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3 ラナナルという少女

 少女は、目鼻立ちのハッキリとした整った顔に厳しさを貼り付けて、俺に向かって流木のようなものを突きつけている。

 豊かな髪は見事で、漆黒の癖っ毛が高貴なライオンみたいに背中まで流れている。その上に飾られた、ブーゲンビリアのような花の塊。

 白い麻のシンプルなセパレートドレスが、褐色の肌にきれいに映えていた。


「武器を持っているなら捨てなさい! 私にも武道の心得はありますよっ!」


 威勢のいいセリフを言ってはいるが、彼女が怯えていることぐらい、初対面の俺でもすぐわかった。


 ──今、この子は『島』と言ったな。

 彼女の容姿は外国の人みたいだ。言葉が通じるということは、……いうことは?

 また頭が混乱してきた。


 とはいえ今の俺は脱水症状になりかけているのだ。

 恥も外聞も捨てて、少女に泣きつくことにした。彼女の足元に正座して、頼み込む。


「た、助けてください! 水をいただけませんか!」

「はあっ?」

「すみません、さっき意識を取り戻したら、全然知らないところにいて……あの浜辺なんですけど」


 俺の声が枯れきっていることに、少女も気がついたようだ。


「さ、……さっきってどのくらい前です?」

「一時間くらい前だと思うんですけど……」

「この天気で一時間、あなた……水を飲んでいないんですか?」


 俺はカラカラの喉で、こくんとうなずいた。


 カロン、と白木の流木が地面に落ちる軽やかな音がした。

 優しい声が降ってくる。


「しょうがないですね……怪しいそぶりもないし、助けてあげます。島の長の館まで行きましょう」


 見上げると、少女は俺を許した笑顔で、「ラナナルと申します」と名乗った。

 たいそう胸が大きな子なので、この角度から見ると残念ながら可愛い表情が半分それに隠れてしまっていた。


「あ、アオです……南亜生」

「ミナミ・アオ。タイダルの神々、ヤトラの一族の名において、島への上陸を一時的に許可します」


 儀式じみた言葉をいいながら、彼女は俺の頭頂にそっと触れた。

 ここは本来、許可がないと上陸できない島か何かのようだ。申し訳なさとありがたさで、俺は思わず目を閉じた。


「はい、これで大丈夫ですよ。立てるでしょう? 私についてきて下さい」


 手を差し伸べられたので、遠慮なくその手をつかんで立ち上がった。

 ラナさんの手は温かくて、小さい。


「ありがとうございます」




 考えてもわからないことは考えないことにして、とりあえずラナさんの後ろ姿を追うことにした。

 ラナさんは俺よりだいぶん背が低いけれど、すらりと細い手足をしているせいか、歩く姿がとても優雅だった。

 ふわふわの髪が海風に揺れている。


 ラナナルさんに心配されながら、崖の脇の道を十分程進むと、木造の建物がいくつも見えてきた。


 一番はじの建物に入ると、ラナナルさんはボトル一本の水を俺に持ってきてくれた。

 俺はそれを一気に飲み干すと、生き返った思いになる。


「あ、ありがとうございます」

「島長のところへ行ったら、ちゃんと塩分も取らせて差し上げますから」




 村は賑わっていた。

 パイナップルやマンゴーがたくさん並ぶ果物屋、カジキのような怪魚がぶら下がっている魚屋、銅製が多そうな刃物屋、俺のいた会社の社員が見たら一日出てこなくなりそうな魅力的でカラフルな雑貨屋……。

 どれもこれも目移りしてしまうほどだ。

 そして、漁師や農民らしき人に混じって、剣や銃を携えている人がいることに気がついた。


(猟師……ハンター? さっき見たトカゲみたいなヤツを狩ったりするのか……?)


 目に付いた屋台の、ジュウジュウ音を立てる鉄板を眺めていると、試食だよと言って店番のおっちゃんが焼いたつくねのようなものを一つくれた。

 かじってみると……美味い!


「おっちゃん、この肉団子みたいなヤツ何て言うんだい?」

「それはタロ芋とカルス肉を合わせて蒸し焼きにしたものだね」


 カルス肉?カラスじゃなくて……?

 いや、カラスを食べたことも、俺はないが。




 待ってくれているラナナルさんに気が付いて、慌てて俺は彼女のもとに走って戻る。


「ひ、人とお店がこんなに……崖の向こうにいて気が付きませんでした」

「あなたが出てきたあちら側の浜は、我々、長のヤトラ一族のプライベートビーチです。儀式の洞窟以外はなにもありませんよ」


 そんな神聖そうな浜辺で、ココナッツに石を投げてる男なんて、罰当たりだったよな……。


「ラナナルさんは……島の長なんですか?」

「長は私の母ですよ」


 彼女はそっけなく返してきた。







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