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第十六話 解放される力

 パルダの獲得が大切な仕事だとわかっているが、そろそろ飽きてきた。ムクドリの視覚を借りて月詠市を偵察する。雪はすっかり融けて草木が芽吹いていた。このままでは夏を通り越して、次の冬が来るのではないかと、漫然と思う。


 ナビと接触を試みて以来、月詠市へは出撃していない。他の兄弟姉妹たちは人間を駆除するために、幾度となく出撃していた。だが、月詠市へ手を出してはいない。


ラパンは趣味の映像図鑑を見て時間を潰す。誰かが部屋にやってくる気配がした。私室の扉が開くとツチがいた。いつもは明るいツチだが、今日は控えめな態度で話を切り出した。


「兄上、末弟のコナンとドナ姉様が人間に敗北しました。傷は深いですが、大事にはいたっておりません、ですが、あまり良い状況ではありません」


 他の兄弟と姉妹の戦況は知らなかった。理由はわかる。人間の言葉にもある。勝利は百人の親を持つが、敗北は孤児である。誰だって自分の負けは吹聴したがらない。


ツチは少しばかり表情を硬くする。

「原因は人間の新兵器ルドラです。ルドラは制御が難しい危険な兵器でしたが、人間は改良を加えて、実用可能な段階にまで性能を安定させてきています」


 ネスを殺せる兵器のルドラか、制御に失敗すれば日本なら数千万人の命を奪う。そうなれば滅びまで、まっしぐら。それでも使って来るのだから、技術力が上がったのか、それとも後がなくなってきたのか。または、両方か。


 改まってツチは切り出した。

「兄上の体はルドラに対しては完全ではないにしろ耐性があります。東京戦でわかりました。ここは対ルドラ装置をこちらで作るために協力してください」


 ルドラが起動すると耳鳴りのような不快感を覚えたが、体は崩壊しなかった。東京戦での肉体の消失の原因はJP14が所持していた携帯型ヴァジラだった。


ルドラは僕には脅威ではないが、他の兄弟たちには脅威か。ルドラが東京戦から改良されているなら、次に使われたら危ないかもしれない。だが、もしここで僕が消滅しても他のネスの役に立つなら良い。


人間を滅ぼそうというのにこちらが被害なしでいたいと考えるのは虫が良すぎる。戦いに犠牲は出るものだ。犠牲者が僕ならそれでもいい。ラパンは決断した。

「出撃ができず、くすぶっていたところだ。僕が出よう」


ツチが掌を上に向けると、空中に虹色に光る立方体が現れる。立方体はゆっくり色を変えてゆく。

「お父様からの贈り物です。兄上は目覚めてから力を充分に引き出せていないご様子」

「言われれば心当たりがある。強くはなったが、十倍までは行っていない」


 立方体を受け取ろうとすると、ツチが慌てて注意する。

「これで本来の力が取り戻せるはずです。ただ、これを使うとかなりの痛みを伴います」


 別に問題なかった。ネスの犠牲を少なくするためなら、痛みに耐えてみせよう。ラパンが箱を受け取ると、箱はラパンの手の中で開いた。


光が溢れラパンを包むが、痛みはない。また、何が変わったかわからない。

「これだけ?」と思うとツチが単眼鏡を取り出して掛ける。

「正常に作動しました。兄上の力は上がっております。当初の予定通りの力が出るでしょう」


 あまり変わった気がしないが、実戦にでればわかる。どの道、戦うしかないのだ。次元門より月詠市に出撃した。高度は二百m。時間帯は昼。その日は、月詠市に濃い霧がかかっていた。霧が出るとは珍しい。


 空気の重さを変えて、風を吹かせる。台風かのような強い風が霧を飛ばす。霧が飛ぶと、下に街がなかった。下は原野だった。

「次元門の出現位置がずれた、だと」


初めての事態に驚いた。人間め、どんな魔法を使った。用心して強めの重力鎧を展開する。状況を確認するために、下に降り立つと、強烈な光がほとばしる。


光は消えたが、展開していた重力鎧が消えていた。体に砲弾が当たった。砲弾は反発して彼方へ飛んでいく。不意打ちを受けた。


 最初はヴァジラを応用した地雷。次が強化されたミョルニル・ハンマーだ。普通ならこの時点で、ラパンは怪我を負ったはず。だが、ほぼ無傷。ラパンの体は確実に強化されていた。


敵意を感じた。即座に重力盾を前面に展開する。無数の銃弾がラパンの前で軌道を変える。攻撃を受けている。敵の姿が見えない。飛んでくる弾の大きさからJP14が撃っているのではないと悟った。


攻撃者の位置に目星を付ける。重くなる攻撃を仕掛けた。半透明な布状のものが破れて、二体の金吒が姿を現す。金吒の腕には『金吒-弐』と表記があった。金吒の新ヴァージョンか。


金吒は手にしていたマシンガンを撃ち尽くす。銃が効かないとみると、腰に提げていた剣を抜いた。二刀流に金吒は構える。刃は前回に見た時と同じく赤く光っている。心なしか、輝きは強くなっていた。刃にも改造を施して威力を上げたな。


二体の金吒が走り込んでくる。二体に向けて力を放つ、金吒の動きは遅くなったが歩みは止まらない。潰れもしない。強くなった力を使っているのに潰せないのだから、金吒もまた強くなっている。


一体にのみに集中して力を掛けると、一体は完全に動きを止めた。自由になったもう一体の金吒がラパンに迫る。


鋭い一撃がくる。ラパンは横に躱す。踏み込んで腕を伸ばして、ジャブをお見舞いする。金吒の顔に掠るが、ぎりぎりで見切られた。


金吒はヴァージョンが上がって運動性能も上がっていた。搭乗員の戦闘スキルも向上していた。ラパンは踏み込んでストレートを放つ。金吒がチャンスと見たのか、ラパンの腕を切り落とそうとした。


重くなる力で剣を後ろに引っぱった。急に重くなった剣のせいで金吒がバランスを崩した。ラパンのストレートが金吒の顔を撃つ。金吒は装甲板を散らしてのけ反る。


すかさず、踏み込んで、二発目、三発目と重くした拳を叩き込む。六発目を入れたところで、金吒は宙を舞い、倒れた。チャンスだと、ジャンプしてから自重を増す。踏み付けて金吒の上半身と下半身を真っ二つにした。


動けない金吒に止めを刺そうと向かった。動けない金吒の手を力任せに引っ張る。腕をもいだ。金吒の持っていた剣を奪って振り上げた。


突如、膝裏に衝撃を受けた。ミョルニル・ハンマーによる精密狙撃だ。がくんとラパンの体勢が崩れた。動けないはずの金吒がもう片方の剣を振り上げた。まずいと焦った。金吒が剣を振り下ろす。ラパンが剣を突きだす。


金吒の剣はラパンの肩に食い込み。ラパンの剣は金吒の胸を貫通した。金吒の上半分が爆発して倒れた。ラパンは肩の傷に意識をやる。傷は浅く肩を動かせる、だが、金吒に斬られた傷は地上では修復が難しいと悟った。


 下を除く全方位から衝撃を受けた。すぐに、重力鎧を展開して攻撃を防いだ。今度はJP14からの攻撃だと悟った。視界を巡らすが、JP14は見えない。ならばと、重くなる力を薄く全方位に伸ばす。力が抵抗を受けて重くならない箇所を把握した。


「今の僕ならできる。重力鎧と併用して重くなる力を使えばいい」 

敵は全部で十二体。ラパンは探知した敵のいる場所にピンポイントで重くなる攻撃を仕掛ける。グシャ、グシャとJP14が潰れて行く手応えを感じた。


六体を潰すと、JP14が姿を現した。JP14は刀を構えていた。遠距離ではラパンが有利と見て、白兵戦に切り替えて来た。


重くなる攻撃でJP14を押し潰そうとした。三体が潰れたが、もう三体は逃れた。

二体がラパンに斬りかかる。もう一体は刀を捨て携帯用ヴァジラを構えていた。


ラパンは斬りかってくる二体に力を掛けて動きを止める。潰してやろうとJP14の頭を掴んだ。片方からパルダの気配を感じた。


「片方の搭乗員は僕のパルダか?」

ラパンはとっさに手加減をして二体を遠くへ放り投げた。携帯用のヴァジラが放たれる。ラパンは重力鎧を展開した。重力鎧とヴァジラがぶつかりお互いに消滅する。


ラパンの重力鎧はヴァジラを防げるほどに強くなっていた。身体の内側に力を溜めるメージを浮かべる。力を解き放つ。力の柱が拡がった。ラパンから半径十㎞圏内のものは全て潰れた。


柱は上にも影響したのか、雲に穴が空き、偵察機も空から降って来る。原野に展開していた日本軍は全滅した。「勝った」と思ったところで、あの不快な音が聞こえてくる。


人間がルドラを使ってきた。耳鳴りはだんだんと酷くなる。視界が歪み、体の表面が不規則に震えた。この程度ではまだ耐えられる自信があるが、不調が酷くなる一方。


人間がルドラの出力を上げている。どこまで耐えられるか試してやろうかと思った。

ツチの声が頭に響く。


「兄上、データは取れました。撤退してください。これ以上は兄上でも多大な影響を受けます。再生できなくなれば大変です。それに、現段階で人間をこれ以上追い込むのは得策ではありません」


 今の僕ならルドラが暴走するまで耐えられる。ルドラが暴走すればこの国は終わりだ。ラパンはこのまま日本を終わらせようかと考えたところで、お父様の声が頭に響く。


「撤退せよ、ラパン。今はまだその時ではないのだ」

ラパンは悔しくもあるが、退却を決めた。お父様には何か考えがあるのなら、ラパンの独断専行で足並みを乱すわけにはいかない。いつでも勝てるさ、とラパンは歪んで壊れそうになっている次元門を潜った。

文章のチェックの関係で更新を土曜日まで休みます。次回は更新予定は日は9月18日(日)です。今回は最後まで書いているので、短く終わるかもしれませんが、途中打ち切りはありません。

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