罪悪の記憶
カノン視点です
マナが5年前に刺され命をも危ぶまれた、あの日から。
私の心はずっと、どこか上の空だった。
私とマナが出会ったのは、確か6歳になった頃だった。
マナには両親が居ない。
小さい頃に事故死したらしく、親の顔も知らないマナは施設で暮らしていた。
私と同じ年齢で。
私と同じ、母親がいなくて。
私と違い、父親もいない。
――気がつけば、手を伸ばしていた。
「アンタ、ウチに来なさいよ」
「……え?」
「私の家に来て、一緒に遊んでよ」
そう言ったときのマナは、酷く困惑した表情だった。けれど。けれど私も、そんな自分の行動に戸惑っていた。
同情なのか。
優越感に浸りたいのか。
分からないけれど、確かな事は。
今まで、そしてそれからもずっと、同じような境遇の人達には手を指し伸ばしたりはしなかったという事だけだった。
物静かなマナは大人の言い付けを真面目に聞き、覚え、実行出来る人だった。施設でも普段から手伝いをしていたのだろう、その手際の良さはメイドに向いていた。
マナが屋敷にメイド見習いとして入ってから一年後、今度はリークが執事見習いとして屋敷に来た。リークは高齢となった執事長の代わりに呼ばれたようだった。
初めは警戒していたけれど、年が近かったからすぐに仲良くなり、リークとも大人の目を盗んではよく遊んでいた。
私たち三人は、いつも一緒だった。
けれど。
「マナ、今日は公園行くわよ!」
「でもカノンちゃん、お屋敷に戻って勉強しないと」
「え~? じゃあ、ちょっとだけ! ね、お願いマナ!」
「もう、しょうがないな~。少しだけ、ね」
「やったー!」
10歳の私は今よりもっと"やんちゃ"だった。
家を抜け出してどこかに遊びに行く、なんてことが多かった。
「あーあ、リークも来れば良かったのに」
「仕方ないよ、リークは今日凄く忙しそうだったもの」
私が10歳になったときには、リークはもう執事として仕事をしていた。そしてマナも、メイドとして本来は私を止めるべき立場の人物になっていた。
けれど"やんちゃ"な私と、まだ本当は遊びたいマナは度々結束しては抜け出していたのだ。
あの日も。
勉強する気の無くなった私が、形式上たしなめてくるマナを連れ出した。
「今日は何して遊ぶ?」
「んー…あ、じゃあかくれんぼしよ!」
「うん! じゃーんけーん……」
そうして鬼をしたり隠れたりを繰り返し、何回やったか分からなくなって来た頃だった。
「じゃあ次はマナが鬼ね!」
「うん、また10数えるからカノンちゃんも隠れてね」
いーち、にーい、さーん……
さて今度はどこに隠れようかな。よし、あそこの木の陰にしようっと。
かくれんぼは時間との勝負。すぐに決めるとマナから見えない位置にある木の裏へと隠れる。
数える声が聞こえなくなった。
ポンッ
「みーつけた」
「もう!?…………え?」
振り向いたら、マナじゃなかった。
声と同時に背中を叩いたのは、知らない男の人だった。
……怖、かった。
昔から、自分の家が普通より金持ちだという事は知っていた。裕福な人を妬んだり利用したりする人がいるのだということも。
お父様から教えられていた"身代金"という言葉が脳裏にちらつく。
「だ、誰? 私に何か用?」
「やだなぁ、そんな警戒しないでよ。俺は今この街に来たばかりでね、予約しているホテルを探してたんだ。いやぁ、地元の子がいて良かったよ」
そう言うと男は私に向かい、にこっと人当たりの良い笑顔を向けた。
それだけで。
私の警戒心が、無くなってしまった。
「遠いところから来たの? このラルミネ王国には初めて?」
「そうとも、俺はうんと遠いところから来たんだよ。ところで、ここはラルミネ王国っていうんだね」
「知らないのにここに来たの?結構大きな国なのに」
「ああ、お兄さんは知らない事がいっぱいあるんだ。だからさ、ホテルまで案内してくれない? お礼にお茶をご馳走するからさ」
私の腕を優しく掴む男。
困ったことに、まだ純粋だった子供心は困っている人を助けたかった。自分より大きな、大人の人の助けになるなんて凄いと思ってしまっていた。
一歩。
男に近づいた。
「……っダメ! カノンちゃん離れて!!」
おとなしいあの子の。
大きな声が、公園中に響いた気がした。
閑話として書きたかったんですが、長くなりそうだったので一旦切りました。
さて、次の更新はいつになるかな…(´・ω・`)




