第十九話 新生ラパン
ルドラを浴びても体が崩壊しなくなった。ただ、頭がボーッとする。治癒の泉に浸かると頭がしっかりしてきた。治癒の泉に兄弟のものと思われる意識が飛んできた。肉体は全損しており、意識は眠っている。気配からコナンだとわかった。
コナンがやられたようか、再生可能なら問題ない。ただ、敗北を他の兄弟たちに知られるのをコナンは嫌がるだろう。ラパンは早めに治癒の泉から出た。
「力がほしい。もっと力を」とコナンのうわ言の呟きが聞こえた。聞こえない振りをして外に出る。鳩の形をした半機械バルバがやってくる。
「お父様がお呼びです。謁見の間にお越しください」
ラパンは謁見の間に行く。謁見の間にいた父は見るからに機嫌が良さそうだった。
「我が息子ラパンよ。ヒマラヤでの活躍はご苦労だった。新たな力を授ける」
「幸せです、お父様」と答える。
「お前は問題ないと思うが、新たな力には耐えきれないネスもいる。不適合なのに力を解放すると、徐々に肉体と精神が崩壊する。それでも、お前は力を受け入れるか?」
迷いはなかった。ここで消えるのなら自分の役目は終わりなのだ。だが、まだやるべき仕事は残っている。僕は消えないとの確信にも似た思いがあった。
「問題ありません。僕にはまだやるべき使命がある」
「よくぞ言った我が息子よ。これが新しい力だ」
お父様の目が輝き、ラパンは強い光を浴びた。苦痛はなかった。ラパンは目を瞑り、光を存分に浴びる。ラパンはそのまま気持ちよくなり眠った。これでまた一段と強くなれるとラパンは安堵した。
私室で目が覚めた。父に力を貰ってからなり時間が経過していた。椅子に座った。ムクドリを使って月詠市を偵察する。街は薄っすらと雪に覆われていた。人通りはまばらで静かだった。神社の境内から煙が上がっていた。
ムクドリを向かわせると、正月飾りを焼いていた。どんど焼き、か。年明けまで眠っていた。街を確認すると、街には被害が出ていた。誰かが襲った形跡があった。
損傷は激しくなく復旧が行われているが間に合っていない。復旧具合から戦闘は二週間くらい前だ。誰が月詠市に手を出したのか気になった。
誰かがラパンの私室にやってくる。扉が開くとロン兄さんが立っていた。
「目覚めたようだな、ラパン。お前に伝えておく情報がある。まず、日本の人口は四千万を切った。日本はもうじき終わる。他の地域でも人間の駆除が進み、人類は二十億人に迫っている」
世界の人口の減りが速い。人工太陽の光が影響していると見ていい。月詠市は人工太陽の運行ルートから外れているので、光の当たりが弱い。
まずいぞ、住みやすい地域には人が集まって来る。月詠市を人間が手放せなくなる。頻繁に打撃を与えて危険地帯との認識を植え付ける必要があった。
ラパンがちあがるとロンが注意する。
「出撃するのならほどほどにな。人間がヤタの鏡作戦を画策している。これを潰す戦いが控えている。ここで、体が大きく損傷すると、面倒だぞ」
人間が巻き返そうとしているのか、やはりこのままでは終わらないか。月詠市で戦闘をするにしても無理はできない。だが、新たな力にも慣れておかないと、いざという時に存分に戦えない。
「肩慣らし程度に留めておきましょう。人間の兵器が進化していた場合が厄介です。危なくなったらすぐに戻ります。」
「お前は聞き分けがよくて助かる。無理な出撃を控えない愚弟のコナンとは大違いだ」
ロンはほっとして私室を去りった。ラパンは元門に向かう。月詠市に向かおうとすると使用中になっていた。誰かが月詠市を襲撃中だ。
月詠市は任せておいてもらいたいといささか不機嫌になった。だが、他の兄弟たちが興味を持ったなら交渉せねばならない。ドナ姉さんだったら厄介だと苦く思う。
次元門を潜った。月詠市を空から見ると街は半壊状態だった。下では、分裂と再生を繰り返すコナンと日本軍が激しい戦闘をしていた。
日本軍が死にもの狂いで抵抗するのはわかる。だが、暴れているコナンは平静を欠いていたのが意外だった。コナンらしくない無茶な戦い方だと思った。
アルスビズが飛んできたので、力を作用させて軽く落とす。その後、広範囲に重くなる力を放ち、日本軍全体の動きを遅くした。体に何かが当たって弾ける。JP14からの狙撃だった。
以前なら体を貫通した攻撃だが、今のラパンには重力鎧がなくても効かなくなっていた。耐久性が飛躍的に上がったな。
命の波動を感じようとすると細やかに感じられた。攻撃される方向と合わせて考えると敵の居場所がわかった。これは便利だ。最初の一撃を許す展開になるが、JP14から先に攻撃があれば隠れている居場所がわかる。
新生ラパンなら月詠市の地上部分は簡単に破壊できそうだが用心した。人間とは侮っても良いものではない。ラパンは荒い攻撃を繰り返すコナンの一体に近付く。
「大丈夫かコナン。加勢するぞ」
コナンから激しい拒絶が返って来た。
「兄上は手を出さないでください。ここは僕が落とす。戦果は僕のものだ」
どうしたのか、コナンは武功を立てるのに焦っていた。手柄をやると申し出ても、ラパンを信用しないように見えた。コナンは何かに取り憑かれたように戦っていた。
参ったなー、と苦々しく思う。コナンに手を貸してもいい。だが、下手に手を出して人間を殺せばコナンはきっと怒る。プライドを傷付けもする。人間に勝ってもコナンの心が離れれば、後々が面倒だ。
日本軍の弾丸とミサイルがコナンに降り注ぐ。ラパンには無傷でもコナンには効果があった。コナンの再生も分裂も限界があるとラパンは感じた。
このままではコナンの意識体が重篤な怪我を負う。ラパンは不安になると、日本軍がさっと退いていく。だが、コナンは日本軍の行動が変わったのすら気付かない。
ぶーんの音が聞こえてきた。分裂して活動していたコナンの分身が融けていく。人間がなりふり構わず、街の上空でルドラを使い始めた。残ったコナンの本体もルドラを浴びて膝を突いた。
人間の駆除よりコナンの保護が優先だ。これだけ僕が強くなれば後はどうとでもなる。
ラパンはコナンを連れて撤退を決めた。ラパンはコナンを軽くして担ぐ。コナンが苦し気に呻く。コナンの体が崩れないように重力鎧で守った。
「僕にかまわないで。僕はまだやれる。手柄を手立てないと」
「今は退け」と命じる。ラパンは崩れそうになるコナンの体を保護して次元門を潜った。
とんだ、戦いだった。コナンは能力的には強くなったのかもしれないが、精神的に弱くなった。次元門を潜りノスフェラトウ宮に帰るとコナンを治癒の泉に投げ込む。
優しい言葉は却ってコナンを苦しめる。
「少し頭を冷やせ」と冷たく言い放って場をあとにした。今回は間に合ったからいいが、次はこうはいかない。
功績に拘るコナンには、月詠市を僕に任せるように説得しないとダメだ。コナンでは月詠市の攻略はもう荷が重い。




