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第十五話 骨の詩

 治癒の泉にお父様がやってくる。ラパンは成果である箱を渡した。

 滅多に笑わないお父様がニコリとして笑って褒める。

「ご苦労であった。さすがは我が息子だ。ゆっくり休め。ここからは私の仕事だ」


 お父様が退出すると、ラパンは重大な任務をやり遂げた充実感を覚えた。数日の休みをとって出撃しようとするが、出撃用の赤門が反応しなかった。


 アルゼが管理している次元門が故障するとは思えない。どこが変なのか、見ていると、リーゼがやってくる。リーゼは楽しそうにラパンを見る。


「何をしているのラパン? 次元門の清掃? それならバルバたちの仕事よ」

「次元門が反応しないのです、姉上。これでは出撃できません」


 リーゼはふふふと笑う。

「ダメよ、ラパン。お父様から与えられた指示は休め、でしょう」


「休め」は社交辞令的な言葉ではなく、命令だったのか。なら、理解できる。お父様の命令でアルゼが次元門を使えなくしているのか。


 こうなると暇だな。戦って人間たちの苦しみを少しでも早く終わらせるのが慈悲なのに。こちらも新時代に早く行きたい。リーゼがふわふわと青門の前に行く。


「今しばらく辛抱の時よ。それより、ラパンは獲得したパルダが少なさすぎるわ。もっとパルダの獲得に努力しなさい。パルダ獲得も私たちの仕事よ。人間たちの数は三十億をそろそろ切るわ」


 短期間に随分と減ったな。ネスの数が変わらず人間の数が減る。そうすれば、人間を駆除する速度は上がる。だが、少し早い気がする。何か事情があるのか?


 リーゼと別れたラパンは図書室にいく。図書室には大きな花が咲く大樹がある。大樹には綺麗な花が咲き、花に蝶が止まっている。大樹は情報の塊であり、花から蜜を吸う蝶がデータの整理をしている。


 ラパンは最新のニュースを調べるために揚羽蝶を指に止める。特段、目新しい情報はない。ラパンはそこで周囲に家族の目がない状況を確認する。


 大樹に近付き、腕を大樹に差し込む。ラパンの腕を大樹が拒むがそのまま奥へと腕を入れた。乗り物酔いにも似た不快感が襲う。強引に情報を抜き出すラパンの無茶にセキュリティ・システムからの警告だった。


 大樹の中で腕を回転させて大樹の中枢へとアクセスする。大樹がぶるっと震えると大人しくなる。ラパンは強引に大樹を従わせた。公になっていない情報にアクセスする。


 東アジアで人間が巻き返そうとして失敗した、との情報があった。人間はルドラと呼ばれる新兵器を使おうとしたが、ルドラは暴走した。ルドラは辺りの生命を根こそぎ死滅させた。人間が手に余る兵器の制御に失敗して数を大きく減らしたか。珍しい話ではない。だが。気になる記述が二つあった。


 ルドラの暴走に巻き込まれて、十五人のネスが消滅していた。ネス側に初めて犠牲者が出たのにラパンは驚いた。また、近くにいたネスの話では、ルドラの暴走前に耳鳴りのような音を聞いたとあった。不快な音は死の都と化した東京で聞いた。


 日本ではルドラの実用化が始まるのではないか? もし、実用化されれば家族に犠牲者が出る日が来る。出撃したいとラパンは思ったが、出撃は止められている。ラパンは出撃できない現状にやきもきした。


 早足で近付いて来る足音がする。誰かがやって来た。ラパンはさっと大樹から腕を引き抜く。やって来た人物はツチだった。ツチは不機嫌な顔でラパンを見る。


「兄上、知識の大樹に何かしましたか? 警報が鳴りましたよ」

 ツチなら上手く痕跡を消せたろうが、ラパンではそうはいかない。ツチが調べればわかるだろうが、目撃者がいないので白を切り通すつもりだった。故意にやったが、ツチならお父様に告げ口をしないと予想ができた。


「よろけてぶつかってしまった。強くぶつかったから、大樹に影響が出たかもしれない。許せ。では、パルダの獲得に出掛ける」

「お待ちください、兄上」とツチが目を細めて呼び止める。


「忙しい、忙しい」と長兄のアルゼを真似て、足早に立ち去った。ラパンは追及を避けるために、さっさと青門を潜ってパルダの元に行く。


 時間潰しと功績を上げるために十五名のパルダを獲得した。新たにパルダになった人間はすぐ死にそうだったので、名前はうろ覚えだった。生き残れば良し、生き残らねばそれまでの感覚だった。


 十六人目を獲得に出る。出た場所は昼の埠頭だった。近くの小屋の中で人の気配がする。窓から中を覗くと、松子が一人でいた。松子は網の修繕をしていた。


 新たなパルダの元に行くはずが、間違って現役パルダの元に出た。やり直してもよいが、次にいつ会うかもわからない。顔を合わせておいてやろうと思った。


 小屋の扉を開け、さっと中に入る。松子はラパンを見ると懐かしそうにする。

「お久しぶりですね。ラパン様。いつもは祈っても答えてくれないのに、今日はどうしたんですか?」


 間違ってやってきた、と答えるのも気恥ずかしいので誤魔化す。

「不定期巡回だ。僕はこうして時折、パルダの元を訪問する」


 松子にラパンの言葉を疑った様子はない。表情もやわらかく、やんわりと松子が語る。

「月詠市の地下にはネスがいます。人間に協力するネスです」


 ナビのことだな。松子がこうして機密を知っている状況を見ると、松子はちゃんと仕事をしている。どうやって、情報を手に入れたか知らないので、興味が湧く。


「よくわかったな。どうしてわかった?」

「食堂で回収してきた煮魚の骨にメッセージが記憶されていました。あれは、パルダにだけわかるメッセージでした。発信者はナビと名乗っています」


 人間は捨てる魚料理の骨までは調べない。ナビが松子にメッセージを託すとは思えない。つまり、ナビはナビでパルダを確保している。松子は偶然、食品残渣を処理する過程で知ったに過ぎない。ナビが何を考えているのかが気になる。


「ナビはパルダに何を伝えている?」

 松子がちょっとばかり困った顔して答える。


「メッセージは外国語の詩です。英語でも中国語でもありません。最初は何か暗号かと思いましたが、どうも違うようです」


 松子が解読できなかっただけの可能性もあるが、詩になっているのが気になった。

「その骨はどこにある。まだ、持っているのか?」


 松子は首を横に振った。

「おかしな行動を取ると危険なので、ゴミ箱に捨てています。ゴミは肥料化されて畑に撒かれています。特定の畑ではないので、回収も無理です」


 ゴミ収集員の中にナビのパルダはいる。ないしは、詩を囁く骨に何か効果があって月詠市の近郊に意図して撒かれている。どちらにしろ、ナビはナビでまだやることがあるのか。


「引き続き情報収集を頼む」と命じ、ラパンは松子の元を去ろうとした。すると、松子は引きとどめる。

「JP14の搭乗員を抱き込みました。鏑木将人です。彼からもっと情報を引き出します」


 パルダとパルダが知らない間に知り合う事態もたまにあるが、パルダの情報を教えるかどうかは難しい。下手に教えて、他人にばれでもすれば、もう片方のパルダを危険に曝す。だが、あえてラパンは松子に教えた。


「お前にだけ教えておく。鏑木将人は既にパルダだ。だが、証を見せるのは気を付けろ。鏑木に誰かが成りすましているかもしれない」


 ラパンの言葉に松子は安堵した。

「情報収集を続けながら鏑木をそれとなくサポートします」


 ラパンは次元門からノスフェラトウ宮に帰る。皆が皆、思惑を持って動いている。各自やりたいようにやれば良い。僕は家族を信じて本分を果たすのみだ。

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