初仕事①
日もずいぶんと暮れてきていた。二人の男を乗せたバイクがまだ人の出入りをしている高層ビルの前に留まる。
何事かとサラリーマンの視線をよそに彼らはバイクから降りながら、ヘルメットを取った。
「あのお」
バイクの後方に乗っていた弦音が戸惑いながら、朝矢を見上げた。
「どうにか間に合ったな」
携帯の時計で時刻を確認した朝矢が高層ビルのほうへと歩き出す。
弦音は何となく高層ビルを見上げる。
いま彼らがいるところは新宿にあるオフィス街の一角。周囲の高層ビルとは異様を放つ奇妙な形をしたビルの前だった。全身ガラス張りで、太陽の光に反射されて黄色に染まっている。
「なに、キョロキョロしている。てめえはどこの田舎者だよ」
「俺は生まれも育ちの東京です」
そういいながら、弦音は朝矢の元へと近づく。
ビルの中から次々と人が出てくる。
オフィス街だから、背広姿の人もいるのだが。そのビルから出てくる人のほとんどが私服だった。
いったいどういう会社なのだろうか。
弦音は会社の名前の書かれたプレートを見る。英語で書かれた文字。
「“MOON・GRASS”ここに入るんですか?」
弦音が尋ねた。
「いや、迎えがくるはずだが……」
朝矢が周囲を見回す。
すると別の方向から背広姿の若い男がかけてくるのが見えた。
あれ?
どこかで見覚えのある青年。
そう思ったのだが、果たしてどこで逢ったのだろうか。
「ごめん。待たせた?」
男は両手を合わせながら謝った。
年は二十代半ばほど。話し方から少し頼りない印象を受ける。
「別に……。俺たちもさっき来たところだ。なんだ?柿原さんだけか?」
柿原というらしい。
「うん。この件は僕個人の管轄。あの人は知らないよ」
「いいのかよ。それで……」
「いいの。いいの。あの人とは相棒だけど、プライベートまで干渉しないの」
「マジでプライベートなことなのかよ。まあ、そんな話していたけどな」
弦音にはまったくいっていることがわからない。
いったい、何の話をしているのだろうか。
「あれ?」
そこでようやく柿原が弦音の存在に気づいた。
「君は……。もしかして山有高校の人だね」
「あっ。はい」
「もしかして、新人?」
柿原は朝矢を見る。
「さあな。俺はそのつもりはないが、ナツキが気にいている」
「ナツキくんが……。あらあら、君も大変なことに巻き込まれたみたいだね」
君もという言葉が妙に強調されている。もしかしたら、この柿原という男も自分のような状態だったのだろうか。
「それよりも依頼だ。これでも生活かかっているんだ。ちゃんと報酬あるよな」
「大丈夫。でも、社員割りで頼めるといいんだけど……」
「そんなもん。店長に交渉しろよ。ボケ。さっさと行くぞ」
「わかったよ。さあ、行こうか」
柿原が歩き出す。そのあとを朝矢が追う。
あれ?
このビルじゃないのか?
てっきり、奇妙な形をしたビルの中へ入るのかと思っていた弦音は、ビルと朝矢たちを交互に見る。
「お前、なにやっている。早く行くぞ」
「はっはい」
弦音は慌てて駆け出した。




