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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
矢が射抜く一輪の花
33/341

器③

渋谷駅前、スクランブル交差点に人気がない。

その中央を中心とした円形の陥没のせいで、人々はすでに避難している。

ほんの少し前まで人だかりができていたのだが、警察の誘導で半径一キロ範囲にいるのは、警察ばかり。

本来ならば、すでに退避しているはずのごく普通の高校生である弦音はなぜかそこにいる。もちろん彼も、警察に引っ張りだされそうになった。それを制止したのは同じ刑事。

芦屋よばれる刑事が、自分が責任をもつからと、弦音をその場に留まらせた。

どうして彼がそのような行動をとったのかはわからない。

どちらにしても、あの花の化け物とともに消えていった樹里や朝矢のことが心配で、ここから逃げる気にはなれなかった。とはいえ、自分になにかができるわけではない。

ただなにかが起こった痕跡だけが残るスクランブル交差点を呆然と見ているだけだ。

「どうせなら、この子にも見えるようにしてもらうべきだったかなあ」

隣にいた少年が弦音よりもずいぶん年下のはずなのに、まるで年下を示すかのような口調でいっていることが少し気になった。

「それは無理だよ。モグモグ」

その時、別の方向から男の声と咀嚼する音が聞こえてきたかと思えば、目の前に咀嚼をしている男が姿を現した。弦音はぎょっとする。

歳は二十代後半ごろのたれ目の優男といった感じだった。

色素の薄い長い髪をうなじのところに束ね、服装はラフな白いシャツとジーンズといった感じ。

乾物系の匂いがする。

「食べる」

男はするめを弦音へと差し出した。

弦音が首を横に振ると、おいしいのにねとスルメを口に入れる。

「わーい。とうさんだー」

子どもがうれしそうにいう。

先ほどの大人びた口調は気のせいだったのだろうか。

「お前、神出鬼没だな。どこからきた?」

刑事が尋ねる。

「うーん。あっちからだよ」

彼は駅のほうを指さした。

「気配殺す必要あるか?」

「ふふふふ。忍者の真似事さ」

「わーい。忍者。忍者」

いったい、どういう会話をしているのだろう。

ゆるい。

規制線を張るほどに異常事態のはずなのに、この三人の会話はゆるすぎる。そんな彼らの会話に対して、周囲にいる警察たちがまったく気に留めてもいない。まるでいないもののようだ。

「とうさーん。スルメ~」

「はいはい」

子どもはとうさんからスルメをもらうと口に入れて、モグモグと咀嚼する。

「おいおい。君らはなにしにきた?」

「見学だよ」

「助けないのか?」

「必要ないよ。もう終わったみたいだよ」

そういわれてスクランブル交差点のほうを見る。

もちろん、なにも見えない。

「あっ……」

見えなかった空間から忽然と一人の女が姿を現した。その腕には少女が抱えられている。

「江川」

弦音は思わず、彼女のほうへと駆け寄った。

「江川……」

樹里は、女の腕の中でぐったりとしている。

「大丈夫よ。気を失っているだけ」

彼女は、樹里の身体を弦音へと渡す、突然のことでバランスを崩して、樹里ごと、後方へと倒れてしまい、樹里の身体が弦音の上に乗っている状態になってしまう。

「いてて」

弦音がはっとすると。彼女の顔がすぐそこにあった。

弦音の顔が真っ赤になる。

「うわっ」

思わず彼女の身体を払いのけてしまった。彼女の身体が地面へと転がる。

「うわうわ。ごめん江川。大丈夫か」

弦音が彼女の身体を揺さぶる。

「いたい……」

彼女から声が漏れた。

「え?」

「痛いじゃないのよ。なにするのよ。このバカ」

思いっきり、ビンタを食らった。弦音は尻餅をつく。

その光景を楽しげに笑う子供とスルメの男。

何をしているのだとあきれ顔の刑事。

顔をゆがめる女

「あとは頼むわ。私は主を迎えにいく」

直後、彼女の姿が忽然と消えた。



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