14話
「三橋あけおめー」
「あけおめだな」
さて、ついにこのときがきてしまった。
そして何故か俺は田村と新しい年を迎えてしまった。
実は田村ルートだったのか? と青ざめていると二階から二人が下りてきて一安心。
「あけましておめでとうございます」
「あけましておめでとう、久保くん、努」
「あけおめ」
「おう。あ、澪、ちょっと空き部屋を借りようぜ」
「そうね、私達にはやり残した戦いがあるものね」
二人はあっという間にリビングから消えていった。
ちなみに、二人のやり残した戦いとは姉貴に呼ばれたことで中断しなくてはいけなくなったゲームのことだ。
人の家でいちゃつくということはしないだろう流石に。
「葵、姉貴は?」
「もう寝ちゃいましたよ。でも、寝る前が凄くハイテンションで疲れました……」
「お疲れさん」
ま、しおらしい姉貴とからしくないし、いつまでも元気でいてほしいものだ。
「座れよ、紅茶でいいか?」
「はい、ありがとうございます」
礼を言われるようなことじゃない、湯を沸かしてパックを入れて少し待つだけなのだから。
「ほい」
「ありがとうございます。……ん、温かいですね」
「寧ろ熱いだろこれ」
後輩よりもお子様舌で困ってしまう。
いや違う、いま困っているのは俺らの関係性についてだ。
俺は二十六日に好きだと告白した、だというのにどうやら彼女の中では関係性が進展していないらしいのだ。
その証拠に手を握ることすらさせてもらえない、頭を撫でても微妙そうな顔をする。
当然、抱きしめなんてできるはずもなく……。
「あ、葵」
「はい? あ、早く飲まないと冷たくなっちゃいますよ?」
「紅茶のことはいまいいんだ。それよりもさ、俺らの関係ってどうなっている?」
あのとき発言した「最低」だという言葉――それが色々なことに対しての言葉であったならあの日振られたということだろうか。
もしそうなら凄く悲しいし、小泉に葵を押し付けたくなる。
「そうですね、千尋くんが私に告白しました」
「いや、それは俺も分かっているよ」
つか俺自身が分かっていなかったらやばいだろ。
そこまで残念な脳を持っているつもりはなかった。
「それで私はまだきちんとお返事をしていません」
「あーそういう……」
「え、もしかしてもう付き合っていると思っていましたか?」
「……別に」
そりゃそうだ、だって実に彼女らしい態度だったわけだし。
嫌いとか言っていたのも流されないようにしていた対策だったと本人から聞いていた、そういうタイプがほいほいと手を繋がせたり抱きしめさせたりなんかしないだろう。
態度に出ているのだろうか、彼女は「拗ねないでくださいよー」と口にし逆に困ったような笑みを浮かべていた。
「返事、したほうがいいですよね?」
「そりゃまあな。どっちにしても返事はほしい」
言葉とは裏腹に不安視はあまりしていなかった。
だって俺が興味のない人間や嫌いな人間だったとしたら抱きしめさせるなんてしないだろうから。
「……私も好きですよ、よく分からないですけど」
「ははは、真似かよ」
「だって本当によく分からないんです、初めて出会った次の日から自分のことなのに違和感しかなくて……」
「田村に会いに行った理由は?」
「……あ、あなたのことを聞こうと思っただけですよ、どこかの誰かさんは田村先輩のことを狙っている的なことを考えたようですけど」
それはしょうがない、何故なら渡部という彼女がいても尚、狙おうとする女子が多かったからだ。
あの金髪ツンツン男子君は誰にでも優しくしてしまうのでみんな自分にその気があるんじゃないかと勘違いしてしまう、俺みたいな奴にも優しくできる稀有な奴だからな、異性が意識してしまうのも無理はない。
同じような感じで渡部も男子からモテるがあちらは精神力が違いすぎる、それと努ラブすぎて彼女を狙っていた男子からも応援されるくらいだ。
「葵、握手しようぜ」
「いいですけど――って、力が強いですよ」
「悪い」
ふにゃふにゃしていてどれくらい力を込めていいのかが分からない。
「千尋くんは変なところで緊張をするタイプですよね」
「ああ……いまマジでやばいからあまり触れないでくれ」
「ふふ、手を繋いでいるのにですか?」
確かに矛盾しているのは分かっているが俺はそうやって笑ったりするのをやめてくれと言ったつもりなんだけどな。
たかだか名前で呼んだくらいでドキドキする人間が緊張しないわけがない、というか俺たちはどうしてこうしてずっと手を握っているんだろうか、握手だろ?
「あ、葵、離さないのか?」
「って、千尋くんがぎゅっと握ってきているんじゃないですか」
慌てて手を離す、これは猛烈に恥ずかしい。
抱きしめたときといい手を繋いだときといい、何故異性の体の感触というのは続けたくなる魅力があるのだろうか。
「……柔らかいのが悪いんだよ」
「なんか言い方がやらしくないですか?」
「いやほら、葵は胸ないしな」
「なっ!? ありますよっ!」
「お、おい――」
彼女は俺の頭を抱いて「ありますよね!?」と興奮気味の様子だが自分がしていることの意味に気づいているのだろうか。
ふと我に返ったときに「最低ですっ、別れましょう!」なんてことにならなければいいが……。
「ふぁ~……ちょっと寝て楽になった~――え?」
「「あ……」」
それはねえぜ姉さんよ。
違うか、前も似たようなことがあったんだから警戒をしておくべきだったんだ。
なにより今日は田村や渡部だってこの家にいる。
……いちゃついてんのは俺らの方じゃねえかよ。
「ふふ、ふふふふ」
「ど、どうした姉貴、気持ちが悪いぞ?」
「いや~やっと関係が進展したんだなって思ってさ~。ちなみに、私もはーくんとお付き合いを始めましたので出かけてきます!」
「は? はああああ!?」
「ひゃっ!? お、大声を出さないでくださいよ!」
なにさらっと重大情報を流していやがる!
あれだけ進展しなかった二人がこのタイミングでより親密に? 色々なことが起こりすぎて雨が降りそうだ。
「い、いや、姉貴いつ……」
「え、二十五日の夜だけど」
「その日に言えよ!」
じゃあなんであの日、中途半端な時間に帰ってきたんだ。
もしかしてあれか? 幸せすぎてどうしようもないから自分を休ませるために帰ってきたのか? 姉貴なら実際にやりかねなさそうだ。
「とにかく、出かけてきます!」
「一人じゃ危ないだろ、送るけど?」
「あ、外に来てくれてるから大丈夫~」
「そうかい……」
なんか寂しいな。
でもめでたいことではあるのでおめでとうと言っておいた。
「葵は知っていたのか?」
「はい、先程聞きましたから」
なるほどな……だけどそれならどうして渡部も呼んだのだろうか。
沢村先輩と渡部は関わりがないはずだし――って、そんなことどうでもいいか。
「悪かったな」
「え?」
「胸がないとか言って、普通にあったわ」
「あ、あー……はい」
「それとありがとな」
「いえ、こちらこそ」
これで俺らも晴れて恋人になれたということか。
たった一ヶ月くらいだが変わるもんなんだなって俺は内で呟く。
別にコミュ障というわけではないのだからいつかは誰かとこうなっていたわけだが、いまはこのタイミングで彼女とこういう関係になれて良かったと心から思う。
「千尋くん」
「ん?」
「……します?」
「葵がいいならするか」
彼女がこちらを向いて目を閉じたので、不慣れながらも本当に優しく彼女の唇に自分のを触れさせた。
「……あの、本当に初めてですか? 慣れているような感じがしましたけど」
「おいおい、当たり前だろ? 心臓バックバクだぞ」
「あ、ほんとだ……あはは、千尋くんらしくて安心できます」
俺らしいか、葵こそ彼女らしいと言えるが。
顔を赤く染めこちらを蕩けた感じで見つめてくる彼女を見て、そう何度もできることじゃないなと分かった俺だったのだった。




