2
私が何故、学校に通う事になったかと言うと、学校に留学という名目で他国の王子達が学校に通うことになったからだ。
周辺国同士で王子を交換留学させ、戦争が起こらないようにしているとか。
聖女である私が周辺国の王子達に顔を売り、仲良くしておけば役に立つだろう。そして、あわよくば王子達と結婚すれば自国に有益な結果になるだろうといった所だ。
学校は王族、公爵、侯爵が主に通い、1部の裕福なその他の貴族が通う学校だ。
貧乏人はお断り、平民なんて論外
そんな中、私は平民出身の聖職者馴染めるはずもなく
入学式、1人1人前に出て自己紹介をすることになり
「初めまして、エレーヌです。皆様よろしくお願いします」
深々く頭を下げると
「ふうん、コイツが聖女?普通の女じゃん」
教皇の息子が野次を飛ばしてきた
「やめてやれ。お前が跡を継いだら部下になる奴だろ」
「ですが、平民上がりの身。そのぐらい当然では?」
王宮騎士の息子と最近賢者になった侯爵家の息子
特に相手にせず、席に戻ると彼らは機嫌を悪くしまた野次を飛ばされた。
「何とか言ったらどーなの?未来の上司だぞ?」
「耳が聞こえていないのでは?」
うだうだ絡まれていると他国の王子が助け船を出してくれた。
「この国のおぼっちゃまは聖女を虐めるのだな 」
「ぐっ、別に虐めてなど」
舌打ちをして別の人に絡みに行った。
「助けて下さって、ありがとうございます。」
「当然の事をしたまでだよ。それにしても君、美人だね。急なんだけど良かったら婚約してくれないかな?聖女と結婚すれば僕の地位が安定する。愛の欠片も無いが、大事にすると誓うよ」
「え、私1人では決めれません。それと、素直に愛などない。なんて言うんですね」
「ああ、パートナーになる人に嘘はつきたくないからね」
後日、正式に私へ婚約の打診が来た。
王や、教皇、大神官達が最終的に私と彼が婚約することを決定した。
婚約してから彼はとても私に優しくしてくれて、私はとても幸せだった。
だけど、彼は束縛が激しく
「男と手紙を書きあっているのか。受け取り拒否して、お前からの手紙も禁じる」
「彼とは別に何もありません。手紙の内容も見たでしょう?」
「文字だけでは分からない。とにかく禁止だ!」
「いま、誰を見ていた。浮気か?」
散々疑われ、私も心が疲弊していたとき
「初めまして~!私、ディアナって言います!私も聖女様と同じで聖なる力が多かったのでこの学校に編入してきました。よろしくお願いします~!」
ディアナが編入してきた。
「エレーヌ様、私。エレーヌ様の婚約者の人好きになっちゃいましたぁ。良かったら譲ってくれません?私も聖なる力多いですし、いいですよね?」
「私が決めた婚約ではないの。王や教皇に話して貰えるかしら」
「えー、そんなのじゃないんです。私、色んなお金持ちの男の子と遊びたいんです。でも、やっぱり聖女の貴方に皆興味あるんですいね。だから、聖女の地位狙いに行きますね!」
「ねぇ、私の方がエレーヌよりもぉ、聖なる力が多いの。だから私が本当の聖女のはずよ。貴方がお父様に言ってくれれば、審査してくれるんでしょ?お願い」
彼女は教皇の息子に頼み、私と彼女のどちらが聖なる力が多いかを審査する機会を設けさせた。
そして私は彼女に負けた。私が手をかざした水晶玉よりも彼女の方が輝き、力がみなぎっていたのだ。
「今日より、エレーヌ聖女を解任し新たにディアナを聖女とする!」
審議及び、そう宣言したのはかつて私を聖女と言い、あの村から連れ出した大神官であった。
そして聖女の座はディアナへ移された。
教皇の息子の指示により、エレーヌからディアナに聖女が変わった事は、学校内の月に1回のパーティで発表されることになった。
パーティ前日
どうせパーティで私は偽聖女として断罪されるのは決定しているので諦めていつもなら絶対に着ないような派手なドレスを選び、大神官達には今までのお礼と学校を卒業したい事を伝ると、私が明日どんな事を言われても反論せず、新たな聖女が本当の聖女であることを認め、彼女に一切接触しない事を条件に認められた。
教皇と教皇の息子に挨拶をしようとしたが、新たな聖女のディアナと和気あいあいとお茶をしていたため辞めておいた。
その様子を見ていた大神官から彼女が教皇の息子と結婚する事を聞かされた。
「エレーヌ聖女、私は貴女をあの村から無理やり連れ出し、幼い貴女に無茶をさせました。そしてどちらが聖女かを決める儀式で私は貴女を聖女ではないと言いました。それが私の役目だったとは言え、申し訳ありませんでした」
大神官が頭を下げ、私に謝ってきた。罪悪感が合ったようだ。
「いえ、役目ですから。
聖女は国を守り、国の為に死ぬのが役目で大神官は神官達をまとめる。
聖女は神からの信託を受けて、地に降りたち、地を神の望む方向へと誘導するものと貴方は私に教えて下さりました。
しかし、私には歴代の聖女達のように神の声も聞こえなければ、人々を導くなどといった事が向いていなかった。
ですので魂からも聖女ではなかったのでしょう」
沈黙の後、大神官は
「それでも、私が最初から貴女をこの場所に連れてこなければこんな事にはならず、幸せだったのではないかと思ってしまいます」
「どうでしょう。あのまま草いじりをしていた私はただの村娘でしたが、今の私は元聖女になるんです。ですからこれからなんだって出来ますわ。元聖女なんて話題性は十分でしょうし。全く罪悪感なんて抱かないでください」
「わ、私は貴女にひとつ言わなかった事があります。聖女はどんなに危機的状況でも清い心を忘れないのです。貴女は聖女ではなかったと言われても清い心です。貴女は偽聖女ではありませんっ」
60歳を過ぎた大神官が涙を浮かべている姿を見て少し面白かったがすぐに背を向け、
「褒めても意味無いですよ」
ポツリと大神官の言葉に返事をした。
パーティ当日
目覚めの悪い朝だった。昨夜はすぐに寝れず、睡眠時間が少なかったからだろう。
今日は夜に学内のパーティがあるのだが午前中は授業があるため、いくら眠くても学校に行く支度をするしか無かった。
もしかしたら、今日がこの部屋を使う最後の日になるかもしれない。
歴史上、偽聖女の末路は決まって悲惨なものだった。
魔女として処刑されたり、偽聖女を他国へ売ったり、平民ではなく奴隷として追い出されたり。
運良く平民としての暮らしを勝ち取っても、偽聖女というレッテルでは誰も雇ってくれるはずがなかった。
だから、今日の夜に私が本当の聖女ではなかった事を発表されるとどんな酷い扱いが待っているのだろうか。
学校卒業までは最低限は保証されるだろうが、その後をどうするかを考えなければならないし、婚約者にも謝罪をして婚約者の国との関係が悪くならないようにしなければならない。
「考えることが山積みだわ」
「おはようございます。今日のパーティで貴女と参加する事が楽しみでよく寝れませんでした」
通学路に立って明らかに私を待っていたであろう婚約者が話しかけてきた。
「あははっ、私もよく寝られませんでした」
貴方と婚約破棄をした後の事を考えると。とは言えないが
その後適当な世間話をしてお互いの教室に別れた。
「聖女様!おはようございます。昨日はよく寝れましたか?」
ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて話しかけてきたのは教皇の息子だった。
「パーティに緊張してしまってよく寝れましたわ」
「それはそれは、聖女様は入学から居らっしゃるのに緊張したんですか。ディアナが緊張したと言うなら分かりますがね?」
嫌な人。私が今日、聖女では無いことを発表されるのを面白がっているのだろう。
「えー?もしかしてディアナの話してますー?」
どこから来たのか教皇の息子の横に張り付き、私を見て明らかに見下したディアナは笑いながら
「まあ、ディアナも今日のパーティが楽しみ過ぎてよく寝れなかったので一緒ですね!」
そう言うと周りにいた入学式で私を馬鹿にした、王宮騎士の息子と賢者がディアナを取り囲み睡眠不足を心配し、保健室に連れて行った。
授業はいつも通り進み、すぐに終わってしまった。
「聖女様、本当にこのドレスをお着るのですか?」
「えぇ、気合いを入れたいの」
「聖女様が良いなら良いのですが......」
今までの私ならば絶対に選ばなかった系統のドレスだったから、戸惑うのも無理もないだろう。
ドレスはすぐに着付けられ婚約者が私の部屋に呼びに来た。
「エレーヌ様、準備できましたか?」
「えぇ、行きましょうか」
婚約者も真実を知ったらディアナに擦り寄る様になるのだろうから私は1人、戦うことになるのだろう。
「お疲れな様子ですね。もし、何かお悩みなのでしたら私が力になれないでしょうか?」
「お気遣い、ありがとうございます」
「私は本当に貴女の力になりたいのです」
力になんてなれないのに
「もう、会場に着きますわよ」
お互い黙り、ドアを開け会場の中に入っていった。
会場には教皇の息子もディアナも居なかった。後から来るのだろうか。
「聖女様ー!!お久しぶりですわ!」
この国は聖なる力を多く持つ者を神聖視している人が多くいるため、こうやって話し掛けられることが多くある。
仲良くなれば祝福を授かることができるとでも考えている人もその内に多くいるだろうが。
そうやって話し掛けてきた人達と挨拶を交わしているとディアナと教皇の息子が会場に入ってきた。