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第二十三話 勝利の確定

 辺りに他の兄弟はいない。自室に戻ると、出撃前と同じ状態だった。ムクドリを利用して月詠市の状況を確認する。街には薄っすらと雪が積もっていた。


 目覚めには時間を要した。季節が移ろったので、一年は経っている。街の建物は修復されて新しくなっていた。人も増えて、賑わっていた。ヨーロッパ決戦から兄弟姉妹たちが手を出していないことが窺えた。


 ムクドリの視線が団地にある雛人形を捉えた。季節が三月だと知った。雛人形があるので街には子供が戻ってきている。また、街の人間は淡々と暮らしていた。活気はないが平穏に暮らしている。


 月詠市に行ってみるか。次元門を潜って月詠市に出た。昼過ぎの月詠市は明るい。気温が上がっているのか、雪溶けの音がする。攻撃はない。下を見れば、人々はラパンを見て祈る。怯えも敵意もなかった。これまでとはまるで対応が違った。


 松子から祈りが届く。

「ラパン様、お久しぶりです。今日はどのようなご用件でしょうか」

「戦いが終わって目覚めたから街を見に来た」


「攻撃はお止めください。現在この街にいるのはパルダになりたい者だけです。戦いを望む者は月詠市を去りました」


 人間の側では降伏に際して準備が進んでいる。いとも簡単に街を捨てたな、と少々意外に思う。

「それで、数はどれほどいる」


 地上に人混みが見えるので多いと思う。人口はラパンが月詠市に来てから最大だ。

「八十万人です。前はもっといたのですが、抗戦派との争いで犠牲を出しました」


 街を巡る争いはあると思ったが、寝ている間に終わったのか。人間は最後になってまで人間と争った。人間とは罪深き生き物だ。


 地上の住居に八十万も住めない。大半は地下に住んでいるのか。それにしても多い。でも、ツチと兄のライデンならどうにかするだろう。

「無条件降伏の話は進める。次の命令まで待て」


 ラパンが帰ろうとすると松子は止める。

「お待ちください。ナビ様のことは許していただけるのですか?」


 嫌な予感がした。ナビに何か良くないことがあったのは確実だ。

「何があった? 教えろ」


 松子から詫びの感情が籠った祈りが届く。

「ナビ様が抗戦派の人間の手により亡くなりました」


 妹が死んだ。ナビは人間の街に留まっていたので、こういうこともあろうかと思う。だが、改めて突きつけられると、怒りが湧く。怒りは松子に伝わった。

「ナビ様を殺害した抗戦派の人間は取り逃がしました。処罰は受けます」


 松子はラパンの怒りを恐れていたが、ラパンは月詠市の人間を罰する気はなかった。人間とは存亡を懸けた戦いをしている。そんな人間の傍に留まる決断をしたナビが人間に殺されてもしかたない。それに、ナビは次の世界にいけない存在だ。


 ラパンは怒りを心の奥に封じた。

「今は処罰をしない。だが、ナビが消えた事実は重いぞ」


 感情が整理できるかわからないので、含みを持たせておく。

「月詠の市民は覚悟しております」


 次元門を潜り帰る。ツチが待っていた。

「目覚めたあとに会いに行ったのですが入れ違いになったようですね。ヨーロッパ決戦からの御帰還、心よりお喜び申し上げます」


「現状を知りたい、教えてくれ」

「多数の犠牲者を出したもののヨーロッパ決戦でネスは勝利しました。今やアポカリプス作戦は最終段階の#4です。環境激変に巻き込まれ多くの土地で人間は住めなくなりました。人類の残りは五億人を切りました」


 ネスの勝ちは決まった。色々とあった戦いだが終わりが見えた。ツチの言葉が続く。

「日本の人口は現在一千万人。降伏派が八十万人。抗戦派が五万人。残りは諦めて滅びを待つ人間です。これは無気力派とでも呼びましょう」


 無気力派は捨てておいていい。次の世界はどんな世界かはわからない。生きる意志がない人間を次の世界に連れて行っても生きてはいけないだろう。


ツチの表情が悲しみを帯びる。

「アルゼ兄さん、ドナ姉さん、ロン兄さんが消えました。三名はもう戻ってきません」


 激しいヨーロッパ決戦で家族が消えた。アポカリプス作戦の終了間際になって残った家族は半分以下だった。だが、それでもネスである以上は受け入れるしかない。


「皆いい兄や姉だった」

「抗戦派は現在、大阪に集結中です。放置しておいても、物資が切れて戦えなくなるでしょう。こちらで人間から奪ったルドラを使っても簡単に滅びると予想されますがいかがしますか?」


 アポカリプス作戦が終了すれば地球の環境は激変する。変わった環境下では、パルダを経て転生した人間でなければ生きてはいけない。


 黙って作戦の最終段階まで進むのを待つだけでも抗戦派は滅びる。だが、それでいいのだろうか? 最期まで抗った者たちにはきちんと敗北を与えてやるのが勝者の情けの気もする。


「大阪で暴れますか、兄上? もしそうなら、抗戦派がナビより奪ったラジウス書簡の回収をお願いします」


 ツチの発言はラパンの心情を汲んでのものだった。ラジウス書簡の残りが必要なら、お父様が命じる。また、ツチなら人間が戦えなくなった後に回収する算段もある。


 ラパンのナビに対する思いや、人間への感傷を考えてツチは出撃の理由を作っている。

「大阪の地にいる抗戦派は潰す。それを持ってナビの手向けとする。また、日本の地でのネスの勝利とするぞ」


「発明品の牛頭、馬頭を二百体ずつ。HQを二十体お持ちください」

 ツチが軽く後ろを振り返ると、部屋の丸扉が開く。牛頭と馬頭は初めて見た。牛頭と馬頭はJP14と同じ大きさの半機械兵器だった。名前の通りに牛頭に牛の頭が、馬頭には馬の頭が付いている。

牛頭は機関銃を持ち、馬頭はライフルを持っていた。


 ツチが自慢げに語る。

「人間のJP14対策に使っていました。敵にはもうJP14が五十も残っていないでしょう。これだけあれば物量で勝てます。兄上は後ろで見ていればいい」


「有難く使わせてもらおう。人間には、はっきりとわかる形で敗北が必要だ」

 ラパンは人間との最後の戦いをするために、大阪へと向かう次元門を潜った。

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