02話
「久保くん」
「よう、どうした?」
彼女に話しかけられる率が段々と上がっているが用件はなんだ。
「今日は用事があって残れないの、だから代わりに掃除をしておいてちょうだい」
残念無念、友達にならない? という誘いではなかったようだ。
「いいぞ、そういうことなら仕方がないしな。ただ、田村といちゃいちゃするためとかだったらやめてくれよ?」
「し、しないわよそんなこと……それじゃあね」
「おう、気をつけろよー」
どうせ放課後は暇だ。
姉貴だって家にはいないわけだし、急いで帰る必要もない。
田村は部活動に行ってしまっているので逆にいい時間つぶしになりそうだ。
というわけで掃除を開始。
ま、なんてことはない行為だ、今更、変に気張る必要もないわけで。
「こんなもんか」
ざっと三十分くらい掃いたり拭いたりして終わらせた。
用具を片付けて教室に戻ってくると、
「……いつ戻ってくるのかなあの人……」
俺の席に座ってぶつぶつ呟いている少女がいた。
「おっす、なにか用があったのか?」
「ひゃあ!? い、いきなり声をかけないでくださいよ!」
「それならどうすればいいんだよ」
腕に触れても駄目、話しかけても駄目じゃ――横切ればいいのだと学ぶ。
「どうした?」
「いえ、ちょっと田村先輩に用がありまして」
「ふーん、体育館に行けばいるぞ?」
田村に会いに来たのならなんで俺の席に座るのか。
「案内、してくれませんか?」
「いいぞ、それじゃあ行くか」
校舎内を歩いていく。
その間、俺たちの間には会話がなかった。
どうして一緒にいるのか分からないという気持ちを抑えつつ体育館へ。
「田村ー!」
「ん? おお三橋どうし――だ、誰だその子はっ?」
「田村に用があるんだってさー」
幸い、一時休憩中だったので田村はすぐにこちらへと来てくれた。
「田村先輩、こんにちは」
「おう、ちは。で、俺になんだって?」
「ちょっと二人きりで、でもいいですか?」
「おう」
「田村、渡部が怒るぞ?」
「そんなんじゃねえだろ、ちょっと待っててくれ」
え、まだ残っていなければならないのか……。
にしても、もう彼女がいるってのに田村はモテモテだな。
そういえばどこかで彼女がいる方がモテる、なんてことを聞いたことがある、これもまたその事例なのだろうか。
「久保、お前もやるか?」
「んー、でもバスケって全然したことがないんだけど」
「いいからいいから、ちょっとシュート打ってみろって」
せっかく誘ってくれたのにやる前からやめるというのも申し訳ない。
田村の友達の見様見真似で数回シュートを打ってみた。
「おぉ、努より上手いんじゃね?」
「そんなことないよ、田村はずっとバスケをやってきているんだから」
お世辞なのは分かっているがそれでも言いたくなる、それにディフェンスがいない状態のシュートが入ったところであまり意味はない。
おまけにいまも言ったように田村は小学生の頃からずっとやってきているんだ、流石にこんなトーシロと比べられたら悲しいだろう。
「謙虚なところがいいな、バスケ部入るか!?」
「い、いや、見ているだけで十分だよ」
「そうか。まあ休憩中くらいだったらゴールも使えるし、また来いよな」
「おう、ありがとう」
まだだろうか?
まさか二人なのをいいことに良くないことをしているんじゃ……って、それはないか、そんなことをしたら血の雨が降ることになると田村は分かっている。
「いやー悪い悪い、待ったか?」
「全然。あれ、あの子は?」
「いるぞ、俺の後ろに」
田村が避けると確かに彼女がいたのだが、
「田村……彼女がいるんだから口説くなよ」
なぜか田村に隠れるようにしてこちらを見ていた。
うーん、姉貴といいこの子といい、俺ってそんなに怖いのだろうか。
「はは、そんなんじゃねえよ。もう帰るのか?」
「そうだな、あんまり残っていてもしょうがないしな」
「だったら藤原ちゃんを送ってやってくれ、最近はこの時間から薄暗いからな」
「俺はいいけどその子が嫌なんじゃないのか?」
俺には教えなかった名字を初対面の田村には教えたわけなんだし、いまだって田村の後ろからこちらを見ているわけだし、そういうのが影響してじっと田村を見ていたら「大丈夫大丈夫」なんて無根拠なことを言い出しやがった、それから隠れているその子を引き剥がしてこちらへと押してくる。
ちなみにそれでも怒ることもなく「部活動、頑張ってくださいね」と言うだけだった。
体育館をあとにして昇降口へと歩いている途中も、敷地内から出たあとも会話なんてものはなかった。
「悪いな、田村みたいに気が利いたことを言ってやれなくて」
だったらこちらから話しかけてしまえばいいと判断して話しかけてみたのだが、
「別に」
とだけ帰ってきて俺は確信する、あ、これは嫌われているな俺、と。
異性から嫌われるというのは結構堪える、これまでは問題が起きないように振る舞ってきた分、余計にそうだ。
つか俺がなにかしたか? 触れたり驚かせたりしたのが致命的だったということならもうそれはしょうがないが。
「田村とどういう関係なんだ?」
「どうでもいいじゃないですか」
「そうだな……」
取り付く島もないとはこのことかねー。
ほぼ初対面の頃の渡部よりも対応しづらい。
「久保先輩、友達がいないって聞いたんですけど本当ですか?」
あいつ……余計なことを言ってくれやがって。
「まあちゃんと友達だと言えるのは田村くらいだな」
「さっき一緒にシュートをしていた人は違うんですか?」
「ああ、田村の友達ぐらいとしか言えないな」
つか、どうしてこんなことを聞く? 田村と一緒になって友達の少なさを笑うとか? 俺に興味を抱いている……わけがないだろうし……。
「気になりますか?」
「いや、そうでもないな」
「私は気になります」
「友達、いないのか?」
「有り体に言えばそうかもしれません」
まあ喋りかけただけで犯罪者扱いをしてくるような人間の近くにいたら疲れる、なので仕方のないことのような気もする。
「友達になってやろうか?」
「そういう上から目線なのはむかつくのでいいです」
「だよな、悪い」
そもそも俺らはなんでいるんだっけか。
これはあれか、遠回しに押し付けられたということか。
仲良くしていると渡部が怒る、だけど無下にもできなくてこれから部活動ということも利用して藤原をこっちに……。
「ま、田村と仲良くするんだとしても露骨なのはやめた方がいいぞ。渡部は怖いからな、あいつと一緒に怒られかねないからな」
「別にそういうつもりで田村先輩に近づいたわけではありません」
「つか、田村が友達なんだろ? あいつと友達でいられれば交友関係の悩みなんてなくなったようなものだしイージー――あ、はい、そういうつもりじゃないんだよな、誤解して悪かったよ」
ついでに挨拶を済まして彼女と別れた。
全然仲の良くない、ましてや彼女のようなタイプの人間といるくらいならさっさと家に帰った方がマシだ。
今日のだって渡部に頼まれていなければ残っていなかったわけだし、次からは気をつけて行動することにする。
「ただいま」
「こんにちは」
「お、沢村先輩」
家に帰ると姉貴の大好きな人が玄関に立っていた、ということは姉貴も帰ってきているわけだが……。
「千尋くん、帰ってきてすぐにで悪いんだけど、さやかちゃんを部屋から連れてきてくれない?」
「え、姉貴は部屋にいるのか?」
「そうなんだよ、家に帰ってきたっきりこもったままで」
「というか、沢村先輩の家に泊まっていたのか?」
「そうだね」
ある意味生殺しの状態だな。
二階へ行って姉の部屋の扉をノックする。
「姉貴ー」
「あ、弟くん! おかえりー」
「それはいいけど沢村先輩、困っているぞ?」
「あっ! あはは……本を読んでたらつい時間が経っちゃってたみたい」
自由だな、この人っていつも。
「あ。姉貴、頑張れよな」
「え? あ~……うん、まあね」
微妙な反応、近いからこそ難しいと思っているのだろうか。
というかなにをしに帰ってきたんだ? 本を読むためだったとしたら自由すぎるぞ流石に。
沢村先輩を連れてきていることから荷物を取りに来たん……だよな? それだというのに下りる際になにかを持っている感じはなかった。
「ちーくん」
「って、いたのか」
「あのさ、一人じゃ寂しい?」
「いや、そうでもないな」
「あっそっ、ぶーぶー!」
今度こそ姉貴は階段を下りていった。
いや、仮にここで寂しいと言ったところで残りはしないだろう。
俺は信用されていないみたいだし? だから無駄なことはしない。
とにかくこうして姉貴は帰っていった。
残された俺はただ一人まったりとした時間を過ごしたのだった。




