10話
はてさて、俺らの関係はぶっ壊れたわけだが……。
「ちーくん、クリスマスになったら葵ちゃんを連れてきてね」
は? だから俺らの関係は終わったわけなんだが?
「もしかして喧嘩をしたとか言わないよね?」
喧嘩どころか関係が消滅した――って何度同じことを考えさすんだよ。
もうあれは修復しようがない。なにより小泉の優秀さが際立った形となる。
おまけにあれなら藤原だって意識することだろう、少なくとも俺なんかと比べたら――いや、比べることすら申し訳ないとか考えていそうだしな。
「ああ、呼びたければ呼べばいいんじゃないのか?」
「だからそれをちーくんに頼もうかと」
「悪い、クリスマスは用事があるんだ。つか、沢村先輩とはいいのか?」
寒い夜の中、色々な意味で寒い気持ちを抱えつつ適当にここら辺を歩こうと思っているのだ。
「あー……そういえばそうか、春くんはどうするのかな」
「まあまだ時間あるしな、頑張って誘ってみろよ。家を使ってもいいからさ、あ、ちょっといやらしいことをしたいときに最適だぞ?」
「し、しないからっ! だけど……頑張ってみようかな」
「おう、応援してる」
沢村先輩と付き合えればもう少し落ち着いた姉貴を見られることだろう。
問題なのは家にいる時間が減ってしまうことだがそこはまあ本人が幸せならそれで十分だと言える。
俺の方は残念ながら今年も誰か特定の人はいないまま経過する流れとなった。
田村を誘うわけにもいかないし、それ以外に友なんていないしな。
「あれ、インターホンが鳴ったよ?」
「ああ、出るよ」
田村か渡部か、それともただの知らない人間か。
出てみると、
「久保先輩、こんばんは」
外にいたのは今日俺と彼女の前で完璧人間でいてくれた男だった。
「は? こ、小泉?」
「中、いいですか? あ、二人きりだと助かるんですけど」
「お、おう、じゃあ姉貴には部屋に行ってもらうわ」
とりあえずリビングに入ってもらって姉貴にはそういうことだからと説明をしておいた、無理やり追い出すのではなく了承を得てからの方が間違いなくいい。
「分かった、それじゃ終わったら部屋に来てね~」
「おう、悪いな」
「ううんっ、大丈夫だから!」
小泉用の飲み物を用意し手渡した。
「ありがとうございます」
「おう」
さて、小泉はなんのためにこの家に来たんだ?
それより、どうして俺らの家を知っているんだろうか。
「ふぅ。あの、話というのは葵さんのことについてなんですけど」
そりゃそうだろうな、そうでもなければ家になんか来ないだろう。
「久保先輩端的に言います、葵さんと仲直りをしてください」
何故だ? 俺は確かに小泉の前でも最低さを露呈させたはずだが。
「葵さんはそれを望んでいます」
「待て、一つ聞いていいか?」
「はい、どうぞ」
「小泉は藤原のこと、どう思っているんだ?」
ここで気になってるとか好きだとか言ってくれるのが理想だが果たして。
「残念ながら久保先輩が考えているような想いはないですよ、葵さんはいい子で魅力的な子ですけど、僕では釣り合わないですから」
「なんでだよ、小泉は藤原の理想の存在だろ?」
静かで自分のために動いてくれて、優しくてノリも良くて、寧ろ彼を選ばなかったら藤原のセンスを疑いたくなるくらいだ。
「……それならもっとはっきり言いましょうか。僕には好きな人がいるんです、年上の人なんですけどね。ちなみに、あの学校の生徒さんではないのであれなんですけど……」
「なるほどな、まあそれなら仕方ないよな。だけどなんで仲直りを?」
「葵さんあの後、泣いていたので」
「泣く……藤原が?」
言いたいことを言えて満足できたわけじゃないのか。
他人にぶつけるときはいいことばかりではないと彼女が教えてくれているような気がした、泣いていたのかどうかは分からないが。
「『なんでこうなっちゃったんだろう!?』って」
なんでもなにも、全ては藤原のせいと言っても過言ではないのだが?
別に放課後のあいつらみたいに悪口を言ったわけじゃないし、男女的な意味で考えればいいことしか言っていないはずなのにその度に彼女は不機嫌になった。
それでもなんとか関係は保ったままだったが今回ので完全に消滅した形となった――というのが俺の考えているところだ。
それなのに今更あいつが悔やむか? どうせ関係が戻ったとしても、あいつの心は別に向いている状態から変わることはないだろ。
寧ろ今日ので余計に距離ができたわけだし、いちいち仲直りなんかしなくたって結果的に見ればあいつのためになるはずなんだ。
「いや、いいんだよ」
藤原の言うように嘘つき野郎だ、その点小泉は違う。
仮に彼に好きな人がいるのだとしてもまだ付き合っていないのなら頑張ろうとする、多分、きっと、まあ……そんな感じで。
「ありがとな、色々と教えてくれて」
「久保先輩……」
「無理だ、俺じゃあいつを怒らせるだけでしかないしな」
少なくとも俺から動くのは無理だ。
あんな思いを何度も味わいたいなんて考える人間はいないだろう。
会ってもよく分からないきっかけから口喧嘩になってすぐに別れて終わるだけだ。
「どうしても、ですか?」
「少なくとも俺からは動けない。短い期間しか関わっていないけどさ、多分俺らは相性が悪いんだろ。小泉と関わっているときのあいつ、見たろ? なんか反応とか仕草とかめっちゃ乙女って感じがしていただろ。だから寧ろ俺が頼むよ、藤原と向き合ってやってくれ」
相手が年下だろうと頼むのだから関係なく頭を下げた。
それが俺の理想、そして恐らく彼女の理想なんだ。
「……いいんですか? 僕に葵さんが取られてしまっても」
「ああ、いいんじゃないか。勿論、中途半端な気持ちなら……やめてやってくれ」
「矛盾しているじゃないですか」
「もしその気になったら頼むよ」
小泉以外の人間に取られるよりは全然マシだ。
つか何度も言うが別に特別好きだったわけじゃない。
そういう感情が芽生える前に上手くいかないことの連続だったからな、一緒にいられた時間だって少ないわけだし。
「何度も言いますけどそれはできませんよ」
「そうかい」
「ということで仲直りしてあげてください、お願いします」
今度は後輩から頭を下げられる始末。
「なんで俺に拘る? 別にいい奴なら他にも沢山いるだろ」
「あなたじゃないと駄目なんです、葵さんは間違いなくあなたを求めている」
「俺を? 俺もあいつも名前呼びすらしていないんだぞ?」
「いいじゃないですか、慎重に動いていることが分かって。名前で呼ぶことなんてご飯を食べないでいることより簡単です。なのにあなたはそれをしていない、がっついていなくて好評価だと思いますけどね」
ま、確かに名前で呼ぶことなんて簡単だ。
その証拠に、藤原はすぐに姉貴のことを名前で呼び始めたわけだしな。
「いや、小泉も見たろ? 信じたくないって言ったよな、藤原は」
だけどそれはあくまで土台がしっかりしている人間同士だけに当てはまることだろう。
駄目なんだ、俺らの場合はそこが脆すぎる、いつか壊れる――いや、もう壊れたのだ。
そんな状態で頑張ったって意味はない。
「もし素直になれていないだけだったとしたら、どうしますか?」
「ツンデレってやつか? あいつ、普段はどんな感じなんだ?」
「静かな子ですかね、授業態度もしっかりしています。ただ、窓の外を見ているときが多いです。それと、誘われても全然付いていかないタイプですね」
「それは聞いたよ」
となると、家に来たのは姉貴のことを信用しているからか。
別に人間自体が嫌いとかそういうのはないようだ。
「お願いします」
「あーまあ、とにかく俺からは動けないけどな」
「はい、葵さんから近づいた場合はでいいですから」
「おう」
「ありがとうございます。それではもう帰りますね」
「気をつけろよ、あと体を冷やすな」
「はははっ、それは葵さんに言ってあげてください」
やっべえ、いい奴すぎて裏では恐ろしいのではと思えてくる。
とにかく、俺は普通に生活することを心がけよう。




