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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
【過去編】潮風に誘われ、流るる真夏の唄
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夏フェスの予行練習②

 朝矢たちの演奏とともに愛美が歌いだすと、イベントの準備をしていたスタッフがステージのほうを振り向く。さび部分のほんの三十秒も満たない歌はあっけなく終わってしまった。


 一瞬静まり返った会場。やがて誰かが拍手を始める。


 するとそこにいたスタッフみんなが拍手する。


「あんたうまかねえ」


「演奏はいまいちやけど、歌は申し分なかたい」


 愛美は誉められる一方で朝矢たちの演奏はみごとなまでにけなされた。


「くそつ。なんかムカつく」


 朝矢が思わず悪態をつく。


「仕方なかたい。当たり前のこと言わしただけやっけん」


 朝矢の後ろにいた桜花はいたって冷静にいう。


 すると、突然龍仁がドラムを思いっきり叩き始めた。



「ぼくは朝矢よりはましにきまっとる」


「はあ? どさくさに紛れておいをけなすとか!!てめえが一番音ずれてんだよ!ボケ」


「それは君だよ!」  


「はあ?」


 また朝矢と龍仁のにらみ合いが続く。


「あんたら!!」


 すると、桜花が近づくなり思いっきり二人の足をふみつけた。


「うるさか!!さっさとはける!! 次の人たちが待っとるとよ!!」



 そういわれて、ステージの裾のほうをみるとご当地アイドルのメンバーがスタンバイしていた。


「「すみません」」


 ふたりはご当地アイドルのほうへ素直に謝罪するとすぐに楽器等を袖のほうへと運ぶことにした。


 そのときに朝矢の体がご当地アイドルの一人と体がぶつかる。


「すまん」


「こちらこそすみません」


 朝矢とその少女の視線があった。



 そのとき、朝矢はなにか違和感のようなものを覚えた。おもわず、彼女をみる。



「あたしになにかついてますか?」


 彼女は怪訝そうに朝矢をみた。


「いや、すまん」


「と~も~や~♥️」


 そのときだった。愛実が朝矢の腕をつかんできた。


「おい! くっついてくんな! ボケ」


 朝矢は慌てて引きはなそうとするが、なぜな愛美はいつになく力強く朝矢の腕を握りしめていた。


「もう照れちゃって~」


 いつものように笑顔を向けている。


「照れとらん!」


 朝矢は顔を歪めながら愛美を見る。


「どがんかしたとか?」


 なんとなくいつもと違うような気がしてそう話しかけると、彼女はご当地アイドルの方をチラ見する。


「浮気!」


「はあ?」


「だってえ。朝矢、この子と見つめあっとったもん!! いやけん。いややけん!」


 意味がわからない。なにをこいつはいったいるのだろう。


 朝矢はただ困惑するばかりだった。


「あんたってバカじゃないの?」


 そういったのは先ほどぶつかった少女が冷ややかな口調でいった。


 朝矢たちが少女を見る。


「たまたまぶつかっただけよ。なに一人で騒いでいるのよ。バカじゃないの? それにこんな田舎くさそうな男なんて興味ないわ」


「ひどか! なにね。この女!」


 愛美がいつになく怒りを露にするものだから、朝矢のほうは怒る気すら起きなかった。


「あなたの歌はよかったわ。でも、歌をなめてもらっては困るわ。あなたような歌い手はざらよ。ただのど素人さん」


 散々嫌みをいった彼女はそのままステージ箆ほうへと上がっていこうとした。


「おい。てめえ」


 朝矢はそれにはカチンときた様子で怒りのまま彼女に呼び掛けた。


 彼女が振り替える。


「どがんかアイドルか知らんけど、松枝に謝れ! こいつの歌バカにするんじゃなかぞ!」


「朝矢~」


 朝矢のとなりで愛美がうれしそうに見ている。


「あーあー。あんたもバカじゃないの? うぬぼれてんじゃないのよ。見てなさい、ほんとうの歌というとのがどういうものか」


「セイラ! はよう来んね」


 仲間の呼び掛けでセイラと呼ばれた少女がステージの中央へと向かった。












 




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