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短編

隻眼聖女

作者: 八百板典所



(一)

 『隻眼聖女』に雇われて早数日。

 俺は彼女の事をよく理解していない。


「大丈夫ですか、傭兵さん」

 泥濘んだ地面の所為で足を滑らせてしまう。

 泥塗れになった身体で白い薄衣を纏った春天を仰いだ。

 空を縦横無尽に駆け抜ける小鳥達が、足を滑らせた俺を嘲笑する。

 冷たい春風が泥だらけになった俺の身体を優しく撫で上げた。


「神なんかを信じているから、足元を掬われるんですよ」


「聖職者としてあるまじき発言だな」


 神を冒涜するような発言を口にしながら、隻眼聖女が俺の顔を覗き込む。

 右目に刻まれている縦一文字の傷が特徴的な彼女は、心配そうな表情を浮かべると、泥塗れになった俺に手を差し伸べた。

 唯一残った彼女の左瞳に視線を向ける。

 目が合った途端、彼女は俺から視線を逸らした。


「いいのか? その手、間違いなく汚れるぞ」


「いいですよ。罪は拭い落とせませんが、泥なら洗えば落ちますから」


 彼女の手を見る。

 汚れ一つついていない綺麗な手だった。

 自分の手を見る。

 血の匂いが染み込んでいた。

 彼女の手を汚す事に罪悪感を覚える。

 眉間に皺を寄せた後、俺は彼女の手を借りる事なく立ち上がった。

 周囲を見渡す。

 四方八方、どこを見渡しても木しか見当たらない。

 つまらない風景だ。

 俺達を取り囲むように立ち並ぶ木々と昨夜の雨で泥々になった地面を睨みながら、此処が山道である事を改めて痛感する。


「怪我がなさそうで良かったです」


 右手についた泥を比較的綺麗な右頬で拭いながら、俺は聖職者の衣装に身を包んだ彼女の左瞳を覗き込む。

 彼女の瞳に映る俺の姿は小汚い仔犬みたいだった。

 再び彼女と目が合う。

 すぐさま彼女は俺から視線を逸らした。

 見るに耐えなかったんだろう。

 地味に傷つく。

 彼女は地面に視線を落としたまま、再び山道を歩き始めた。俺もその後に続く。

 ……隻眼聖女に拾われて、早数日。

 当然と言えば当然なのだが、俺は彼女の事をよく知らない。

 知っている事と言えば、彼女が除霊の専門家である事、聖職者であるにも関わらず神を信じていない事、そして、右目を失明している事。

 それ以外の情報は一切不明。

 彼女の右目に刻まれた縦一文字の傷はいつどこでつけられたのか、何で神を信じていないのに聖職者になったのか、俺は何も知らない。

 というか、言葉を交わす機会が殆どない。

 これまでの道中で彼女と会話をした回数は両手で数え切れる程度。

 こんな会話量で彼女を理解できる訳がない。


(どうして、こうなった)

 

 この状況に陥った経緯を思い出す。

 俺が隻眼聖女と出会ったのは数日前。

 酒場で仕事を探していたら、酒場に来たばかりの彼女に話しかけられた。

 そして、何だかんだあって雇われた。

 何でも彼女はここから山を四つ越えた先にある港街に用があるらしく、一刻も早く街に向かわなければいけないらしい。

 何の用なのかは不明。

 分かっている事は、俺みたいな血と鉄しか知らないケダモノに縋らなければいけない程、彼女は時間に追われている事。

 あと、彼女の腕っ節は村の子どもに負けるくらい弱い事。

 それだけ。

 彼女曰く、『生きている人間には弱いですが、死んでいる人間には滅法強いです』らしい。

 しかし、まだ彼女が仕事をしている所を見ていないので、本当に強いかどうかさえ不明。

 というか、そもそも幽霊がいるかどうかさえ不明。……本当、分からない事だらけである。

 そんな得体の知れない彼女と俺は現在進行形で足場の悪い山の中を歩いている。


「傭兵さん、どうかしたんですか?」


 聖職者の衣装に身を包んだ隻眼聖女は泥濘んだ獣道の上を歩きながら、疑問の言葉を口にする。

 俺は地面に落とした大きめの鞄──俺と彼女の着替えとか地図とか入っている──を拾うと、彼女の後を追い始めた。


「いや、あんたの事、よく知らないなーって」


 泥が付着した頬を泥だらけの右手で拭いつつ、俺は木の葉に遮られた春天を仰ぐ。

 俺の吐き出した言葉と同じくらい、空もいつも以上にぼんやりしていた。


「私みたいな片目潰れた女に興味があるんですか?」


「口説いて欲しいんだったら、素直にそう言いな。忘れられない夜にしてあげるぜ」


 揶揄われたので、俺も全力で彼女を揶揄う。

 自分で言うのもアレだが、あり寄りのなしの発言だった。

 頬の温度が急上昇する。

 足を滑らせた時以上の恥辱が俺の身に襲いかかった。


「なに恥ずかしがっているんですか。聞いているこっちの方が恥ずかしいんですよ」


 彼女は赤くなった頬を手で仰ぎながら、呆れた口調で俺を詰る。


「でも、お互いの事を知るってのは良い考えですね。神の名を借りる傲慢野郎は、こう仰いました。『隣人を知れ』と。その教えに従うのは、個人的にかなり癪ですが、まあ、今回は素直に言う事を聞きましょう。これからの旅を効率的に進めるために」


「神に親でも殺されたのか?」


 一言多い神への恨み節を吐き出しながら、隻眼聖女は明後日の方向に視線を向ける。

 足下から目を背けた所為なのか、或いは神を嘲笑した報いなのか、彼女は足を滑らせた。


「おっと」


 彼女の腕を掴む。

 が、地面が泥濘んでいる所為で上手く踏ん張る事ができなかった。

 俺も足を滑らせてしまう。

 泥土の上に着地した俺と彼女は、ものの見事に頭の先から足の爪先まで泥の衣に覆われてしまった。


「……あんた、意外と抜けているんだな」


「貴方は意外と頼りないんですね」


「こんな足場が不安定な所を通るって言ったあんたが一番悪い」


「そんな私の選択を受け入れた貴方も悪いです」


 泥のついた手で顔の泥を拭いながら、俺達は溜息を口から吐き出す。


「とりあえず、この近くに施設があるので、そこで泥を拭いましょう」


「施設?」


 口に入った泥と一緒に思いついた事も吐き出す。

 反芻する事なく吐き出した言葉は、間抜けな響きを持ち合わせていた。


「私が勤めている団体が持っている施設です。礼拝堂との機能を持っている建物と言えばピンと来るでしょうか。その建物の近くに川があるので、そこで泥を拭いましょう」

 

 そう言って、隻眼聖女は泥だらけのまま立ち上がる。

 俺は泥土の上に着地した鞄を持ち上げると、先行する隻眼聖女の後を追い始めた。

 ……旅はまだ始まったばかり。俺達は春天を仰ぎながら、歩を進める。



(二)


「ようこそ、聖女様。私達の村へ」


 小さな村に辿り着いた俺達を出迎えたのは、腰の曲がったおじいさんだった。


「諸事情により礼拝堂は使えませんが、私の家で旅の疲れを癒して下さい。私と家は此方です」

 

 泥だらけの俺達を嫌悪する事なく、おじいさんは俺達を自らの家に案内しようとする。

 そんな彼の善意に隻眼聖女は疑問を抱いた。


「ん? 礼拝堂が使えないとはどういう事ですか? 小火(ぼや)でも遭ったのですか?」


「それが、……礼拝堂は亡霊に乗っ取られていまして」


 殺風景の村の中を歩きながら、俺はおじいさんの背後姿をぼんやり眺める。

 彼の背後姿は煙のようにボンヤリしていた。

 存在感がないと表現したら適切だろうか。

 彼はいつ俺達の前から消えてもおかしくないくらいに儚かった。


「なら、私が除霊しましょう。礼拝堂に案内して下さい」


「止めといた方が良いです。あの亡霊はかなり攻撃的でして、……その、下手に刺激したら何するか分かったもんじゃ……」


「余計な心配です。生者を現世から取り除く。それこそが私達『聖女』の役目ですから」


 おじいさんの善意を道の脇に投げ捨てつつ、隻眼聖女は礼拝堂に案内するよう促す。


「で、ですが、……」


「ですが、じゃありません。その亡霊の所為で、村の人達は外に出られないんでしょう? 亡霊の所為で生活が儘ならないのでしょう? なら、一刻も早く除霊すべきです。じゃないと、生と死が混濁して手遅れになりますよ」


 彼女の発言により、ようやく俺はおじいさん以外の人が外に出ていない事に気づく。

 少し年季を感じる煉瓦の家から人の気配のようなものを感じ取った。

 恐らく彼女の指摘通り、村人達は家の中に引き篭っているんだろう。

 沢山の視線が俺の肌を射抜いていた。


「そ、そこまで言うのなら、案内します。でもわあまり霊を刺激しないでください」

 

 数歩だけしか離れていないというのに、老人がどういう表情を浮かべているのか把握できなかった。

 自分の目がおかしくなったと思い、目を擦る。

 が、俺が目を擦っている間に老人は礼拝堂に向かって歩き始めていた。

 見えるのは彼の背後姿のみ。

 さっき見た時と同じように、彼の背中は厚い雲に覆われた空みたいに『ぼんやり』していた。

 隻眼聖女が老人の後追いを始める。俺も彼女の後に続く。

 亡霊が乗っ取ったと言われる礼拝堂は村の外れ──川の近く──にあった。

 俺達を礼拝堂に案内した後、老人は俺達と改めて向かい合う。

 案の定、彼の顔は表情筋の動きが分からないくらい『ぼんやり』していた。


「ここが我が村の礼拝堂です」


「ありがとうございます。では、さっさとここから離れて下さい」


 隻眼聖女は最低限の労いの言葉を掛けた後、老人に『さっさとどっか行けクソジジイ』的な態度を取る。

 どうやら彼女は結構冷淡な性格らしい。


「……何かあったら、赤屋根の家に来てください。くれぐれも無茶しないように」


 その言葉だけを残して、老人は俺達の前から立ち去る。

 彼の残した言葉は彼女の選択を歓迎する音じゃなかった。


「さ、中に入りますよ」


 『老人の忠告なんてクソ食らえ』みたいな態度で、隻眼聖女は礼拝堂と呼ばれる木造の建物の中に突入する。

 俺も彼女の後に続く形で建物の中に入った。

 中を一望する。

 建物の中は殺風景だった。

 中には埃を被った木像しか置かれていない。

 建物の広さは縦大股十歩・横大股八歩。

 以前、別の村で見た礼拝堂と比べると、この村の礼拝堂は礼拝堂と呼ぶには烏滸がましい程、狭くて暗くていい加減で小汚い場所だった。


「貴方が亡霊ですか」


 隻眼聖女は神を象った木像に寄りかかる『誰か』に話しかける。

 陽射しが一切入って来ない礼拝堂という名の豚小屋にいたのは、無造作に髭を生やした大男だった。


「オレに何か用か?」

 

 脂ぎった長髪。

 淀んだ両瞳。

 髭に覆われた顔面。

 最低限の衣服と血が滲んだ包帯に包まれた筋肉質の身体。

 そして、身体に染み込んだ血の臭い。

 数年前まで戦場で生計を立てていた俺だから分かる。

 彼は咎人(つわもの)だ。

 生き残るため、数多の命を奪って来た人でなし。

 ──神に忌み嫌われる側の人間だ。

 

「……いいから放って置いてくれ。オレは、もう疲れたんだ」

 

 その言葉を告げた後、大男は木像に全体重を預ける。

 その姿は親に甘える赤ん坊のように弱々しく情けないものだった。


「……これは困りましたね」


 寝息を立て始めた大男──亡霊を見て、隻眼聖女は溜息を溢す。

 それに呼応するかのように、何の前触れもなく、大男の身体が透け始めた。

 半透明になった彼の体を見て、俺はつい驚きの声を発してしまう。


「私の力では彼を除霊する事ができません」

 

 ある種の敗北宣言を口にしながら、彼女は弱音を零す。


「じゃあ、傭兵さん。彼をよろしくお願いします。私は私の責務を全うしますので」

 

 自分の力じゃ手に負えないと判断した彼女は、亡霊を俺にぶん投げる。


「……俺、除霊できないんだけど」


「知っています」


「……あんたの責務って何だ?」


「貴方が責務を全うできるよう、神に祈りを捧げる事です」


 神を信じない隻眼聖女は神に祈るフリをする。

 その白々しい姿を見て、俺は長い溜息を吐き出す事しかできなかった。


(三)

 亡霊改めて大男が起きるまでの間、俺と聖女は礼拝堂とは名ばかりの小屋の近くにある河原で泥に塗れた身体と服を洗浄した。


「なあ、聖女様。俺、除霊なんかできないんだけど」


 川の水で全身の泥を拭い落とした俺は、河原で焚火をしている隻眼聖女──既に新しい衣服に着替えている──に話しかける。


「濡れたままだと風邪引きますよ」


「いいよ。俺、風邪引いた事ないから」


 彼女が差し出す鞄──旅に必要なものと俺と彼女の着替えが入っている──から目を逸らしつつ、俺は河原に落ちていた掌サイズの小石を拾う。


「で、俺は何をすれば良い訳?」


 拾った小石を川面目掛けて放り投げる。

 俺の投げた小石は、一度も川面を跳ねる事なく、水底に沈んでしまった。


「とりあえず、貴方は時間を稼いで下さい。その間、私は準備をしているので」


「準備?」


「除霊するための準備ですよ。貴方は礼拝堂の中にいる大男と適当に話して下さい。貴方が彼の気を惹いている隙に、私は最低限必要な事をやっておきます」

 

 言いたい事だけを告げた後、隻眼聖女は俺を置いて村の方に向かい始める。

 除霊するための準備って何をするんだろう。

 そんな事を疑問に思いながら、俺は礼拝堂と呼ぶには惨めすぎる小屋に向かい始める。

 彼女の言う事を聞く理由は至って単純。

 仕事だからだ。

 彼女が雇用主である以上、一部の例外を除いて、俺は彼女の指示に従う事にしている。

 明日の食べ物を得るために。故に先程の彼女の適当な指示も俺にとっては立派な仕事という訳で。


(亡霊相手に時間稼ぎって、何をすれば良いんだよ)


 とりあえず、あの大男と接触してみよう。何か良い考えが思い浮かぶかもしれない。

 考えがある程度まとまった所で、俺は礼拝堂と呼んで良いのか分からない程に小汚い小屋に辿り着く。

 そして、扉を小突く事なく、俺は小屋の中に突入した。


「起きたみたいだな」


 小屋の中に入った俺が先ず目にしたのは、神を象った木像に寄りかかる大男の姿だった。


「……放って置いてくれと言った筈だが」


「悪いな、俺は傭兵だ。雇われの身である以上、雇用主である彼女に逆らう事はできない」


「は、犬みてえな奴だな」


「言ってろ。で、何であんたはこんな所に留まっているんだ?」


「留まるのに理由が必要なのか?」


 『お前の所為で村人は外に出られない状況に陥っている』と指摘するのは簡単な事だ。

 だが、そんな事を言ったら、彼は逆上してしまうだろう。今の俺の役目は時間稼ぎだ。

 彼を殺す事じゃない。


「理由があるから、こんな所に留まっているんだろ?」


「ねえよ、理由なんて」


 男の口から漏れた言葉に中身なんてものは詰められていなかった。


「理由も意味も、過去も未来も、そして、生き甲斐も何もかも失ってしまった。今のオレには何もない。ただの死人だ」


「留まる理由を忘れたのか?」


「オレがここにいるのは、オレがここにいたいと願っているからだ」


 大男は淀んだ瞳で俺を睨みつける。


「理由、あるじゃん」


「別に良いだろ。誰にも迷惑かけている訳じゃないし」


「迷惑ならかかっているだろ」


「誰に?」


 大男の顔が少しだけ険しくなる。

 それを悟った俺は、彼の質問を敢えて無視し、別の話題を提示する。


「あんたも『西の戦争』経験者か?」


「……ああ、そうだ」


 『西の戦争』──数年前に終戦した大規模戦争──の名前を出した途端、大男の表情が曇る。

 多分、その戦争で多くのものを失くしたんだろう。

 亡くなった戦友を思い出しながら、俺は埃を被った床の上に尻を着ける。


「あんたはその戦争で死んだのか?」


「ああ、……そうだ」


 大男は目蓋を閉じると、全身の力を抜く。辛い記憶を思い出しているのだろう。彼の眉間には皺が寄っていた。


「オレはあの戦争で死んだ、いや、死ぬ筈だったんだ。なのに、何故かオレはここにいる。ここで過去の思い出を振り返っては、後悔し続けている。……何でオレなんだ? ……なんでオレだけが、……なんで」


 俺に向けていた筈の言葉が、自問自答へと変貌する。

 大男は額に脂汗を滲ませながら、疑問の言葉を口にし続けていた。

 話しかける。

 彼は俺の言葉に応えてくれなかった。

 ずっと自分に疑問をぶつけ続けている。

 その有様は自傷行為にしか見えなかった。


「なんで、……なんで、オレだけが、……なんで」


 大男の自問自答に耳を傾け続ける。

 が、幾ら聞いても彼の悩みを共有する事はできなかった。

 俺は座ったまま、子守唄代わりに彼の疑問の言葉を聞き続ける。

 当然、彼の自問自答は心地悪く、目は冴え切ってしまった。

 眠れないまま、俺はぼんやりした状態で大男と向き合い続ける。

 日が暮れても、月が昇っても、夜が満ちても、俺は彼と向き合い続けた。

 が、俺の頑張りは報われる事なく。

 隻眼聖女が除霊の準備を終える頃には、大男は再び眠りについていた。


「どうですか? 責務を全うできそうですか?」


「ぼちぼち」


 彼女の質問を適当に聞き流しつつ、俺は悪夢に魘される大男の顔を覗き込む。


(人って死んだ後も夢を視るんだな)


 そんな場違いな事を頭の中で考えながら、俺は隻眼聖女と一緒に礼拝堂と呼ぶに値しない簡素過ぎる小屋に背を向けた。



(四)

 焼き魚を頬張りながら、朝日に照らされた東の空を仰ぐ。

 肌寒いのか、今日の空は薄い雲を覆っていた。


「除霊の準備は整えました。あとは、あの礼拝堂という名ばかりの小屋に居座っている大男をどうにかしたら完璧です」

「どうにかって、具体的にどうすれば良いんだよ」


「あの大男を村の外に追いやって下さい。そうすれば、除霊を行う事ができるでしょう」


「……それを俺にやれと言ってるのか?」


「ええ」


「あれ、俺の声に耳を傾けないんだけど」


「そこは何とかしてください。あの人は私の手に負えないんで、貴方に縋るしかないんです」


「あんたでさえ手に負えない相手を俺みたいな人を殺すしか脳のない奴に何とかできると思うか?」


「できると思います」


 明後日の方を眺めながら、隻眼聖女は断言する。

 せめて俺の目を見てから言ってくれ。

 不安な気持ちになるから。


「大丈夫です。貴方は私と違って、人間ができているので」

 彼女は朝日を瞳の中に入れ込む。

 どうやら彼女も俺の話をまともに聞く気がないらしい。

 いい加減な事を言う彼女の言葉の所為で、胸の内から黒い感情が湧き上がる。

 俺の方が人間できている? 

 俺みたいな人を害する方法しか知らない人でなしが?

 焼き魚に齧り付く。

 さっきまで舌を楽しませていたそれは、彼女のどうでもいい一言で炭のような苦味しか感じ取れなかった。


「……んじゃあ、俺のやり方で行かせて貰うぞ。後で文句を言うなよ」


 焼き魚を胃の中に詰め込んだ後、俺は赤屋根の家──老人の下に向かう。

 河原から少し離れた所にある老人の家は、礼拝堂と呼ばれる薄汚い小屋よりも少しだけ小綺麗だった。

 扉を叩く。

 扉を叩いて十数秒後、老人は家の中から出て来た。


「おい、じいさん。交換条件だ。あんたが亡霊呼ばわりしている大男を除霊してやる。その代わり、あんたが知っている事を全て吐け」


 強めの口調で老人に交換条件を持ちかける。  

 老人の顔の輪郭は昨日よりもぼんやりしていた。

 彼の顔面だけ霞んでいるように見える。

 俺の目がおかしくなったのだろうか。  

 目頭を押さえる事で、目に映る景色を調整する。

 すると、老人の見窄らしい顔が俺の視界に映し出された。どうやら俺の目がおかしかっただけらしい。


「し、知りません」


「じゃあ、あの礼拝堂を焼いていいか?」


 俺の暴論を聞いた途端、老人の目が大きく見開かれる。


「あの礼拝堂は亡霊に乗っ取られている。さっさと対処しないと、この村だけじゃなく、この周辺にも危害が及んでしまう。早急に手を打たなければ、取り返しがつかなくなる」

 

 ありもしない嘘を並べ立てる事で老人の不安を煽りに煽る。

 彼の本音を引き出す事を目的にしているとはいえ、狡いやり方だ。

 背後の方にいる隻眼聖女の方を見る。彼女は俺の方をじっと見つめていた。

 どうやら俺を詰るつもりはないらしい。


「で、でも、……」


「そんな事を言っている場合じゃない。あんたがあの亡霊の事を知っていたら話は別だが、ヤツの情報を得られない以上、強硬策を取るしか方法がない。礼拝堂を焼くという行為はあまり取りたくないが、事が事だ。きっと神も許してくれる筈」


 老人の目が泳ぎ始める。

 彼の反応を見て、俺は理解した。

 彼はあの亡霊──大男について知っている、と。


「……知っている事があったら教えて欲しい。俺だって、なるべく平和的な解決手段を取りたいんだ。あんたが歩み寄ってくれるだけで、俺は穏便な選択肢を選ぶ事ができる」


 『俺に協力しないと、みんなに迷惑がかかる』という人の善意に漬け込んだ最低最悪の脅しをかける事で、老人の口から大男の情報を引き出そうとする。

 嘘八百で脅しているにも関わらず、隻眼聖女は俺を詰らなかった。


(何が自分より人間ができている、だ)


 戦場で会得した最低最悪の方法で、俺は彼女の依頼を全うしようとする。

 所詮、俺はこの程度の人間だ。

 いや、人と呼ぶには相応しくない人でなしだ。

 人を傷つける事でしか求めている結果を得る事ができないケダモノ。

 そんな俺を隻眼聖女は『自分よりも人間ができている』と言い切った。


(その認識、間違いだったって後悔させてやる)


「さっさと知っている事を教えてくれ。あまり時間が残されていないんだ」


 俺の脅しに圧倒された老人は嫌そうな表情を浮かべながら、重い口を開き始める。

 結論だけを述べると、老人は大男の事を知っていた。

 どうやら、あの大男はこの村出身らしく、十数年前に流行病で両親を亡くしたらしい。

 天涯孤独になった後、彼は一人で生きていくため、村を出たそうだ。


「……彼がこの村に戻って来たのは数日前の夕方だった」


 懺悔するかのような仰々しい動作をしながら、老人は口を動かし続ける。

 彼に何か思う所があるのだろうか、彼の顔面は罪悪感に満ちていた。


「彼は私達に声を掛ける事なく、礼拝堂の中に引き篭もった。私達は何度も彼に声を掛けた。けど、彼は私達の言葉に耳を傾けてくれなかった」


 大男の反応を思い出す。

 確かに彼は俺の言葉にも最低限にしか耳を傾けてくれなかった。

 あの態度を取るのは俺だけじゃなかったんだと心の中で思いながら、老人の独白に耳を傾ける。


「私は彼の気を引くために、彼の身体を触ろうとした。が、彼の身体に触れる事はできなかった。それでようやく悟ったよ。私達の力では彼を救う事ができない事を」


「だから、放置し続けたのか?」


「ああ、私達ができる事はそれくらいしかないから」


 そう言って、老人は罰の悪そうな表情を浮かべる。

 もう話す事はなさそうだった。

 必要最低限の情報を手に入れた俺は、背後にいた隻眼聖女を連れて、礼拝堂と個人的に呼びたくない廃墟に向かい始める。


「……こんな事をお願いできる立場じゃない事は分かっている。だが、これだけは言わせてくれ」


 足を止め、もう一度老人と向かい合う。

 彼の瞳を見た途端、彼の顔面に霧がかかった。


「どうか彼を救ってやってくれ、頼む。彼は私にとって孫みたいなものなのだ」


 その言葉に俺は違和感を抱く。

 そして、吟味する事なく、老人に疑問をぶつけた。


「孫みたいに思っている? だったら、何で彼を一人にした? 何で彼を村から出て行くのを黙認した? 何で両親を亡くした彼を保護しなかった?」


 俺の言葉に応える事なく、老人は口を閉じる。

 応える気はなさそうだった。

 これ以上、彼に利用価値がないと判断した俺は隻眼聖女を連れて、この場を後にする。

 礼拝堂に向かう途中、俺は彼女の瞳に視線を向けた。


 『お前はこれを見ても、俺の方が人間できていると言うのか?』

 彼女は俺と目が合った途端、全力で俺から目を逸らした。

 彼女は一体何を考えているのだろうか。俺には全く理解できなかった。


(五)

 礼拝堂とは名ばかりのボロ小屋に辿り着いた俺は、荒っぽく扉を叩く。

 当然、中から返事は返って来なかった。

 苛々したまま、俺は礼拝堂の中に押し入る。

 案の定、大男は神を象った木像に寄りかかったままだった。


「あんたがここに留まりたい理由って、ここが故郷だからなのか?」


 俺の声に反応した大男は少しだけ身体を揺らす。


「あんたがここに留まる理由は、思い出に浸りたいからなのか?」


「……分からない」


 大男は悪夢に魘されているような口調で、眉間に皺を寄せると、脂汗を生産し始める。


「何でここに来たのか分からない。気がついたらオレはここにいた。この村での思い出なんか何一つ覚えていないというのに」


「なら、何でここに留まりたいと願ったんだ?」


「……分からない」


 大男のはっきりしない態度に苛立ちを募らせる。


「自分でもよく分かっていないんだ。自分が何をしたいのか、これから何をしていけば良いのか。多分、オレがここに留まっているのは答えを知りたいだけだと思う」


「答え? 何のだ?」


「……分からない。何でオレはここに来たんだろう。何の思い出も残っていないというのに」


 大男は悲しそうな表情を浮かべると、額に滲んだ脂汗を右の甲で拭う。

 彼の顔は窒息寸前の金魚にしか見えなかった。


「なら、思い出を思い出すために、外に出てみてはどうでしょうか?」


 俺の陰に隠れながら、隻眼聖女は大男に声を掛ける。


「意外と村の中を歩いていたら、思い出すかもしれませんよ。ここに来た理由を」


「……思い出して、何になると言うんだ」 


「ここにいて、何になると言うんですか」


 大男と目を合わせる事なく、彼女は淡々と自分の言いたい事だけを告げる。


「何日もここにいるんでしょう? 何日もここで考え続けて、答えが出ないんでしょう? なら、ここに貴方の求めている答えはありません。答えは考えるものではありません。探し出すものです。貴方が答えを出したいと思うのなら、ここから出るのも一つの手だと思いますよ」


 早口で自分の言いたい事を告げた後、隻眼聖女は自らの身体を更に縮こませる。

 その姿は威嚇している針鼠みたいで可愛らしいものだった。


「……それも、そうだな」


 隻眼聖女の言葉に感化されたのか、大男は木像に寄りかかるのを止める。

 そして、傷だらけの身体を起こすと、澱んだ瞳で俺の陰に隠れている彼女に視線を向けた。


「少し探してみるとするか。……まだお迎えは来なさそうだし」


 後ろ向きな言葉を口にしながら、大男は俺達と共に礼拝堂と呼ぶには小さ過ぎる小屋を後にする。 

 薄暗い礼拝堂から出た彼に待ち受けていたのは、柔らかい春の陽射しだった。

 彼の澱んだ瞳に春の陽射しが差し込む。

 彼が春空を仰いだ途端、彼の厳つい表情が少しだけ柔らかいものになった。


「……そういや、ここの空は広いんだっけ」


 建物に遮られた街の空でも思い出しているのだろうか。

 久しぶりに見る故郷の空を見て、彼は忘れていた筈の記憶を思い出す。

 故郷を持ち合わせていない俺にとって、思い出に浸る彼の姿は眩しいものだった。

 冬眠明けの熊のように鈍重な脚を動かしながら、彼は村の中を探索する。

 先ず俺達が立ち寄ったのは見ず知らずの民家。

 煉瓦で建てられた築何十年の建物を見て、大男は目を細める。

 何か思い入れがあるのだろうか。

 彼は民家をじっと見つめたまま、ぴくりとも動かなくなってしまった。


「何か思い出したのか?」


「……いや、何でもない」


 言葉を濁した大男は俺の追求から逃れる。次に向かったのは家畜小屋だった。

 大男は今にも崩れそうな家畜小屋を横目で眺めた後、潤んだ瞳で春空を仰ぐ。

 家畜小屋の中には何も入っていなかった。

 勿論、家畜もいない。

 多分、今は使われていないんだろう。

 欠伸を浮かべながら、大男の背中をぼんやり眺める。

 大男は口をへの字にしながら、右の拳を握り締めていた。


「何か思い出したのか?」


 大男は俺の質問に答える事なく、大男は村から少し離れた所にある畑に向かう。

 畑には何も植えられていなかった。

 所有者が畑を手放したのだろう。

 雑草さえ生えていない殺風景な土地をぼんやり眺める。

 大男は不毛の地を見るや否や泣き出しそうな表情を浮かべた。


「傭兵さん、傭兵さん」


 思い出に浸る大男には聞こえない声量で隻眼聖女が俺の注意を惹く。


「彼の思い出話に付き合ってやって下さい。きっと今の彼に必要なのは、思い出した思い出を口にする事だと思います」


「何で俺が、……というか、そこまで分かっているんだったら、あんたが語ればいいだろ」


「やれません」


「なぜ?」


「…………私は人間ができていないので」


 隻眼聖女は右目に刻まれた縦一文字の傷を指でなぞりながら、視線を地面に向ける。

 その態度でようやく理解できた。彼女という人間を。


「あんた、……もしかして人見知りしているのか?」

 

 眉間に皺を寄せながら、隻眼聖女は小さく首を縦に振る。

 その行為により、ようやく彼女の『俺より人間ができていない』という言葉の真意を理解できた。


「……なるほど。知らない人と話せないから、大男を俺にぶん投げた、と」


「……はい、恥ずかしい話ですが、……」


 罰の悪そうな顔で隻眼聖女は地面に群がる蟻を見つめる。

 蟻は列になった状態で、どこかに向かっていた。


「私では彼と上手く喋る事ができません。ですから、貴方が彼をどうにかしてやってください。私はいるかどうか分からない神に上手くいくよう祈っとくので」


「一応、言っておく。俺はあいつの気持ちに共感する事なんてできない」


 彼女の言葉を遮る形で、俺は自身の情報を彼女に開示する。


「物心ついた時から、俺は戦場で生活していた。その所為で、俺は同じ場所に長期間止まった経験を持ち合わせていない。だから、彼の気持ちに共感する事はできないと思う」


「でも、聞くだけだったらできるでしょう?」


「聞くだけだったら案山子にだってできる。けど、ちゃんと彼の話を聞いてやれるのは、郷土愛とやらを理解できる人間にしかできない」


 隻眼聖女の宝石のように綺麗な左の瞳を覗き込む。

 彼女は俺の瞳を覗き返してくれた。

 初めての経験だ。

 ようやく俺は彼女と本当の意味で向き合えたような気がする。


「一度も愛された事のない人に愛の尊さ説いたら、どうなると思う? 鼻で嗤われるだけど。それと同じで、俺はあの人の気持ちを理解も共感もできない。多分、あの大男をどうにかできるのは、俺じゃなくて、あんたの方が適任だと思う」


「……そうですか」


 隻眼聖女は俺と大男を交互に見ると、何故か深呼吸を始める。

 そして、弱々しく両拳を握り締めると、意を決したような顔つきで空を仰いだ。


「んじゃあ、……明日から頑張ります」


「今やらんのかい」


「心の準備ができていないので」


 隻眼聖女は明後日の方を見ながら、右人差し指で頬を掻く。俺とも大男とも目を合わせようとしなかった。


(七)

 結局、隻眼聖女は大男に話しかけなかった。

 西の空に沈み行くお日様を眺めながら、俺は川で獲った魚を焚き火で炙る。

 『今晩も冷えそうだ』的な事を心の中で思っていると、焚き火で暖を取っていた隻眼聖女が俺に話しかけてきた。


「……故郷がないって本当ですか?」


「ああ、本当だ」


 夕日から焚き火に手を翳す隻眼聖女に視線を向ける。

 俺と目が合った途端、彼女は視線を地面に落とした。


「……もしよろしければ、話して貰えませんか? 貴方の身の丈を」


「別に良いけど、特に話す事はないぞ。というか、話す程の価値がない」


「それで良いです。私は貴方の事を知りたいんです」


 恐る恐る彼女は視線を俺の瞳に向ける。

 彼女の口周りの筋肉は岩みたいに強張っていた。

 俺に対して気を遣っているのか、或いは彼女の中にある何かを見つめているのか。

 彼女との付き合いの浅い俺では、彼女の考えている事を全く理解できなかった。


「さっき語った通りだ。俺は物心ついた時から戦場で生活していた。俺は人を殺す事で生計を立てていたんだ」


 焚き火を俯瞰しながら、俺は自らの罪を告白する。


「雇い主に言われた通り、敵兵を殺した。人を殺さなければ、食べ物を手に入れる事ができなかった。だから、俺は人を殺した。自分のために人を殺し続けた。男、女、子ども、老人、……勿論、あんたみたいな聖職者を殺した事だってある。俺は生き残るために人の命を奪い続けた。目の前の命を貪り続けた。自らの生を優先した。俺は他の人に犠牲を強いる事で、自らの生存を勝ち取り続けた。その結果がこれだ」

 

 我ながら酷い半生だと思う。

 まるで獣だ。

 いや、獣の方がマシかもしれない。

 俺は自分のために誰かを害し続けた。

 何かを破壊する事でしか生き残れなかった。


「その生き方は戦争が終わった今でも変わらない。俺は生きるために傭兵を続けている。もし雇い主が人を殺せって言ったら、躊躇う事なく、人を殺すだろう。俺はそんな人間……いや、人でなしだ。地獄に落ちて当然のケダモノだ。多分、神様は俺の事を忌み嫌っているだろう以上、俺の身の丈はお終い。これで満足か?」


「一つ質問です」


 焼き上がった川魚を隻眼聖女に差し出す。

 彼女は川魚に目を向ける事なく、俺の目を真っ直ぐ見据えた。


「どうして私の依頼を引き受けたのでしょうか? なぜ誰かを害するやり方しか知らないのに、私の護衛という依頼を引き受けたんですか?」


「依頼を選んでいたら、生きていけないから」


「貴方は誰かを害する以外の方法を得るために、私の依頼を引き受けたんじゃないんですか?」


 ……俺の底が浅いのか、それとも彼女の目が肥えているのか。

 僅かな付き合いであるにも関わらず、彼女は俺の本音を見抜いてしまった。


「だったら、どうする?」


「傭兵さん、私は幽霊を視る事ができます」


「は、はあ、……それは知っているけど」


「今まで沢山の幽霊を見てきました。けど、一度も神様を見た事なんてありません」


 そんな事を呟きながら、彼女は俺の瞳の奥を覗き込もうとする。

 生まれて初めての経験の所為で、俺の思考は少しだけ止まってしまった。


「恐らく、この世界に神なんていう都合の良いものは存在しないんでしょう。だから、この世界は不公平かつ不平等なんだと思います」


「……この世界が不完全だから、あんたは神を信じないのか?」


 俺の質問に対して、彼女は俺の目を見つめながら力強く頷く。

 その姿は皮肉にも神に身を委ねる聖女にしか見えなかった。


「だから、貴方は地獄に落ちないと思います。神も天国も地獄も人類が生み出した願望に過ぎませんから」


「……多分、神様はいないっていう結論は間違っていると思う」


 彼女の瞳から目を逸らしながら、俺は彼女の主張をやんわり否定する。


「この世界が不公平かつ不平等なのは、きっと神様がいるからだ。神様がいるから、この世界は不完全なんだと俺は思う」


「どうして、その結論に至ったのですか?」


「神様が価値を見出しているのは、多分、人間という種だ。個人に価値を見出していない。恐らく人間という種が存続できない状況に陥ったら、神様は俺達を救ってくれると思う。けど、誰か一人を贔屓にしたり、特別視したりなんかしない。そんな事をする程、神様は俺達を見ていないし興味を抱いていない」


「……つまり、どういう事ですか?」


「多分、神様は俺達人間に干渉していない的な事を言いたいんだと思う。……この世界が不公平かつ不平等なのは俺達の選択によって生じたものだ。神様の所為じゃない。この世界が不完全なのは人間の所為だ。俺達が自分勝手な選択を選ぶから、富とか運とか偏っているんだと俺は思う」


 自分でも何を言っているのか理解していない。

 多分、彼女以外の聖職者が聞いたら怒り狂うだろう。

 俺の述べている事は唯の暴論だ。

 加えて、何の根拠もない。


「なるほど。人類が滅亡しそうになった時にしか神は現れない、と。」


 俺の言いたい事を簡単に要約しながら、彼女は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。


「もしそれが真理だったら、神なんていないも当然じゃないですか」

 拗ねた子どものように隻眼聖女は唇を尖らせる。

「あんたは神に救って貰いたいのか?」

 思った事をそのまま口にする。彼女はそっぽを向くと吐き捨てるように、こう言った。

「いいえ。だって、神なんて信じていないんですから」

 彼女の人生が凝縮された一言により、俺は疑問の言葉を口にしそうになる。だが、俺はその疑問を敢えて呑み込んだ。理由は至って単純。これ以上、彼女の領域に踏み込んだら嫌われると思ったからだ。

 彼女と一緒に欠けた月を仰ぎながら、常に月が満ちている夜を妄想する。すっかり冷めた焼き魚を頬張っていると、彼女は唐突に口を開いた。

「……とりあえず、明日、頑張ってみようと思います」

「そうか」

 彼女の覚悟を追求する事なく、俺は欠けない月を妄想する。幾ら妄想しても、欠けない月は完璧過ぎて、面白味がなかった。


(七)

 次の日、俺と隻眼聖女が礼拝堂と呼称するにはお粗末過ぎる小屋に辿り着くと、朝日を見つめる大男と遭遇した。

 心ここに非ずと言わんばかりの間抜けな表情で春天を仰ぐ大男に声を掛ける。


「探し物は見つかったか?」


「見つかったように見えるか?」


 立ち上がった大男は顎を僅かに上下させながら、俺の方に視線を向ける。

 そして彼はゆっくり俺達に背を向けると、思い出探しを再開する。俺と彼女は彼の後を追い始めた。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 俺達は村から徒歩十数分離れた所にある小高い丘に辿り着く。

 丘には人差し指よりも短い草が生い茂っていた。

 特に目新しさを感じない丘を大男は恋人に向けるような目つきで一望する。

 彼の心境は故郷を持たない俺にとって奇行にしか見えなかった。


「あ、あの」


 今の今まで沈黙を貫いていた隻眼聖女がついに口を開く。


「わ、私達が聞きますよ、貴方の思い出話を」


 さり気なく巻き込まれてしまった。

 俺を巻き込むなよと心の中で思いながら、俺は大男の目をじっと見つめる。

 彼の淀んだ瞳に僅かな光が宿った。


「……つまらないだろう、オレの思い出話なんか」

「貴方の思い出は『なんか』で片付けられる程、安っぽいものなんですか?」


 大男は視線を空に向ける。空は薄い雲を羽織っていた。


「嫌いだったら、ここに来る事も留まる事もしません。ここに思い出がなかったら、二日連続で思い出を探したりなんかしません。話す程に思い出がなかったら、『つまらない』という単語よりも先に『話せない』や『話す価値がない』という言葉が出て来ると思います」


 俺の背後に隠れていた彼女は、大男の方と目を合わせる事なく、言葉を連ねる。

 俺はというと、彼女の代わりに大男と向き合った。


「貴方にとって、ここで過ごした日々は価値あるものなんでしょう? 連日で探索する程に価値程の価値があるんでしょう? だったら、私達は聞きますよ。人に話す事でしか思い出す事ができない思い出もありますし」


「……変わった奴等だな、お前ら」


「私達にとって、これが普通です。普通の人間だったら、これくらい普通にやります。ね、傭兵さん」


 俺の陰に隠れながら、彼女は首を縦に触れと暗に命じる。

 依頼主からの依頼だったので、俺は恐る恐る嘘を吐いた。


「あ、ああ、普通の人間はやるぞ、うん」


 生まれて初めて、攻撃的でない嘘を吐く。 誰かを傷つけるための嘘じゃないにも関わらず、罪悪感を抱いてしまった。

 そりゃあ、そうだ。

 誰かを思いやったものだったとしても、嘘は嘘。

 それがどんな意図の嘘だったとしても、人を騙している事実に変わりない。


「話したいんだったら、好きに話せよ。本当につまらなかったら、聞き流してやるから」

 

 相手の気に触るような発言を吐きながら、俺は大男の方を見る。

 彼の瞳の澱みは少しだけ解消されていた。


「……ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おう」


 柔らかい笑みを浮かべながら、大男は自らの半生を語る。

 彼は語った。

 自分はこの村で生まれ育った事、十数年前に流行病で両親を亡くした事、天涯孤独になった後は生計を立てるために傭兵になった事、沢山の戦場を渡り歩いた事、そして、沢山の人を殺した事。

 彼は自らの半生を淡々と語りながら、村の中を練り歩いた。

 俺達は相槌を打ちながら、彼の後を追い続ける。

 村人達はというと、家の中から俺達の様子を眺めていた。


「あ、あそこだ。あそこにオレの家があったんだ」


 何もない平地を指差しながら、大男は苦笑いを浮かべる。


「家族で住むには狭い家でな。毎晩、箱に詰められた野菜みたいな格好で寝ていたよ。冬は良いんだけど、夏場は本当地獄だった。朝起きたら、熱中症になっていた事もあったなぁ」

 噛み締めるように大男は幼い頃に体験した出来事を口にする。

 幼さを感じさせない風貌をしているというのに、今の彼は玩具を自慢している子どもにしか見えなかった。


「あそこに廃屋があるだろ? あそこに初恋の女の子が住んでいたんだ」


 彼が廃屋呼ばわりした少し小汚い煉瓦の家を見る。中から人の気配を感じ取った。

 おい、大男。

 多分、あれ、廃屋じゃないぞ。

 俺の感覚が正しければ、あの中に人がいるぞ。


「その子の作る料理が本当に美味くてな。もし彼女が生きていたら、良いお嫁さんになっていただろう。……もう一回、彼女の手料理を食べたいなぁ」


「そんなに美味しかったんですか?」


「ああ、色んな所で色んな料理を食べたけど、彼女の作る手料理以上の料理は食べられなかった」


 少しだけ声を濁らせながら、彼は薄い雲に覆われた青空を仰ぐ。


「……いや、彼女の作る手料理よりも美味しいものがあった」


「何の料理ですか?」


「母の料理だ」


 嬉しそうで悲しそうな表情を浮かべる大男を見て、俺は黒い感情を抱いてしまう。

 そんな八つ当たりに近い感情を抱く俺に構う事なく、彼はこの地に宿った思い出を延々と語り続けた

 この村で一番の暴れん坊だった友人は狼の遠吠えを聞く度に震え上がっていた事。

 独楽が一時期村で流行っていた事を。

 父から独楽の回し方を教えて貰った事。

 そして、春は木の実を取りに行き、夏は川で遊び、秋は収穫の手伝いに駆り出され、冬は積もった雪を利用した遊びに熱中していた事を。

 彼の昔話は日が暮れる時間帯になっても続いた。

 河原で石を投げながら、大男は昔話を語り続ける。

 無邪気な様子で思い出に浸る彼を見て、俺は心の底から羨ましいと思った。

 彼に嫉妬した。

 彼みたいに俺も故郷や思い出が欲しいと思った。

 ……居場所が欲しいと心の底から思った。


「幼馴染のお父さんが教えてくれたんだ。平たい石を横に投げると、石が跳ねやすくなるって」


 大男は拾った平たい石を川面に投げつける。 

 彼が投げた石は跳ねる事なく、川底に水没してしまった。


「下手くそ」


「久し振りだから感覚が鈍っていただけだ。もう少し練習したら、五回くらいは跳ねる筈」


 今までの仏頂面が嘘だったかのように、無邪気な笑みを浮かべながら、大男は平たい石を探し始める。

 童心を取り戻した彼を見て、俺は劣等感のようなものに苛まれた。

 かつての居場所を誇らしげに語る彼の所為で、俺は自分が孤独である事を痛感した。


 そうだ、俺はいつだって一人だった。

 父と母の顔を知らない。

 友達もいない。

 故郷もない。

 俺の孤独を埋めてくれたのは、血に塗れた戦友(おとな)達と人の命を奪う事に長けている鉄塊だった。


「……」 


 羨ましい。

 居場所を持っていた大男が心底羨ましい。

 何で俺が持っていないものを彼は持っているんだろう。

 生まれた所が悪かったんだろうか。

 或いは俺の運が悪かっただけか。どちらにしろ、俺にとって気持ち良い話じゃなかった。


「ああ、……あの頃は楽しかったなぁ」


 大男は掠れた声を発しながら、藍色に染まりつつある夕空を仰ぐ。

 過去を振り返る彼の姿は眩しくて、とてもじゃないけど見ていられなかった。


「……答えは見つかりましたか?」


 大男の話が途切れて数分後、今の今まで聞き手に徹していた隻眼聖女が口を開く。


「ああ。オレは、あの頃に戻りたくて、ここに戻って来たんだ。オレは、あの頃の幸せを取り戻したくて、ここに留まっていたんだ」

 

 大男は俺達に顔を見せる事なく、湿っぽい声を発し続ける。


「後ろ向きな理由だ。思い出に囚われている。でも、オレは取り返したかったんだ。失われた幸せを。オレは失ったものを取り返したくて、ここに戻って来たんだと思う」


 彼の拳が石のように硬くなる。

 それを見て、俺はようやく彼が痛みに耐えている事に気づいた。

 喪失の痛み。

 俺の知らない痛みだ。

 どんな痛みなのだろうか。

 想像する。

 幾ら想像しても、経験した事がないので想像できなかった。


「……なあ、オレは、……どうしたら良いと思う?」


 大男は俺達に背を向けたまま、答えようのない疑問を口にする。

 彼の痛みを理解できない俺には答えられないものだった。


「貴方にとって大切なものを大切にし続ければ良いと思います」


 けど、隻眼聖女は違った。

 彼の痛みを理解した上で、彼女は大男の疑問に答えたを

 既に彼女は俺の陰に隠れていなかった。大男の方に歩み寄りながら、彼女は言葉を紡ぐ。


「別に良いじゃないですか。後ろ向きでも横向きでも。大切なものを大切にし続ける。その在り方自体は悪じゃありません」


 大男はゆっくり隻眼聖女の方に視線を向ける。久し振りに見る彼の頬は濡れていた。


「自分の大切なものを大切にしつつ、他人の大切なものも大切にする。他人の大切なものを害さない。それさえ出来ていれば、人は何をやっても良いんです。少なくとも私は、そう思っています」


 彼女の語る言葉は俺にとって耳の痛い話だった。


「難しく考えるから、思い悩むんですよ。貴方は貴方の選択をすれば良い。それが誰かの大切なものを害する行為であれば、私が咎めますから」


「だ、だが、……」


「貴方の大切なものは、貴方が大切にしない限り、誰にも大切にされませんよ?」


 大男の潤んだ目が少しだけ大きくなる。

 彼は隻眼聖女と自分の硬くなった右拳を交互に見ると、視線を地面に落とした。


「……そう、だよな。もうオレしかいないもんな」


 大男は右の拳を柔らかくすると、山陰に隠れようとする夕陽に視線を向ける。

 隻眼聖女はそれ以上言葉を紡ごうとしなかった。


「……んじゃあ、後ろ向きに頑張らせて貰いましょうか」


 沈み行く夕陽から視線を逸らした大男は、少年のような笑みを浮かべる。もう彼の瞳は澱んでいなかった。


(八)

 大男の瞳から淀みが除去された翌日。

 河原で顔を洗った後、俺は礼拝堂と呼ぶに値しない小屋に向かう。

 礼拝堂の前には隻眼聖女と大男が立っていた。


「では、除霊を始めます」


「ああ、頼む」


 どうやら今から除霊を始めるらしい。

 大男に別れを言いたかった的な事を心の中で思いながら、俺は事の成り行きを見守る。


「ほいっ」


 彼女は両掌を打ち合わせた。

 渇いた音が辺り一面に鳴り響く。たったそれだけの行為で世界は一変してしまった。


「……っ⁉」


 村の中にあった建物が物凄い早さで朽ち果てる。

 土肌が見えていた地面は雑草に覆われ、今の今まで感じ取っていた人の気配が跡形もなく消え失せてしまう。


 変化は一瞬だった。

 気がつくと、俺と隻眼聖女と大男は廃村の中に突っ立っていた。


「なっ……⁉ どうなって……⁉」


 視界に映るは天井が崩れ落ちた煉瓦の家。

 土肌が露出していた地面は草花で埋め尽くされ、家畜小屋があった場所は家畜小屋があった痕跡さえも喪失していた。

 礼拝堂と呼ぶには値しないボロ小屋を見る。

 礼拝堂だけは何も変わっていなかった。ある推測が脳裏を過ぎる。

 まさか俺がさっきまで見ていた村は──


「以上で除霊はお終いです。この村にいた死者は無事この世界から除去されました」


「……ありがとう、聖女様。みんなを解放してくれて」


 大男は隻眼聖女に深々と頭を下げる。

 先程まで半透明だった彼の身体は半透明じゃなくなっていた。

 どこからどう見ても唯の人間にしか見えない彼の姿を見て、ようやく理解した。

 ──大男が生者である事を。


(じゃあ、俺が話していた、あの老人は……⁉)


 背筋が凍てつく。

 老人が霊だった事実に怯えているのではない。

 自分が霊視できる事実に恐怖心を抱いてしまう。

 いつからだ? いつから俺は霊視できるようになったんだ……⁉


「もしかして、お前も視えていたのか」


 大男が取り乱す俺に声を掛ける。

 隠しても仕方ないので、俺はゆっくり首を縦に振った。


「じゃあ、お前も村の人に会ったのか?」


「い、いや、俺が会ったのは赤屋根の家に住んでいる老人だけだ。それ以外の人達とは会っていない」


「……そうか。村長と会ったのか」


 嬉しさと哀しさが入り混じった表情を浮かべながら、大男は口元を歪ませる。


「村長は何て言っていた?」


「……お前を救ってくれって言ってたよ」


「そうか、……そうか」


 噛み締めるように呟くと、大男は清々しい表情を浮かべる。

 そして、淀みのない眼差しで春天を射抜くと、俺達に今後の予定を始めた。


「オレ、ここから出るよ。ここで過ごした日々は大切だけど、今のオレじゃ、ここを守る事ができそうにない」


 少年のように微笑みながら、大男はボロ袋を肩に担ぐ。


「でも、いつか此処に戻って来る。もう一度、此処を人で一杯にしてみせる。此処に新しい村を興してみせる。それがオレの答えだ」


 春天のように清々しい笑みを浮かべると、大男は俺に頭を下げる。


「ありがとう。君達がいなければ、オレはあそこでのたれ死んでいた。いつか、また、この村に来てくれ。その時までに村を再興してみせるから」


 その言葉を告げた大男は俺達に背を向けると、河原とは逆の方に向かい始める。

 俺と隻眼聖女は、彼の包帯塗れの背中が山の中に消え行くまで、ずっと見守り続けた。


「……一体、どういう事だ?」


 大男が見えなくなった後、俺は疑問の言葉を吐き捨てる。


「大男は言っていました。『自分がこの村に来た時には、死体しか残っていなかった』と」


 俺の質問に答えながら、彼女はどこかに向かって歩き始める。

 俺は文句を言う事なく、彼女の後を尾け始めた。


「彼は言っていました。この村の人達は野盗に殺された可能性が高い、と。詳細は語りませんでした。ですが、焼け落ちた家屋と地面の血痕から察するに、この村の人達の末路が碌なものじゃなかった事を推測できます」


 村だった場所から少し離れた平地に辿り着く。そこには木で作られたお墓が立ち並んでいた。


「彼は村人達だった肉塊を此処に埋葬した後、唯一残っていた礼拝堂に引き籠っていたそうです。そして、……」


「俺達に出会った、と」


 墓に供えられた野花をぼんやり眺める。

 春風を浴びる野花は気持ち良さそうにそよいでいた。


「大男の経緯は分かった。でも、幾つか疑問が残る。何であの老人は生きているように振る舞っていた? 何で俺は死んだ老人を視る事ができたんだ? 俺の身に何が起こったんだ?」


「一つ一つ答えましょう」


 お墓から目を背けた彼女は、俺の目を真っ直ぐ見据える。

 唯一残った彼女の瞳には俺の姿がちゃんと映し出されていた。


「何であの老人は生きているように振る舞っていたのか。それはあの老人を含め村人達の多くが自らの死を自覚していなかったからです」


「……どういうことだ?」


「自分達が生きていると勘違いしていたんです。恐らく死ぬ前の記憶を失くしているのでしょう。良くある事例です。この世に残る多くの霊は自分が死んだ事を自覚していません。自覚がないから、この世に留まっているんです」


 自分が死んだ事を自覚できていない。

 その事実にある憶測が頭に過ぎる。

 その恐ろし過ぎる憶測を打ち消すため、俺は自身の頭を左右に振った。


「何で貴方が霊を視る事ができたのか。それは貴方が私と同じくらい死に近い存在だからです」


 先程打ち消した憶測が再び脳裏を埋め尽くす。

 疑いたくない疑問が俺の脳を揺さぶる。堪らなくなった俺は、つい疑問の言葉を口にしてしまった。


「……俺は生者なのか? それとも、もう死んでいるのか?」


「それを決めるのは貴方自身です」


 隻眼聖女は俺から目を背けなかった。彼女の瞳に俺の姿が映っている。

 たった、それだけの事で俺の胸中にあった不安は払拭された。


「私の責務は生と死の混濁を防ぐ事。霊による被害を可能な限り防ぐ事です。生者を救う事でも死者に死を自覚させる事でもありません」


「じゃあ、何であの大男に手を差し伸べたんだ?」


「……さあ? 何ででしょう? 答えは貴方に委ねます」


 隻眼聖女の姿を瞳に映す。

 幾ら彼女を眺めても、彼女の心の奥まで覗き込む事はできなかった。

 まだ彼女という人間を理解できていない事を痛感する。

 そんな俺を何か言いたげな表情で睨むと、隻眼聖女は河原──街の方に向かって歩き始めた。


「とりあえず、旅を再開しましょう。もう此処に留まる理由はありません。私は一刻も早く街に行かなければいけないんです」


 場の空気を強引に変えた隻眼聖女は唐突に旅を再開させる。

 俺は無言で頷くと、彼女の後をゆっくり追いかけた。


 旅はまだ始まったばかり。

 俺達は春天を仰ぎながら、前に進む。


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