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聖女、それは国を守り、国の為に死ぬのが役目だった。


聖女は神からの信託を受けて、地に降りたち、地を神の望む方向へと誘導するものであった。



毎日、毎日そう教えられていた。



私は本当の聖女ではない。何故なら、私には歴代の聖女達のように神の声も聞こえなければ、人々を導くなどといった事が向いていなかった。








この国では聖女を探すべく年頃になると、国中の女が聖女かどうかを見極めるテストを受けなければならない。


テストといっても神殿で水晶玉に手をかざすだけ。


この水晶玉は聖なる力をどれほど持っているかが分かるものだ。


私は元々、平民の生まれだった。それもド田舎の農家の娘で家の手伝いとしてよく水やりや草むしりといった簡単な作業をしていた。


年頃になると神殿に行かなければならないが、田舎の平民には首都まで行って帰ってくる金の余裕がない。そのため、簡易的な水晶玉に手をかざす事になっていた。



大神官と名乗るものは田舎と平民が嫌いなようで、嫌々水晶玉に手を次々とかざさせ如何にも早く帰りたいといった表情だった。



「次!」


「ぁ、ぇっとエレーヌで、です 」


「手を水晶玉にかざせ」


「は、はい」


神聖なる儀式だそうで、検査する部屋には大神官と他の新官が沢山、私の周りを囲んでいた。


私は怖くて手が震えながら水晶玉に手をかざした。


「ふん、コイツで最期なのにハズレか。次の村はここから近いのか?」


大神官は気だるそうに他の新官に尋ねると、私の方を見ると


「まだ居たのか、戻れ戻れ」


「だ、大神官様!?す、水晶玉が!!」


パキッ パキッ


パキッ パキッ



まるで卵を割るように縦にヒビが入り、



パッッキーーン



砕け散った


「お、お前!す、水晶玉にひ、ヒビを入れ、壊すなど!?断じてゆるせん!」


1人の若い新官が私に怒りをぶつけ、殴りかかってきた。


が、若い新官が私を殴るよりも早く、大神官がその者に平手打ちをし、私の前で跪くと


「聖女様になんて事をするのだ!!??


貴方は選ばれし、我が国の聖女でございます。これから国のため、国民のために我々をお導き下さい」



大神官が何を言っているのか分からなかった。しかし、理解出来たのは私を見る目がまるで神を見るかのような眼差しを向けていた。



その日、私の生活は一変した。


私は聖女として修行を積むべく、首都の神殿で今後暮らさなくてはいけないらしい。だが、私は今日の分の草むしりをやっていなかった。


その事を新官達に告げると、「聖女たるものそのような事はなさっては行けません」との事。


大神官は他の大神官と連絡をとり、新聞社に聖女が見つかった事を記事にするように指示した。


生まれ育った村を離れる事になったのは、私が水晶玉に手をかざした30分後だった。


両親とは挨拶もできず、私は村を後にした。見たこともないような立派な馬車にのり、次第に窓の外の村は小さくなっていった。



村から首都までは4日掛かる。そして、その間までに礼儀作法を学んだ。



聖女が見つかったらまず、国王に謁見しなければならない決まりだそうで、粗相のないようにしなくてはならないからだ。


大神官は初対面の時とは全く違い、邪険にもされず、高貴な身分の人に接するように接しられた。


大神官の教えは分かりやすく、そして時に厳しいものだった。数時間前までは農家の娘として育ってきた訳だから、マナーのマの字もなく、タイムリミットは4日後。それは厳しくもなるだろう。


基本的な仕草は覚えたが、言葉遣いは難しく、予め大神官が決めた文をそのまま覚えて言う事になっり、なんとか本番を迎えた。


初めての首都はとても輝いていた。市場は賑わっており、人も村と比べ、たっくさん人がいた。




そして、王宮に着くと

「練習どうりにやっていきましょう!もし、間違えてしまわれても私達がサポート致しますので」


大神官は私にそう言い、他の大神官の元に行ってしまった。




国王の間に足を踏み入れこんだ。


瞼を開けると、視界に入ってきたのは神々しいほどの黄金に輝く部屋だった。それは王の間の名に相応しいほと豪華だった。


黄金の部屋の真ん中のは国王であった。


「お前がこの国の新しい聖女か。大いに期待しておるぞ」


「はっ、必ずやこの国のため、国民のため、最善を尽くしていきます」



大神官の言っていた通りに返事をし、なんとか受け答えをして王宮を後にした。



そのまま神殿に向かい、簡易的な水晶玉とは比べ物にならない大きさの水晶玉に手をかざすように言われた。



一同の注目が私に集まり、静かに見守られた。




私が水晶玉に手をかざすと水晶玉は眩しく光初め、まるで太陽のように直視することが出来ない眩しさになっていった。



「まっ、眩しい!!正しく聖女の力!」



手をかざすのを止めると光は徐々に失われていき、周りで見ていた新官や大神官は歓喜に包まれていた。



これでこの国は安泰だ。と




聖女かどうかの検査は終わり、私は正式に聖女になった。



聖女の朝は早い。朝は女性の新官が私を起こしに来る。その時刻、午前3時である。


着替えを済ませ、朝食を食べ終わるとまず朝の祈りを捧げるべく宮殿に向かう。


そして、王族たちの前で聖書の一文を読み、王族たちに祝福を授ける。


身分が高いものから祝福を授けるため、最後は1番身分の低い者に祝福を授ける。最初は国王、次に王妃、第1王子、第1王女.....



私が水晶玉に手をかざすように、彼の頭の上に手をかざすと頭の周りが輝き、それが祝福になる。




次にする聖女の仕事とは、貴族たちも祝福を授けることだ。


神殿に金を渡せば、祝福を授かる事が出来、1回だけでも高いのに何度も来る人が後を立たなかった。


その作業を捌き切ると、勉強の時間が始まる。


読み書きから始まり、歴代の聖女の偉大なお話をされる。


読み書きは辛かったが聖女の話を聞くのは昔話を聞いているようで面白かった。



それが夜8時まで続き、夕食を食べると風呂に入って就寝。


そして、また明日になると女の新官に起こされる。




ただ、この暮らしに1ヶ月に1回だけ聖なる力を持たない王子への説法をすることがある。





「あ、あのー。エレーヌです。説法をしに来ました.....」


幽閉されている塔は寂れており、壁に草木が生えている有様。


説法は1ヶ月に1回、3時間と決められていた。しかし、使用人も神官も説法中、塔に立ち入る事は禁止されており、どこに王子が居るのかも分からない状況に陥った。



その王子には聖なる力がない



この国の住民は皆、少なからず聖なる力があるものだった。それなのに力が無いとなると、前世で悪いことをしたのではないかと考えられていたため、彼は危険人物だと決めつけられて幽閉されているそうだ。


そして、何故私が説法をしなければならないかというと、いくら前世で悪いことをしても、今世でいい事をすればきっと来世では聖なるを持てるようになると信じられているから。



「王子ーー!どこにいらっしゃいますかーー?」


王子からしても迷惑な事だろう。知らない聖女とかいう女が説法をしに来ているのだから。


だが、私も譲る訳には行かなかった。やらなければ、怒られるだろうし、もうこの先10年間は毎月1回、この塔に来て説法をすると決まってしまったからだ。



30分程、王子を探したが何処にも見当たらない。



仕方ないので壁の草をむしることにした。この先10年間世話になる塔が汚いのは嫌だったのと、私は草むしりが大好きだった。


草はむしり終わり、次は壁のツタをとることにしたが如何せん硬い。


無理だな。と思い、諦めて休憩していると


首元にナイフが突きつけられ


「おい、さっきからずっと何をしていた」


王子だと思われる人が現れた。


2人は目を合わせることなく、


「壁の草をむしっていました」


「何故だ?」


「気に食わなかったもので。草木がお好きなのでしたら、申し訳ないことをしましたわ。」


「お前、暗殺しに来たんじゃなかったんだな」


「私は聖女で、貴方に説法をしに来ました」


「そうか」


言い終わると、私の首元にあったナイフは下げられた。



「今後10年間月に1回、3時間、私は貴方に説法をすることが決まりました。ですが私は説法などする気がありません。今日はこの塔を綺麗にしましょう。やってくださいますか?」


王子を見ると、嫌だと言いたげな顔をしていた。


「断ったら、あのナイフ、こちらで預からなくてはなりません」


半ば脅すと、渋々ながら私の提案を承諾してくれた。



「お前、聖女なんだったら俺の事も祝福出来るのか?」


「やってみますか、頭を下げて下さい」



だが、彼の頭の上に手を置くとなるで磁石のように弾き飛ばされ


「い゛ッ」


「い゛ッ」



私も痛かったが彼も相当痛かったらしく、その日は彼に祝福を授けることも説法をすることも無く塔を後にした。






それからも月1回で王子と説法をするという名目で会い、年相応の遊びをした。



そして月日は流れ、私は名門の貴族が通う学校へ入学した。そして彼は別の国へ留学に行った。


その国は信仰しているものが違うため、彼は差別されるような事が起こらないと踏んだのだろう。


お互い合うこともなく、定期的に手紙を送り合う事で連絡は取っているが、ほとんど交流が薄れてしまっていっていた。


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