悲劇の雨②
その遺体は繁華街から入り込んだ人気のない路地裏で発見された。
傷だらけの身体。見開いた目。けれど、なぜか目の中は空洞で眼球はえぐり取られていた。
首には絞められた跡がくっきりと残っている。
「怨恨でしょうか?」
芦屋尚孝とともに現場へと向かった部下の柿原がいった。
「さあな」
尚孝は腰を下ろすと遺体を確認する。その間も鑑識が写真を撮ったり、指紋や血痕の採取等を行い、他の捜査員が聞き込みを開始していた。
怨恨
そういわれても仕方がない。
身体は傷だらけで打撲痕もいたるところにある。
暴力を受けたのは確かだ。
「けど、どうして眼球がないのでしょうか?」
「犯人が持ち去ったらしいな」
尚孝が周囲を見回し、先に現場へやってきた捜査員にも尋ねてみたが。それらしきものは見つかっていないようだ。
どう考えても、犯人が持ち去ったとしか思えない。
ならば、何のために持ち去ったというのだろうか。
怨恨なのか。
逆恨みなのか
愛情のもつれなのか。
いまの段階ではなんともいえない。
そもそも、これは徒人の殺しなのだろうか。
「おいおい。なぜ、おめえがここにいる?」
すると、一人の男が規制線をくぐってこちら側へてやってきた。ごつい四角い顔に太い眉毛。目つきも悪い。白髪混じりの前髪は上げており、額には三本の皺がくっきりと横へと流れている。
いかにもたたき上げの刑事と風貌の初老にかかった刑事だ。
「田畑さん……」
この刑事はどうも苦手だ。なにかと難癖つけてくる。
どうやら三十手前にして、新しくできたばかりの主任なんかしている尚孝が気に入らないらしい。
「ここは捜査一課のヤマだろう?わけのわからんなんちゃら室がでる幕じゃねえ」
「特殊怪奇事件捜査室です」
「そのわけのわからん捜査部……。あ~なんでも、怪奇がらみの事件を解決するとかなんとか……。妖怪?幽霊?超常現象。そんなものあるわけがねえ」
「なに」
柿原が突っかかろうとすると、尚孝がそれを止めた。
「そうかもしれませんね。けど、この部署を立ち上げたのは、私ではありません」
「そうだな。まあ、どちらにしても吹き溜まりのお前らが、この事件はお門違いだろうよ。さっさと帰りな」
「そうもいきませんよ。これは上の命令です。私たちは上の指示で動いただけです」
「上?ああ、そのなんちゃら部署を立ち上げた土御門警視監か。本当に権力にものを言わせて、ただのお祓い箱つくるとはね」
「祓い箱じゃなくて、祓い屋……」
「柿原……」
「はい、すみません」
柿原は慌てて口をつぐんだ。
田畑はどうやら柿原のつぶやきは聞いていなかったらしい。
自分たちの邪魔をするなよとだけ付け加えて、尚孝たちに背を向け立ち去った。




