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第二話

「どうした? 食わんのか?」


 聖女を閉じ込める〝籠〟の隅に置かれた椅子へと腰かけ、公爵の男は訝しげに問いかけた。


 虚ろな瞳を緩慢な動作で男へと向け、無表情で聖女は答える。


「……肉食は、教会の教義で禁じられておりましたゆえ」

「ここでは俺が、その〝教義〟とやらだ。従え」

「…………はい」


 吐き捨てるように公爵が命ずると、聖女は白銀髪を片手で掻きあげ、ゆっくりとフォークを口へと運んだ。肉を咀嚼し、慣れぬ味覚に顔をしかめる。


「ほう、感情らしきものが見えたな。〝人形〟ではなかったのか?」

「…………」

「チッ、また無言か」


 黙り込んだ聖女を見据え、公爵は苛立たしげに舌打ちをした。やがて時間をかけて彼女が料理を食べ終わったのを確認すると、嘲るような口調で述べる。


「お前には、これから三食ずっと肉と野菜をバランス良く食わせてくれる。ときには魚も食わせるだろう。――どうだ? 命を喰らった感想は?」

「……植物とて命にございます」

「フン、戯言を。ここにいる限り、もはや偏食は叶わぬものと知るがいい」

「…………はい」

「クククッ」


 聖女がコクリと頷くと、公爵は満足げに喉を鳴らした。少女の白銀髪へと手を伸ばし、それを指先で弄ぶ。


「……私をお抱きになるのでしょうか?」

「怖いか?」

「いいえ」

「即答か――まあいい。こんな皮脂の浮いた髪では興が乗らん。のちほど湯浴みをさせるからな。拒否は許さん」

「……わかりました」

「ククッ、聖なる冷水とやらでの沐浴しかしたことのないお前が、湯に浸かりどんな反応をするかと思うと腹が捩れそうになるな――あとで、侍女に様子を尋ねるとしよう」

「…………」


 辱めじみた言葉をかけられ、それでも聖女は無表情のままであった。「つまらぬ女め」と呟いてから、ふとつけ足すように公爵は尋ねる。


「ところでお前、そろそろ俺にまことの名を教える気にはなったか?」

「………………」

「フン。よほど婚姻が嫌だとみえる。だがもう、お前の居場所はここしかないのだ。早めに観念するがいい」


 ――聖女は、静かな声でポツリと答えた。


「……私は〝祈り人形〟です。名など必要ありませぬ」

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