02
「アンタ、さっきから何ブツブツ言ってんのよ」
「………へ?」
え、俺?
再び辺りを見ても、声をかけてきたこの人と自分以外誰もいない。
「えーと、俺に言った?」
「アンタ以外に誰がいるのよ。まだまだ仕事あるんだから、ちゃんと働いてよね」
「働くって、何すればいいんだ?」
「……寝ぼけているの?それともこの私、カノン・フェリシアをバカにしているのかしら?――まぁいいわ、早く食器を片付けてちょうだい」
片付けろって何様だおまえ。
ちょっと綺麗な顔してるからってオッサン舐めんなよ!!
あ、今女だった。
んー……てことは今の俺はメイドか何かか?
綺麗な格好してるし、ここはコイツの部屋なんだろう。じゃあ俺はコレの召し使いか。
やだな。
美人系は好きだが、礼儀がなってないのはいただけない。
俺はカノンとやらをマジマジと見た。
年齢は……15歳くらいか?
なんとなく主人公に似ている気もするが、アレは男だし年齢も違う。
じゃあ、誰だ?
貴族だ令嬢だのが多くいる世界には、 召し使いも多く存在する。
けれど俺は、この子が誰か分からなかった。
(カノン・フェリシア?フェリシア……そんな名前の登場人物なんて居たか?)
フェリシアという名前にはなんとなく覚えがある気もするが、作中には出てきていない。
断言出来る。
それに本当になんとなくってだけで、どこで目にしたか分からない程度には知らない名前だ。
ゲームを何十回とやった俺に知らない名前が出てくるなんて、さてはコイツ……わき役だな!?
「まったく、私はラルミネ学園に入園する準備で忙しいのよ。同学年にはディアス王子もいるんだから、失敗は許されないわ。だからアンタも片付けしたら私の支度を手伝いなさいよね」
「はいはい……ん?」
え、いやちょっと待て。
適当に会話を流そうと思ったら、聞き捨てならないこと言われたんだけど?
え、王子?
王女じゃなく?
……え?
「まてよ、ラルミネ王国にいるのはティア・エクシード第一王女とキュア第二王女だろ?」
「アンタ……さっきから、頭打ったりでもしたの?この国に王女なんていないじゃない。いるのは王子、ディアス・エクシード第一王子とキリアス第二王子でしょ?」
「………ディアス…、キリアス…」
おかしい。
おかしいぞ。
俺がやっていたゲームはギャルゲーだ。
断じて乙女ゲーとやらではない!
なのにこれは、きっとアレだ。
ひょっとして登場人物も全員性別変わってんじゃねーか!?
こんなバカなマネが出来るのは、ただ一人。
(おい幼女!
俺を女にしただけで満足しろよ!)
『神様です!男の人に戻りたいってことは、男の人が好きってことじゃないんですか~?』
「ちっっっげーわ!!!!!!」
そんなフォローは求めてねぇわ!!
心の中で神様と会話できたことに驚くが、それより内容が悪すぎる。
何で男に戻りたい=男が好きになるんだ!正反対だろ!!!
とにかく、ラッキーなことに神様と話しているときは声は聞こえないらしい。
大声出しても驚かれなかったし、逆に困惑している俺に、カノンは笑って言った。
「ちなみに貴方は私の専属侍女、マナ・ヒスタリアよ。流石に覚えていたかしらね」
そんなの知らねーよ!!!