迫りくるモノ②
「お前、そのへんてこ部署に配属とはどういうことだ?」
「へんてこ部署じゃないですよ。田畑さん」
「へんてこ部署だ。なにが妖怪だ。なにが怪奇だ。そんなもの迷信にすぎねえ。俺は反対だ。お前がいく部署じゃねえ。お前のいるべきところはここだろう?芦屋」
そんな会話をしたのはいつのことだったのだろう。つい最近のようでいて、はるか昔のことのような気がする。
田畑刑事は尚孝の教育係だった。刑事になりたてのころからずっとお世話になった人で刑事のノウハウを叩きこまれた。
「お前はできる。いい刑事になるぞ」
彼はそんなふうにいってくれていた。
彼はずっと尚孝に期待していた。ぜったいに一課のエースになれるのだと啖呵を切っていた。それなのに尚孝は彼の期待を裏切ることになった。
上からの命令による異動とはいえ、まだ新設としたばかりの部署ということもあり、断ることはできた。実際に断った人も多い。それなのに尚孝はその部署にいくことを決めた。そのことで田畑に失望させていまったのだ。
それから、田畑の尚孝に対する態度がかわった。
なにかと嫌味をいい、いちゃもんをつけることが多くなった。昔から口は悪いほうではあったが、それに薄暑をかけるようになった。
それに尚孝が腹を立てることはない。そういわれても仕方がないと思っていることもあるし、自分の代わりに払立ててくれる人がそばにいることもある。
「田畑刑事。やばいかもよ」
「おいおい。香川洋子を見張れといったのはお前だろ?どうするんだ?」
「もちろん、見張りを続けてもらいたい。でも、これは君に報告はしないといけないと思ってね。おそらく敵さんが田畑刑事を襲う」
「田畑さんは強い。そんな簡単にはやられないさ」
「人間相手ならね。でも、人じゃない」
「アヤカシか?それとも……」
「オニかもね」
「オニ……。今回の敵は鬼なのか?」
「それはわからない。でも、鬼は厄介だよ。それこそ、徒人は瞬殺だからねえ」
桃志郎はのんびりした口調でいう。
鬼は厄介だ。
鬼というのは、一般的にしられる鬼とは少し違う。
外見的特徴としての“角”がついているというものは同じかもしれないが、その成り立ちが違っていた。
鬼は生まれながらの鬼は滅多に存在しない。
大概の鬼は人の憎悪といった感情により人が変化したものが多く、それを屍鬼と呼んでいる。
しかし、屍鬼になるには過程と条件がある。
条件の一つが肉体のない魂が魂を持つ肉体に憑依すること。そして肉体の元の魂と融合し支配すること。大概は魂同士が反発して化け物へと変貌し暴走することが多い。その様子を“アヤカシ”と呼んでいる。
融合するということは肉体の元の魂を弱らせ、侵入した魂が吸収してしまうことを意味する。
そのことにより、侵入した魂が肉体を得て、普通の人間とは異なる異能をえることができるのだという。
「おいおい。俺も徒人だぞ。おれがいったところで敵うはずがない」
「徒人……ねえ……」
「……。まあ、お前のことだから、もうすでに動かしているだろう……」
「もちろんだよ。それは大丈夫。だからただの報告だよ」
「だろうな」
尚孝は洋子のいる家のほうへと視線を向けた。特別変化はない。
「なにが起こるというのか……」
「それはわからない」
「おいおい。お前なあ」
「でも、きっと彼女は狙われる」
「なぜ、そう言い切れる」
「ただの勘」
「勘かよ。まあ、お前の勘は当たるからな」
「そういうことだよ。頼むねえ」
「だから、おれは徒人だ。なにか起こったとしてもなにもできないぜ」
「大丈夫。武器はあるだろう」
「ああ、けん銃はある」
「それと……」
ルームミラー越し。
尚孝と桃史郎の眼があった。
桃史郎はなぜか尚孝の眼をじっと見ている。
「どうかしたか……」
「ほんとにきれいだね」
「は?」
「きれいな色だよ。君は……。それで引き付けておいてね」
「意味がわからん」
「じゃぁね」
桃史郎は車から降りた。
尚孝は振り向かない。バックミラー越しに彼が消えていくのを見ているだけだった。




