第二十話 ヤタの鏡作戦
月詠市は現在、危機的状況である。人間のピンチはネスのチャンス。だが、ラパンは出撃しなかった。コナンと話を付けずに攻撃をすれば、手柄を取った、取られたの、つまらない争いになりかねない。
人間は直に滅ぶが、コナンとの関係はこれからも続く。できることなら、コナンには納得づくで、月詠市から手を引いてもらいたかった。私室の扉が開きアルゼが姿を現す。
「招集だラパン。人間がヤタの鏡作戦の実施を早めた。出撃して人間の施設を破壊してこい。他の兄弟たちも出撃する」
出撃するのは良いがコナンが気になった、今のコナンは危うい。任務に失敗するのではないかと危惧した。
「コナンも出撃するのですか?」
「コナンたっての願いだ。コナンも出撃する」
無茶だ、なにをそんなに急ぐのだ、コナンよ。今までにも充分な実績を上げてきただろう。ラパンは不安だったので進言する。
「兄上、コナンは不安定な状態です。ここはツチにサポートをさせてはいかがでしょう」
アルゼは不機嫌に拒絶した。
「ダメだ。ツチにはやってもらう仕事がある。片手間にはやらせられない。コナンにはこれくらいは一人でこなしてもらわないと困る」
冷たいではないかと、むっとする。だが、忙しさがアルゼを不機嫌にさせているかもしれないので非難の言葉を飲み込んだ。
作戦行動が早まったのだ、無理もないか。早目に標的を破壊してコナンを助けにいくか。次元門を潜る。出た場所は、日本には似つかわしくない荒れ地だった。荒れた大地を陽の光が照らす。地面に降りると、建物の残骸らしきものが残っていた。
拾い上げると、残骸は変色して土塊へと変わる。目を凝らせば、もと建物だったと思わしき岩や土塊が見えた。今までにない現象だった。
ルドラを超える兵器を開発して、制御に失敗したと思えた。とすると、ここはかつて人が栄えた街だ。建物や車両を土に変え、街を消し飛ばす兵器、か。こんなものを制御できない段階で投入するとはいよいよ日本軍も末期だな。
人間が新兵器を持ち出したとなると厄介だ。重力鎧や重力盾で防げればいいが、できないと、一敗や二敗する。ただの敗北であればいいが、今回は大きな作戦だ。負けたくはない。
視界をぐるりと見渡すが、人も兵器もロケットもない。発射用の施設もない。用心は必要だった。ヤサカ作戦の時もそうだが、人間は隠すのが上手い。どこかには、いるはずだ。
重くなる力を微弱で放つ。広い範囲で抵抗を感じる場所があった。現在地から五㎞北東に行った場所だった。新たなる力を得たおかげで、やすやすと見つけられた。JP14クラスの質量が三十は潜んでいるので間違いはない。
前回の戦いでは、JP14の攻撃は僕には通用しなかった。だが、負けられない戦いに新兵装を導入した可能性もある。人間の数は減っているが、兵器開発スピードが落ちているとは思えない。
前面に重力盾を展開して、隠れている施設に向かって歩き出した。四百mも近づくと、JP14が姿を現した。JP14の中に八機、変わった装備をしている機体がいた。機体は型の投光器のような装備を背負っている。
時刻は昼である。照明は必要ない。明らかに何かを照射してくる装置である。日本軍め、また何かを開発したな。投光器より青い光が照射される。青い光が重力盾に当たると、重力盾に穴が空いた。
穴に向かってJP14が携帯型ヴァジュラを発射する。八発が飛んできて、穴を潜った六発が命中する。ラパンの体の表面で光が発生するが、無傷だった。
携帯型ヴァジュラでは傷付かないほど僕は強くなった。ならば前進あるのみ。ラパンは走った。同時にJP14が展開するさらに後方の一㎞先の地面の一部が開く。ロケットがせり出してくる。
JP14が撃ち尽くした携帯型ヴァジュラを捨て、マシンガンを撃ちまくる。重力盾に穴が空いた箇所から弾丸が体に命中する。だが、今のラパンには通用しない。
投光器の光が強くなる。ラパンの体に光が直接当たる。少しちりちりと感じる程度で戦闘には問題なかった。
JP14に重くなる力を掛ける。JP14がぐしゃっと潰れた。JP14の強度は上がったのかもしれないが、ラパンの力の上昇幅のほうが大きい。
次々とJP14を潰していく。だが、投光器を持つ機体は潰れない。投光器から出る謎の青い光はラパンの力を弱めていた。ならばと。ラパンはJP14を蹴り上げる、宙に浮いたJP14を掴んで下に投げる。蹴り上げて投げ、叩きつける。
投光器自体は丈夫ではないので衝撃で破損する。JP14を三十体、片付けるのに五分とかからなかった。
ロケットはまだ打ち上がらない。間に合うと思いロケットに走り寄る。ロケットが火を噴いた直後に重くなる力を全力で掛ける。グシャッロケットが潰れ爆発した。
任務は完了した。だが、遠くの空に打ち上がっているロケットが見えた。誰かが失敗した。鏡の一つが宙に逃れた。ラパンの速度では飛び上がったロケットには追い付けない。またここからでは力を掛けるには遠すぎる。
誰が失敗したかはわからない。だが、失敗はコナンだと思った。申し開きは難しいなと、痛く思った。だが、フォローはしてやろう。コナンの失敗は僕が埋める。
辺りを警戒してこれ以上のロケットの発射がない状況をラパンは確認する。ラパンはダメ押しでロケットが発射された付近の地面に思いっきり重くなる力を掛けた。これで、地下に残っている人間がいても潰れて死んだと思った。
仕上げが終わったので次元門を潜ると、ロンが待っていた。ロンの表情は苦い。
「コナンが失敗して死んだ。コナンはもう戻ってこない」
家族から遂に犠牲者が出た。悲しくはなかった。だが、残念には思った。できることなら家族全員が揃って新しい時代を迎えたかった。
ロンが素っ気なく告げる。
「コナンの部屋の荷物でほしい物があれば持っていけ。なければ、部屋の荷物は処分する」
ネスには葬儀を行う文化はないが、形見を貰って保管する文化はある。ラパンはコナンの部屋に行く。コナンの部屋には色々な玩具が飾ってある。
ラパンから見ればどれもがゴミにしか見えない。何か一つを思い出の品に貰おうと思うが良い品がない。ラパンはコナンの遺品を整理する破目になった。
どれも必要のない品に選別される。すると、奇妙な箱に気が付いた。中を開けると人間の赤ん坊の着る服が一着箱に入れてあった。気になったので注視すると『コナン』のネームが入っている。
なんで、弟のコナンが人間の赤ん坊の服を持っているのか? どうして、服に『コナン』の刺繍があるのか。非常に嫌な予感がした。予感を否定したくて知恵の大樹のある部屋に行く。知恵の大樹の部屋でコナンの出生証明を見ようとしたがなかった。
恐ろしい推測がよぎる。まさか、コナンは人間だったのではないか? 人間として生まれネスになったのが、コナンか。
コナンが功績に拘っていた理由。あれは、自分が人間だった過去を知ったがゆえの家族への後ろめたさだったのか?
コナンは新たな力の獲得が上手くいかず焦り、ネスになりきれない自分を恥じて先走った。結果、人間の手で亡くなったのか。
「馬鹿なこれは全部、僕の思い込みだ。家族に人間なんかいない」とラパンは頭に湧いた疑念を消すために、コナンの残っていた遺品を全て処分した。




