えながら、『痛いの痛いの飛んでいけ』を彼にかける。
キズ―さんも私達の方へと走ってきて、ボロボロの姿のガキンさんを見て、涙を浮かべながら、怒っていた。
「ガキン!! 君はいつもそうやって無茶ばかりして!!」
そんな、キズ―さんを見て、ガキンさんは、「ダチの為なら、無茶もする。それが、勇者ってもんだろ?」と笑顔を見せた。
そんな、ガキンさんに、キズ―さんは「まったく、もう!」とため息をついた後、「でも、ありがとう。」と笑った。
私達は完全に、安心しきっていた。
しかし、まだ、危険は終わっていたなかった。
「ハハハハハ!」
私達はその笑い声に驚いて、声のする方を見る。
するとそこには、羽をもった、ジョーカーさんの頭部が飛んでいた。
「何が贖罪だ!何が犠牲者を増やさないだ!何もかもが無駄なんだよ!悪魔が死ぬには絶望するしかない!しかし、悪魔は絶望などしない!完全に悪魔になった私が、死ぬことは無いんだよ!
お前の選択は、全て無駄、無意味!」
ジョーカーさんはそんな、よく分からないことを叫んだかと思うと、こちらに向かって突撃してきた。
「危ない!!」
私は、ガキンさんとキズ―さんを守るように、覆う。
ジョーカーさんはそんな、私をすれ違いざまに、嚙み切る。
「さぁ、死ね!絶望し、絶命しろ!!」
彼は、私を何度も何度も、噛み切ってくる。
その痛みに、耐えながらも、私は小さな違和感を感じた。
「彼は泣いているようです。」
私の言葉に、ガキンさんとキズ―さんは驚いている。
私だって、驚いている。
今、襲ってきているのは、完全に敵意を持った悪魔。
しかし、よく分からないが、なんとなく、彼の心が泣いているように感じた。
何故だろうか。彼の言葉からか、それとも雰囲気から?
とにかく泣いていて、謝罪しているように感じる。
私は、改めて、彼を見る。
こちらを嘲笑っていた彼の目には涙が見られた。
嘲笑っていた?そういえば、頭部だけになった彼は、確かに私達を嘲笑っていた。正確には、私達以外の誰かの事も嘲笑っているような発言はあったが。問題はそこではない。
今までの、彼の笑い声には、何の感情もなく感じた。
どう表現すればいいのか。人間味が無かった。
それが、今はどうだろうか。完全に人を馬鹿にしているような、そんな感情が私にも伝わってくる。
それは何故?
そういえば、彼は先程、『完全に悪魔になった』と言っていた。
彼は、おそらく、というか絶対、スペードさんが言っていたピエロだ。つまり、元々は人間だった。
そして、悪魔になった。けれど、完全に、心までは悪くなれず、無感情だったのか?それが、今、完全に悪魔に心まで支配されている状況?
いや。完全ではないのかも。
だって、だとしたら、涙を流さないだろう。
彼の心のどこかには、まだ、人間の、優しかった時の心が残っているはず。
なら、死なない悪魔は攻撃するより、彼自身を呼び戻す方がいいのかもしれない。
「お2人とも、ちょっとここで、伏せていてください。」
私はそう言うと、ガキンさん達から離れ、悪魔に向かって、両手を広げて叫んだ。
「さぁ!かかってきなさい!!」
「ほう?いい覚悟じゃないか!なら、お前から殺してやるさ!青髪の女
!!」
悪魔は私に向かってそう言うと、歯をカチカチと鳴らして、こちらへと飛んでくる。
私は、その光景を見て、とてつもなく逃げ出したい気持ちになった。
怖い!逃げ出したい!けれど、彼を止めなければ、みんな死んでしまう!
そう。生きる為。生きる為に…なんて、かしこぶるのは辞めよう。
正直、本当に、それで彼が止められるかどうかなんて分からない。ただ、私はあの涙を見たとき、助けたいって思っただけ。
私は、私を心配して私の名前を叫ぶガキンさんとキズ―さんを見る。
私は最初から、そうだった。とっとと、逃げればいいのに。敵わないなら隠れればいいのに。それでも、悲しそうにしている彼らを見捨てられない。助けたいって思ってしまう。その結果、自分の身が危うくなっても。
正直、動物として、最大の欠点だと思っている。あの時彼らを助けたことを、振り返っても、自分は馬鹿だなって思うし、今似たようなことをしている自分にも、馬鹿だなって思っている。
それでも、なんでかな。これで良かったって思てしまう。
もしかしたら、どこかで別の選択をしていたら、泣いている子を見捨てたり、むしろ自分が生きるために、殺してたりするのかな。
そんなことになった自分を想像してみる。
長生きしそうだな。動物として何1つ間違ってないと思う。けれど…
それって、『生きてる』って言えるのかな?感情もなく、ただただ生存するために行動する。何かが違う気がする。
やっぱり、命だけじゃなくて、心も生きていたい。
一緒に笑って、一緒に泣いて、困っていたら助けて、もし、そのせいで自分の身が危険に冒されても。そっちの方が、『生きてる』って思える。
人間の村に言って、人間の技術を学んで、それを使って生きていく生存戦略。それによって、犠牲になったスライムがいる事は、今でもとても後悔している。でも、それでも人間達と、ガキンさんやキズ―さん。リードさんにリズさん、タンクさん。孤児院の職員さんに子供達。彼らと一緒に暮らさなかったら、きっと、私は彼の涙に、笑い声の変化に気付かなかった。それで、もし、1人の人間を救えるとしたら、間違ってなかったのかもって思える。
長く、語ったけど、結局。
私はただ彼を助けたい!
私は、胸を張って、笑顔をジョーカーさんに見せた。
一瞬、彼の悪魔のような笑みが崩れた気がした。
彼は、私の胸に向かって突撃してきた。私の胸は食いちぎられ、青い液体がどくどくと流れ出た。
それでも私は、彼の頭を抱きしめた。
頭を撫でた。
私は知っている。人間はこれをされるのが好きだ。安心して、落ち着くらしい。泣いている子にこれをすると、泣き止んでくれる。
「痛いの痛いの飛んでいけ。」
その言葉は、私が無意識に放っていた。
彼の涙を見て、無意識に。
「辛かったんですね。苦しかったんですね。その心の痛み、飛んでいけ。どこかの誰かにではなく、絶対に誰にも当たらないぐらいに遠くに。」
私の言葉を聞いた、彼は、嗚咽するように叫んだ。
「リチュ!すまなかった!すまなかった!どうか、私を許してくれ!」
彼の言う。リチュは、きっと私ではない。スペードさんが言っていた、観客の少女の事だろう。
私の事を、彼女だと勘違いしているのだろうか。
名前だけではなく、容姿も似ているのかな?
なら、彼を救うには、彼女になりきらないと。でも、彼女の事は分からないから、スペードさんから聞いた13歳程の少女のイメージから適当に。
「許すよ。だって、貴方は、私を助けようとしたのだから。」
私の言葉に彼は、「ありがとう。」とのこし、泣き止んで目をつむった。
悪魔は、死なないって言うから、きっと眠ってしまったんだろう。
スペードさんが言うには、14年。そんなスライムじゃ到底過ごせないような時間彼の心は泣いていたんだろう。
泣き疲れて当然だ。
「リチュ姉。」「リチュお姉さん。」
ガキンさんとキズ―さんがこちらに向かってきた。
「やっと、終わったのか?」
ガキンさんがそう言った。
私はそれに対して、「はい。きっと。」と返した。
「そっか。リチュ姉。怪我は大丈夫なのか?」
ガキンさんのその質問を聞いて、私はあることを思い出し、ジョーカーさんの頭をそっと、地面に置き、そして…。
「(痛い痛い痛い痛い痛い!!)」
ものすっごく暴れ回った。
噛みちぎられた場所が物凄く痛い。いや、まじで、なんで、今まで大丈夫だったのか分からないほど痛い。人間の言葉なんて、出す余裕はない。それどころか、人間の姿になっている余裕もない。
「リチュお姉さん落ち着いて!回復魔法あるでしょ!」
キズ―さんのその言葉を聞き、私は、自分に『痛いの痛いの飛んでいけ』をかけて、傷を癒した。
──────────
3人の傷を癒してから、建物の外へと私達は出た。
すると、どこからともなく、ナイトバード達が私の頭と、肩の上にとまった。
チュンチュさんは、私達に向かって、喜びの歌を歌い。ウィングさんは、私に向かって頭を擦ってきた。ヘッドさんだけは、建物の右側をずっと見ていた。
しかし、そこから、何かが出てくることもなかったので、私達は『ヒューマ』の村へと帰って行く。
帰る途中、ガキンさんが思い出したかのように言った。
「そういえば、俺。キズ―に言いたいことがあったんだ。」
そう言われた、キズ―さんは、彼の方を見て、「何?」と聞いた。
ガキンさんは照れるように、「あのさ、俺…。」と言った。
そして、彼はつづけた。
「お前に言われた通りに、イーシャに告ってみたよ。そしてら、『付き合ってもいいよ。』だってさ!!」
彼は、とても嬉しそうに、彼女にそう言った。
それを聞いた、キズ―さんは、驚いた表情の後、少しうつむいたかと思うと、満面の笑みで、彼に言った。
「おめでとう!! 大切な友達に彼女が出来て、僕も嬉しいよ…。」
私は、彼女の言葉にちょっとした違和感を感じた。だけど、なんでだろうか。その理由が分からなかった。
その後も、私達は話しては、笑いながら、『ヒューマ』の村へと帰って行った。
スライムさんの生存戦略
共存END
『この作品はこれで終わりになります。ここまで読んでいただき、感謝します。』




