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かぐら骨董店の祓い屋は弓を引く  作者: 野林緑里
文化祭を彩る恋歌に舞う黒き蝶
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蝶の奏でる鎮魂歌⑧

 ズキューン



 バーン


 三神が弾いていたキーボードに突然銃弾が撃ち込まれた。すると、キーボードにヒビが入る。


 三神は咄嗟にキーボードから離れて、銃声のした方向へと視線を向ける。


 そこには銃口をこちらに向けている男が一人いた。


 三神にはまったく面識のない男性で目を覆うほどに長い前髪から覗かせる瞳はこの世で見たこともないほどに美しい紫色をしている。


「あなた誰? 」


 三神は周囲を見回す。


 男はなにもいわずにキーボードをもう一回打ち抜いた。



 それと同時に黒死蝶が次々ととその量を減らしていく。


「やめて」


 三神はキーボードと男の間に立ちふさがった。


 男は銃口を彼女に向ける。


「どいてくれ。君を打つつもりはない」


 男がそう告げるが、三神はまったく動く気はなく、男を睨みつけている。


「どうしてよ。どうして彼女を打つの。血まみれじゃないの」


 三神が叫んだ。


「なにを言っているんだ。君は」


 男にはその言葉の意味が理解できない様子で眉をハの字に曲げている。それでも銃口は緩めない。


「あなたこそ、なにいっているのよ。蝶子よ。蝶子を打ったじゃないの」


 そういわれても男は首を傾げるばかりだ。


 男・尚孝には、三神の背後にはキーボードが一台あるだけのようにしか見えなかった。しかし、三神には自分の背後に苦しそうな顔をして、自分にしがみついている少女の姿がはっきりと見えているのだ。


 彼女は蝶子という。


 苗字は知らない。


 つい最近自分の前に現れて、ピアノコンクールまじかで焦っていた三神にピアノを教えてくれていた人だ。そして、今回も初めてのバンドでの演奏会。蝶子は三神に付き添っていた。


 やがて演奏がはじまる。トップは三神からの演奏。


 キーボードを弾き始めた瞬間に突然三神のみる光景が変わってしまっていた。キーボードだったものはピアノへと変わり、グランドだったものがどこかの広い講堂へと変化する。そこには多くの客が座って自分の演奏に耳を傾けている。


 三神は高揚した。


 あまりにも自分の演奏が素晴らしく感じたからだ。


 私の演奏はどう?


 三神は自分に付き添ってくれていた蝶子を見る。


 蝶子は上手よとほほんでいる。


 演奏は続く。


 なんという曲だったのかわからない。け

 ただ蝶子にすすめられるままに弾く曲が戦前に作られた曲であることもわからずに狂ったように弾き続けていた。


 すると、突然演奏が妨げられたのだ。


 講堂に一人の男が乱入してきた。


 少なくとも三神にはそう見えていた。


「蝶子は私が護る」


 三神がそう言い放つと、突然背後から笑い声が聞こえてきた。


 どうしたのだろうかと振り返る前に蝶子が自分の肩を掴んでいる。


「大丈夫。あなたは守らなくていいわ。そのかわりに頂戴」


「え?」


「器をあの男に壊されたから今度はあなたをちょうだい」


 振り返ったさきには蝶子の不気味な微笑みがあった。そのまま、三神の身体に抱き着こうとした。そのときだった。


 今度は一本の矢が蝶子の腕に突き刺さったのだ。


 蝶子は三神から離れて膝を折る。


 そして忌々し気に矢を放った人物に視線を向けた。


 三神もつられてそちらをみると、講堂だと思えていたものがただのグランドへと変わっていき、自分がステージに上にたっていることを知る。


 そして、グランドには人々が倒れている姿と操り人形のように動いている姿。それに応戦している人の姿。


 騒然している光景が広がっていた。


 そして、ステージのすぐそばには一人の青年が佇んでいる。


「芦屋さん。ありがとう」


「一応、役にたったということか」



三神はなにが起こっているのかわからずに呆然としていた。


「おのれええ。もう少しだったのに」


 すると三神の隣で膝を折っていた蝶子が立ち上がり、すぐそばにあったギターに触れる。


 その瞬間、蝶子の姿が消え、ギターだったものが黒い蝶の姿へと変わった。



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