前書き
彼女の存在がいつからいたのかは解らない。
ただ、常に歴史の影にあったのは間違いないでしょう。
光があれば、また闇もあるように幻想郷と呼ばれる世界の闇に彼女はいる。
彼女には何十通りかの名前があったが、そのどれが本名なのかも覚えている者はいない。
私もその一人だ。
彼女には何十通りかの顔があったが、それを覚えている者はいない。
用が済めば、彼女は歴史から抹消される。
いや、最初から存在その物がなかったのかも知れないと思わされるだろう。
彼女を見て来た妖怪の賢者である私が言うのだから、間違いない。
あるのは幻想郷の歴史上の影にいたと云う事実のみ。
これは私ーー八雲紫が語る歴史上に存在しない幻想郷の守護者達との物語。
語る事も語られる事もない私だけが思い出す為に書いた記録。
この記録がもしも、日の目を見る時は彼女達、幻想郷の守護者が再び幻想郷の支えとなって舞い戻る時かも知れない。
去ってしまった妖怪が存在を維持するとは誰かに認識される時なのだから。
彼女達の事を思い出として残しつつ、今日の酒の肴に過去にあった昔話でも振り返る事にしようかしらね。
現在の幻想郷があるのは彼女達のお蔭なのだから。
そう。これは妖怪の賢者として幻想郷を支え続けて来た私の私による私だけの記録。
私だけの幻想郷縁起。
だから、いつ終わるかも終わらせるかも私次第。
もしかすると思い出の中だけのーー或いは別の平行世界ではなかった事にされている存在がいるかも知れないが、私の体験上、ある事を前提に話を進めましょう。
え?なんで、自分の記録なのにそんな他人行儀なのかですって?
ふふっ。何故かしらね?
もしかするとそんな気分だからか、それともこれを見られる事が前提で話を私がしているのか・・・。
まあ、細かい事はどうでも良いでしょう。
必要なのはこれが記されている事と目を通す者がいる事よ。
ああ。でも、そうなると私はどうしたいのかしらね?
ーーそれも含めて記録に残しましょう。
いつか、誰かが覗くかも知れない妖怪が書いた幻想郷縁起についてを。