11話
「って、もう終業式の日なんだが……」
しかも既に解散の流れとなっている、だから本来なら後は帰って冬休みを謳歌するだけなのだが……。
「今日はクリパしよー」
「いいねー」
そう、周囲が盛り上がっているように今日がクリスマス。
イブ――昨日から家では一人でいるので地味に寂しい。
つか、クリスマスまで学校に行かせるのはやめようや、だってぼっちは虚しさが込み上げてくるだけだぞ。
「三橋ー」
「お、田村」
こいつも憎きリア充の一員――という感情はなく今年も楽しく渡部と過ごしてほしいと思った、なんか去年は喧嘩になってしまったとか言っていたしな。
「今年も世話になったな」
「って、もう会わないつもりかよ……」
「別にそういうわけじゃねえよ。あれ、澪は?」
「知らないぞ?」
教室に残っているのは俺みたいな暇な奴だけだ。
さっさと帰りたい連中は一気に出ていき、いまこの場所には俺と田村しかいない。
ちなみに、先程の二人は盛り上がりつつ出ていった。
「努、来てたのね」
「澪、どこに行ってたんだ?」
「少し面倒くさい女の子の相手をしていたの。あら、嫌われ者さんじゃない」
「まあな。渡部、今年はちゃんと楽しく過ごせよ」
酷い挨拶だ、その通りだから言い訳はしないが。
去年喧嘩したのはプレゼントがしょぼいからというだったらしいので、努には頑張ってほしいものだ、そして渡部はそれを喜んで受け取ってやってほしい。
何故二人のことなのにこんなに願うのかはあれだ、去年は大晦日までずっと愚痴を聞く羽目になったからだ。
田村と渡部の両方からだぞ? ぼっちには酷な行為だろうそんなの。
「分かっているわよ。努、もう帰るわよ」
「あいよ、それじゃあな三橋」
「おう、じゃあな」
俺は自分の席に深く腰掛けて伸びをした、なにがあるというわけではないがここで時間を潰したいのだ。
夕方頃になったら学校を出て夜の街を歩いていく――少しでも疎外感を感じないための事前準備。
「久保先輩」
「おお、小泉」
この少年もよく俺に話しかけてくれるものだな。
実はあの日から毎日こうして来てくれているので退屈はしなくて済んでいた。
「あれからどうですか?」
「うーん、駄目みたいだなー」
元々、一緒にクリスマスを過ごせるなんて思っていなかったから悲観もしていないが。
「そうですか……あ、ちなみに僕は気になっている人と過ごせる予定ですっ」
「め、珍しくテンションが高いな、楽しんでこいよ」
どうしてわざわざ俺にぶつけてきたのかは分からないが楽しんでほしい。
「聖人もたまには優越感に浸りたいのかもな」
クリスマスに気になる人といられるとなったらそりゃテンションも上がる。
悪くはないが悪いのはクリスマスとかいう変な行事を作ったせいだ。
いや、なにがどうしてリア充が盛り上がるようなイベントになったのかが気になるところだ。
「あの」
「ん? あ――」
こういう急襲の仕方は駄目だと思う。
「帰らないんですか? さやかちゃんはもう帰りましたけど」
「まあな、ここで夕方まで時間をつぶすつもりだからな、気をつけて帰れよ」
「奇遇ですね、私も時間をつぶしていこうと思ったんです、今日は母と一緒に過ごす約束をしていますので」
「そうかい」
この期に及んで他の男と過ごつもりじゃなくて良かったなんて思ってしまった自分を殴りたい。
そして何故だか彼女もこの教室でつぶすことを選択したらしく俺の席の前に座った。
「もうクリスマスですね」
「だな」
一応会話をしてくれるくらいの仲ではあるらしい。
「時間をつぶすということは約束をしている相手でもいるんですか?」
「いや? 夜になったら適当に外を歩こうと思っているだけだよ」
「一人で寂しそうですね」
「別に」
去年の姉貴は沢村先輩の家に行っていたし、父だって友達と飲みに行っていたことから一人だったのだ。
だから全然寂しくないし、姉貴達の進展のなさに悲しくなるくらいだった。
「ふぅん、寂しくないんですね」
「ああ」
俺が頬杖をつきながら彼女を見ていると窓側へ意識を向けていた彼女もこちらを見て「……あの、怒っていますか?」と聞いてきた。
「いや? 確かに俺は嘘つき野郎だからな、信用できないのは分かるぞ」
「正直に言ってください」
「別に怒ってはいねえよ、何度も言うけど藤原の言う通りだからな」
「……すみませんでした」
「だから怒っていないって」
「じゃなくて……あ、謝るので元通りになりませんか?」
元通りつったって……また彼女が壊すんだろ? 毎回、俺の方から切れたわけでも、切ったわけでもないんだから。
「……それも違って、私がそうなりたいって思っていて」
「藤原がか? あ、そういえば藤原は小泉のことをどう思っているんだ?」
仮にここで好きだと言っても叶うことではないが聞いてみたかった。
「前にも言ったように小泉くんはいい人ですけどそういう好意はありませんよ、だから……久保先輩が不安になる必要はない……かと」
確かに気になって見に行ったがいまのタイミングで言うには勇気のいることを彼女は口にした。
……なんだよ、全部バレバレだったってことかよ。
「それと……嘘つきは私もなんです」
「どういうことだ?」
「……母とは昨日過ごしたので、今日は暇でして……」
「なるほどな、俺のところも姉貴が沢村先輩の家に行っているからいないんだよ」
今日は暇、か、その情報を得られたからといって誘えるわけでもない。
だってそうだろ? 少しでも思っていなければ「信じたくない」なんて言葉は出てこないはずだ。
「……暇、なんですけど」
「奇遇だな、俺もだ」
「……暇っ、なんですけど!」
「近いぞ」
それに仮にここで誘ってオーケーを貰えたのだとしても楽しませてやることができない、これもまた非モテの弊害ってやつなんだろうが。
「具体的に言えばいまから来年の六日までずっと暇なんですけど!」
「でもよ藤原よ、楽しませてやることはできないぞ?」
「……私だって面白いこととか言えないですし、一方的に求めることなんてしませんけど」
「藤原と過ごしたい奴がいるんじゃないのか?」
本当は気になる人がいると言っていたのも嘘で小泉の奴は変に遠慮しているだけなのかもしれない、おまけにノリが悪いと分かっていても藤原を誘い続けるということは興味を抱いているということだ。
「……鈍いなあほんとに……」
「おい、聞こえているぞ」
「久保先輩って鈍感さんですよね」
そうか? それっぽい雰囲気になったらすぐに勘違いをしてドキドキするような初な心を持ち合わせているつもりだが。
「矛盾しているように感じると思いますけど私がっ……あなたといたいんです」
「えぇ、『信じたくないから』って言っていたけど?」
「も、もう過去のことはいいじゃないですか!」
「それなら家に来るか?」
「はい!」
まあ小泉とそういう約束をしたからなあ……。
外で時間をつぶすくらいしか予定がなかったので特に問題はない。
「ところで……家では二人きり……なんですか?」
「そうだな、姉貴が帰ってこなかったら二人きりだな」
「プレゼントとかって……どうしましょうか」
「なんか買いに行くか!」
こういうクリスマスは初めてだ。
しかも異性と二人きりで過ごすのなんてもうこの先できないかもしれない。
だったら世間の『クリスマス』らしい過ごし方の真似をしておいた方がいいだろう。
「ど、どうしてそんなに乗り気なんですか?」
「いや、初めてだからさ、こういう過ごし方をするのは」
物を買って贈り合うとかいいじゃないか。
それもまたそういう関係同士って感じがして魅力的だ。
「初めて……」
「おう、藤原はどうだ?」
「私も異性の子と二人だけで過ごすというのは初めてですけど」
「そうなのか? 意外だな」
面倒くさい性格だけど可愛いところも多いので人気かと思ったのだが本人の話を聞く限りではそうでもないらしい。
「む、久保先輩って私のことを軽い人間だと思っていますよね」
「いやいや、寧ろ嬉しいぞ?」
「へ……?」
「あ、いや……」
なんだよ俺、しかもどんだけ短期間で意見を変えるんだよ。
ころころ変えていたらそりゃ信じられない、どれが本当の俺なのか相手からすればもっと分からなくなることだろう。
「……行こうぜ」
「は、はい」
別に今更こんなことを言ったところで恥ずかしくない――のに、よく分からない感情と戦いつつ街へと繰り出したのだった。




