新たな始まり
いつも新月の夜には心がざわつく。
初夏の夜。
夜空に月が上がらない日。
何時もより町中は薄暗い。
人通りも幾分少ない夜。
俺は一人で
馴染みの飯屋で酒を飲んでて
不意に思い立った。
この町には、飽きた。
長くいすぎたぜ!
次の日に。
仮住まいの部屋を引き払った。
戸建てで、4戸の貸家。
主室に小物置付き。
1人者が住み易かった。
そのお陰で稼いだけどな。
はははっ。簡単なもんだ!
ちっぽけな部屋だぜ。
けっ。
悪態で独り言を吐く。
要らない家財も全部売り払った。
買取に来た商家の
意地汚ねえ感じの親父がニヤつきやがる。
小銭にしかなんねえ物ばっかりだ。
足元を見やがる。
全部でコレだけですね。
汚ねえ親父が
ニヤつきながら金をよこした。
いいぜ、それで。
全部、持ってけ。
腰の収納袋に、
小物や仕事の装備。
身近な荷物をあらかた入れた。
さあ。行くか。
身軽な装いで腰に短剣だけで良い。
仮住まいの家を出る。
町を眺めながら大路をすすむ。
商業ギルドの担当に
貸家の部屋の鍵を返せば終わりだ。
数年ぶり、久々の移動だ!
ギルドを出て、外壁に寄り掛かり
考える。
定期馬車は東門からだな。
さてと、どこに行こうか。
まあ。飯でも食って決めればいいか。
く~~!
忘れてた。
馬車を舐めてたぜ!
久々で忘れてた。
ガタゴトと馬車の進む音。
村と村。町と町を繋ぐ定期馬車。
金を払えば、自分で歩かずに先に進む。
自分の飲み食いはで用意する。
そんなルール。
御者に金を払えば、何かが食える。
が、、、。
ロクなもんは出て来ない。
それが定期馬車。
車輪から直に、木製の座席に伝わる衝撃。
下からの突き上げが強烈だ。
悪路の小石と轍の拷問だ。
俺のケツが、スグ悲鳴を上げた。
楽をするには
そんな事も止む無しだが。
旅の出だしで泣き事が出る。
こんなはずじゃあない、とは思うが。
痛え物は痛え!
ケツガ痛ってえ。
相変わらず
田舎の街道はデコボコだぜ。
昔から。何度乗っても1日で嫌になるぜ。
人の我慢にも、限界があるってもんだ。
良い道具が欲しくなる。
お客さん。
街が見えてきましたよ。
御者の声に。
今日は、宿屋の柔いベッドで寝るぜ。
そう思わずにはいられない。
街道での野宿は、駄目だ!
久々にヤベ~ヨと泣きが入る!
2日間も、夜に毛布に包まるだけだぜ。
枕は自分の荷物だ。
地面の硬い所を避けるのもウゼ~!
2人の御者が、交代で夜番をするが
危なっかしくて熟睡なんて出来ねえ!
横になるだけだ。
ここいらの平野は魔物が少ないけど。
狼やらがいるからな。
よっぽど。
迷宮の中の仮部屋の方がましだ。
そんな風に何度も考えて
うたた寝を繰り返す。
町につくのが楽しみだ。
心が躍る。御宝が俺を待ってるぜ。