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第五話 標的ロックオン

 治癒の泉に浸かり、傷を治していると、コナンがやってくる。コナンに目立った外傷はない。コナンは泉に浸かるラパンを労わる。


「これまた酷くやられたものですね。どうやら、兄上が攻めている街は特別な場所のようです。私が出撃した場所では、さしたる抵抗を受けませんでした」


 コナンの傷を見ればわかる。コナンが上手くやり遂げたことに(ひが)みはない。むしろ、ラパンは当たりを引いたと密かに喜んだ。ネスに対抗できる街があるなら早めに知っておいたほうがよい。


 兵器の開発拠点なら、早めに潰さないと厄介だ。

「コナンの戦果はいかほどだった?」


 得意げな顔でコナンが語る。

「五万人といったところでしょうか」


 確実に駆除できる人間を駆除した。用心深く戦果に拘るコナンらしい成果といえる。これで、わかった。新型の各種兵器は日本全土に配備されてはいない。全国に波及するにはまだ時間が掛かる。

日本には、まだ八千万人の人間がいる。残った日本人が全力で新兵器生産に当たれば、どれほどの戦力を補充できるか。ラパンの心配を察してか、コナンが語る。


「時に兄上、JP12は御存知ですか? 私のパルダからの情報です。日本軍が開発している兵器だそうですよ」


「思い当たる人型兵器を見た。機体にはJP14と記載があった。おそらく、JP12は試作機で14から実戦に投入されている。JP14は厄介だ。あれは戦局に影響する。人間は着実に力をつけている」


「パルダの情報では他にも新兵器を開発中だとか。何か良い手はありますか?」

「ない。ただ、お父様が新たに与えてくれる力にだけ頼るのではなく、これからは、こちらも人間を研究する必要がある。そのほうが#4の終了まで早く進む」


 コナンがちょっとばかり顔を歪める。

「では、ツチ兄さまにご協力を頼みますか?」


 八番目の兄弟ツチは人間に興味を持った変わり者だった。リーゼの噂ではツチは研究のためとして人間を飼っている。飼われている人間を見た覚えはない。


 駆除対象を飼うなんてとんでもないと思う。だが、パルダなら問題ないとツチは気に留めていなかった。ラパンはコナンに軽く提案しておく。

「ツチはほどほどを知らないから心配だ。必要があれば僕が話を持って行く」


 ネスはパルダを守る義務はないが、守りたいなら個人の裁量で守ってもよい。現に、コナンやツチはパルダに多くの利益供与を行なっている。二人のパルダ勧誘数は八十とラパンの倍以上いる。また、生存率は良いと聞く。


 コナンが去った。治癒の泉に再び身を沈めた。体がほぼ治りかけてきたころ、パルダの祈りを感じた。


「偉大なるラパン様。お会いになりとうございます。日本の秘密基地の情報を入手しました。会って私をお導きください」


 普段なら無視する祈りだが、先の戦いのあとでは気になった。いい加減な情報の可能性があるが、急ぎの用もない。偶にパルダの元に顔を出すのもよいかと思い、祈りに応じる。


「これから行く、二十分ほど待て」

 泉を上がり、体を拭く。次元門に向かって歩き出す。


 次元門を出た先はホテルの一室だった。そこには色白の裸の女性が立っていた。烏丸と比べると肉付きがよく、髪は茶に染めている。名前は憶えていない。


 女性はラパンを見ると頬を染め、喜びの甘い声を出す。

「松子の元に来てくださるとは光栄です。お会いしとうございました」


 パルダの名は松子だとわかった。だが、松子はなぜ裸で待っていたのかがわからない。髪が濡れているので、風呂に入っていたのかもしれない。ラパンに会う前に風呂に入る意味が、わからなかった。


 松子はベッドに上がると四つん這いになり尻を付き出す。

「ラパン様、準備はできています。後ろからブスリとやってください」


 松子の行動が増々わからない。こっちは情報を貰いに来たのに、なぜ松子と人間の性交を真似た行為をしなければならないのか? ラパンは松子の望みを叶えるつもりはなかった。


 ただ、松子は何かを期待している。何もしないと気分を害して情報を渡さない展開もあり得る。面倒くさいパルダだな。ラパンはベッドの傍に行くと、適当に松子の尻を叩いた。


「ひっ」と松子が、驚きとも歓喜ともとれる声を上げる。ラパンは、そのまま適当に尻を叩くと、不思議なことに松子は喜んでいた。ほどなくして、松子がくたっとなる。


 何かわからないが、松子の中で満たされたらしい。人間とはよくわからないものだが、理解しようとは思わない。ネスと人間は、わかり合えないものだ。


 ベッドの上でごろんと仰向けになった松子に尋ねる。

「それで情報とは何だ、祈りでは伝えられないものか?」


 くだらない情報なら、もう松子からの祈りは遮断して会わないと決めた。

「街の名は月詠市といいます。月詠市の地下に日本の兵器開発工場があります。私はそこでの就労が決まりました」


 松子はベッド脇のサイドテーブルから地図を取り出してラパンに見せる。地形からラパンが襲撃した街と思われた。あの街は月詠市と呼ぶのか。月詠市にパルダを潜入させられるのなら有難い。戦局は変わって来ている。敵の情報は欲しいところだ。


「松子の立場は何だ、研究者か? 搭乗員か? それとも整備士か?」

 できることなら、JP14の搭乗員が望ましい。それなら、月詠市の攻略の糸口が掴める。JP14の情報も筒抜けになる。


「食堂の炊事係です。職員食堂でご飯の準備と洗い物をします。ちなみに、私は魚の煮付が得意なんですよ」


 少しがっかりだが、そんなところだろうと、思い直す。

 日本上層部だってパルダの存在は知っている。となれば、兵器の核心に触れる部分は厳重に秘匿をする。早々、誰でも軍事機密には触れられない。


 炊事係でもいいかと思い直す。松子の腕に掛かるが、親しくなった整備員や搭乗員から情報を持ってくるかもしれない。だが、松子の大胆さと性格は、ちょっと心配だった。


 成功すればメリットがある。少し力を与えるか。松子に手を向けて力を送る。

「あん、くう」と松子が喘ぐ。人間なら痛みを伴うはずだが、松子はやはり異質な人間だった。喜びを感じている。


「体内で薬物を生成する力を与えた。血、尿、汗、分泌物に薬や毒の効果をもたせられる。生成の仕方は力の供与と同時にわかったはずだ」


 とろんとした目で松子は礼を述べる。

「ありがとうございます。ラパン様のお役に立ってみせます。また、人間に捕まった時には速やかに自死します」


 能力はパルダに自死させるのが本来の使い方だった。だが、それではもったいないとツチが提案した。結果、薬物生成能力に改良した経緯があった。


 スパイを送り込む手筈ができたので帰ろうとすると、松子が呼び止める。

「上手く行ったら、ご褒美をくれますか?」


「でき次第だな」と軽く答えておくが、松子はそれで満足していた。

 人間の駆除は他の兄弟たちに任せる。ラパンは月詠市に標的を定めた。月詠市を攻略できれば、日本からの人類の駆除は大きく進む。

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