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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
矢が射抜く一輪の花
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美しい花には棘がある⑤

どうして、こんなところに花があるのだろうか

ある中学校の裏側の塀

そこを通るたびに思う。

毎月、決まった日に花束が置いてあった。

赤い花。

見るたびに花の種類は異なっているが、必ずその色は赤い

鮮やかで美しい赤。

そういえば、聞いたことがある。

数年前、その中学で自殺者が出たのだと……

きっと、だれかが弔いに置いたのだろう。

だったら、そっとしておいた方がいいのかもしれない。

だから、そのままにしておいていいのに、どうしても気になって仕方がない。


毎月置かれる赤い花。

気づけば毎日置かれるようになっていた。

月一の時は花束だったものが毎日置かれるようになってから一輪だけ。

なんとなく寂しく思えた。

どうしてなのだろうか。

どうして一輪だけ?

そんな疑問を抱きながらも通り過ぎていく。

もうあの鮮やかな美しい花束は見れないのかと思うと、正直がっかりする。

それなら、自分が花束を置こうか。。

見ず知らずのだれかだけど、

変わりに弔いをするのも悪くはない。


彼女はそう思った。

だから、部活の帰りがけに花屋に寄った。

季節は五月ということで、花屋にはカーネーションの花がたくさんあった。

これじゃないよね。

そうおもいながらもカーネーションの花束を購入した。

そして、あの塀に花束を置く。

きっと、喜んでくれるに違いないと思い、手を合わせた。

けれど、翌日見るとすでに花束がなくなっていた。

花束はなく、また一輪の花。

せっかく置いたのにだれがもっていってしまったのか

それともごみと間違えて捨ててしまったのだろうか

なんとなく気分が悪い。

余計なことをしなければよかった。

そう思い、二度と塀に花をかざることはなかった。

それからも一輪の花が置かれていた。

毎日

毎日

一輪がいいのか。

一輪じゃないとだめなのか。

彼女はなにげに一輪の花にふれた。

チク

指に痛みが走る。

棘に刺さったのだ。

血がにじむ。

彼女は急いで絆創膏をバックから取り出そうとしたとき、ふいに立ち眩みがした。

同時になにかが圧し掛かったような感覚を覚えた。

なんだろう。

重みが増す。

押しつぶされそうな重み

―頂戴……

声がした。女の子の声だ

―ううん。いただくわ。あなたの体

なにかが体を縛り付けてくる


はっとした瞬間

それはバラだった。

バラの蔓が彼女の体に巻き付いていたのだ。

何?

わけがわからない

体にまきついてまったくというほど身動きがとれない。

ただ声が聞こえる

女の子の声

なにかの咆哮

悲鳴

どよめき

さまざまな負の声が彼女の耳に響く

その中で男の子の声が聞こえた

―江川

聞き覚えのある声だ。

―江川

また呼んだ。

切羽詰まったような声で何度も読んでいる。

彼女の視界が広がる。

彼女の視界を覆い隠していた蔦が一瞬開け、見覚えのある少年の姿があった。


杉原


同級生の杉原弦音だ


彼が必死に叫んでいる。

「助けて……杉原……」

どうにか絞り出した声

けれど、彼に伝わったかどうか理解するよりも早く、彼女の視界が再びまっ黒になった。




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