第一話「桃流」
プロトタイプ版になります、それでも良いという方は読んでいただければ励みになります...!!
――何でこんなことになったんだ……?
少年は地面に倒れ、血を流し、意識を失いかけている。
「(トオル!トオル……!ト……ル!ト……)」
僕を呼ぶ声が遠くに聞こえる……僕はもう死ぬのか……村が燃えている……ああ、父さん……意識が………………
―――――――
昔々、桃から生まれた桃太郎は、仲間の犬、猿、キジと鬼ヶ島に向かい、鬼を倒した。
……そう思われたのも束の間だった。
桃太郎一行が鬼ヶ島での勝利を収めた幾つか後、私たちは鬼の報復により惨敗することになる。私たちは鬼の軍勢を大きく見誤っていた。私たちは無知だった、鬼ヶ島のさらに奥にあった、強大な鬼の大国の存在を知らずにいたのだ。敗戦後、桃太郎一行は鬼の国で投獄され、その後彼らの姿を見た者は誰一人として居なかった。それから月日が経ち……
――桃太郎の時代から、一千年後。
現在、『桃太郎』という題名で書かれたこの文献は、ここで焼き切れて読めなくなっている。桃太郎に関する重要な書物は、一千年前に鬼にそのほとんどを焼き尽くされたからだ。だから、今残っているのは桃太郎の『むかしむかし、あるところに……』から始まる口頭の伝承だけだった。
僕は、村を一望できる場所で、その文献を読んでいた。
ふと村を見渡してみる。春が来て桜で満たされた木々、稲を育てるための棚田、その奥に広がる澄んだ海、木造の民家と、村の人たちの賑わい。いつもの故郷の景色……
「あ、透!またここで本読んでる!!」誰かが「透」という僕の名前を呼んだ
「あ、こずえ……おはよう」
「おはよー!」
――彼女は幼馴染のこずえ。イヌの獣人であり、黄橙色の毛並みやぴょこぴょこと大きな耳が跳ね、尻尾をくるりと巻いている。
「今日は、何読んでるの?」こずえが聞く
「家にあったんだけど、大昔の本……だと思う」
「へぇー!どんなの?」こずえは、ぱちくりと目を見開いてその本をのぞいてくる、距離が近い……
「えっと……桃太郎一行が鬼ヶ島の戦いをした時のことだね」
「おー!うちも寺子屋で教えてもらった!」
「おお、そうなんだ」
「……面白い?」
「面白いな、この本では鬼のことを悪く書かれてるけど。この時代じゃ鬼と僕たち、人、犬、猿、キジの種族は共存し始めてるでしょ?」
「確かに!!こんな田舎でも、たまに鬼を見かけるもんね。」
「うん、時代だなぁ……と思って。」
「そうだねぇ……!」
「良くも悪くも、桃太郎が世界を変えてしまった。だからこそ彼は今も伝説として語り継がれてるんだなって。」
「なるほどなぁ……」
――桜の花びらが春風と共に通り抜けていく
「ちょっと気になってたこと……聞いてもいい?」ミミをパタパタさせながらこずえが言う
「……?うん」
『あの、透はさ「村の外へ出てはいけない」って言われてるんだよね?』
「それは……父さんにキツく言われてるな。僕が昔、街に行く途中の森でヒグマに襲われて、死にかけたからって言ってたけど……」
「けど……?」
「僕は、襲われた時のことを覚えてないんだよな。ショックで記憶が飛んだんだってお父さんは言うけど。今でもその日のことは思い出せなくて……。なんとも……」
「でも、やっぱりおかしいよ!村のみんなは外に出てるのに、透だけ外にでちゃダメなんて!」
「うーん……」
「いつも外の世界を知ろうと勉強してるのに!!」
「んー……」
「ねぇ透!うちが村の外に連れて行ってあげる!!」
「!!だめだよ、もしバレたらこずえが怒られちゃう……」
「うちは怒られてもいいよ!!」
「……!!」
「うち、透に本の中だけじゃない、広い外の世界を見せてあげたいの!!」
「!!!」
「透は一緒に行きたくないの?」
「……行きたい……僕も、外の世界を見に行きたい!」
「じゃあ……!」
「ちょっとだけ街を見て、早めに帰れば大丈夫だと思う……!」
「わかった!」
こずえは透に正面から向き合って手を差し伸ばした。「透……、行こう!!」
透はこずえの輝いた瞳を見る。「うんっ……!!」そうしてその手を取った。
――隣街に向かって森を進み、息を切らしながらこずえとトオルは走った。
「ねぇ!ほんとに大丈夫かな!?」
「大丈夫だよ!透も街を見たいでしょ!?」
「見たい……!」
「外の世界はね!すごいんだよ!色んな場所があって!」
「うん……!!」
「ヒトとイヌだけじゃない!他にも色んな種族がいるんだ!」
「僕も会ってみたい!!」
「あ、もうすぐ森を抜けるよ!!!」
――草木を抜け、視界が開ける!
「うわぁ……!」
少し高い位置から、隣街の風景を見渡せた。大通りには質屋に八百屋など様々なお店が並んでおり、街の真ん中には浅い川が流れ、遠くには壮観な山々がそびえていた。何よりも自分の村ではみた事のないような、大量の行商人や種族の多様さに圧倒される。
「やばいでしょ!」
「やばい……!」
「よし、いこいこ!!足もと気をつけて!」
「うん!っと、うわっ!」
森から隣街へ下るまでの道はあまり整備されておらず、透は転んでしまった。
「透!!!大丈夫!?」
「いてて……だ、大丈夫……」
「ホントに?ちょっと見せてみて!」
透のひざを見てみると、擦りむいていた。
「ああー……!キズが……」
「別にこのくらい大したことないよ」
「いやいや!」
「ほっといたらすぐ治るって!」
「えぇー……?」
「そんなことはいいから、早く行こうよ!あそこに見える赤いのれんのお店は?」
「えっと……あそこは吉田茶屋、お団子が人気なお店だよ」
――ちょうどお昼時を過ぎた頃で、団子屋の店主は外で座ってぼーっとしているようだった。
「オジサーン!」
「んぁ?」
「吉田おじさーん!こんにちわー!」とこずえの声。
「おお、こずえ……」と茶屋のおじさん。
「きびだんごください!!」
「カネは持ってきてんのか?」
「ツケといて!!」
「いやツケねぇよ!!……そいつは?」
「この子は幼馴染の、透!」
「あ、こんにちわ……」
「おう、こんにちわ。あんまこっちにはきてないよな?」と気になった様子で茶屋のおじさんが聞く。
「そう、ですね……」トオルは少し気まずそうに言った。
「なんでだ?」
「えっと……」
「……?」
こずえが話を変えるように言う「まあまあ!そんなこといいじゃん!はいお金!うちがお団子奢ってあげるね!」
「え、それは悪いよ!」トオルは遠慮する。
「良いって!だってさ……うちの方がお姉さんだし!」
「いや、うーん……」こずえの方が少し生まれが早いってだけで、二人とも十五歳なんだけど……
「今日は外に出た記念日ってことで!」
「そんなにいうなら……」
「うん!じゃあ中入ろう!」こずえがトオルを押してのれんをくぐっていく
中はそこまで広くはなく、こじんまりとしていた。左手に長椅子があり、そのすぐ横に座敷の席があるだけだった。座敷の席は、驚いたことに五人の鬼が占拠しており、中にはひょうたんでお酒を飲んでいるものもいた。
(おお……!こんなに近くで鬼を見るのは初めてだ……!ツノや牙があって、ガタイがよくて、混じり気ない赤色の肌で……すごい、本で読んだ通りだ……!)
「あっ……!」透は鬼の一人と目が合ってしまい、咄嗟に顔を逸らした。
(やばい……見てたのバレたかな……)
「ん?透、どうかしたの?」
「いや、なんでもない!」
「……そう?じゃあ椅子座ろっか」
「う、うん!」二人で空いていた長椅子に座るが、いかんせん鬼との距離が近い
(大丈夫ってわかってても、初めての鬼はちょっと怖いな……見た目の威圧感というか、迫力があるというか……)
少しして、茶屋のおじさんが僕とこずえに団子を持ってきてくれた「おらよ。当店名物、桃太郎のきびだんごだ」
こずえが受け取る「あ!ありがとうございまーす!よいしょ、ほら見て透!!美味しそう!」
透はその団子に、ある焼印がされているのに気づく「あ、これ桃太郎の紋様だ……」
「もんよう?」こずえは首を傾げる
「ほら、さっき見せた桃太郎に関する大昔の本。その表紙にもこの団子の焼印と同じものが書いてあって」
「ああー……?そういえばこんな感じだったような?」
茶屋のおじさんが「よく知ってるな!噂程度だけどよぉ、ここら辺は桃太郎に縁のある場所って聞いたから。そういうことにしてやってるんだよ。その方が観光客にもウケがいいからな!!」
「桃太郎に縁のある場所……初めて聞いた。」透は少し驚く
「まぁまぁ、食べようよー!あむっ!美味しい!」
「うん……美味しい……」
「……はむっ」
「……もぐもぐ」
「……」
「……」
こずえが何かを思い出して言う「あ!!そういえばさっき転んだケガは!?」
「それは大丈夫だって!」
「でも、擦り切れてたし洗うくらいはしないと!ちょっと見せて!」
こずえは透の着物を少し上げてひざを確認する。しかし……
「あれ……?キズが無い……。なんで……」透のひざにはキズ跡一つなかった。
「いや、だからホントに大したことなかったんだって!」
「けっこうなキズに見えたんだけど……。」
「そう……?」
――「ま、それならいっかぁ!!!」
「うん、それよりさ……こずえ」
「うん?」
「僕、父さんにちゃんと話してみるよ!自由に外に出たいってこと。」
「……!うん、いいと思う!」
「僕、実は昔から……色んな国を見たり、いろんな種族と会ったり。旅をするのが夢だったんだ……!!」
「うんうん!!」
「僕も昔とは変わったし……、真面目に言ったら父さんもわかってくれると思う。たぶん……」
「きっと大丈夫だよ!うちも透と色々な国を旅してみたいなぁ……!!」
「ほんと……?うれしいよ。……父さんが許してくれるか、わからないけど。でもいつかきっと行こう。」
「やったー!!!」
それから旅の計画の話で盛り上がってしまい、いつの間にか時間が過ぎていた。夕日が沈みかけ、行灯が街をほのかに照らしはじめる。
「あ!もうこんなに暗くなってる!?」こずえは驚いてミミとしっぽがピーン!となる
「ほんとだ……!早く帰らないと!」
「行こう行こう!おじさーん、ごちそうさまー!!」
「ごちそうさまです!」二人は急いで店を出た
――瞬間、意外な者に引き止められた。
『そこの二人!!急いでるところすまねぇんだがよぉ』
振り向いて答える「は!はい?」
透はどきりとする、のれんをくぐって出てきたのは、先ほど目が合ってしまった鬼だった。茶屋にいた五人の鬼の中でも一番体格がすごくて、なんというか……強そうな鬼。巨躯の鬼。
「おまえら、ここら辺のやつだろ?」
「そうですね……」(立ち姿だと、余計に迫力あるな……)
巨躯の鬼はしゃがみ、和紙を取り出して二人に見せる「この地図が古い地図みたいでなぁ。ここ、この村がどこにあるか知らねぇか……?」
二人はその地図をじっとみる、海と森に面している特徴的な地形の村だ……
「これって……」二人は顔を見合わせる
「僕たちの村ですね、あそこの森をまっすぐ抜けたところにある……」透は自分たちが通ってきた森をさして言う
巨躯の鬼の目が見開く、少し動揺している様に見えた「そうか…………。じゃあここ、この印の場所は分かるか……?」
(印の場所……ここって……)
「ここ、僕の家があるところかも……」
「…………それは、本当か?」
「えと、たぶん……」
巨躯の鬼は立ち上がり、悩んだ様子で空を見上げる、静かになった街にカラスの鳴き声が響く「なぁ坊主、他にも少し聞いていいか?」
「……」
「さっき店の中で聞こえちまったんだけどよぉ、大昔の桃太郎の本を持ってるんだって?」
「そうですね」
「お前は、村の外へ出てはいけないと言われてるんだって?」
「え、?と。はい」
「坂道で転んだ傷が、無かったんだって?」
「え?いや、それは……。なんでそんなことを……?」
「…………いや、気にしないでくれ。……色々教えてくれてありがとうな、感謝するぜ。」
意外にも巨躯の鬼は、僕たちに笑いかけた。そして店の方に戻ろうと踵を返した
「あのっ!!うちら、今から帰るので……!村まで案内しましょうか?」こずえが聞く
巨躯の鬼はそのまま振り返らずに答える「遠慮するよ。俺は今から飲み直さなきゃだからな。」
「そっか!ここら辺結構暗くなるから、気をつけてくださいね!!」
「はは、ありがとよ。お前らこそ……気をつけてな。」巨躯の鬼は後ろに手を振りながら店に戻った
――夕日が沈むにつれて、僕らの影は伸びきっていった。
「見た目より、怖い人じゃなかったね……!!」
「うん、だけど……なんで僕の家を……。それに、なんか……」
「あ、透!!急がないと森が真っ暗になっちゃうよ!!」
「ん……!そうだね!走ろう!!!」
その日は隣街から村へ引き返した、ほんの少しの遠出だったけど、長い間村の外に出ていなかった僕にとっては大きな一歩だった。家に帰ると、父さんが炊事場で晩ご飯を作っていた。この四畳半の木造の長屋に住んでいるのは、僕と父さんの二人だけだ。『村の外へ出てはいけない』って父さんが言うのも、僕がたった一人の家族だから、過保護になってるんだと思う。
僕は自分の母のことを全く覚えていなくて。母さんは僕の出産の影響で体調が悪くなって、産後すぐ死んでしまったと父さんは言うけど………………
「ただいま」
「おおトオル、おかえり。今魚を焼いてるからな……」
「……うん」
(良かった、外に出たのはバレてないみたいだ……)
「どこに行ってたんだ?」
「いや、そこらへんで本読んでただけ。」
「……そうか……」
「……」
「……」
「……?暇なら米を注いでくれるか?」
「あ、うん」透は蒸らし終わった米をお椀にうつしていく。
(どうしよう、話し始めれない……どうやって切り出そう……)
そうこうしているうちに魚も焼き上がり、二人での夕食の時間になった。
(でも、ちゃんと話すってこずえに言ったんだし、話すぞ……)
「あのさ、父さん。」
「……ん?なんだ?」
「あの……」
「……」
「外……」
「……?」
「外に行きたいんだ!森を出た、村の外に!!」
「……!!」
「ずっとずっと!思ってたんだ!」
「ダメだッ!!!絶対に外に出てはならん!!」
「な……!なんでなの!?」
「いつも言ってるだろう!!お前は昔森で死にかけたんだぞ!!」
「そんなの!!昼の森だったらほとんど危ない生き物なんか降りてこないよ!!」
「実際死にかけてるだろうが!」
「昔のことなんでしょ?!」
「とにかくダメだ!!」
「意味わかんないよ!アホ!!」
「親に向かってなんて口を聞いてるんだ!!」
「アホじゃん!!」
「お前!!子供の分際で親に逆らうな!!!」
「………!!!」
普段感情的にならない透が感情的になる。「僕は母さんに会いに行きたいんだ!!」
「!!……何を言ってる!お前の母は死んだ!」
「嘘だ!村の人と話してるのを聞いたんだ!母さんは今も遠い場所で生きてるんでしょ!?」
「っ……!!」
「僕だって村の外に出たい!母さんにも会いに行きたい!!」
――透の叫びが家の中に反響し、長い沈黙が流れる
「…………透、お前が外に出てはいけない理由は、お前の母の話とも関係しているんだ。」
「どう言うことだよ!?」
「お前が村の外に出てはいけない、本当の理由を知りたいか?」
「当たり前だろ!」
「……後悔しないか?」
「どんなことでも、今よりマシだ!」
「頃合いか……わかった……では透……お前の名前の話をしよう……」
「は……名前?」(なんで名前のことなんか……)
「お前の名前は、母さんと一緒に決めたんだ……」
「ちょ、ちょっと待てよ!僕の名前と外にでちゃいけないことと、なんの関係があるんだよ!」
「焦るでない、今にわかる…」
「……」
『驚かずに聞いてくれ、お前の名は「透」ではない。』
「!!!」
「いや、正確に言うと、読み方は同じ……」
父さんはたんすの方へ行き、そこから恐る恐る半紙を取り出して、紙に書かれた名前を見せる。
――そこには「透」とは書かれていなかった、代わりに書かれていた文字は「桃流」。
「桃に流れる……桃流?」
「お前は桃の名を受け継ぐ、桃太郎の子孫なのだ。」
「俺が……桃太郎の……子孫……?」
「驚くのも無理はない、桃太郎の一族は遥か昔に鬼に滅ぼされたと言われている。しかしそうではなかった……桃太郎には、子供がいたのだ。その子供は自分が桃太郎の子であると言うことを隠されながら生き、そしてまた世代を紡いだ。―そうして今の私たちが生きているのだ。」
「…………」トオルは何を言っているのかわからないというように呆然としていた
「トオルよく聞け、それよりも重要なのはここからだ……!」
「……? ちょっと待って、静かに……変なが音しない?」
遠くに、しかし確かに異様な音がした「ォォォォォ……」といった何か、何かが……
「焼ける音だ……!」
「……!!」
トオルはすぐさま戸を開けて外を確認する、そこで衝撃の光景を目にする……
「なんだよ、これ……村が……!!!」
――燃えている、村の家々が燃え盛り、その景色全てが火で覆い尽くされるような業火となっている!!!僕は見るも無惨な風景に、思考を忘れて立ち尽くしてしまう。
すると背後から「ドゴンッ!!!」と叩きつけるような鈍い音がして振り向く
「!!!…………………」
トオルは呼吸を忘れてしまう。父が倒れている……。その先には金棒を持った、見覚えがある巨躯の鬼。
(さっき茶屋の前で話した鬼……!!?)
巨躯の鬼はジリジリとこちらへ距離を詰めて歩み寄ってくる。その表情には、先ほど笑いかけてくれたような、優しさはなかった。
(ど……どうすれば!?)
巨躯の鬼がその半身ほどもある長い金棒を振り上げる!!!
(来る……!!!)
――ゴォンッ!!!
間一髪のところで、斜め前に転がりその攻撃を避ける!
そして倒れた父の元へ走る!「父さん!父さん!」
「トオル……俺に……構うな……逃げろ……」
「できるかよ!」
トオルは父が落としていた刀を、鬼に向かって構える。
「あんたは何者なんだ!!!なぜ村を襲うんだ!!!」
巨躯の鬼はこちらに向かって歩みながら、冷酷に言う。
「俺は、俺たちは。桃太郎の子孫を殺しに来た。」
「桃太郎の子孫を……!?」
「その存在を知る村人も子孫が生きた痕跡も、その全てを焼き払って闇に葬るのさ。」
「…………!!!」
「街でお前と話した時、まさかと思ったが……やはりお前が桃太郎の子孫だったんだな」
父は驚く(街で……トオル……街へ、出ていたのか……)
「同情はするが、俺たちも鬼の国の命令に背くわけにはいかねぇからな」
トオルは叫ぶ「わからない……!!!わからない!!!何のためにここまでする必要があるんだ!!!」
「……ま、冥土の土産に教えてやるよ。……三度目の戦争さ。」
「戦争……!?」
『桃太郎の時代に二度あった戦争に続き。鬼の国はお前達と、三度目の戦争を始めようとしている。』
「なん……だと……」
「簡単に言ってしまうとな。鬼の国は桃太郎一行の子孫が団結し、戦争での脅威となることを恐れているのさ。」
「子孫が、脅威だって?」
「腑に落ちないようだな。何故、鬼の国がそこまで桃太郎一行の子孫を恐れるのか……?」
――解らないなら、お前の知らない桃太郎の話をしよう。
「昔々、桃太郎は鬼との戦争で劣勢になった。危機に瀕した自国を見かねた桃太郎は、どうしたと思う……?」
「…………っ」トオルは唾を飲む
「桃太郎は自国に伝わる仙薬の存在を知るんだ、最悪の呪いとして封印されてきた禁忌の仙薬。それ飲んだ者は恐ろしくも…………。不死身になり、未来永劫の時を生き続けることになる。」
「!!?!?……それを桃太郎が飲んだって言うのか!?」
「愚かにも、犬、猿、キジ……三人の仲間も道連れにしてな。そうして不死身となった桃太郎一行は、鬼が軍備を蓄えるための仲介地点であった孤島、鬼ヶ島へ奇襲を仕掛ける。長い戦いの結果……鬼ヶ島の十万を優に超える鬼の軍勢は、全滅する。不死身の桃太郎一行、たった四人の手でな。」
「それが!!本当の話なわけがないだろう!!?だってそれが本当なら……それなら……!!」
「あぁ…………お前が思っている通り。」
――『桃太郎は今も生きている。……鬼の国で封印されたままな。』
「!!!!!……………」トオルは絶句する。
「そんな訳で鬼の国は、桃太郎一行とその子孫を忌み嫌い、同時にその存在を恐れているのさ。」
トオルは理解が追いつかず混乱する(意味がわからない……何を言っているんだ……?一体僕は……)
「話は終わりだ!!!こちらとしても良い時間稼ぎができた……そろそろ他の仲間も仕事を終えて集まってくる頃だろう……」
「時間を、稼いで………」
「得体の知れない桃太郎の子孫だ……人数は多いに越したことは無い……。 じゃあ、死んでもらおうか。」
「やるしか、ない……!!」トオルは覚悟を決めたように、鬼を見据える。
――両者は生と死が混じり合う間合いで、業火と月明かりに照らされている。
トオルの父は心配そうにする(トオルには無理だ……!そもそもひと回りも大きな相手に……!!)
鬼が大きく振りかぶり、その鈍い黒の鈍器を振り下ろす!
桃流はゆらりとふらついたかのようになる……
(トオル……!!?)
金棒がトオルの頭上に振り下ろされる……その一瞬!!トオルが右足を強く突く!瞬間的に身体が鬼の懐に入り込み、刀の頭身が雷神のように金棒の真横から現れ、鬼の腕を切り落とす!!
鬼は驚愕する「早い……!!!?」
トオルはすかさず腰を強く捻る!!そして巨木のような鬼の胴体に刀を突きつけ一刀両断した!!まるで得物の使い方を全て初めから知っていたかのように!!!
「な……に……?!」鬼は何が起こったのか理解できていない様だった
(ふらついたのではない……!あえて右足を抜いたのだ!それにより前方に倒れた体重を、瞬時の突きで刀身をずらしながら鋭く切り込んだ!!それを実戦経験もなく無意識にやってのけたのだ!!トオルの純粋な戦闘センス……桃太郎の血統か……!!)
「と……父さん……!俺……!!」
トオルは自分でも信じられないようだった。いわばそれは本能的な反射だった。
「とっトオル……よくやった……!お前にまさか……!」
――ザッザッザッと少し遠くから誰かが歩いてくる音がする
「鬼の仲間か……!? 父さん!急いで逃げないと!立てるか?」
「グッッ…………ッ……お前は先に行け!……すぐに後を追う!!」
「嘘つけよ……!!」
「いいからはよう行け!!」
「……っもういい!俺が担ぐ!」
「トオル……!」
「なんだよ!」
「……俺は……もう……」
「は……?!なんだよ!死ぬとか言うなよ!」
ガタンッと背後で大きな音がした……
「!?!?!」
一刀両断したはずの巨躯の鬼が、何事もなく立っている!そしてこちらに金棒を……!!
――ゴォンッ!!!
トオルは頭を強打される!そして勢いよく倒れ込んだ……
(何で……倒した……はず……)
「危なかったぜ……。お前が綺麗にぶった斬ってくれたおかげで、楽に再生ができた。」
(なんで……忘れていたんだ……鬼の身体には……再生の力が……そうか……)
トオルは無惨に倒れ込み、瞳も虚になって、頭から血を流している。
「トオル……!ト……ル!ト……」父の叫び声も聞こえなくなっていく……
(何でこんなことになったんだ……?僕か……僕が街に出たから……?だからと言ってこの村になんの罪があるって言うんだ……?ああ、こずえは……………………………)
意識が……途絶える……
///////////////////
…
……
「……ル……オル……トオル……」
……これは……? 走馬灯ってやつか?
記憶を遠くから眺めているような……不思議な感覚がする……
赤ん坊の頃の記憶なのだろうか……僕を呼んでいるのは若かりし頃の父だった……
「トオル……トオル……ふふっ」
反対側からも呼ぶ声がする、落ち着く声……呼びかける女性は赤ん坊のトオルに手を伸ばす
もしかして……母さん……?母さんだ……!間違いない……!母さん!
赤ん坊は手を伸ばし返す
トオルの母と思われる女性は陶器に触るように優しく、愛おしむようにずっと手に触れている。
赤らんだ手…………いや……違う……赤……赤だ。混じり気のない、赤。
そうか……僕の母は……僕の半分は……
―鬼だ。
///////////////////
トオルは目を覚ます、棒立ちになって満月を眺めている、頭には鬼のツノが発現している、両掌を見てみると返り血で染まっている、周辺には何体もの鬼の死体が大量に転がっている……そこらが血の海になるほど、再生など有り得ないほどズタボロにされた鬼の死屍累々……
「僕が……やったのか……?」
頭と顔に触れる、気絶する前に鬼に攻撃された部分は、自身の鬼の能力によってもう完全に再生しているようだった……
頬に伝う血液を感じたところで、現実感が戻ってきた……
だんだんと呼吸が早く、浅くなる。吐きそうだ……
トオルは自身の存在というものがわからなっていく
――「はは……それが……お前が狙われた最後の理由さ……」
巨躯の鬼!?まだ生きて……!!?
「桃太郎の子孫でありながら……鬼の血も継ぐ。お前は鬼の国にとって……とことん都合が悪いのさ……」
「俺たちみてえな下っ端は、ただ国に従うだけだ……」
「なぁ……俺には、お前と同じくらいのミズキって娘がいるんだ……。なのに、寄ってたかってお前みてぇな子供を……あぁ……情け……ねぇ……よな…………………………」
それだけ言い残して、鬼の息は止まった。
燃えていた村はほとんどが灰になってしまっている……そうだ、父さんは!?
後ろを振り向く、父が横たわっている……!
すぐさまそちらに走っていき、容態を確かめる。
「父さん!父さん!」
「……トオル……お前に何も告げずにいたこと……本当にすまない……」
「それより血が……!ああ、止まらない……!どっ……どうしたら……!どうしたら……」
トオルは父の傷口を抑え、手遅れとも思える止血をする
「俺はこの村を巻き込んでしまった……当たり前の報いだ……」
「違う!僕のせいだ……!僕が街に出たから……!」
「それは違う……俺はお前の思いを知っていながら、何もしてやれなかった……すまない、トオル。」
「なんで謝るんだよ!僕は父さんと一緒にいられるだけでもよかったのに……! 止まれ......!止まってくれ……!」
トオルは止血を続けるが、流れ出る血液を止められない
「トオル……!俺はもうどうにもならん……!」
「……!!」
「最後にお前に伝えなければならないことがある……聞いてくれるか……」
トオルは震えて泣きそうになりながらも頷く
「トオル、お前は外の世界へ旅に出るんだ。」
「……旅!?」
「猿の楼閣、キジの世界樹、犬の大森林、そして……お前の母親がいる鬼の大国へ。」
「旅って一体なんのために?!」
「それぞれの国で桃太郎一行の子孫と仲間になり……これから始まる鬼と人間の三度目の戦争を止めるのだ……。」
「そんなこと……!!僕にできるわけないだろ!!!」
「いいや……お前にはそれが出来る力がある」
「桃太郎や鬼の力のことを言ってるのかよ!?」
『トオル……力とはお前の「優しさ」のことだ。お前は全ての種族を想いやり、それらの架け橋になることができる存在だ。』
「でもっ……!!!」トオルは不安に押し潰されそうになり俯く
「大丈夫だ、お前がどれだけ暗い暗い夜に居ようと……。いずれ、太陽は昇る。」父はトオルのほおに優しく手を触れる
「父……さん……」トオルはその手に触れ返す
「…………最後にこれだけは覚えておけ…………桃太郎には気をつけろ…………」
「!??」
『お前は必ず、伝説の桃太郎と相対することになる……』
「は!?どういうことだよ……?!父さん!……父さん……?」
腕の中にいる父は魂が抜けたように、亡骸となっていた。
「……父さん………………………」
トオルはその場で呆然となったまま長い間父を抱え続けた、しばらくして誰かがそこに走ってくる、それはなんとこの襲撃の中を生き残ったこずえだった。彼女はトオルに駆け寄って抱きしめ、涙を流すこともできないトオルの代わりに、ずっとずっと泣き続けた。皮肉にも夜空には、美しい満月が浮かんでいた。
――この物語は少年トオルが伝説を繰り返し、新たな英雄となるまでのお話。
―――――――
――同刻、鬼の国の中央部にある巨大監獄で、騒ぎが起こっていた。
その監獄は今から丁度一千年前に建造された場所だった、それは詰まるところ、大昔の鬼が不死身の桃太郎一行を封印するために作った監獄ということだった。
桃太郎は現代に至るまで一千年という長い長い間、この場所で封印され続けてきた。
そんな監獄で、あり得ないはずの事が起こってしまった……
「脱獄だと!?そんなことができるはずがないだろう!!!」看守長の鬼は声を荒げる
「なにか……あ、あれは何か摩訶不思議な力を使っているように見えました……!」その部下の鬼は、気が気でないという様に焦りを見せている
「力!?なんだそれは!!」
「わかりません……!!看守長……!わっ私はもう行きます!!あれは……あれは人間ではない……!!」
「なんだと!?おい……!」
そう言ってその下っ端の鬼は全速力で走っていった
「軟弱者が…!まあいい……桃太郎ただ一人の監視など、そもそもこの私だけで十分だったのだ。」
「しかしどうやって脱獄を……あの独房は、深海の只中にあるんだぞ……?」
看守長の鬼は急いで、桃太郎の封印されてる独房の近くへと向かった、そこで男は衝撃の光景を目にする。
――「あ、あいつ……!!まさか……鬼を喰らっているのか!?」
その後ろ姿は人間と言うより、獰猛な野生生物のように映る……
(不自然なほど長い白髪、身体中の返り血、傷だらけの屈強な身体、あれが……あれが桃太郎なのか?!)
桃太郎は気配に反応し、こちらに瞬時に振り向く……!!
黒く鋭い目に捉えられる……!硬直するように身体が動かなくなる……!本能が危機を感じている!!
(死ぬ、死ぬ、死ぬ……!動いたら死ぬ!動かなくても死ぬ!確実にそれが訪れる……!)
お互いに見合い静止したような時間の中、鬼はただ一度瞬きをした、瞼を閉じて再び開いた時……
「いない!?……あ………ゑ……?」
鬼は既に死んでいた。桃太郎はただ後ろを通りすぎていた。
「………ッ」
桃太郎は血塗られた右手を掲げて強く言った。
「鬼ども……皆殺しにしてやる……!例外なく、この世からすべて……!!」
――一千年の時を超え桃太郎が、再臨する……。
矛盾を抱えた主人公、
ケモノ幼馴染との冒険、
闇堕ちした伝説の人物、
好きなものを詰め込んだ!!!
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