狙われ始めた命
コソコソコソ
コツコツコツ
暗闇の中、慎重に廊下を歩く音が微かに聞こえる。
足取りに迷いはない。
皆寝静まる時間だということも、この館の構造等も熟知しているからだ。
ギイ
目的地に付き、ゆっくりと扉を開ける。
――目が、あった。
「きゃーーーーーっ!!?」
「んがっ!?え、な、何事!?」
「チッ」
寝てたらいきなり大声で起こされたんだけど!?
今何時……ってまだ暗いじゃん!
夜中じゃん!!
え、寝んなってこと!!?
「リーク酷っ!!」
「え、いや私じゃな……じゃない!ちょっとマナ、大丈夫なのっ……んですか!?」
「大丈夫?……って、なにが?」
「何がって今っ、あーー逃げた!!」
逃げたってナニ!!?
いや待って今ナンカいたん!?
虫か!ゴキ○リか!?
パタパタパタ!
「アンタたち何かあっ」
「ぎゃーーーーー!!!!!」
「っ、ちょっ!ちょっとマナ!?」
思わず大声上げてベッドから駆け降り、今しがた入って来た誰かにしがみつく。
何でわざわざ近くのヤツじゃ駄目かって?
だって、今来たのは人って分かるじゃん!
室内にあるモンじゃードコにナニが触ったかわかりゃしねーじゃん!!
……あーそーよ!
俺虫ダメなのヨ!
オトコラシクナイ?ナニソレオイシイノ?ってレベルでダメ過ぎるノヨ!
アリもナメクジもチョウもカブトムシも駄目だけどさ?
特にG!!
「Gなんて撲滅しろやアホンダラァぁぁ!!」
「み、耳元で叫ばないで!」
おっと失礼。
……ん?誰?
冷静になった頭で、思わず抱きついてしまった相手について考えてみる。
柔らかい身体付き。
鼻をくすぐる良い香り。
「とにかく、こんな暗い中で話していたくないから電気つけるわよ」
ポチッ
声と同時に動く身体。
俺がしがみついていた温かな存在は。
「うわっ!?かっ、カノン!?」
「……ねぇ、一旦離してくれる?」
「っ!わ、悪い…!!」
ふぉおおおおお……!!!!!
なんだこれ!
めっさハズい!!
秒速で離れるし顔もめっちゃ背けた。
だって俺今ぜってー顔赤いもん!
あちぃもん!!
「で、リーク。さっきの大声は何?」
「そうでした!今ここに誰かいたんですが、残念ながら取り逃がしてしまいました」
「はぁ?誰か?つーこたぁ人間?」
「そうです。警備はしていたはずですが……」
なーんだ、人間か。
じゃあ怖がること……あるわぃ!!
「いや何で俺の部屋に知らんヤツが来んの!?真夜中だぞ!!?」
「ですから私も驚いてしまい、咄嗟に動くことが出来ず……申し訳ありません」
いや、誰だって驚くだろうし謝ることじゃないけどさ。
リークの悲鳴で逃げたらしいし。
いやぁ、リークがいてくれて良かった。
……
……ん?
「つーかなんでリークいんの?」
「……それはそれとして。そういえばカノン様も何故ここに?」
「ちょっと!このタイミングで私に話振らないでよね!」
そういやカノンも確かに不思議だな。
俺の部屋とカノンの部屋は正反対に位置するも同然だし、距離もある。
顔を上げ、チラッとカノンを見る。
ん?
カノンも俺を見てたんか?
俺と目があったカノンは、明らかに動揺していた。
「み、見ないで!」
「何故」
「なぜって、その……もうっ!私だってね!抱きつかれたのなんて初めてだったし、恥ずかしいんだから!」
「そっち!?」
そう言われちまえば、俺もまた顔を背けるしかない。
つーか、顔赤くなったカノン可愛……ゴホン!
ゴホンゴホン!!
「話戻すけどさ、ここに誰かいたっつーのは確かなのか?」
必殺・話題すり替えの術!!
けど一番重要だしな。
リークも真面目な表情になって、コクリと頷いた。
「はい。私が見たのはマナの枕元に立っていたところでした。そして私が声を出した瞬間、あの窓から逃げました」
「窓から逃げたってこたぁ、外のヤツか?」
外、外部のヤツ。
単なる強盗か?
でもそれだと俺なんかを狙うよりカノンの方が違和感ないしなぁ。
それに、こことて伯爵家。
警備はちゃんとされている。
掻い潜ってここに来れるヤツが、ただの強盗とは思えない。
いや、前提としてここは平和な国だ。
強盗がそうそういるわけがない。
そうなると、単に俺を狙ったか?
……妙な話だな。
前提として、俺に知り合いはあまりいない。
この世界で知り合ったのなんざ、精々第一王子くらいだ。
……いや大層なヤツと知り合ってんな、俺。
いくら“開かれた王国”とはいえ、平民がそうそう知り合える人物ではない。
そういや騎士団長とも知り合いか。
こうしてみると、人数少ないのに顔が広い人みたいな豪華なラインナップだな。
いやマジで。
となると。
俺を、俺の命を狙うヤツ。
……うん。
いない訳じゃ、なさそうだ。




