美しい花には刺がある③
恨めしかった。
彼女が恨めしくてたまらなかった。
どうして、あんなにおとなしい子と秋月君が仲良くしているのだろう。
あんな子なんて秋月君と釣り合うはずがないわ。
秋月君にふさわしいのは私よ。
彼女の独りよがりな独占欲だった。
目ざわりでならない。
あんな子いなくなればいい。
秋月に向けるあの笑顔が気に食わない。
気に入らない。
壊してやる。
あの笑顔を壊してやる。
彼女の嫉妬心は増大した。
その嫉妬心はやがてさまざまな人々を巻き込んで、秋月の幼なじみである彼女を苦しめるという手段をとることになった。
それはエスカレートしていった。気づけば、園田の元を離れて暴走をはじめていた。
わたしは知らない。
みんなが勝手にやっているだけよ。
わたしは知らない。
だって、彼女とは接点ないもん。
やがて、園田は彼女に対するいじめの外側になっていた。外側から見ているだけの立場。傍観して、彼女の苦しむ姿を楽しむ立場から、興味が薄れていき、彼女の存在自体どうでもよくなっていく。
園田は卒業し、彼女に対する嫉妬心さえもどうでもよくなっていったとき、彼女の自殺を知った。
なんとも思わなかった。
他人事。
自分は全くの無関係者。
いじめたのは自分ではない。
彼女の死の原因は自分ではなく、彼女のクラスメートたちだ。
自分には関係ないこと。
ならば、なぜ彼女が自分の目の前に現れるというのだ。
「私は知らない。私はしらない」
──先輩……
園田の頭に直接声が響く。
聞き覚えのある声だ。
恨みと悲しみの満ちた声。
ずっと、響く声が近づいてくる。
彼女の姿を認識してから彼女から逃げた。逃げても逃げても彼女が追いかけてくる。
スクランブル交差点を渡り、コーヒーショップの中へと飛び込む。
二階に上がり、隠れるようにしていく乱ブル交差点を見る。彼女は交差点の真ん中にいた。まだこちらに気づいていない。このまま、どこかへ行ってくれればいい。
そう願っていた。
直後、彼女の姿がかき消されていく。
同時に交差点が騒然となり、突如として見たことのない大きさの花が姿を現した。
花はただの花ではない。
花と呼べるものなのかすらわからない。
花というよりも化け物だ。
一つ目に大きな口。
大人の身長を軽く超え、奈良の大仏ほどの大きさはありそうな巨体が蔓を伸ばして、あらゆる人を跳ね除け、園田のいるビルのほうへと近づいてくる。
動けない。周囲は動揺して、逃げていくというのに金縛りにでもあったかのように身動きさえもできない。
背中に氷が抜けていくような感覚。震えが止まらない。
―みーつけた
その声は園田をあざけわらっているかのように聞こえる。
まるで獲物を見つけた猛獣かなにかのようだ。
ならば、自分はいま猛獣に睨まれているということになる。
「きゃああああああ」
蔓がガラスへと近づくところが見えた瞬間、園田の体が動いた。逃げまどう人々の流れに従って、ガラスごとから遠ざかる階段のほうへと向かう。
その直後、ガラスが割れ、蔓が勢いよく飛び込んでくる。
「うわあああ」
蔓がコーヒーショップにいた人々に巻き付く。
──違う……
そして放り出されて壁や地面に激突し、次々と人が倒れていく。
──どこ?あの女はどこ?
心細そうな声。けれど、徐々に力が加わり、どす黒い声音へと変わっていく。
──どこ。あっ……
園田はいつの間にか逃げ場を失っていた。階段を降りたはずなのに、元のフロアに一人取り残された状態。床には気を失っている人々が転がっている。
蔓が徐々に自分のほうへと近づいてくる。
──見つけた
嬉しそうな声。
蛇ににらまれたカエルのように園田の体が震える。
──ようやく見つけたわ。味わわせてあげる
蔓が園田の体に絡みつく。
──そして……。消えて……
締め付けてくる。
皮膚が切り裂かれ、血がにじむ
──ケケケケケ
不気味な笑い声が響く。この声はだれ?
彼女の声に似ているがそれとは異なるなにか。
死ぬ
自分は握りつぶされて死んでしまう。
ダメだ。
もうだめだ。
「おりゃあああああ」
諦めようとした瞬間。突然男の声が飛び込んできた。
──ぎゃぁぁぁぁぁ
少女の苦渋の声が響くと同時に縛り付けていたものから解き放たれる。
「あっちいきなはれえええ。こんのドアホがあああああ」
関西弁だ。
眼を開けると、一人の男がいた。
男の手には長い棒が握られており、その先端には刃物らしきものがぎらついている。
それを肩にかけて、手を腰に添えた態勢で床にジタバタとうねっている蔓を見ている。
「おっ、まーだ、うごけるんか?」
蔓が関西弁の男に襲い掛かる。
「おれをなめたらあかんでえ。おりゃあああああ」
棒を思いっきりふるまわすと、蔓が次から次へと切り裂かれていく。
その度に悲鳴が上がる。
その声は聞き覚えのある声。彼女の声
園田は呆然する。
「なに、ぼーっとしとるんや。」
男が園田のほうをみたすきに蔓が襲い掛かる。
「うわああああ」
男が悲鳴を上げる。
しかし、蔓は彼らの目の前で崩れ落ち、砂のように消え去る。
「ナイスやでえ。トモ」
男がガラスの向こう側へと視線を向けた。
スクランブル交差点の中央には相変わらず無造作に暴れている花と逃げまどう人々。それよりも少し離れた場所にあるファッションビルのすぐ前。
バイクにまたがったままで男が弓を構えてこちらへとむけている。
関西弁の男が手を振ると、弓引きの男の手はバイクのハンドルを握り、スクランブル交差点へと向かって走り出していく。
「ふう。ようやく来なはった」
「あの……」
園田はどうにか声を絞り出す。
男はパンパンと服をはたきながら、園田を振り返った。
「大丈夫や。あのバケモンはここにはきいへん」
園田は首を傾げる。
「ちゃんと結界張るからや」
そういいながら、男は一枚の札を取り出した。
「店長。おおきに」
そういうと床に札を張った。




