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7 衝撃の衝撃波

 畑の朝は早い。

 

 今日はタロ芋の収穫を手伝うことになっている。

 昨夜は蒸し暑かったので、上半身裸で眠ってしまった。

 洗面所で顔を洗っていると、山盛りの洗濯物を抱えて後ろを通ったスーが、俺をちらっと見るなりダッシュで駆け出して、廊下の先で派手な音を出して転んだ。


 カイリさんやラナナルさんに朝の挨拶をして、みんなで畑に出ていく。

 マイタに続いて、俺も長の農園に入った。


 タロ芋の収穫は、芋を傷つけないように手作業で丁寧に行うのだが、これが時間がかかる。

 日本でもサツマイモ堀りはしたことがあったので、最初はその時のアウトドアな気持ちを思い出して少年時代のようにワクワクしていた。でも何時間も続くとさすがにしんどくなった。


(一度に掘れたらいいんだけどな……)


 俺は額から流れる汗をふきふき、東屋あずまやの休憩所で一休みした。もらったパパイヤをかじりながら、どうにか知恵を絞って収穫の効率を上げられないか、一人のクリエイターの誇りをかけてひとりコンセプトミーティングを脳内で開いた。

 が、ミーティングがギャアギャアという雑音に邪魔される。

 なんだか騒がしいなと思って見てみると、休憩所の横、館の生ごみや魚の骨を捨てている穴にカモメがたかっている。


 そのうちに数羽のカモメが、俺の手元のパパイヤを狙いだした。

 何度も滑空してくるカモメにするどいクチバシでつつかれて、ものすごく痛い。


「わっ……や、やめろよっ!」


 思わず手を振り払うと、その瞬間。

 なぜか、ぶわっと大きな空気の流れが巻き起こり、カモメの群れがばらばらに乱れて吹き飛んだ。

 え? と思っているうちに、高く吹っ飛んだカモメたちが上空のほうで再び群れの統制を取り戻して渦を描いている。


 手のひらから……今、風が出なかったか?


 俺は畑に駆け出した。手のひらをもう一度、今度は土に向けて、「んっ」と気持ちを込めてみた。

 ごおっ!

 ……と、衝撃波に近い強い風が一瞬巻き起こり、見る見るうちに畑の土が天高く舞い上がる。

 そして、きれいに芋だけ残して浅いクレーターができた。土煙が向かった先にいたマイタが、土だらけになって、ものも言えず呆然としている。

 みんなは、芋を掘る手を止めて、それを見て目を丸くしている。


「な、なんだ……? この力は……?」




 俺の謎の能力について、医者であるラナナルさんに見てもらうことにした。

 彼女が医療を行っているのは風呂場と逆側の離れで、縁側が患者入り口として開かれている。

 

 ラナナルさんは俺の手のひらをがっちりつかんではじっくり眺め、その後ろでカイリさんも興味深そうに見つめている。二人のしかめっ面はそっくりで、さすが親子だなあと思わせるものがあった。


「手には何も不思議なところはないですね……」


 彼女はそういうと、一応俺のカルテを作ると言ってとうの机で書き物を始めた。


 カイリさんが真剣な顔で俺の両肩を掴んだ。握力が強いのか、少し痛いけど、その力には親身になってくれる人の温かさがあった。


「アオ、あんた、プレシオには会ったかい? よく思い出しておくれ」


 プレシオ。初めて会った日に、島長しまおさたちが言っていた海の竜のことだ。


「い、いえ……あの日気が付いた時にはもう浜辺の砂の上に寝ていて……」

「そうかい……」


 プレシオに会うと何が起こるのか、カイリさんは教えてはくれなかった。






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