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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
奪われた瞳と放たれた銃弾
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入り交じった戦い⑥

 家に帰り、食事を済ませてお風呂に入る。

 風呂からあがり廊下を歩いていると、先ほど弦音が食べたあとの食器を洗う母の姿と、リビングでテレビをみながらくつろいでいる父の姿があった。それを横目に通り過ぎていき、階段を登る。

 二階に上がるとすぐには妹の部屋。扉には『勝手に入るな』という手作りのプレートが書かれている。

 その隣が弦音の部屋。

 扉を開いて中へ入る。

 電気をつけるとベッドと勉強机。

 本棚には漫画本と教科書。ハンガーにかけられているのは袴といった部活道具。どうやら、母が洗濯してくれているようで、洗剤の匂いがかすかに漂う。その中からひょっこりと姿を現したのはちいさな妖怪。朝矢たち祓い屋の間では“モノノケ”とよばれる存在だった。そのモノノケは、白い布に覆われており、顔には目の部分も口も部分も空洞で、“ムンクの叫び”かジブリ作品に出てくる“カオナシ”をイメージさせる。

 小さいモノノケは着物の中に半身隠れるようにしてじっと弦音を見ている。

 もうすっかり慣れたなあ

 弦音は思う。

 あの小さいモノノケを見つけたのは、渋谷での事件があった夜のことだった。

 洗濯に出そうと取り出そうとしたときに着物の中から顔を出したのだ。

 弦音は悲鳴をあげながら、着物を床に落としてしまった。そのまま腰を抜かしていると小さなモノノケが怪訝な顔をこちらに向けていた。

 悲鳴に驚いた母と妹がどうしたのかと駆け付けてくる。

 弦音が小さなモノノケを指さしてみるが、母も妹も何わけのわからないこと言っているのだとあきれられた。

 モノノケはすぐに着物の中ら隠れてしまった。

 それからクリーニングに出された着物が帰ってきた。モノノケは相変わらず、着物の中にいた。

「お前はなんでそこにいるんだ?」

 弦音はむなにげなく小さいモノノケに聞いた。

 モノノケはじっと弦音を見る。

 そして、着物の中に隠れてしまった。

「やっぱり答えてくれないのか」

 弦音はため息を漏らす。

 それから何度か着物を着た。

 その時にはモノノケが姿を現すことも、着物の中にそれがいるような感覚はない。けれど、確かにいたという事実に気持ち悪さを覚えなくはない。いい加減に着物から立ち去ってほしいものだ。

 モノノケは再び顔を出す。

 今度は珍しく着物から出て、部屋の真ん中にある小さなテーブルの上にのる。

 小さいモノノケは弦音をじっと見た。

「気二ナル?」

「は?」

「気二ナル。行ッテ見ル」

 なにを言っているのか。

 気になるとはなんのことか。

 弦音にはピンときた。

 あれだ。

 一つ目の猿のこと。一つ目の猿が何者かに追われていて、それを朝矢が持って逃げていること。あと洋子のこと。洋子の姉のこと。

 モノノケ

 アヤカシ

 オニ

 祓い屋

 弦音にとってはすべてにおいて聞き覚えのある単語でありながら、初めて聞く言葉の羅列が並んでいる。

 このままでいいのか。

 自分がのんびりしている間に朝矢たちは得体のしれない何かと戦っているのではないのか。

 知らないとき良い。

 けれど、知っている。

 知ってしまっている。

 すべてではないにしろ。

 知ってしまっているのだから、そのまま知らないふりをするわけにもいかない。

「確カメル」

 小さいモノノケはそれだけ告げて再び着物の中へと戻っていった・

 確かめる。

 なにが起こっていてどうなっているのか確かめてみたい。

 そんな衝動にかられた。

「よしっ」

 弦音は自室の扉をこっそり開く。

 一階から聞こえていたはずのテレビの音が消えている。

 部屋を出て、階段をゆっくりと降りる。

 よし、電気が消えている。

 二人とも床に入ったはずだ。

 弦音はそっと自室に戻ろうとする。

「お兄ちゃん。なにやってんの?」

 振り向くと、寝間着姿の妹が立っていた。

「ゆ……弓奈ゆみな

 妹の弓奈が眠そうにあくびをしている。

「もうなに独りでこそこそしているのよ」

「えっと……。そうだ。弓奈」

 弦音がポンと妹の肩を掴む。

「兄ちゃん。いまから大事な用事がある」

「はい?」

「いまから出かけなければならない」

「お兄ちゃん。どうしちゃったの?真剣な顔して……。あーまさかデート?」

 弦音はずり落ちそうになった。

 弓奈の眼がキラキラと輝いている。

「もしかして。両想いになれたの?いつ?いつ告白したの?たしか、江川さんだっけ?」

「違う。なにいってんだよ。それにこんな遅くデートにいくか」

「違うの。ちぇっ。……ってまだ告白してないの?意気地なしよね。お兄ちゃんは……」

「妹に言われたくない」

「それでどこにいくの?」

「えっと……」

 妹にどう伝えればいいのか迷った。

「まあ、どうでもいいけど……。わかったわ。お父さんにはバレないようにしといてあげるよ。でも、お父さんが目を覚ます前に帰んなきゃだめだよ」

 そういいながら、弓奈が階段を下りていき、玄関の鍵を開ける。

「あっああ」

 弦音がそのまま玄関から出ると、いってらっしゃいと満面の笑みで手を振りながら、玄関の鍵を閉めた。

 これって追い出されたんじゃないのか。

 ぜったぃに……。

 おれ、別に悪いことしていないんだけどなあ。

 まだ中学生なのに、確実に自分よりもしっかりしている。

 そう思うと自分が情けなくなる。

「こうしてられない」

 弦音は駆け出した。


 


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