閑話・密会
多分第三者視点です。
学園でのフェリシアの地位は、それほど高くない。いや、それほどと言うのは語弊があるか。王子すらもいるこのクラスでは、伯爵はむしろ下の中程度しかないのだから。
王子のデスクの周りには常に誰かしら居て、ディアス本人の顔が確認できないほど人が溢れている。
公爵や侯爵の子息・令嬢だ。
子息は王国に取り入るため、そして令嬢は次期国王のパートナーになるために。
毎日毎時間いるのだから、ディアスも大変だろう。休みなんか取れやしない。
そんなディアスを見ながら、カノンは周りに気づかれないように小さな溜め息をついた。
――あれじゃ、近寄れないわね。
カノンは続けてまた溜め息をつき、ガタンと大きな音を立てて席から立ち上がった。
グラグラ
ガシャーン!
デスクに乗っていたすべての物が床へと落ちる。
カノンは慌ててその場にしゃがみこんだ。
「きゃっ……やだ、私ったら!」
「フェリシア嬢、大丈夫ですか?」
床に落ちた物を拾う。そのために声を掛け、サッと手伝ってくれる人がいた。
普通、貴族はそんな事はしない。使用人にすべてやらせるからだ。使用人がいない学園では自分の物の場合仕方がなく拾うものの、他人の物を拾う手助けをするということ自体が頭にないのだ。
まれにそういうことはあるが、まぁ、あれだ。明らかな格上に対する下心だな。
だから、今声を掛けてきた人が誰なのか、カノンには顔を見なくても分かった。
カノンは俯いて周りに顔を見られないようにして、ニヤリと笑った。
あぁ、流石分かってるわね。
――ディアス。
カサッ
握りしめ隠し持っていた紙をディアスに渡す。同じようにディアスが紙を手に入れ込んだところで、周りが騒がしくなった。
「いけません、ディアス様!」
「どうか席にお戻りになって! ここは私達が……やりますから」
「そうかい? ありがとう、皆」
(結構よ。そんな、厭わし気な顔をして拾って貰いたくもないわ)
ディアスと取り巻きの会話を聞きながら、カノンはササッと拾い上げ何食わぬ顔で席へと戻った。
「密会方法、決めといてよかったわね」
「密会なんて、人聞きの悪い。クラスメートと静かな場所で話してるだけだよ」
「まぁ誰かがいたら筒抜けよね、ココ」
皆がランチをしている時間帯。
こっそり抜け出したディアスが食事もとらずに抜け出した先は、学園内の端にある図書館だった。
ガラリ。ディアスが扉を開けると、遅い!と声がした。声の主は先ほど紙を――昼休みに図書館に来るよう書いた紙を渡してきた張本人である、カノンだ。
ディアスはゴメンゴメンと軽く謝りながら、端のテーブルにいるカノンの方へと向かい、同じように腰掛けた。
跡取りとして将来が決まっている貴族達は、食事時まで図書館で勉強する人はいない。だから誰もいない、という訳ではない。ここは図書館、司書がいるのだ。
出来れば誰にも聞かれたくない話だ。
端に寄り声を潜め、カノンは時間もないしと前書きはほどほどにして口を開いた。
「昨日、いえ今日かしら? 真夜中に、私の屋敷に得体の知れない誰かが来たわ」
「得体の知れない誰か?」
「えぇ。それも、マナの部屋にね」
「なんだって!? 」
ガタッ!
驚きのあまり声をあげて立ち上がるディアスに、想定済みだったカノンは静かにしてと若干苛立ちを含んだ声を出した。それにディアスは驚く。同年代、いや大人であっても自分にそんな声を出す人はいなかったのだ。まして、怒られるなど。
いや、そういえば先ほども遅いと言われたばかりだったな。
これが同等か。
ディアスは内心嬉しく思いながら、ゴメンと謝り席に座り直した。
「――それで? マナは無事なのかい?」
「勿論よ。……ディアスは、どう思う?」
「この国が平和だと唄われる理由は、夜も安心して過ごすことが出来るからだ。強盗も変質者も、命を狙う人もいない。……十中八九、弟の差し金だろう」
「やっぱりそうなのね」
「この事、マナは?」
「疑ってたみたいだけど、はぐらかしたわ」
マナが単純で助かったわ。
そう言い笑うカノンに、想像がついたディアスもつられて笑った。
とはいえ、このまま見過ごすわけにはいかない。キリアスがどういう理由でマナの部屋へと人を向かわせたのか。
調べるのはディアスの管轄である。
そしてカノンは、マナの安全の確保を守る事が役目だ。カノンも出来れば調べたいものだが、相手が王子となると流石に難しいだろう。土俵の同じディアスに任せるべきだと、カノンは無理やり頭を納得させた。




