嫉妬と執着と癒えぬ痛み⑦
「葉山麗。当時中学三年生。二年前、母校の西松羅中学の屋上から飛び降り自殺しているみたいね」
桜花はパソコン画面に映し出された警察の調書を読み上げている。本来ならば、警察以外の一般人が読むようなものではない。それをあの刑事が持ってきた。もしも、それを警察側が知れたならば、ただではおかない事態になるかもしれない。
しかし、そんなことはお構いなく、彼らはその調書を読み上げていく。
「いじめによる自殺。よくある話ね」
「ほかにはなにか書いてあるか。例えば、いじめていたやつの名前とか」
「それはばっちり。彼女はとくに遺言は残していなかったみたいだけど、この事件にも『特殊怪奇捜査室』が調べていたみたいね」
「はあ。そういうのも担当してんのか? 芦屋はんたちは……」
「まあ、大概は雑用しているみたいよ。あとは興味があれば、独自で調べているみたい」
「独自って……。自由なんだな」
「自由よ。あそこの部署は刑事総監の息がかかっているらしいから」
「詳しいな。お前」
「店長がいっていたもの」
「店長かよお」
朝矢は店長が軽く警察の秘密事項を漏らしている光景が目に浮かぶ。
いったい、あの人はどんな権力があるのだろうかと朝矢は疑問に思う。ここの店長とはそれなりに付き合いがあるのだが、どうもつかみどころがわからない。
彼はなにをしようとしているのか。
いや、そもそも店長がいまどこでなにをしているのかさえも掴めない。
ふらりと戻ってきたかと思うと、ふらりとどこかへと消えてしまうのだ。
(そんなこと考えている場合じゃないか)
そう思い返すと、朝矢は再び桜花の見つめるパソコン画面を見た。
「いじめの首謀者は……」
「トモ兄いいいいいい」
桜花がなにかをいおうとしたときに、ナツキが帰ってきた。
「もらってきたよお」
山男から降りると、ナツキは紙きれを高く上へと上げて、旗のようにふって見せた。
紙切れは短冊に切られ、それには文字が書かれていた。
けれど、それは筆で書かれた行書体のうえに続け字。
「達筆過ぎてよめへんなあ」
成都がそう突っ込む。
「別にいいじゃないの。文字なんて読む必要ないじゃないの」
そんな会話を聞きながら、朝矢はその札を受け取った。
「さてと、いくか」
「どこへ?」
「アヤカシ退治に決まっているだろう」
「うん。急いだほうがいいよ。いやな感じビンビン。もうそろそろ暴走するかもね」
ナツキは楽し気にいった。
「そうね。急いだほうがいいかもしれないわ」
「場所の特定頼む」
「まかせて」
桜花は再びパソコン画面をみながら、キーボードを叩いた。




