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第二十一話 交渉

 コナンがいなくなっても他の兄弟姉妹たちの話題に上ることはなかった。あまりに、話題にならないので、皆が避けていると感じた。コナンには秘密があると他の兄弟姉妹も勘づき、お父様に気を遣う口をつぐんでいる。


 ラパンの元には祈りが届く。祈りはほぼ無視していたが、鏑木がしきりに祈りを送ってくるので、気まぐれに祈りに応えた。

「どうした、何をそんなに祈っている」


 安堵ともに祈りが届く。

「月詠市で問題が起こっています。市内に和平を求める声が生まれ、弾圧されています。弾圧に対して反撃が行われ、収拾がつかなくなってきています」


 ヤタノ鏡作戦は失敗した。絶望が混乱に拍車をかけたか。無理からぬの次第だ。鏑木の祈りは続く。

「グループは小さくいつも存在するので、誰が敵で、誰が味方だかわからない状況です」


 この後に及んで纏まりを欠くと人間とは愚かなものだ。人間の混乱は知ったことではないが、月詠市は別だ。月詠市はそっくりそのまま欲しい。一押しすれば、人間たちを崩せるか? 本心を隠して命令する。


「今日は機嫌が良い。鏑木の意見をきこう。遠慮なく申せ」

「次の世界に連れていけるパルダを増やしてください。この月詠市を箱舟としてくださればきっとお役に立ちます」


 以前なら即答で拒否だが、今は事情が違う。お父様や他の兄弟姉妹がなんと言うかわからないが、妹と弟のために動くのが兄の務めだとラパンは思っていた。


「五時間後に出撃するが。今回だけは交渉に乗ってやろう。ただ、交渉するのはネスでは

僕個人だ。面白い話なら上に進言してやろう」


「ありがとうござます」と鏑木は感謝の祈りを送ってきた。五時間の瞑想の後に次元門を潜る。夕日に照らされた月詠市は静かだった。上空から見下ろす、月詠市は静かだったが、いくつもの視線を感じる。見られているなと思った。


 交渉をしたい人間もいれば、交渉したくない人間もいる。攻撃は有り得るが、攻撃されても問題ない。謎の兵器を使われればわからないが、現状では新たな力を得たラパンにはおおよその兵器は効かない。それに、もし、交渉の場で人間から攻撃されればラパンの立場は強くなる。


 月詠市にある大型ショッピングモールの屋上から花火が上がる。視線を向ければ白旗を掲げたJP14を先頭に五機のJP14がいる。ゆっくりと白旗の元に移動して行く。攻撃はなかった。


 ラパンは身体をJP14と同等の大きさにして、屋上に降り立つ。白旗を掲げているJP14には鏑木が乗っているとわかった。鏑木の立場がわからないので声を掛けたりはしない。星のマークが付いたJP14が一機前に進んで話し出す。


「降伏の交渉をしたい。条件はない無条件降伏だ」

 相手ははっきりと『無条件降伏』と口にした。良い展開だが、安心はしない。


「降伏は意味がない。人間を駆除するのがネスだ。だが、ここにきて少し流れが変わった。数万人なら生かしてもよい」


 日本側は条件を飲まないと思った。日本にはまだ三千万人の人間がいる。数万人なら大体数が漏れる計算になる。全部を救いたければ食い下がってくる。


「数万人は日本人のみでの数か?」

 嘘を吐いても意味がない。

「そうだ」と冷たく答える。シーンとなったのでもう少し強く出る。


「月詠市を寄越せ。ここに次の世界に連れて行く日本にいる人間を集めろ。さすれば、月詠市は攻撃しない。集まったらこちらの選別した人間のみを次の世界に連れて行く」


「選別があるのなら、月詠市に集める人間は二、三十万人いてもいいか?」

「何人集めてもかまわないが、連れて行けない人間はこちらで処分する。また選別には人間の意向は聞かない。決めるのはネスだ」


 バーンの音がする。音は断続的で十回続く。攻撃音だが攻撃はラパンにも交渉しているJP14にも届かない。誰かが交渉を決裂させようとして動き、失敗した。失敗した者は、始末された。そんな音だ。


 相手は音を気にせず、話を進める。

「条件はわかった。時間をくれ、検討する」


 上手く行けばツチの希望を叶えられる。だが、そう簡単にはいくまいと用心する。お父様の大反対に有った時を考えて含みを持たせる言い方をした。


「日本側が無条件降伏を検討している話は上とする。だが、交渉を検討している間も戦闘は続ける。生き延びたければ足掻くことだな」最後の言葉は皮肉だった。


「努力しよう」と真面目な答えが返ってきたので、いささか拍子抜けする。交渉を終えたので、ラパンは次元門を潜って帰る。一休みすると、すぐにアルゼが飛んできた。アルゼは怒っていた。


「どういうつもりだ、ラパン。人間と交渉するなんて、他の兄弟姉妹にパルダの祈りが殺到しているぞ。お父様はご存知なのか!」

 情報が駆け巡るのが早いな。それほどまでに日本では厭戦の気配が濃かったのか。


「お父様にはこれから話をします。できれば兄上にも口添えしてくれると助かります」

「馬鹿も休み休み言え。人間を残すな。速やかに駆除せよ。できないのなら、俺が月詠市を落とす」


「忙しい兄上には無理はさせられません。月詠市は僕が対応します」

 ノスフェラトウ宮にお父様の厳粛な声が響く。


「月詠市の件に関してはラパンの担当とする。他の息子、娘たちは手出し不要とする」

 声を聞きアルゼが驚いた。無理もない。お父様の言葉であれば逆らうわけにもいかない。ただ、気になる言い方でもある。


 お父様はラパンと人間の交渉を承認するものではない。月詠市の件を一任されたわけでもない。ただ、担当となっただけ。


 他の兄弟たちは手出しができないが、『人間をやはり滅ぼせ』、『だまし討ちをして悉く人間を討ち取れ』と後から命令させる可能性もある。


 アルゼはラパンをギラっとした視線で睨んだ。ラパンは肩をすくめる。アルゼはお父様に抗議するためか足早に部屋を出た。アルゼを見送り、思う。これはツチが前もってお父様にだけ根回しをしたなと薄々感じた。


 今日の件に関して感謝の祈りが鏑木から届いたの応答する。

「こちら側での動きは伝える。日本の無条件降伏は受理されていない。だが、月詠市の担当が正式に僕になった。人間の無条件降伏はどうなるかわからないが、現実味を帯びてきた」

現状は変わったが人間とネスがどこに向かうのかはわからない。事態は変わりつつあった。

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