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017作品目  作者: Nora_
6/15

06話

「こらぁ、相手してよぉ」


 放課後、俺達は約束通り期末テストでミスらないために勉強をしていた。

 が、姉貴も何故だか付いてきてしまい、先程からずっとこうして邪魔をされているという状況になっている。


「姉貴、終わったら肉まんでも奢ってやるからさ」

「それは貰うけど、今日から家に帰るからね」

「え、沢村先輩とはいいのか?」


 自分から言い出すとは考えにくいし、沢村先輩に拒否られたのかもしれない。

 まあでもあの家が彼女の家なんだから別に構わないどころか戻ってきてくれた方が嬉しかった、それになにより自分が決めていた理想通りの行動だしな。


「このまま一人にしておくと葵ちゃんと変なことをしそうだから」

「しないよ」


 ほら、変なことを言うからまた天色がこちらを向いてるじゃないか。


「さやか先輩、ここにいるなら勉強をしてください」

「ちーくん、鍵貸して」


 どスルー。

 藤原から睨まれているのに強い女だよ全く。

 というか、


「は? 姉貴だって持っているだろ?」


 鍵は各々の分まで作ってあって姉貴だって持っているはずだ。


「それがどこかで落としちゃって……だから貸してっ」

「はぁ……ほら、帰ったらちゃんと大人しくしておいてくれよ?」

「はーい! それじゃあね葵ちゃーん」


 やる気のない人間が帰ってこれから集中できる……はずだったのだが。


「今日から二人きりなんですね。なにかやらしいことをしそうで怖いです」


 またもや嫉妬していると捉えることができそうな言い方を彼女はしてくれた。


「なら藤原も来るか?」

「いいんですか? 義理姉とのいちゃいちゃを邪魔することになりますけど」

「いちゃいちゃなんてしないぞ……」

「義理姉と同じ屋根の下に二人きり、なにも起こらないはずがないですよね、絶対に」

「そこで藤原も来てくれれば気が休まるってもんだ」


 いまみたいに謎なことでぷんぷんされると困ってしまうが。

 だけど彼女は常識があるのであの暴走状態の姉貴にも上手く付き合えると思うんだよな、姉貴もまた藤原のことを気に入っているみたいだし、そういう意味でのトラブルは起きないはずだ、多分。


「ご飯」

「食べに行くくらいならいいって? 姉貴はあれでも調理スキルが高いから来たらどうだ? なんなら勉強もこっちでやったっていいし」

「先輩って私を攻略しようとしているんですか? 申し訳ないですけど、こっちにそういうつもりはないんですが」

「いや別にそんなのはないけど……」


 また姉が出ていったりしたら地味に寂しいから自宅にいる理由を作りたいだけ。

 誰もがそういう意味で近づいて来る、なんて思わないでほしいものだ。


「ふぅん、ないんですね」

「ああ、神に誓ってもいいぞ」


 彼女はそこでキュッと唇を結び、天色の瞳でこちらを見てきた。

 いままではプリントの方に向けられていたので分かりづらかったが見られてもどういう思考をしているのかが分からない、だが、俺にそういう邪な感情がないのだと分かってくれればそれで良かった。


「それより帰るなら早く帰ろうぜ、もう勉強って気分じゃないからさ」

「やっぱりいいです、先に帰ってください」

「なんだよそれ、別にないって変な感情は」


 単純に土台がまだ出来上がっていないのか。

 つまりまあ、そういうのがなくても信用されていないということ、……結構きつい。 


「いいですから帰ってください」

「……それなら帰るけどさ……ま、気をつけろよ」

「はい」


 図書室や学校をあとにして歩いているときに思った。

 俺が必死に誘ってるみたいじゃねえかって。

 言動だけで見れば藤原があんなことを言いたくなる気持ちも分かる。

 まあいいや、今日からどうやら姉貴が家にいるみたいだし。


「って、鍵開いてねえし……」


 ガチャガチャしてみても開く感じがしない。

 しっかりと施錠できることは素晴らしいが連絡をしてみても『外にいるー』とか返ってきて軽くイラッとした。

 そして十二月の寒い夕方、俺は玄関前で体操座りをする羽目になった。


「あー、ごめーん!」

「姉貴遅いぞ……」


 体操座りをしてから一時間くらい経った頃、姉貴が戻ってきて無事に家の中に入ることができて一安心。

 どうして家の中にいなかったのかを聞くと、どうやら沢村先輩の家に荷物を忘れてきたみたいだったのだが先輩の家は近いのでそんなにかかるはずがない――それも重ねて聞いてみると、近所の公園で小さな子達と遊んでいたみたいだった。


「ま、鍵を閉められたのは偉いな」

「えへへ、でしょ~?」


 これが本当のことだから困る。

 いつも鍵をしないで出ていく人間だったので多少の進歩が伺えた。


「あ、そういえば気になる子を連れてきたんだけど」

「は?」

「外にいるから連れてくるね」

「おう」


 どうせ沢村先輩だろと踏んでいた俺だったが、


「じゃじゃーん! 藤原葵ちゃんです!」

「え?」


 まさかのまさか、先程完全に断ったはずの藤原本人で驚く。

 彼女もどこか気まずそうにしているし、もしかしたら姉貴が無理やり連れてきただけなのかもしれないため謝罪をしておいた。


「ちなみにっ、この子は今日この家に泊まります!」

「「えっ?」」

「あれぇ? そういう約束だったはずだよねぇ?」

「し、していませんよ!」

「とにかく、寝るところは私の部屋だからね! あ、ちょっと部屋にこもるから、ちーくんの相手をしててね~」


 じ、自由か……帰ってきたと思ったら早々に……。


「悪いな、姉貴がさ」

「……ですから」

「え?」

「……行きたいと言ったのは私ですから!」

「そうなのか? 無理やり連れてこられたとかじゃなかったらそれでいいけど」


 どうして急に変わったのかは分からないし、どうやって姉貴が藤原と合流したのかも分からないが、こちらとしては望んでいたわけで嫌な気分には一切ならない。

 とはいえ、藤原が居づらくなるだろうから余計なことは一切言わないことにした。


「勉強、しましょうよ」

「だな」


 姉貴に絡まれたり彼女に絡まれたりして実質やっていなかったのと同等だったのでその提案はありがたい。

 それから俺たちはカキカキと自分のプリントやノート、教科書に向き合った。

 途中途中で彼女を見てみたものの、凄い一生懸命で声をかけられる雰囲気ではなく。

 騒がしい姉貴がいないのも相まって、先程と違って最後まで集中できて。


「ふぅ……」

「お疲れか?」


 彼女がペンを置いたのを確認してから俺も置いた。

 なんつーか年上が先にやめるのもださい感じがしたからだ。


「……初めての場所なので緊張してしまって」

「そうか。でも安心してくれ、本当にそういうつもりはないから」


 俺がそう言うと藤原は複雑そうな顔でこちらを見た。

 俺にそのつもりは一切ないが、偽りの言葉を並べていると勘ぐったのだろうか。

 害にならない言葉を並べたら並べたでなにか裏があるんじゃないかと疑いだすのかもしれない、そこがコミュニケーションの難しいところではある。


「……先輩って誰に対してもそうなんですか?」

「誰に対してって言われても、田村や渡部とぐらいだからな毎日話すのは」

「そうじゃなくて……誰にでも真摯な姿勢っていうか……」

「いや、真面目なんかじゃないぞ俺は」


 ひたむきにもなれない、可能性がないと分かったら切って他に移ろうとするそんな人間だ。

 色々と言い訳をして、俺と○○は○○だから~なんて考えていただろう。


「さやかちゃんに欲情もしていないようでしたし」

「しねえわ! ……大切な家族にそんなことしないよ」


 父と姉がいるからこそ俺は普通に生活できているというわけで、そんなことができるわけがない。

 姉はあんなんでも俺に優しくしてくれたし、最初の頃は俺より大人しかった――と言うよりも、彼女も俺の姉らしくいようとしてくれたんだろう、だから初めてあのはっちゃけた姉の様子を見たときは驚いた。

 だけど無理をしている感じが一切しなくて、俺にとっては素の方が好きだと言えた――のだが、まあ限度というものが何事にもあるわけだ、うん。

 それでも、どこまでしていいかを姉も理解はしていたのであまり問題にもならなかったがな。


「楽しいですか?」

「そうだな、父さんがいまは家にいないから姉貴が帰ってきてくれて安心するよ」

「一人より、いいですよね?」

「そりゃあな」


 気づいたら父と姉といたから二人がいなくなるのは違和感しかない。

 だけど聞いた限りでは、藤原の家には父も母もいないという状況で。


「あの、またここに行かせてもらってもいいですか?」

「おう、藤原が来たいならいつでも来たらいい、姉貴だって嬉しいだろ」

「さやかちゃんは優しいですからね」

「ああ、本当にな」

「「…………」」


 なんか藤原が来るとなったらむず痒いな今度は。

 だけどあれだな、彼女も柔らかい笑みを浮かべているから問題はないのかもしれない。

 というか彼女の笑顔が俺は見たかったのか? 何故か喜んでいる自分がいる。


「ガン見しないでください」

「笑顔が魅力的だなと思ってさ」

「え、笑っていましたか?」

「おう」

「最近、よく分からないことが多すぎて困ります」

「奇遇だな、俺もだ、この数学の問題とかなー」


 教科書とノートを見返してみても分からないままだ。

 つか板書した自分の字が汚え……今度からは気をつけよう。


「ちゃんとしてください、あなたの方が一歳年上なんですから」

「いや、年上とか関係ねえよ。得手不得手ってのがあるわけよ、あ、藤原が教えてくれないか?」

「二年生の問題が分かるわけないじゃないですか、あなたはほんとに、ばか、なんですから」

「どうして強調するんだよ……」


 ただ、やっておけば無駄なことなんてないのだ。

 テストを受けてから「あそこをやっておけば良かった!」なんて後悔することがないよう毎回努力をしている。

 だから赤点をとったことは一度もないし、平均七十点ぐらいはとれているので問題はない。


「お腹が空きました」

「あ、話を逸らすなよ――って俺もそうだな、姉貴を呼んでくるわ」

「待ってください」

「おう、どした?」

「あれ? どうして私……先輩を引き止めたんですか?」

「は? いや、分からないけど……」


 俺は彼女じゃないんだ、おまけに察する能力も低いから分からない。

 

「……私が呼んできますっ、先輩はここにいてください!」

「おう、それなら頼んだ」


 そういうことならとソファに座って待つことにした。

 ……一時間後、彼女は姉貴を連れてきて言った。


「さやかちゃんは自由すぎます……」


 と。

 確かにマイペースなところがあるので相手をするのは大変だと思う。

 約束事があるのに本を読んでいて遅刻した、なんてことは何回もあったことだ。


「だろうな。ま、お疲れさん」

「わっ……撫でないでください!」

「なんか妹ができたみたいで新鮮でな」

「嫌ですよ、こんな自由な兄と姉がいたら!」

「はははっ、そりゃそうだ!」


 いいことばかりではないのは確かだった。

 ぼけっとしていると平気で三時間とか姉は入るタイプだ、そういうのもあって風呂の順番とかで争ったりするしなあ。

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