04
「――ナ、マナ!」
「ハッ!? な、なんだ奇襲か!?」
「そんなわけないでしょ。ぼーっとしながら食べてたけど、アンタ大丈夫?」
いろんな意味で。
暗にそう言われた気がする。
うるさいな、いろんな意味なら大丈夫じゃないわ!!!
まぁいい。
機械の音を聞いてる内に、どうやら少しばかり時間が経っていたらしい。
お嬢様たちの皿を見ると、2人ともキレイに食べ終えている。
俺の皿は――――無くなっている、だと…!?
おっ、俺のケーキがぁぁ!!!
「……片付けてくる」
「ショック受けすぎじゃない?」
「よろしくお願いします」
ふんっ、なんとでも言え!
大好きな甘味を味わえなかった後悔は、俺にゃー死ぬほどツラいんだ!!
バタン!
大きな音を立て、部屋を出た俺は。
残された部屋の主たちの、不可思議な語らいを。
知らない。
イベントのある日の朝は、早い。
今日は待ちに待った、というより俺にとっちゃ急すぎるソレ。
入園式だ。
「お嬢様、お召し物を」
「そこのブレスレット持ってきなさい」
「俺は何すればいい?」
「車を正門に待機させといて」
「ラジャ」
出発時間ギリギリまでかけて支度をする。
アクセサリー類は禁止されてるんじゃないかと思ったが、どうやら一般的なソレとは違うらしい。
どれだけ高価な物を付けてるかが大事らしい。
金持ち判定、いわゆるマウント?
貴族っつーのはめんどくせぇヤツばっかだな!!
あ、そうだ。
「車って俺が運転していいのか?」
「はぁ?侍女が運転するんじゃないわよ、運転手を呼びなさい」
「えー俺高級車運転してみてぇのにー」
「してみたいって、まさか運転したことないの? 私を殺す気!?」
普通の車なら普段から運転してたわ!!
……まぁ、流石に外車は無理か。
殺す気はないので素直に諦め、俺は屋敷を出て運転手を呼びに行った。
てくてくてく
広い庭を数分歩けば、何台も並ぶ駐車場が見えてくる。
その近くにある小さな小屋が、運転手専用の住居だ。
俺は運転手であるロマンスグレーなじい様を手早く呼び、玄関前に横付けしてもらう。
ガチャリ
タイミング良く、お嬢様が屋敷から出てきた。
ドアを開け、お嬢様を先に座らせる。
俺もその横に座った。
え、なにこれ!
ふっかふかじゃん!!!
俺の自家用車とはまるで違う乗り心地。
なんか複雑な気分だぜ……。
さて、車に乗っていること1時間。
『ラルミネ学園』
遠目からでも大きく見えたソレ。
近づくにつれ更に大きく、建物全体に細やかな装飾がされているの見える。
おおっ、これは!
まさしくゲーム最初に出てきたグラフィック通り!!
「……なにニヤケてんの?アンタが入園するわけでもないのに」
「うっ、うるさいな!」
ゲームとはいえ俺だって通ってたんだよ、チクショウッ!!!
この学園を見て、やっと俺はこの世界に転生したのだと実感したんだ。
俺のよく知る『ラルミネ王国物語』
おかえり!!
あ、そういや道中も知った街並みがあったな。
今度探検すっか!
そう喜びに震えていたら、正門に到着した。
「お嬢様、手を」
「ありがとう」
俺が先に降り、朝と同様お嬢様に手を向ける。
ここは家じゃないからな!
きちんと言葉遣いは変えるぜ!!
「きゃー! 誰かー!!」
「……っ!?」
そんなことを考えていたからか。
とっさに反応が、遅れた。
声のした方を見れば、男が女物の鞄を持っていた。
反対の手には、ナイフ。
男が、こっちを向いた。
「お嬢様、悪い!!!」
「キャッ…」
お嬢様を無理やり車へ押し込み、ドアを閉めた瞬間。
――――俺の左腕に、ナイフの刃が食い込んだ。
今回、なぜか難産でした……。
今週の更新、木金は無いです。