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第十四話 滅びの定めのナビ

 意識体になる。意識体が感じるのはイメージの世界。人間が主に活動する物質界とはまた違う。命は光り、命を持たないものは無味無感想に白と黒で描かれる。


 ラパンの体は精神世界で光る巨人だった。ラパンはイメージして体を身長五mまで縮小した。黒の空間に白い線で描かれた地面をすり抜けた。


 平坦な地面を突き抜けた。薄い板のような地面下には透明な空間が拡がっていた。地下に十m降りただけで、ラパンを拒む力を感じた。


 力は壁としてラパンの前に立はだかっていた。受ける印象は薄い擦りガラスの壁だった。壁を迂回しようとする。壁は長大で、街を覆うように張り巡らされていた。


 入れる隙間はない。壁に近付いて注視する。破れないほど強固ではない。破壊はできるが、壊せば人間に察知される結果は目に見えていた。


「意識体による精神世界での活動は慣れないが、やるしかない」

壁に手を付ける。力を掛けて一気に破壊した。精神世界での意識体は動きが速い。即座に移動して、壁の二十箇所に穴を空ける。多数の穴が空けば人間側の防御は拡散する。


 壁に穴を空けると、地下に散らばる人間の命の光が見えた。光の元から警戒色の赤い波が感じとれた。精神世界から地下施設への侵入が人間たちに伝わっていた。地上では大騒ぎだな。


 精神世界から物質世界へ体の再構築が今のラパンには可能だった。この場所から実体化すれば、物理的な侵入が可能になる。だが、奥の手は隠しておく。精神世界の壁を越え、外から内側に向けて進むと、二層目の壁にすぐにぶつかった。


 二層目の壁は土壁だった。壊すのはガラスの壁より手間だが、問題なく崩せる。

「ガラスの壁は壊れた時に察知するための警報機の代わりだな。土壁は守るためか。受ける印象が岩なら時間も掛かるが、僕にとっては土塊だ。壁に厚みもない。簡単に崩せる」


 土壁に二十箇所の穴を空ける作戦は時間が掛かり過ぎる。穴を空ける箇所は十箇所にした。侵入して来る先が十箇所でも人間は防御を分散せざるを得ない。


 土壁を破ってさらに進むと、また土壁がある。破ってもまた土壁が出てくる。合計で四層の土壁を破る。土壁と土壁の間の空間にもいくつもの命の波動を感じたが、無視する。今回の目的は人間の駆除ではない。


 次々と壁を掘っていく。十層まで掘り抜いたところで異常を感じた。だいぶ内部まで侵入したのに、中心部が見えてこない。また、壁の強度が一向に上がらない。守りたい中枢ほど防備を強くするはず。ラパンは気が付いてはっとした。


「やられた、これは罠だ」

 多方面からの侵入を中止した。いったん、ガラス壁の外に戻ろうとする。意識で構成された体が動かなくなった。思考はできるが、動けない。異常が起きた事態は明白だった。無限に掘れる壁を罠と気付かれた人間が、ラパンの意識体を拘束に出た。


 ラパンは動こうと努力すると拘束が段々と弱くなる。拘束が弱くなって行く、と思ったが違った。ラパンの力が増していた。ラパンの体の放つ光が強くなって行く。強化されたラパンは意識体としても強くなっていた。拘束を破れると悟った。


 意識体をいったん砂粒にするイメージをしてから、爆発的に膨らませる。拘束が弾け飛ぶ。拘束が解けてラパンは自由になった。大きな陶器の壺が見えた。壺からは霧のようなものがしゅうしゅうと噴き出している。霧がラパンを惑わせていると直感した。


「精神世界での罠か。ナビの知識を使ったな。破壊は容易だが気付かないと余計な時間を喰う」

殴りつけると壺は砕け散った。壺を壊して進むと、土壁が見えてくる。随分と時間を喰ったので、多方面からの侵攻はしない。一点突破する。そのまま進と、三層目の木の壁が見えてくる。木の壁に近付くと、木の壁から茨が生えて壁をガードする。


 傷付くのを恐れず、茨の壁に掴みかかる。ここでラパンは初めて『痛み』を感じた。初めて感じる痛みだが、動揺を気合で抑え込む。ラパンは痛みを身体の奥に封じるこめた。


 茨の壁の先には水の壁があった。手を突っ込むと冷たさを感じるがそのまま突き破った。先にはラパンと同じ大きさの猛犬が三頭、待ち構えていた。飛び掛かる猛犬に畏れず挑みかかり、逆に殴り殺す。


 大きな門と小さな門が見えてきた。どちらも金属製でぴたりと閉じている。触ると冷たい。力を込めて大きな門を殴ると軽く凹むが壊れない。門がラパンの侵入を防いでいた。大きな門を三度だけ殴る。


 ひたすら殴り続ければ壊れそうだが時間は掛かる。ここでラパンは視界が暗くなってきた事態に気が付いた。


「最初の罠で時間を喰い過ぎた。活動時間の限界が近づいているのか。門はどちらかしか壊せない」

二つの門の先にどちらも重要なものがある気がしてならなかった。だが、破壊できる門は時間的に一つだけ。迷ったラパンは叫んだ。


「ナビいるのか? いるなら返事をしてくれ」

「私はここです」と小さな門の中から女性の声がした。ラパンは小さな門を殴る。扉が歪み隙間ができると両手を突っ込み一気にこじ開けた。体を三分の一のサイズにして門を潜る。


 中は牢屋になっておりナビが閉じ込められていた。精神世界のナビは髪の長い若い女性の姿で、ローブを着ている。ナビは壁から伸びる四本の鎖に拘束されていた。ラパンは牢の前面の鉄格子に手をかける。力任せに広げれば開きそうだった。


 疑問に思う。これくらいの格子、ナビなら壊せるのではないだろうか? ナビを縛る拘束具とて、ナビが本気になれば壊せるのではないだろうか?


 ナビが微笑むとナビの肩から一の白い蝶が現れて、ラパンの肩に止まる。

「お父様が欲しているのは私ではありません。蝶には情報が込めてあります。蝶を持ち帰ればお父様はお喜びになるでしょう。人間側が持っていたラジウス書簡の情報です」


 ナビがお父様から事前に連絡を受けていたとは考え辛い。ナビは兄弟姉妹の誰かが来る未来を知っていた。これもアポカリプス作戦の一端で、全ては予定されていたのだろうか?


「お前はここから出たいと思わないのか?」

 ラパンの素直な問いだった。ナビが帰還を望むのなら願いを叶えてやろう。寂しげにナビは微笑む。


「ネスと人の子の間に生まれた私が滅びるのは定め。ネスが勝っても、人間が勝っても、どちらでも存在できない。私は消えます。なら、ここでも同じこと」


 ラパンの視界が暗さを増す。活動の限界が迫っていた。今なら、ナビを救える。だが、これ以上に力を失えば、帰還すらも難しい。


 ラパンは妹を助けたい感情があった。されど、ナビの意志を無視したくなかった。

「帰ろう、ノスフェラトウ宮に。僕はお前を迎えたい」


 ナビは悲しい顔をする。ナビは軽く首を横に振った。

「必要ありません。ナビが人間と共にいるのはソロモン・アーカイブの願いでもあります」


 ナビは何かを覚悟して達観していた。まるで、未来が見えているようであった。ラパンはナビがどうすれば幸せかわからないが、考えの押し付けはナビを苦しめると悟った。


「今日の所は引く。だが、ナビよ。僕は人間を滅ぼした暁にはまたここに来る。その時はここを出て、ネスの傍で穏やかに消えるといい」


 ナビは感謝が籠った瞳をラパンに向ける。

「優しいお兄様。どうか、兄さまの行く先に新しい時代があることを願います」


 ラパンはナビと別れると全力で地下から飛び出す。気が付いた時には治癒の泉の中にいた。手を開くと中に小さな黒い箱がある。箱には白い蝶の紋章が入っていた。

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