ヴィーガンの勇者パーティーに所属していたオレ、『裏で肉食う偽ヴィーガン』なことが発覚して追放されたけど、今日も変わらず肉が美味い
「今日も変わらず肉が美味い……ッ!」
オレはその日も、いつもと同じ店でバーガーを食っていた。
街の中心部から少し離れた所の路地にあるこの店、ここのチーズバーガーがたまらなく絶品なのである。
不思議な事に、今日の客はオレ1人しかいないけど。
「いやあ、ジェイさんはいつも豪快に美味しそうに食べてくれるの、作ってる側としては最高ですね〜」
カウンターから姿を見せる銀髪ロングの美少女こそが──この店の店主である、ミーナだ。
自分で言うのはアレだが、常連客であるオレは彼女に顔を覚えられている。
「いやいや、オレに言わせて貰えば──こんな最高の料理を作ってくれるミーナさんの方が最高ですよ」
「いやいや、それほどでも〜」
本当に冗談抜きで、最高だ。
マジで。
自分がヴィーガンパーティーに所属していることを忘れてしまうぐらいには、最高すぎ───、
「ここか! 肉規制条例が出たにもかかわらず、未だに肉を提供している大罪人のいる店は!!」
……る、はずだった。
それは本当に唐突である。
いきなり扉が開かれた。
バンと、勢いよく、大きな音を立てて。
そしてソレは、聞き覚えのある声でもあった。
「勇者さ……ま……ですか」
「ああ、だが今は肉規制委員会代表としてだ。それよりも……お前がこの店の店主か?」
低く威圧感のある声で店の境界線をくぐり抜ける男──ワカメみたいな髪型で銀髪のスラっとした体型の男。
勇者である。
「は、はい」
「お前は今日から大罪人だ。逃げることは許さない」
勇者のオーラに怖気付き、若干だが後退りの体制になるミーナを──彼は見逃さない。
腰にかけていた剣に手を掛ける。
これはマズい。
あまりにも修羅場すぎる。
コイツはただの勇者ではない。
ヴィーガンをこの世界に広め、肉を規制し、反するものは罰する肉規制委員会を作った張本人なのである。
それが直接、肉屋にお出まし。
「っくそ」
このままだとミーナが危ない、
オレは椅子から立ち上がって、ミーナの目の前に立った。
「……ジェイ? 何故お前がここにいる」
勇者に立ちはだかるように──勇者パーティー所属『ジェイ・キリエ』は前を向く。
「……」
「む、その香り───」
彼は顔色を変えず、動揺した素振りを見せることさえなく言った。
「食べてたのか? 勇者パーティーであるお前が───肉を。裏で肉を食う、偽のヴィーガンだったと?」
「そうだと言ったら?」
「ここでお前を永遠に追放する。そして勇者の大権を行使し、貴様を切り刻み、命を絶やす」
「ははっ」
笑えてくる。
ヴィーガンなんて言ってくる癖に、命をあまりにも軽く見る発言だ。
「何故笑う?」
「自分で察せよ」
とまあ、そんな風に強がってみるけれど。
しかし実際のところ、オレは見栄を張れるほどの装備を今していない──というか丸腰である。
つまり、本当にまずい。
肉は美味いのに、この状況は変わらず不味い。
「「……」」
訪れる緊迫感、静寂が叫ぶ。
ここからの行動が、次の命運を分ける。
「ミーナさん! 逃げろ!」
オレは彼女に叫ぶようにそう告げたあと、勇者を蹴飛ばした。
流石の勇者だな。
肉を食っているオレの瞬発力には敵わなかったようで、そのまま一瞬だがよろける。
刹那、
「ジェイさん……────」
ミーナがオレに耳打ちし、
そして背後から駆けていった。
「ちっ、貴様!」
勇者は迷わず剣を抜き、周りにいた兵士──たぶん、肉規制委員会のメンバーだろう──も同じ。
……ともかく、今のことに専念するんだ。
逃げ切ってやるよ、絶対に。
「肉食のフィジカル見せてやるよ!」
入り口は勇者たちに囲まれている。
だからオレは素早くテーブルに飛び乗り、そのまま飛び蹴りをするような形で窓ガラスを破り、店の外へ。
マジでごめん、ミーナさん!
「ジェイ!」
背後から声が聞こえる。
「魔法師がいなくて助かったぜ……拘束魔法とか洒落にならないしな」
外に出た──はいいものの、ここは街の辺境。
人気は少ない。
人影に潜むことは不可能だ。
さて、どうする。
しかし、その答えは決まっていた。
ここは路地裏である。
つまり真っ直ぐ路地を進まない限り、逃げ切れる。路地裏ってのは大体の場合、複雑なのだ。
それがセオリーなのだ。
「この勝負、貰ったぜ!」
右へ、次はまっすぐ、次は左へ、左へ、右へ。
この迷路を逃げ回り、着実に彼らとの距離を離していく。
声は後ろへ、だんだんと後方へ伸びていく。
順調だった。
だが、
「しまっ……!?」
路地裏は複雑だ──だからこそ、あんなもう一つのセオリーが存在している。
そう。
『袋小路』。
「まじかよ……っ」
離れていた筈の声が着実に近付いてくる。
勇者周りの奴らが探知魔法を使った時点でバレるだろう。
時間は限られている。
かといって、引き返すほどの時間も余裕もない。
どうする。
辺りを見渡す。
何もない。
一面壁だらけだ。
つーか、壁しかない。
本気でマズい。
だが、何もなかった。
袋小路。
入り口に、勇者たちが立つ。
人数にして二十人ほどだろうか。
「くそ!」
オレは全員に取り囲まれ、そのまま押し倒され。
後ろ手に拘束される。
「……オレに一手間かかせるとは、流石は勇者が率いるパーティーメンバーなだけはあるか?」
「? そりゃどーも……オメーみてぇなヴィーガン勇者に言われても、なんも嬉しくねぇ褒め言葉だ」
半ば諦観。
この人数をどかすなんて、どうやっても無理だ。
……つーか、
ミーナさんは無事に逃げれたのだろうか。
……。
…………。
…………………。
………………待てよ。
そう言えば、彼女が去り際に何か言っていたよな。
確か、
『路地裏には秘密の地下水路があります、そこまできてください。肉……が……』
そこでタイムアップ。
彼女はかけていってしまった。
そうか。
もしソレが肉だったとしたら?
大罪とやらがバレてしまったオレに、最後の晩餐として肉料理を振る舞ってくれたり?
するのではないだろうか。
それはあまりにも──都合が良すぎる思考だ。
でも、そう考えなきゃやれない。
やってられない。
つーか肉ばっか食ってる脳筋のオレに、そこまで考えられてぇよ。
冴え渡りすぎて、無駄な思考なんていらないから。
「───まだ頑張るしかねぇ!」
持てる全ての力を使い、何の策略もなく、オレを拘束する15人を……上へと吹き飛ばし立ち上がる!
「やはりお前は悪だ……ここで消す」
勇者は剣を抜く。
だが、思い切りオレは勇者の頭上を飛び越え!
「俺が止めます!」
「俺がやる!」
「僕が!」
残っていた数人が飛びかかってくるものの──、
「おらぁ!」
押し倒し、跳ね除ける。
そのまま、無我夢中に突き進んだ。
◇
随分と走ったはずなのに、終わりが見えない路地裏。本当に冗談抜きで迷路みたいだ。
あの店の常連で、ここには慣れている筈だったのだが……深くまで入ると、こんな事になるのか。
勇者の声は聞こえない。
かなり遠くにいるのだろう。
「にしても、ねぇよなぁ地下水路」
嘆息する。
そして、ゆっくりと腰を下ろした。
緑で、屋根があるタイプのデカいゴミ箱にだ。
「……え?」
しかし座る感触はなく、尻からオレはゴミ箱へとのめり込んでいて……は?
「うわあぉあ!?」
そのまま下へと落下してしまった。
ゴミ箱の下ってなんだよ。
空洞なんて聞いてないし、もしかしてそのままゴミを燃やすところ?
「あっ! ジェイさん! 無事だったんですね!」
「あ、あれ?」
そこは……あのゴミ箱から繋がっていた場所は……暗い空洞がずっと広がっている、そう、地下水路であった。
落ちた先に、すぐ隣にミーナさんがいる事が何よりの証拠である。
「ミーナさん?」
「ジェイさん! 無事だったようで何よりです!」
「え?」
彼女が抱きついてくる。
うお……っ。
ここで言うのはお門違いかもしれないが、ミーナはかなりの巨乳である。
立派なものをお持ちなのだ。
だから、流石のオレもドキドキすふっ。
……心の中なのに、緊張しすぎてかんだ!
「ま、まあ、何とか逃げ切れました。でもいずれ追ってくるかと……」
「でもでも、またこうして再び会えたのは奇跡ってもんですよ!」
「確かにそうっスネ」
「それで、ジェイさん! 良い匂い、しませんか?」
「ぁえ?」
言われてみれば、まあ、うん、たしかに。
「この地下水路は特別生でしてね──普通の水路じゃないんです! 肉規制が始まってから私と肉好きな皆んなでこっそり作り上げた、秘密基地なんですよ!」
「なるほど?」
「だから、肉料理を作る準備はありますし、見かけが水路ってだけで、衛生面も完備してます! それにそれに──!」
「あの、ミーナさん」
「はい?」
それは確かに滅茶苦茶嬉しい事なのだけれど、でも。
「そのみんなってのは?」
この基地を作るためにミーナと協力した人たちは、一体どこへ行ってしまったのだろう。
「あ……、あの人たちはみんな、勇者様に捕まってしまいました。私はただ運良く生き残ってただけなんです……」
「…………」
「私がバレるのも時間の問題でした。そのことを言わないで、ごめんなさい。ジェイさん。貴方をとんでも無いことに巻き込んでしまいました……」
「いやいや、ミーナさんは何も悪くないですよ」
なるほど。
察するべきだった。
空気は重い。
「じ、時間もないですし。さっそく料理をしますね!」
コチラです、と。
彼女は水路の壁に見せかけた扉を開けて見せてくれる。その中には厨房やダイニングテーブルなどが用意されており、しっかりとライトが何個もあり、光も行き届いていた。
……あぁ、くそ。
これから肉を食べるっていうのに、どうも気持ちが浮かない。
なんでだよ。
その理由が明白なのが余計に腹がたつ。
それはそう。
これが最後の晩餐になるだろうから。
それだけ、である。
それは、もはや決まっていることだ。
それでも、今日のお肉も変わらず美味いことだらう。
もはや決まっていることだ。
◇
沢山の肉料理が出てきた。
ミートボール、ハンバーガー、ステーキ、ハンバーグ、ローストビーフ、丸焼き、手羽先。
オレはそれをミーナと2人で、ただ無心に食べ続けていた。
やはり相変わらず肉は美味しい。
「美味しい……」
「良かったです」
彼女はにっこりと笑う。
でもそれは虚栄の笑みだ。さっき見た、あの幸せな笑みとはまるで違う。
嫌になってくる。
「ミーナさん」
「どうしました?」
「どうして世界は肉を規制したんでしょうね……」
「さあ。公表されている理由は『動物が可哀想』『肉は人を悪魔にさせる』とか、ですよね」
頷く。
それらは全部、勇者が言い始めたことである。
オレたちは強くなきゃいけないのに。
勇者は筋肉を選ばなかった。
動物とは言っても──魔獣だ。
魔獣は放置さえすれば数は増え、人を殺す。
魔獣を殺すことが絶対的な善なんてのは言えないけれど、しかし殺さないことは善なのだろうか?
「ミーナさん、おかしいと思いませんか?」
オレは言葉を続ける。
「人間同士で争っている暇なんてないのに、こんなことをしている間にも国の辺境では魔獣に食い殺されている人間もいるのに、なんで」
それどころではないのに、
「人を殺す魔獣の命を守るのに人間は命をかけて、
人間同士で殺し合っているのだろうか──ですか? それも人間を代表する勇者陣営同士で」
俺の言葉をミーナが紡いだ。
全くもってその通り。
そのはずなのに。
おかしいのはオレたちなのだろうか?
「はい」
「まあ……私は、おかしいと思います。確かに魔獣を殺すことは……命を奪うことは悪いことかもしれない。でも殺さなきゃやられる、生活も出来ない──そもそもたとえ、そんな思考いったとしても」
至ったとしても、
「それを、肉を必要とする戦士たちにも強制させているのはおかしいと思います──自分から弱くなるなんて、魔獣に殺されろってことじゃないですか」
「本当にその通りだよ……」
でも、嘆いたところで何も変わらない。
オレは手羽先を手に取り、口に入れる。
美味い。
「こんなのまるで──魔王にわざと負ける為に勇者が仕組んでいるようにしか思えねぇよ」
「そうですよね……」
「…………」
再び手羽先を手に取った、その時である。
ふと、ある事に気がついた。
───魔王にわざと負ける?
───戦士に肉を食わせないことで、弱体化。
───思えば勇者のセリフには、違和感があった。
『オレに一手間かかせるとは、流石は勇者が率いるパーティーメンバーなだけはあるか?』
"違和感"。
オレに一手間かかせる。
流石は勇者が率いる……。
まるで自分は勇者ではないかのような物言いである。
だが奴はまさしく、勇者の見た目だった筈───いやでも、それがもし偽物だとしたら?
まさか……。
「なあ、ミーナ」
「は、はい。なんですか?」
「もしかすると今の勇者は、この国を侵略するために勇者に変装している魔王って可能性はないのか──?」
「……あっ」
その台詞を口にした、
それが運命の境目。
分水嶺。
「正解だ、流石は勇者パーティーの1人なだけはあるか」
唐突に後ろから声が聞こえ、
オレが背後へと振り返った瞬間には──既に魔王が振り下ろし、俺の額へ衝突していた。
手に持ってきた手羽先が、地面に落ちる。
「きゃあああああぁぁぁぁぁあああ!?」
ミーナの叫び声が地下通路にこだました。
◇
わたし、ミーナは見てしまった。
その瞬間を。
『今の勇者は魔王の変装』。
彼がそう言った瞬間である。
ジェイの背後が霧がかり、それがヒトの形となったのを。
先ほども見た、ワカメ銀髪の男。
その男は両手に禍々しく黒い大剣を握りしめて、振り上げていた。
あ、ここで終わる。
そう思った。
ガン、と音が鳴って彼が椅子から崩れ落ちた。
「きゃぁぁぁあああ!?」
信じられない。
瞼を閉じ、両手で耳を塞ぐ。
私は別に殴られても蹴られても、大剣で頭蓋骨を割られてもいないけど、椅子から崩れ落ちて、自分では聞こえないぐらいに大きな声で叫んだ。
泣き叫んだ。
「勇者は殺した。他の逃げた勇者の仲間どもも捕まえて、牢に入れた。反乱分子はもう反乱できない。───コイツも、もう死んだ」
鼓膜が裂けるほどの絶叫なのに、コイツの声はエコーとして脳内に直接響いてくる。
うるさい。
うるさい。うるさい。
うるさい。うるさい。うるさい。
うるさい。うるさい。うるさい。
うるさい。うるさい。うるさい。
「もう、誰も俺を殺すことは出来ない。───オレがこの世界を取る」
「お前も終わりだ。肉屋の女」
怖くて目は開けなかった。
何でこんな事になってしまったのだろう。
私は何もしてないのに。
ただ彼の笑顔が見たくて、最高の料理を提供していただけなのに。
どうしてこんな事に。
本当に最悪だ。
あぁ、こんなんなら、いっそ……言っとけばよかったなあ。
「あはは……」
私は最後に、
微かに笑った気がする。
だって────、
◇
「痛ってぇ……、マジで死ぬかと思った」
多分、頭からは血が出ている気がする。
痛すぎて何も痛くない。
オレはゆっくりと立ち上がって、目の前にいる魔王を睨んだ。
「……なぜ生きている?」
声も容貌も、勇者そのまんま。
ワカメ銀髪の男だ。
だが、よく見てみれば確かに違う。
溢れ出るオーラも、人格も。
「さあな、どうしてだと思うよ」
地下水路の中で。
薄暗い部屋の中で、こじんまりとした声で問う。
これが勇者と魔王の最終決戦の地だとは、到底考えられない。
「……勇者の意志を継いだなどと、笑わせるわけじゃなかろう?」
「ハッ、ちげぇよ。正解は……」
オレは落としちまった手羽先を拾って、大事に口に咥える。
勿体ねぇからな。
「今日も肉が美味いから、それだけだ。肉があれば──オレはいつだって無敵だ。でも、まだ死ぬに食い足りねーんだよ!」
「……くだらん、実にくだらん!!」
「くだらなくて結構だよ、それがオレたち人間ってわけだ」
右手拳を強く握りしめる。
正面堂々、正々堂々だ。
「こいよ」
「この脳筋が! 心臓を無数に持つオレに対し、拳一つだと!? 笑わせるな!」
魔王はオレに向けて、再び大剣を天へあげて振り下ろす。
ソレよりも先に。
───疾く。
懐へ潜り、男の腹へ向けて全力の拳をぶつける。
もういいだろ。
勝負は長かった。
───最後の戦いは、一撃で全て決まる。
「……っ!?」
「じゃあな魔王」
不思議と確信があった。
あれだけ苦戦した魔王をこの一撃で倒すことができると。
この拳には、死んだ仲間たちの想いと、目の前で涙を流すミーナの想いと、胃袋に入った肉の重みがのっているから……!!
「馬鹿な」
「……ご馳走様でしたッ」
刹那。
魔王はオレの拳で、全ての心臓を失った。
胴には大きな穴が空いていて、
「…………ァ」
大剣はその場に落ちる。
魔王の体は粉になって、霧散していった。
どうやら人類は勝利したらしい。
っと、急に頭がくらくらしてきた。
まずい。
このままだと、気絶しちま……。
◇
「いらっしゃいませー」
客が入ってくる。
父母娘の3人家族だった。
「今日はご馳走だぞー、お肉なんて」
「やったー!」
魔王は死んだ。
あれから数週間後、勇者が死んだことが公表され、民衆は深く悲しんだ。
俺もその1人である。
それから。
逃走の際に色々と店を壊してしまったのもあり、ミーナの店は移転することになった。
なんと、街のど真ん中にである。
勇者が魔王の偽物であることが発覚してから、肉規制委員会は自然に解散した。
メンバーは魔王によって催眠魔術をかけられており、異常性に気付かなかったそうだ。
……とはいっても、魔王がいない今、その考え方も一つ正しいのかもしれないが。
ともかくだ。
肉に対する規制がなくなった事により、ミーナは街のど真ん中に店を構えることが出来た。
数年経って、この店は大繁盛も大繁盛の大人気店に成長を遂げた。
なにせ超可愛い銀髪美少女のミーナが店主であり、肉屋の"看板男"として──オレ、魔王を肉の力で倒した伝説の男であるジェイ・キリエが抜擢されているのだ。
そりゃ売れるに決まっている。
カウンターで繁盛する店の中を、見つめていると。
「ジェイ」
ミーナが話しかけてきた。
「どうした、ミーナ」
「さっき、お腹の子がね。お腹を蹴ったの! あなたに似て力強かったよ〜」
「そりゃ魔王を拳で倒した男と、その男が元気を出す為の肉を作っていた女の子だからな、そりゃわんぱくだよな」
「良い子に育つと良いね〜、うー、反抗期とか心配だよ……」
「っはは! まだまだ先だよ」
カウンターの外で。
さっきの来店した親子が頼んでいたチーズバーガーが届く。
父親と母親の微笑ましい笑みに包まれながら、女の子は嬉しそうに頬張る。
チーズをちょっと口につけた状態で、
「お肉美味しい!」
女の子はそう言った。
そうさ、いつだって変わらない。
辛い時も、寂しい時も、幸せな時も、どんな時も。
そして今日も。
今日も変わらず肉が美味いのだ。
およそ半年ぶりに『小説家になろう』で小説を書きました。筆を持ったのも同じく半年ぶりぐらいです。
どうだったでしょうか。
かなり挑戦的な作品に仕上がっていると思います。
人間の思想、特にヴィーガンをメインにした対立、人の思想を逆手に取った対立を下手ながら、僭越ながら描かせていただきました。
でも終わり方は流石にアッサリさせすぎた気がします笑
もし面白かった、感動したと思った方は下の『☆☆☆☆☆』から評価、ブックマークしてくださると幸いです。